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「フォルトゥナケルン 指導者 力石尚さん」インタビュー記事 インタビュー日2019年11月8日

こんにちは。インタビュー記事第四弾になります!今回はケルンにある3つの大きなサッカークラブのうちの1つ、フォルトゥナケルン(SC Fortuna Köln)で指導者をされている力石尚(ちからいししょう)さんにお話を伺いました。僕自身日本にいた頃は中学生年代の指導者として活動していたので、今回のインタビューが本当に楽しみでした!非常に面白い内容になっているので是非じっくり読んでみてください!

最初から用意していた質問は・
会話の中で気になった点の質問は---

プロフィール
国士舘大学体育学部スポーツ医科学科卒業後、筑波大学大学院のサッカーコーチング論研究室で2年間、指導者になるため勉強。大学院2年のときに3週間ほどドイツで指導者研修を経験。大学院卒業後は横浜で体育協会の職員として働きつつジュニアユース年代の指導者も務める。2013年夏、更なる勉強のためドイツへ渡る。

・渡独後の流れを教えてください。
「横浜で働いているときからドイツにいた知り合いの日本人の方にコンタクトを取っていて、『他のことは自分でやれるなら、研修できるチームと家なら用意できるよ』って言ってくれて、2013年夏にドイツへ渡りました。そこから1年間研修生として地元のチームに帯同しつつ、語学学校でドイツ語を学びました。そしてケルン体育大の語学準備コースを受けるため2014年10月からケルンに住んでいるので、ケルン滞在はもう5年ほどになります」

---------------ケルンに来てすぐフォルトゥナケルンで指導を始めたんですか?
「最初は当時住んでた家の近くのチームに選手として入りました。というのも、ドイツ語もまだまだだったし、何の面識もない日本人が急に『指導をやらせてくれ』って言っても良い顔されないかなと思ったので。これはリサーチ不足だったなと思うんですけど、あんまり育成年代に力を入れてるチームじゃなかったので、このチームで指導者をやるのは違うなと思いました。やっぱりレベルの高いところで指導者の勉強をしたいなっていうのがあったので、ケルン界隈で考えたらFCケルン(当時2部)、フォルトゥナケルン(当時3部)、ビクトリアケルン(当時4部)の3つのどこかで指導をできたらいいなと思いました。でもFCケルンには撥ね付けられるだろうなと思ったので、まずフォルトゥナに一方的に連絡を送りつけました。『お金もいらないから指導者の研修をやらせてほしい』って。そしたら面接の話が来て、『たまたま最近U-13のアシスタントコーチが辞めたからやる?』ってなって、それがフォルトゥナでの始まりですね」

・ドイツで学びたいと思った理由は?
「まずドイツという国に憧れがあって。ちゃんとヨーロッパのサッカーに触れたのがユーロ96で、そのときの優勝チームがドイツだったんですよ。当時僕は小4で、サッカーを始めたばっかりだったので『ドイツってトップクラスでサッカーが強いんだな』っていう認識が自分の中であって。それからずっとドイツのサッカーは強いから好きだなっていうのがあって、それがずっと続いているのでドイツ以外に行く選択肢は特にはなかったですね」

ドイツと日本の違いについて

・選手における違いはありますか?
「派手で華麗なプレーってスペインとかと比べて、ドイツだとあんまりイメージないと思うんですけど、ちょっと浮いたボールをワンタッチで返すときに、ちゃんとしたゴロに戻す技術がすごい高いって思いました。あとボールがちょっと浮いたくらいじゃ誰も怒らないです。日本だったら『浮かすなよ!』ってなりますが、こっちの人は自分のところに来たボールはちゃんと自分でコントロールしなきゃいけないっていう感覚があるのかなって。もちろんトレーニングの中では指導者も『ゴロで』っていう言葉を使うんですけど、浮いたボールを受けた選手が文句を言うことはありません。すごく地味な技術なんですけど、このレベルは日本とは全く違うと思いました、カテゴリーとか関係なくです。あとはサイドからドリブルで上がっていくときに、あんまり切り返さないんだなって思いました。自分たちが持ってるボールをとりあえず奥に奥に、相手陣地の奥にって感じで。だからバイエルンミュンヘンが逆に特殊に感じました。ロッペンが切り返したところにラームが上がってきてパスしたり、そのままロッペンが切り込んでいくシーンが多かったじゃないですか」

