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「街クラブコーチ兼通信員 吉泉愛さん」インタビュー記事 インタビュー日2019年12月6日

インタビュー記事第五弾です!今回はケルンのとある街クラブのコーチで、スポーツの通信員としても働かれている吉泉愛さんにお話を伺いました。去年FIFAのチームレポーターとして帯同された女子サッカーW杯についてもお話を聞いたので是非最後まで読んでみてください!

プロフィール

10歳でサッカーを始め、日本のなでしこリーグで(Lリーグ時代から)15年間プレー。そして2009年にドイツへ渡る。

現在に至るまで

・渡独後の流れを教えてください。

「サッカー選手として、一度は欧州でプレーしたいと思い立ちました。並行してコーチとしての経験も積もうとも。それでドイツに来たのが2009年の5月。日本で足首のオペを受けた直後だったので、まずはリハビリをして。夏からは縁があって、1.FCケルンで練習参加させてもらいました。毎日練習の後に『監督、明日も来て良いですか?』と聞くドイツ語だけ覚えて、それで3カ月(笑)。でも、冬にまた怪我をしてしまい、第一線でプレーすることに区切りをつけました。それからずっと、子どもたちのコーチをしています。そのきっかけもたまたまで、道で偶然出会った日本人の女性と話していたら『うちの子どものチームでコーチを探している』と。それで、いま所属しているクラブにめぐり合いました。本当の『街クラブ』で、プロのコーチなどいなくて、でも、アマチュアコーチたちの姿を見ていて、1日は24時間だけど、この人たちの人生は2倍だなと。一人前の仕事とプライベートもあって、そのうえでコーチをするのはとても労力のいることだけど、その分、人生が倍。サッカーの現場にいれば100人単位で人とつながることができるし。そう感じさせてもらえたのはかなり大きかったです」

・現在行っている活動について教えてください。

「DJK SüdwestというクラブでU6とU8の男女混合、それからU13の女子の監督をしています。クラブ内には大人の女子チームもあるので、そこで自分自身も蹴っていて、あとは地域のトレセンでU14女子の練習を週1回担当してと、ほぼ毎日ピッチに立っていますね。仕事は日本の通信社の通信員として、サッカーから始まり、今ではスキーや卓球など他のスポーツの取材にも行かせてもらっています。サッカーでは日本人選手の多いオランダやベルギーに出張したり、この間は初めてスペインリーグの取材もしました。それから、ケルンの体育大学へも合間を縫って通っています。学科はスポーツマネジメント。そもそもドイツを選んだ理由が『なぜクラブが100年以上続くか』を知るためで…というのも、選手時代に日本の1部リーグにもかかわらず3度もチームの解散に遭ったのです。当時、すごく理不尽だと思っても、何もできなかった。その中で、学生時代に読んだドイツの地域密着型スポーツクラブの記事がずっと頭に残っていて、ヨーロッパへ行くならドイツだなと。ここで実際に今年100歳になるいまのクラブに所属しながら、理論を勉強して、日本で100年以上続くクラブをつくるのが目標です」

地域密着型スポーツクラブについて

・大学では地域密着型スポーツクラブに関する講義などもあるのですか?

「ありますよ。でもやっぱり、実体験に勝る学問はない。気になっているのは、ボランティア精神によって成り立って来たドイツのクラブ組織に、いま少しガタが来ていること。昔は街クラブにも熱と知識を併せもった良いコーチがいたけれど、今はライセンスを取得した優秀なコーチたちが、商業目的のスクールなどに流れてしまう。世の中そのものの流れかもしれないけれど、誰もが高いお金を払わなくても良いコーチに出会える機会が、サッカーでは残ってほしいです」

・今現在のご自身の考えとして、地域密着型のスポーツクラブの形は日本に落とし込めると思いますか?

