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27歳が人生で初めてキャバクラに連れてかれた話
2年前の年末に、何の気なしに参加した忘年会の2次会・3次会が風俗店で地獄を見ました。当時のことは今でも目を閉じれば鮮明に思い出すことができます。本稿では当時のことを思い出しながら、記録を残しておこうと思います。先に断っておきますが、なかなかにみじめな体験が含まれるので、そういうのが苦手な方は読まれない方がよいと思います。
二次会(フィリピンパブ)
二次会のお店を探して歩いている時間は虚無そのものです。30代前半の営業の男性が先頭を歩き、その後ろでわたしを含めて4~5人程度の人間がぞろぞろと歩いていました。わたしは参加者の中で最も若輩者であり、かつ出張中であり、さらにその日は宿泊するということを明かしているため、二次会に参加せずに帰るという選択肢はありませんでした。とはいえ、もともと二次会というものはあまり嫌いではなく、「少ない人数でじっくり話せるのでいいよね」という考え方だったので、当時のわたしは逃げるつもりもありませんでした。ただ、その心境が一変します。先頭を歩いていた営業の男性が「5000円ポッキリダヨ」というキャッチの人に引っ掛かったのです。5000円ポッキリって言う人本当にいるのか……と進研ゼミの広告みたいな気持ちになりました。まさかキャッチに引っ掛からないだろう、と高をくくっていたのですが、その30台の男性は、まんまとキャッチについていってしまったのです。妙な胸騒ぎを覚えながら雑居ビルの一角に入っていきました。これが人生初のフィリピンパブです。いやだなあと思いながらも、まあ社会勉強にもなるし、どんなもんか見てみるか~くらいの気持ちで入店することになりました。
お店の中には客がほとんどおらず、ほぼ貸し切りみたいな感じでした。フィリピン人女性(たぶん)がたくさんいました。服装は、彼氏の家でワイシャツを借りた人みたいな感じで、ぶかぶかのワイシャツを着て、第2ボタンくらいまでを開けており、下半身には何を履いているのかよくわからない、というような感じでした。女性が余っているのか(失礼)、入店すると各人の両端に女性が配置されました。まさに両手に花状態です。
薄い焼酎なのかなんなのかわからない液体と、お菓子のようなつまみを前にして、とにかく何と無くで時間を潰すしかないな〜と思っていたところ、いきなり女性の手がわたしの股間のところに伸びてきました。これを「ちょちょちょっ」と言いながら止めたのですが、その反応があまりにもうぶうぶしすぎたので、「チェリーですか?」と聞かれました。入店して5分で童貞を見破られました。会社の先輩もいる中でそれをカミングアウトするのはなかなか厳しい状態だったのですが、嘘をついてもしょうがないのでその1時間はチェリーとして過ごすことになりました。
その後はカラオケでスピッツのチェリーを入れられたので歌ったり、恋するフォーチュンクッキーを踊ったりして時間を潰しましたが、とにかくひっくり返るくらいつまらない、悪夢のような時間だったな、と今になっても思います。なぜこれを高額なお金を支払って体験せねばならんのか、という感じです。
そんな中で、わたしの直属の上司の方を見ると、顔が溶けていたのです。もともと温和な上司ではあるのですが、完全に女性に身を預けていて、普段の姿とは比べ物にならないほどのリラックスっぷりを示していたのです。これをみてわたしはハッとしました。この場所においては理性を捨てなければならないということに気がついたのです。フィリピンパブにおいては理性を手放して、どうしようも無い姿を周囲に見せるべきだったのです。そして、ある種の共犯関係というか、「わたしたちはあなたに包み隠さない本音で接していますよ」ということを示し、本能レベルでの連帯を示す必要があったのではないかと思います。
別の職場の上司が言っていたのは、「上司と一緒に飲みに行くことのメリットは、”昼間は威張っているけど本当はどうしようもない人間なんだ“ということに気づけることだ」ということでした。そんなものを曝け出してどうするねんというところはあるのですが、人間的な魅力を見せるためには、ある程度の隙が必要というか、こういうお店を楽しむだけの大人の余裕があるぞ、ということを周囲に示す必要があるのかな、と思っています。
うん、きっとそういうことなんだと思います。決して、堕落や色欲によるものとかじゃなくて、そういう戦略があるのです。ビジネスパーソンとしての戦略が。
その気づきを得ることはできましたが、当のわたしは、“理性を手放す”ということがどうしてもできませんでした。正確にいうと、手放した先にあるものが、本当に直接的な性欲しかなかった、ということの方が事実かもしれません。そんな直接的な性欲を職場の人間の前で曝け出すことが恥ずかしくてできなかったのだと思います。自分にとっての女性問題は極めてデジタル的で、「エロいかそれとは別物の何かか」でしかないのではないかと思います。おこちゃまですね。
なお、フィリピンパブのお値段はまったく5000円ポッキリではありませんでした。そりゃあそうです。皆さんはキャッチには引っかからないようにしてくださいね。
三次会(キャバクラ)
二次会が終わり、上司たちは散り散りに消えて行きました。この時点で23時半くらいだったので、もう当然に帰る時間でした。しかし、上司がいなくなった後、さっきキャッチに捕まった30代の男性がもう一軒行きたいということを言い出しました。その男性の後輩に当たるイケメンの社員が、「行きつけの店があるので行きましょう」と言い、そこからの流れで半ば無理矢理連れて行かれることになりました。これが人生初のキャバクラでした。いやだなあと思いながらも、まあ社会勉強にもなるし、どんなもんか見てみるか~くらいの気持ちで入店することになりました。