---------------それは指導者がそういうように指導をしているからですか?
「いや、聞いたことないですね。『押し込め』とも『切り返すな』とも言わないです。だから選手自身の判断でやってるのかな。この浮いたボールが来たときのワンタッチコントロールのうまさと、ドリブルで上がっていくときの切り返しの少なさの2つは特に感じた部分ですね、指導をしていてもサッカーを観戦していても」

・「子ども」にフォーカスしたときに、違いはありますか?
「良い意味で、言うことを聞かない子が多いです。日本だとコーチの言うことって絶対だったりするじゃないですか。でもドイツにおいては指導者の言ってることを良い意味で無視するというか、鵜呑みにし過ぎないです。こっちとしてはイライラすることもありますが(笑)でも自分が言ったこと以外のことをされて上手くいくこともあるので、日本で指導をしていたときよりも自分の想定と違う展開を経験することが多いかな」

---------------僕は日本で指導をしていたときその部分が1番引っかかっていて、日本の子どもは指導者の言葉を素直に聞き過ぎるので、指導者が考えている以上のものが生まれにくいし、でも指導者が絶対に正しいなんてあり得ないじゃないですか。ピッチの中でプレーするのは選手自身で、結局は自分で見て、考えて、判断して、実行するのも選手ですよね。だからこそ自分の意志が大切だと思うんです。ではなんでドイツと日本ではこんなにも違うのかなって考えたときに、やっぱりそもそもの教育が全く違うからだと思うんです。
「その通りだと思います。それと日本は上下関係がちゃんとあるから。こっちでは子どもも僕のことをdu(君)で呼んだりするから、日本だったらまずあり得ないですよね。そこで年上の言うことを聞かなきゃいけないっていう文化的な背景もあるだろうし。こっちでは自分の意見をちゃんと言うっていう背景があるから、別に相手の言うこと全部は聞く必要ないって価値観になってるのかもしれないし。指導のときも例えばプレーを止めて、『この状況どうした方がいいと思う?』って聞くと、みんな手を上げて答えたがるんですよ。日本だとそういうのってあんまなくて、分かってるのに答えなかったりするから。そこの文化的価値観というか背景っていうのは大きいのかなって感じがしますね」

・サッカーを取り巻く環境の違いはどう思いますか?施設や設備もそうですし、文化や国民性も含めて。
「1年目で研修してた町のクラブはトップチームが6部に所属していて、僕が見ていたU-19がユース2部だったんですよ。だから観客が4千人くらい入れるスタジアムでユースも試合をしてたんですけど、ハーフタイムに小さい子どもとそのお父さんがピッチに入ってボール蹴ってるんですよ。柵とかあっても関係なくて。ハーフタイムとはいえ警備は誰も止めに来ないし。でも芝生は柔らかいし、少し見上げれば観客席があるし、ハーフタイム中の遊びとはいえ、そういうところでボールを蹴っていい環境があるのは、素直にいいなと思いましたね」

---------------それほど大きな問題ではないですけど、すごく文化の違いを感じる部分ですね。あと例えば3部リーグの試合とかでもボール拾いの子が試合見ないでリフティングしてたりしますよね(笑)
「うちのクラブの子もそうですね(笑)日本的な感覚だと『ん?』って思うこともあるけど、ボールを蹴ることを止める人がいないから、自然とボールを蹴る環境に入っていけるのはいいですよね。日本だと公園でサッカーしちゃダメとか規制が増えていますし。でもドイツでもストリートサッカーの減少が問題になっていて。だから※フニーニョ導入の理由の1つが、ストリートサッカーの減少でボールを触る回数が減ったからっていうのがあったと思います。だから日本ももっとボールを蹴れる場所を増やさないと大変ですね。だから特にボールを蹴っていい環境の違いは感じますね」

※1人1人がボールに触る回数を増やすためにコートを狭くし、ゴールを増やし、人数を減らして行うサッカーのこと。ドイツの小学生年代では取り入れているところも多い。

・サッカー協会の仕組みや指導者育成における違いはどうですか?僕は日本の協会すらあんまり詳しくないのですが。
「僕の利点としては筑波大の頃に協会の補助の仕事をしてたので、一般の人よりは少し日本サッカー協会の内部を見れてた立場から言うと、『内部の人はこんなにみんなサッカーのこと考えてるんだ』って驚きました。僕も前は協会に対してネガティブな印象を持っていたんですけど、『実際はそんなにみんなが思ってるほど協会はネガティブじゃないよ』って思いましたね。でも指導者養成の部分に関してはまだ改善の余地があるのかなって思いますね。2年半前に筑波のサッカー研究室に通ってる子がケルンに短期研修で来たことがあって、僕の間接的な後輩に当たるから、彼も僕もB級とA級ライセンスの補助をやったことがあるんですよ。僕は2009年と2010年にやって彼は2016年と2017年に補助をして、その内容を比較してみるとそんなに変わらなかったんですよ。7年経ってるのにあんま変わってないって結構まずいですよね。