「まずはスポーツの価値がもっと認められるところから。東京オリンピックはチャンスだと思うけれど、2011年になでしこジャパンがW杯で優勝したときはブームになって、それにうまく積み上げられなかった。岡田武史さんのFC今治にはとても興味があって、彼らのように地方で地道にクラブを育てて、そのモデルがまた他の地域に広がってという具合の底上げが必要かなと。日本でスポーツの価値を広めることについて、逆にどう思いますか?」

現状としてまだ難しいのかなって思います。例えば最近見たニュースに、校庭でもうボールを蹴れないというのがあって。その理由が周辺に住む高齢者の方や聴覚過敏の方にとって金網にボールが当たる音は苦痛に感じるらしく、その話は先生から生徒に「人の迷惑を考えましょう」ってニュアンスで伝えられたらしいんです。もちろん他人の気持ちを考えるのは当然ですが、この問題においては違うでしょって思いました。どんな時代になったとしても、子どもが好きなようにボールも蹴れないってあり得ないですよね。そうなってしまうと、スポーツの入り口であるはずの「単純に楽しいスポーツ」でさえハードルが高くなってしまう。

「大人が『人の気持ちを考えられるようになりましょう』と言うなら、子どもの気持ちを考えないと。子どもたちのためと思ったら、自然に知恵と力が沸いてくるはず。例えば金網とグラウンドの間に木を植えて直接ボールが当たらないようにするとか、ドイツだったら地域住民や親御さんからアイデアが出たり、極端な話、次の日には木が植えてあってもおかしくない。そういう熱い行動力はよく見かけます。『たかがサッカー。やらなければ問題にならないでしょ』と言うとそうなってしまうけれど、そこがスポーツの価値。ドイツがすごいというわけではないけど、そういう熱さはあるなと」

 

通信員について

・簡単に業務内容を教えてください。

「取材申請をして、現地で試合を見て、インタビューをして新聞用の記事を書きます。他の競技に行くときはルールを勉強(苦笑)。でも一流選手たちは、こちらが分からないことを丁寧に教えてくれる。例えばスキージャンプ。飛んだことのない人には理解できない、空中で何が起こっているかということをちゃんと言葉にしてくれます。彼らには自分の競技がもっと愛されたら、という思いがあって、こちらも現場では成長させてもらえます」

・仕事の魅力は何ですか?

「その場でしか感じられない空気を書けたときの『よしっ!』という気持ち。それが書けているかどうかは自分が判断することではないですけど。あとは、私が雑誌の記事に感化されてドイツへまで来てしまったように、自分の書いたものがどこかで読まれて、スポーツ文化が開花する小さなきっかけになれば、という願いはいつももっています」

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女子W杯2019に帯同して

・率直な感想はどうですか?

「女子サッカーはまだまだ伸びしろがいっぱい(笑)。サッカー自体の質というか…。 FIFAの女子サッカー普及に対する気合もすごいし、見た目はきらびやかになった。でも、W杯でサッカー自体が面白くないと、単なるお祭りだし、それで終わるのはもったいない。女子サッカーが男子と同じ試合時間とピッチのサイズなことで、よく「ピッチを狭くすればいい」という意見も聞くけれど、私はそれには反対で、男子と同じことをやっても迫力に欠けるけれど、だからこそ、スピードやパワーでごまかせない、緻密なサッカーが見せられると。本当に2、3センチの差にこだわることとか、予測してボールが次のところに入る頃にはもう数的優位ができているとか、そういう方向で面白さ、奥深さを出せると思っています。その点、前回の女子W杯ではどこも同じようなサッカーだったかなと。前線に速い人がいてボールを蹴って…。なでしこのサッカーは最後はとっても良くて、でも負けてしまったので、その良さを示し切れかった感じで、本当に残念でした。FIFAの人たちが最後に『日本は本当に魅力的なサッカーを見せてくれた。ここでの敗退はこちらとしても惜しい…』と言ってくれたのは忘れられません」

・チームレポーターとして特に大変だったことは?

「仲間たちとのやり取りや、記事を書くのは英語で、周りの人は英語が母国語の人も多かったので、劣等感しかなかった。臆せずに英語を話せていれば大丈夫だったのだけど、もともとシャイなので。新しいところに思い切って行けない自分がもろに出ました。でも、本当にやって良かったなと。結局最後には自分が女子サッカーのことを伝えたいという気持ちが勝って、ちょっと自信になりました」

 

女子サッカーについて

・ドイツの女子サッカーの人気度や普及率はどう感じますか?