エレベーターの扉が開くと、巨大な水槽があって、煌びやかな照明があり、全体的に艶やかな雰囲気でした。「すげー本当にこういうところあるんだ!夜王のやつじゃん!」とこれまた進研ゼミのような気持ちになりました。
フィリピンパブと比較すると、キャバクラのお姉さんは基本的に話が上手いというか、圧倒的に話が通じました。理性を感じるのです。「この空間は理性を手放さなくてもなんとかなるところだな〜」と思っていました。が、なんというか、わたしのところに座った人だけ、やたらと短時間であっさり他のところに行くな〜というのがすごく気になりました。何も飲み物を注文しないのが良くないのかなーでもなーと思いながら過ごしていると、3人目についた人がなかなか強烈なキャラクターの人でした。
まず席に座るなり、自己紹介をしてくれたのですが、わたしの眼鏡を見て「めっちゃレンズ汚くない!?なんも見えないでしょ!!」と指摘してきたのです。おもしれー女と思って苦笑いしていると、ボーイを呼び止めて「メガネ拭きを持ってこい」と命じました。ボーイはまさか嬢がメガネ拭きを要求するとは思っていないので3回聞き直していました。キャバクラにメガネ拭きなんてあるのか??と思っていると、ボーイは小林製薬の「メガネクリーナーふきふき」を手渡してくれました。
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半笑いでメガネを綺麗にすると視界がクリアになって「お姉さんがもっときれいに見えますよ」と軽口を叩きました。「そりゃあそうでしょ」と一蹴されました。
そのあとも「本当に楽しんでる?来てよかったと思ってる?」という本質を突かれる質問をされました。「いやーでも面白いです、なんか社会勉強って感じですよ」と言うと「社会勉強って何それwwwもう二度と来ないやつじゃんwwww」とこれまた本質を突かれました。わたしの返しはまあ最悪だとは思うんですけど、この人はこんなに本質をついてキャバクラで働けるんだろうか……とも思いました。実際のところ、こういう人の方が人気があるのかもしれませんが……知らない世界です。
確実に言えたことは、「この人はわたしのことを絶対にお客さんだとは思っていないな」ということでした。それは、態度が失礼だったとかそういうことではなく、あくまでわたしがキャバクラ側に選ばれるような客ではないな、というような感覚です。わたしにはキャバクラを楽しむ資質も素養も余裕も何一つ無いのです。おそらく、このお店はそういう意味で優良店だったのだと思います。(嬢の方が飲み物をねだってこないという点でもすごく優良店なんだと思います)わたしのような客には早々に見切りをつけて、「坊主、もうこんなところに来るんじゃないぞ」と飴玉を渡して帰るように促してくれたのです。これは優しさ以外のなにものでもないと思います。
これまで、キャバクラに限らず、こういう風俗店のようなところについて、自分のような女性慣れしていない人間が行くと、免疫がなくてすぐに嬢に惚れ込んでしまい、貢ぎまくってしまうのではないかということを不安に思っていました。実際のところこれは大きな間違いでした。キャバクラは、恋愛強者の遊び場であって、言うなれば通常の恋愛に飽きている人間たちが、より高度な遊びを求める闘技場なのだと思います。不用意な装備で行くとあっさり門前払いを喰らうのです。客がキャバクラを試す以上に、キャバクラもまた客を試しているのです。「あーあ 死んじまって バカなやつだ」
こうなってくると、ビジネスパーソンたちがなぜキャバクラに通うのか、わかるような気がしてきました。彼らはキャバクラに行くことで、ビジネスパーソンとしての資質を見ているのではないでしょうか。度胸や心意気、女をいかに落とせるかということを見るのです。キャバクラは男としての資質を試す場なのです。キャバクラに認められて初めて、男として立派な人物であると認められ、ビジネスの世界においても高い評価を受けるというわけです。
はい、きっとそういうことなのです。
だから、弊社の偉い人もみんなキャバクラで豪遊して、ビジネスパーソンとしての素質を見極めているのです。キャバクラは、ある意味で、昇格試験の一環というわけで……
……。
クソくらえだ!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!バーーーーーーーカ!!!!!!
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なーーーーーーにがビジネスパーソンとしての資質だ!私欲にかまけて女遊びすることを正当化しているだけだろうが!!!!なーーーにがダメな姿を見せるのもまた大人のたしなみだ!!性欲にまみれてやりたい放題やってるだけじゃねえか!!!終わりだ終わり!!そんな女にモテる奴が偉いとかいうクソみたいな価値観を令和に持ち込んでたまるか!バーカバーカ!!!女遊びをするかのようにビジネスの戦略を考え、相手に媚び、それで生きてきた結果がこの日本社会の停滞ではないのか!!??今の世界で多様性を排除してこういう昭和の価値観で人間を判断するようなことをしていると会社は滅びに向かうに決まってんだろーが!!絶対にぶち壊してやるからな!!!絶対に貴様らより実績をあげてこんなクソみたいな世の中終わらせてくれるわ!!覚悟しておけ!!!
……。
……ちなみに、フィリピンパブとキャバクラに連れて行ってくれたその30代の営業の人はその後心がダメになって会社を辞めてしまいました。同情せざるを得ないほどの管理体制のダメダメさの被害に遭った形です。フィリピンパブやキャバクラに連れて行ってくれたことも含め、彼はきっと無理していたのだと思います……。そう考えると、彼はこのクソみたいな世界の被害者のうちの一人だと思います。
個々の人間は悪くないのです。恨むべきはこの世界です。世界を変えなければなりません……。すべては我々の手にかかっています。