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【往復書簡エッセイ No.17】高齢親のお金の管理~消えた魔法のカード

レラちゃん、こんにちは!

ご両親との青森・山形への旅。お二人の「遠足の前日」みたいなワクワク感が伝わってきて微笑ましかったです。旅の本編も楽しみ!

私の今回のエッセイは、避けて通れない、高齢親のお金の話……から出てきたエピソードです。


高齢親のお金の管理~消えた魔法のカード

80代両親の預金通帳をすべて見せてもらった。これから病院や介護サービスの利用が増えていくと予想されるなか、先立つものがどれくらいあるのかを把握しておく必要を感じたからだ。

今までは、親子でお金の話を直截的にするのはタブーという雰囲気だった。しかし自分たちで管理し切れない実感が出てきたのか、あっさりと見せてくれた。

私にとっては実務的に便利な反面、ある意味では、両親が「自立」を手放すことを受け入れたとも言え、ちょっと複雑な気持ちだ。

通帳の内容を母と一緒に確認していると、一つだけ「これ、何だろう?」という項目があった。XXファイナンスという名目で毎月引き落とされている。

何かのローンかクレジットカードだろうか? そんなものはないと断言した母が、少し考えてから「ガソリンスタンドで使っていたカードだと思う」と答えた。

初めて聞く話だった。行きつけのガソリンスタンドで支払いに利用していた専用のカードだそうで、クレジットカードではないと母の弁。

以前から両親はクレジットカードは持たないと言っていて、離れてサポートする立場の私からすると不便を感じる場面が時おりあった。だから母の言葉に何となく引っ掛かりを感じながらも「顧客カードの類かな?」と想像した。

「ちょっと、そのカード見せてくれる?」と私が訊くと、

「ないわよ」と母は即答した。

「なんで?!」

「車と一緒に持って行かれちゃったわよ」

「どういうこと?!」

少し前に、両親は車を手放したばかりなのである。ふだんお世話になっていたディーラーさんに引き取ってもらったのだが、先方とのやり取りは、父がすべて対応した(認知機能的にやや不安定でも、何とかなったらしい汗)。

母が主張するには、そのガソリンスタンド用カードはいつも車に置きっぱなしだったはずで、車を引き取ってもらう時にも、そのままだったに違いないと。

そんなことってあるのかな?

あくまでも母の思い込みにすぎない話だと感じた私は「他のケースも考えてみて?」と促した。けれども「私の考えが正しい」と言って譲らない。父は父で「何のこと?」といった様子で、関心がなさそうである。やれやれ……。

腑に落ちないまま帰宅して息子にことの次第を話すと「おじいちゃんとおばあちゃんが『ガソリン入れられる魔法のカード』みたいに思っているだけで、それはクレジットカードでしょ」と明快。私の母の思い込みワールドに直に接していない分、息子は冷静である。

しかしクレジットカードであれば尚更、車ごとカーディーラーに引き取られたまま連絡なしとは、おかしな話ではないだろうか。

電話で確認すれば簡単かもしれないが、母の思い込みの疑いが濃厚なまま、先方に手間を取らせることに躊躇する気持ちがあった。そもそも私はディーラーの連絡先を知らなかった。

この場合、カード会社に紛失の連絡をするのが一番確実な対応策だろうが、カード番号がわからないし、私としては「実家のどこかにあるに違いない」という考えがやはり拭い切れない。

すぐにでも実家に行ってカード探しをしたいところだったが、なかなか時間が取れず、「出てくるわけないわよ」と非協力的な態度の母に、遠隔操作で探してもらうしかなかった。

数日後、両親と定例のLINEビデオ通話をした。いつもおしゃべりの主体は母なのだが、内容はふだん通りの雑談で、とくに目新しいことがあった様子はない。カードのことも忘れているようだった。

「例のカード探してくれたかな?」さり気なく訊いてみた。

「ないよ。車に置いてたんだから」と頑固な調子の母。

「その可能性もあるけど、お父さんのお財布とかに入ってなかった? ちゃんと探してくれたの?」納得いかずに食い下がる私。

「お父さんがお財布に入れてるわけないじゃない!」

などと母娘でやり合っているところへ、父が「これのことかな?」とカードを差し出した。

それですよ、それ! どこに保管していたか知らないが、出てきてホッとした。

「よかったねー!!」と興奮する私に、母は無言であった。

「あり得ない」などと強気の発言をしていた母に対し、責めずにそっとしておくことができた自分を誉めたいと思う。


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