人のことをあだ名で呼べない症候群

どういうわけか、「あだ名」に対して強い苦手意識があります。人のことを苗字＋さん付けでしか呼べません。インターネットの世界ではハンドルネームが正式名称なので、当然その名前を使うのですが、それでもハンドルネーム＋さん付け以外で呼ぶことに対して強い抵抗があります。

わたしはかなりあだ名をつけられやすいタイプの本名をしているので、あだ名で呼ばれることには慣れています。なので、あだ名全般が嫌いとかいうわけではないのです。むしろ、あだ名で呼ばれると、「この人はわたしに親近感を覚えてくれているのだなあ」と感じて、うれしく感じることの方が多いです。ですが、それと、自分が他人のことをあだ名で呼べるかどうかは別問題です。理由ははっきりしないのですが、他人のことをあだ名で呼ぼうとすると、首の後ろにぞわぞわとした感覚が走り、脳内で即キャンセル処理が働くのです。何者かにそういうチップを埋め込まれたのではないかと思っています。

就職活動や新人研修などで、「グループディスカッション」が課されることがしばしばあります。この中で相当困る場面として、あだ名で呼びたがる、もしくは呼ばせたがる人が現れる、というものがあります。その人にとってはあだ名で呼ぶということによって互いの距離感を縮めようという戦略があるのだと思うのですが、ちょっとおかしいと思います。距離感を縮めるためにあだ名で呼ぶのではなく、距離感が縮んだ結果としてあだ名で呼ぶのではないか？と思うためです。因果関係が逆転していると思うのです。

これの厄介なところは、こちらがあだ名で呼ばなかった場合に、相手から距離を感じられてしまうことです。自己紹介で「近藤安彦です。ヤスと呼んでください。」と言われた時、その後の話で「ヤスはどう思います？」と言えるかということです。たぶんわたしは「近藤さんは……」と言ってしまうと思います。(がんばれば、「ヤスさん」「ヤスくん」までならいけるかもしれないですが)
このとき、近藤さんは「ヤスと呼んでくれって言ったのに……」とさみしい気持ちになると思います。「自分はあなたのことを友達と思ってるけどあなたは自分を友達と思っていないという」雰囲気が出てしまうので、悲しいと思われるのは当然だと思います。ですが、ちゃんと相手のことを信頼していて、仲がいいと思っているかどうかと、呼び名を何にするかはわたしにとっては別の概念なのです。仲が良くなったら呼べるというわけでもなく、仲が良くてもよくなくても平等にあだ名呼びの呼び捨てができないのです。そのため、変な誤解を与えないようにするには、自分があだ名で呼べないという病に罹患していることを理解してかかわってもらう必要があります。ただ、自分でもなぜあだ名呼びができないのかわかっていないので、他人にこれを論理的に説明することが難しく、結局多方面に誤解を擦り付けたまま過ごしています。同じような人がこの世界にたくさんいて、人口に膾炙するちょうどいい感じの名前がこの概念について流行ってくれると、我々のような人種に対する理解が広がってくれるのにな～と思っています。

なお、自分はだれに対しても丁寧語でしゃべってしまうという病にもかかっているのですが、この症候群はそれとも関係していると思います。おそらく自分に将来子どもをなしても丁寧語でしゃべるんだろうなと思います。こっちの病については、なんとなく原因をつかみかけているので、いずれ整理したいと思っています。