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人妻にチョコをもらいました
今年のバレンタインは、母ではない人妻からはじめてチョコレートをもらいました。
わたしはタロットカードを使った占いを四半期に一度やっているのですが、DMで占いをした場合はギフトをねだっています。そんな中で、とある人妻の方がわたしにGODIVAのギフト券をくれたのです。「これでぜひバレンタインのGODIVAに行ってみてください」というものでした。自分が受け取りに行くという、令和のバレンタインの姿がここにありました。ありがたいことです。
実際わたしはナッツ類が苦手(アレルギーではないです)でして、良かれと思ってアーモンドや胡桃を入れるお菓子文化にはちょっとした博打になってしまう側面があります。自分で受け取る方式の場合はナッツが入っていないものを選ぶことができるので、その点ありがたいのです。高校生の頃にもらった義理のお菓子はナッツが入ってても美味しく食べましたので、その実績から考えるともらえりゃなんでもうれしいんだとは思うのですが。
というわけで、バレンタインデーの2日前に、とあるデパートの地下にあるGODIVAを訪れました。2日前ということもあってたくさんの女性客でごった返していました。女児を連れたお母さんや、友達同士で来ている女子高生たちの群れの中に、電子クーポン券を握りしめたアラサーの男が一人で来ている様子は何とも滑稽で最高の気分でした。
他の女性客が一通りはけるのを待ってから、わたしはそっと小さなつづらのようなチョコレートを注文しました。電子クーポンを出すのに戸惑うなどのことがありつつも、無事に支払いを済ませ、さあ帰ろう、と言うときに事が起こりました。
GODIVAの店員さんは丁寧なサービスゆえ、ガラスケースの奥からわざわざ出てきてくださり、袋に入ったチョコレートを手渡ししてくれたのです。それは若い女性の店員さんでした。袋を手渡され、手を伸ばした瞬間に思ったのです。「えっ、これは……もらってるじゃん……!この人から……!バレンタインデーの近傍にチョコレートを……!もらってるじゃん……!」
おそらくコンマ数秒、このことに動揺してしまいました。わたしは動揺を隠すのが下手なタイプなので、おそらくこの動揺は、向こうにも伝わったように思います。ここで動揺して、「この女性店員から受け取る」ということに、何らかの象徴的な意味を感じるようなそぶりを感じ取られた瞬間に、それは相手にとって現実になってしまいます。ただビジネス的な慣習にそれ以外の意味を感じ取られるのはおそらく恐怖以外の何物もないでしょう。
また、わたしが罪深いと思ったのは、女性たちの花園というか、その暗黙の領域を破ってしまったのではないか?ということです。わざわざガラスケースの奥から出てきてチョコレートを手渡すのは、デパ地下のお店では一般的なことかもしれませんが、あくまで「女性客に対して」であることを念頭に置いて設計されたサービスだと思っています。クーポン券を持ったアラサーの雑な男が来ることを想定しているものではないと思うのです。
わたしは深々と頭を下げ、「どうもありがとうございます」といいながら紙袋を受け取りました。顔を上げるとき、絶対に目を見てはいけない、目を見てはいけないと思いながらも、つい相手の眼を一瞥してしまいました。
――虚無の眼でした。一切の感情がない、虚無そのものの眼をしていました。口元にはほんのりと笑顔が残っており、一顧客への礼儀は欠かすことがありませんでした。しかしその眼は虚無でした。宇宙の真空よりも何もない、透き通った眼をしていました。わたしはその眼を見て大いに安心しました。持つべきではない、そして持ちたいわけでもない勝手に沸き起こってきた感情、あるいは象徴的意味合いのようなものを、丁寧に切り落としてもらえたように思えたからです。嫌悪感を振りかけられても、愛を振りかけられてもおそらく罪の意識があったと思います。わたしには虚無こそが唯一の正解で、救済だったように思いました。
また、ここを虚無にしてもらったことによって、このチョコレートは正しく、正真正銘「人妻からもらったチョコレート」になったとも思いました。象徴的な意味を勝手に感じ取る行為は罪深いもので、ともすればストーカーにもなってしまう可能性すら孕んでいます。ですが、ここに象徴を見出す感性がないことには、そもそもこのチョコレートの受け渡し自体も空疎なものになっていたように思います。
購入したチョコレートがこちらです。
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味は非常においしかったです。ストロベリー味のチョコレートですが、全体的にイチゴ味の中に粒状のものがちりばめられていて、それがいいアクセントになっていました。
ただ、食い意地が張りすぎて中身の写真を撮るのを忘れました。そういうとこだぞ!
最後に私信です。改めまして、素敵なチョコレートをいただきましてありがとうございました。こんな記事を読むためにギフトを送ったんじゃあないよと思われるかもしれませんが、本稿をホワイトデーのお返しにかえさせていただければと思います。