ドイツの指導者ライセンス制度については、例えばB級だと結構毎年試験の内容が変わるんですよ。ってことはその試験に向けてやってる講義の内容も少しずつ変わってて、受けた年が1年違うだけでも内容が違ったりします。B級っていうそんなに高くないレベルでさえ内容をブラッシュアップしているので、色んなアプローチの仕方をしてるし、その変化の速さはすごいなって思いますね」


指導について

・指導するうえで大切にしていることは?
「日本にいたときは自分のサッカーをやらせたいって気持ちが強くて。こっちに来てからは良い意味で言うことを聞かない選手がいる中で、この表現が正しいか分からないですけど、選手と一緒に視野を広げていきたい。つまり選手はサッカーを上手くなりに来てる、僕はサッカーを見る目を選手に助けてもらいながら広げていくっていうスタンスでいます。もちろん自分のフィロソフィーを大事にしながらも、ちょっと道の外れた情報もキャッチして、自分の考えに固執し過ぎないように指導したいなと思っていますね」

・サッカーを通して選手に伝えたいことはありますか?
「サッカーを嫌いにならないでほしいし、できれば上のレベルまでサッカーを続けてほしいですね。僕は将来的にはプロのカテゴリーで指導者をやりたいので、プロを目指してサッカーをしてほしいって想いはあります。あとこれは日本の友達と話したんですけど、『力石さんみたいな指導者になりたいです』って言われたら1番嬉しいですね。だから選手に何を伝えたいっていうより、ずっとサッカーを続けてその先に指導者としての活動を視野に入れてくれたら嬉しいです」

・ドイツに来てから特に自分の考えが変わったなってことはありますか?
「んー、軸の部分はそんなに変わってないから。でもそう言っちゃうと何も成長してないって思われますよね(笑)ドイツサッカーでは特にスピード感が大切で、ペップ(ジョゼップ・グアルディオラ)がバイエルンで監督やった1年目って史上最速優勝したにも関わらずそこまで評価されなかったらしいんですよ。無駄なパスが多くてドイツ人好みのスピード感がないのがその一因だったらしくて。だからペップも2年目からはもっとスピード感を持って無駄なパスを減らしたサッカーに変えていって。ドイツの指導現場にいると『テンポ』っていう言葉をすごくよく聞くんですよ。だからどこでどうやってどのタイミングでテンポを作るのかっていうのは、ドイツに来てから考えなきゃなって思うようになりましたし、いかにボールを大事にしながら速さを持って相手のゴールまで行けるかは考えるようになりました」

・日本と比べてドイツで指導をするときに大変なことや、その際の対処法や意識していることはありますか?
「大変というか、こっちの国ってあんまり擬音を使わないなと思っていて、例えば日本だったら『軸足をグッと踏み込んで』とか『ここで相手にバチッと当たって』みたいに感覚的に教えることってよくあると思うんですよ。でもドイツ語にはそもそもそういう表現があんまりなくて『足首を固定して膝を曲げて重心を沈み込ませて』っていう説明の仕方をしなきゃいけないなって感じてて。だから言葉で具体的に表現できなきゃいけないシーンが日本よりも多くて、しかもそれをドイツ語で。だからそこの難しさというか苦労はありますね」

---------------確かに日本語って便利過ぎるというか、日本人が感覚で汲み取れちゃうからこそ、正確に伝えなくても伝わった感じになることありますよね。
「ポルト大学でモウリーニョ(ジョゼ・モウリーニョ)のコーチングスクールに通っていた林舞輝さんの記事で見たんですけど、『今この瞬間に林さんが死んで、クラブのやるべきことや林さんが考えていることを他のコーチができなくなるのは困る。だから言語化をしてその情報を必要なときに取り出せてってして、そしてそれがクラブのフィロソフィーだったり幹の部分になってくる』っていう記事を見て、その通りだなって思いました。正確に言語化がしてあればみんながそのクラブのフィロソフィーに基づいて学べるので、擬音だけで済ませちゃいけない部分もあるなと思いますね」

