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のるるんの女

数か月前の話ですが、東急電鉄のとある路線に乗っていた時、自分の真正面にめちゃめちゃきれいな女の人が座っていたことがあります。肌は色白でナチュラルメイク、茶色がかってちょっとウェーブがかかったようなそこそこ長い髪、シンプルでシックな感じのオシャレな服、そしてシンプルなカバンを持っている女の人でした。無駄なものが完全にそぎ落とされているような、こんなに美しい人がこの世界にいるのか、と思うような感じでした。わたしはあまり人の美醜には興味がなくて、きれいな人だなと思っても5秒でその人のことは忘れるくらいなのですが、その人のことはついボーっと見とれてしまいました。

たぶんただ美しい人だったらそうはならなかったのだと思います。無駄なものが完全にそぎ落とされているような美しさの人だったのですが、その人はカバンに巨大な「のるるん」のマスコットをつけていたのです。「のるるん」は東急電鉄のマスコットキャラクターです。

この「のるるん」が、その人の服装から見てたまらなく異質で、そしてたまらなく似合っていました。シンプルな服装、シンプルなメイクはすべてのるるんを引き立たせるためにあるのではないかと思うほどにです。

その日以来、のるるんを見るとちょっと平常心が保てなくなっています。あの美しい人はおそらくのるるんの女です。のるるんを愛しています。わたしはのるるんの女に対して恋慕の感情を抱いているわけではなく、のるるんに対して嫉妬の感情を抱いているわけでもないのだと思います。一番近いのは、「わたしがもし女だったらのるるんの女になりたい」という感情です。そして、そんな女が愛しているのるるんのことが気になって仕方がない、ということなのだと思います。

のるるんの女になりたい――そう思ったとしても、それは単純なことではありません。ただ単にのるるんのマスコットを買ってきて身に着ければよいということではありません。わたしがのるるんの女の素晴らしいなと思ったポイントは、数あるマスコットキャラクターの中から自分に似合うキャラクターとして「のるるん」を選び取れる審美眼です。それは単にのるるんを買ってきて身に着ければいいのではなく、自分にとっての「身に着けたい本当に好きなもの」を見つけ、それに自分の全身を合わせていく努力が必要なのです。のるるんの女がどうしてのるるんを愛しているのか、そしてどんな努力をしたのかは分かりません。ですが、その背景に何らかの物語性を感じて、のるるんを愛することができるのるるんの女、のるるんの女に愛されることのできるのるるんに対して、うらやましさと祝福の念を感じているのだと思います。

わたしはもう二度とのるるんの女に会うことはできず、また会いたいとも特に思いません。ですが、のるるんとは今後も何度か顔を合わせることになります。その度にのるるんの女への憧れに似た感情を思い出すことになるのでしょう。

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