「ドイツの場合はサッカー自体の人気が根強いので、女子サッカーは大変だなという部分がありますね。サッカーはこういうものだ、というのがあり過ぎて、女子サッカーがリスペクトされない。日本の場合は女子が優勝したりもしたし、男女のギャップは少ないかなと。普及に関していうと、実際、女子選手の減少が問題になっていて、トレセンコーチの研修でもいつもその話になる。女子ブンデスの魅力が他国に追い越されつつあるのも一端だし、女子代表が少し下火なのも気になるところで。日本は追い越すチャンスかも!もちろんそうならないように、草の根から頑張りますけど」

・そのような中でも日本がドイツから参考にできる点はありますか?

「選手の自立性の部分はもっと見習えるかなと。男子も女子も、自分の判断でプレーできる選手が多い。やることに迷いがない。その自立はサッカー以外のところと連動していて、自分で自分の人生を切り開いていくなぁと感じる素敵な人が多いです。逆に自分のことを振り返ると、日本での選手時代はサッカーだけの狭い世界に閉じこもっていたなと。スポンサー企業でお仕事をさせてもらって、多くの出会いや学びがあったり、良かった部分も沢山あるけれど、何となく、頑張ることを頑張って、消耗してしまって。一生懸命やることは本当に素晴らしいこと。その上で、もっと人間としての魅力を磨いて、その人がサッカー選手として注目されて初めて『憧れの存在』として輝ける。プロ化することがゴールではないと思うのです

・日本でこれから女子サッカーが普及していくためのご自身のお考えはどうですか?

「やっぱり選手の人間力を高めること。選手たちが地域のサッカースクールで直接子どもたちと触れ合って、心を奪って(これが大事。笑)、その子たちがトップと同じユニフォームを着てサッカーをして、それを着て応援へ来るようになればステキですね。あと、リーグでは日テレベレーザの一強を何とかできるように。昨年、ベレーザの試合を観客席を見たのですが、サッカー談義がいろいろなところから聞こえてくる。簡単ではないけれど、そういう文化を引き出せるクラブがもう少し増えればと思います」

 

女子サッカー留学について

・平野優花選手にインタビューした際に「女子専用の代理人がいない」と仰っていたのですが、ご自身に代理人のお願いはこないですか?

「手伝ったりはしたことがあるけれど、私には向いていないかな。自分でやったほうがためになるのに…というのも経験からおなかの中で思っているし。最近は女子も代理人をつける人が多いのは事実。良い選手は、最終的にちゃんとしたサポートが受けられるな、というのは見ていて思いますね」

・女子選手がサッカー留学という形で海外に来ること自体はどう思いますか?

「とっても良いことだと思います。サッカーに対する姿勢がすごく試されるし、人としての幅も広がるし。女子選手は柔軟性があって、移籍金の壁やら、ややこしいことも少ないし、チャンスは大きいなと。今はスペインに日本人選手が大勢いますよね」

YouTubeをやられている方も何名かいますよね。

「外に出た人たちがもっと力を合わせたらいいのかな?でも熱意があれば自然と集まるかなとも。今はSNSなどで人はつながるようになったけど、『参加しますか?Yes or No』の集まりは続かないと思っていて、熱意をもって自分の道で勝負して、その道で同志が実際に出会う。そうでなければ何かを変えていける力にはならない。SNSはきっかけにはなるけど、それだけで出会ったと思ってしまうのはもったいないなと。古いかもしれないですけど」

 

今後について

・今興味のある分野やこれから取り組んでみたいことはありますか?

「本を書きたいと、ずっと思っています。基本戦術を子どもたちが自然に身につけられるような簡単なトレーニングを整理して。現場で試すことによって、逆に大人の理解が深まるような。つまり、大人と子どもが一緒にサッカーの面白さを発見できるものにしたいなと。そろそろ1ページ目を書き始めます(笑)。あとは、サッカー発展途上国でコーチもしてみたいし、100年以上続くクラブもつくらなくてはだし、人生100年では足りません」

 

インタビューは以上になります。「日本とドイツ」「男子と女子」という比較は互いに得られる発見があり、とても興味深いです。影響力はありませんが、このようにnoteで発信をしている身として、通信員の仕事の話は今後の参考になりました。また、女子ブンデスリーガの試合を観戦したときに感じた物足りなさの正体も、一部分かったような気がします。この記事が様々な方に読んでいただけるよう、拡散していただけると嬉しいです。併せて感想もお待ちしています。今回も読んでいただきありがとうございました!


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