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②バーンと、うれしいおやつ

食本案内

私の実家は50年以上続く焼きとり屋だ。おじいちゃんとおばあちゃんと母が切り盛りしていたその店は現在は母が一人で細々と営業を続けている。

私が小さい頃はお客さんも店側の人間もみんな元気だったので、二階の自宅には麻雀やカラオケの音がひびいていた。さらに家の裏は線路だったのでおかげで私は今でもどんなところでも眠ることができる。
水商売の家で育ったことでばかにされないようにと、母は毎日店が始まる前に私の夕食を作り、朝はとんでもなく早起きして「夜は一緒に食べられないから」という理由から、よそのうちなら夕食だろうというメニューをこしらえて食べさせてくれた。このおかげで私は朝からなんでも食べることができる。

その家には焼き鳥の焼き台はあれど、オーブンはなかった。多分、母が甘いものに興味がなかったんだと思う。おやつのほとんどは買ったもので、母が作ってくれたのはゼリエースとシャービックだけだった。
中学生くらいになると雑誌なんかに「お菓子を作ろう」みたいな特集が出始めて(ピチレモンとかかなあ...)そわそわするのだが、オーブンがない。しかもうちにある調理道具は全部うっすらにんにくのにおいがついているのだった。(餃子も店で出していたため)
そういうわけで「お菓子を」「自らの手で」「作る」ところにたどりつくまでに相当時間がかかった気がする。

これはおそらく初めて自分で買ったお菓子のレシピ本だと思う。
わくわくして何度も何度も読んだはずなのにこの本のレシピで何かを作ったことはない。これを買ったときはまだ、「お菓子を」「自らの手で」「作る」ことは人ごとのように感じていた。材料を計って何かを作ったことがなかったし、レシピの重要さをまだわかっていなかった頃だ。

今はボウルもホイッパーも秤もなんでも揃った。全部じぶんで選んで買ったものだ。

そういうわけだからなにかひとつくらい作ってみようかなあ...
(多分)作らないだろうなあ...


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