・指導者としてやりがいを感じるときは?
「自分が監督をやれてて、トレーニングも自分自身で組み立てて週末の試合に臨めてたときは楽しかったし、U-13のセカンドチームなのでそんなに上のリーグではなかったですけど、結構緊張したんですよ。でもこの状況程度で緊張できるのってなんか良いなって思って。そんな上のレベルのカテゴリーじゃないにも関わらず、絶対に負けたくないっていう緊張感の中でこれから試合会場に向かうのが、たまらなく気持ち良くて。あの緊張感を指導者として感じられるのが自分のモチベーションになるなって思いました、緊張するの嫌いなのに(笑) 」

・では、指導者とはどうあるべきだと思いますか?哲学っぽい質問になってしまうのですが(笑)
「個人的な価値観としては、競技性思考の高い指導者の観点から見た場合は、結果をしっかりと残せたり、プレーについて論理的に説明できたり、なぜその現象が起こったのかを理解してサッカーを統括的に捉えられてる人間じゃなきゃいけないなと思いますね。だからある意味で自分の指導が全て正解になるくらいのイメージは持ってる必要があると思います。で、育成とかグラスルーツに置き換えて考えると、どうやったら子どもがサッカーを好きでいてくれるかっていうのが大事でしょうね。だからアプローチの仕方としては、カテゴリーや年代、チームのレベルに合わせて自分のキャラクターを変えられるような指導者じゃなきゃダメですよね。自分もそういたいなと思うので、それが指導者のあるべき姿かな」

・サッカー留学とかドイツでサッカー関係の仕事をしたいって人に対して今のご自分の立場や経験から言えることはありますか?
「ありきたりなんですけど、まず語学ですね。変な話、100歩譲って選手なら語学できなくてもまぁ大丈夫ですけど、指導者で勉強しに来たなら絶対に語学できなきゃ何も得るものないと思います。僕はドイツ語全くできない状態でドイツに来たんですね。アシスタントコーチだったので自分で練習を考えるわけでもないし、ドイツ人を相手に喋るわけでもなくて。それも全部語学ができなかったのが1番の理由なんですけど、ドイツに来ているのに机に向かって単語の勉強をしてるんですよ。それってすごく勿体なかったと思ってて、日本で文法とかちゃんとやってドイツではドイツ人と喋って会話力を付けてって1年目からするべきでした。だからその1年間で何か上積みがあったかと言われると、自分が外でサッカーを見て感じたことを主観的にしか判断できなくて、例えば『ドイツサッカー連盟が今こういうことに取り組んでて、だからこういう練習をしてるんだよ』っていうのがない状態で、自分の価値観の中でしかドイツのサッカーを評価できませんでした。もちろん日本の人からしたらドイツに1年間いたってなったら『ドイツのサッカーってやっぱ日本と違うの?』ってなりますけど、自分の主観に基づいた感想文しか書けないのって成長してる部分もあるんだろうけど、本質的な部分で変化があるかと言われるとどうなのかなって思いますね。だから指導者に言語は絶対に大事です。選手はよく分かりません(笑)」

・今後の近い将来の目標と長い目で見たときの目標を教えてください。
「近いので言えばライセンスを取得したいっていうのも1つのモチベーションとしてこの国には来ているので、A級も取得してできればもう少し上のカテゴリーのチームの監督という立場で指導したい気持ちはあります。長期的なので言うとプロライセンスの取得をして、できれば海外で監督としてやりたいです。もちろん日本からそういう話があればやってみたいですけど、海外でチャレンジしたい気持ちは強いです。でももし自分を必要としてくれる場所があるなら、それだけですごく嬉しいですね」

インタビューは以上になります。ドイツ育成現場に携わりながらもヨーロッパ最先端のケルン体育大学で勉強もされている力石さんのお話は、実態と論理に基づくとても貴重なものでした。やはり特に昨今、言語化の質を必要とされる指導者の方の意見や考察は、聞いていて自分の中にしっくりくるものがあり、本当にインタビューをさせてもらえて良かったです。また別の記事でも僕なりの考えを書きたいと思います。読んでいただきありがとうございました。また次回の投稿もお楽しみに!

Tschüs 👋


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Shingo
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