(連載10)とりあえず、結婚してみようと即決、即行動!!:ロサンゼルス在住アーティストの回顧録:1980年代後半
前回からの続きであります。(よろしければ前回を是非!)
「とりあえず、結婚してみよう」と思って、日本からロサンゼルスへ。
そして、空港からトッシュ・バーマンの働いているブック・スープという本屋に直行!
この書店はは、全国展開のチェーンではなくて、サンセット・ブルバード沿いにある、小さなインディペンデントの本屋さんで、アートやカルチャーの本も多く、ハリウッド映画業界のクリエイティブな人たちのアイデアの宝庫になってるようなところでした。
いきなり私が職場に現れてトッシュは、呆然。。。。
もちろん、大歓迎!!いえい〜〜!やった〜〜〜!!
てな具合いで、その驚く様はハンパなかったです!!
まあ、ここまでは想定内。。。。で。ありました。
が。
トッシュ・バーマンが住んでたアパートですけどもー。
それは「ハリウッド」、、、、、はい。それは、きいてた。。。。。
でもハリウッド・ヒルズの山の上、、、じゃなかったです。
山の。。。。下でした。。。。
それは、一軒家がくっついたような、デュープ・レックスというのですが、おそらく1930年代くらいに建てられた、長屋のような平屋でした。
こんな路地みたいなところから、入ってゆく感じ。
中にはいると、ワン・ベッドルーム。
そして。。。。。。。
そこには、テーブルも椅子もありませんでした。
冷蔵庫も、ありませんでした。
ベッド・ルームは、なんか体操に使うような、でんぐり返し専門のマットのような布団が床にあるだけでした。
そしてキッチンの作り付けの棚に、びっしりと本だけが詰まってました。
それだけです。。。。。。。本当、それだけ。。。。。。
ひえ〜〜〜。こ、こんだけ?
もしかして、、、び、びんぼう、な人。。。。
「あの、先月までヨーロッパに行ってたんだよね?」って、尋ねたら、
「おばあさんが亡くなったので、遺産が少しはいって、それはもう全部ヨーロッパで使ってきた!!」と言いました。汗
しかも、バツ悪そうにではなく、至極、楽しそうに。。。。その思い出話をいろいろと語るのでした。
はあ〜〜〜。と。ため息。。。。
そして、「僕が今からパスタを作るから、君はなにもしなくていいからね。そこで、待っててね〜」と言って、キッチンに立った。
コンロは作り付けのがあって、そして唯一の鍋で、そこでパスタをゆで始めました。そして「できたよ〜〜!」って言ったんで、「さんきゅ〜〜!」と。
そして、皿をみたら、そこにはパスタの麺しか。。。。確認できませんでした。
その皿に「麺のお友達」が、いないんですよ。。。
普通だったら、シュリンプとか、ミート・ボールとか、なんか、友達がいるでしょー?
ペペロンチーニにしても、ちょっとキャラのある相棒が!
それか、せめて、トマトソース、いえ、もう贅沢はいわん、ケチャップでもかかっていたら、それが、気持ちのすくい、未来のポジティブ思考のきっかけにもなったかもしれない。しかし、それが、何も、なし!!
こんなんです。
ぱっと見、パスタの麺のみ。もちろん、パルメザンチーズとかもな〜し。
で、私は、さすがに、「これって??」ってきいたら、
「パスタ あ〜んど オリーブ・オイル!!イッツ、ソー、グッド!!」と誇りを持って、そう答えるのです。
ぶっちゃけ、ひえ〜〜、アタシ、この人と結婚して、大丈夫かな〜?って。
でも、この何日かあとに、ファミレスのデニーズに行って、コーヒーを注文したら、「ここのコーヒーは、あまり美味しいとは言えないね〜。」って言ったんで。「よかった〜」と思いました。
私は料理はあまり得意ではないので、あまり他人のテイストに文句は言えませんが、最低でも自分が美味しいと思うものは、ふたりとも美味しい。と、いうような、共通の味の認識はキープしたいです。
で、そのディナーの後は、電話タイム。
家には、電話はあったんで、その電話で友達に片っ端から電話して、
「ルンナが来たんだよ!うん、うん、、、、そうそう、、、、今、ここにいる、、、うん、、、そう、、、じゃ、またね!」
と電話を切ったら、また違う友達に電話して、「ほら、ルンナっていたでしょ? 今ね、僕のとなりにいるんだ。、、、うん。。。そう。。。。じゃ、また連絡するよ。」
また違う人に電話「あ、僕だよ。ルンナがね、東京から来たんだよ。そう、、、そう。。。じゃ、また、そのうちね〜」とず〜〜〜〜〜と電話。
その間、私は、ずっとぼんやり、待っていた。
そして、これからどうなるのかな〜と、部屋の中を見渡して、漠然と考えた。エキセントリックな人の独身の部屋。でもドラッグとかやってるような感じでもなかったし、、、、、部屋が片付いてるというか、なんせ、本しか、ないんで。汗 なんとも言えませんでしたが、とりあえず、ちゃんと仕事をしてる人だったら、どうにでもなるわー。と。
そんな「プール付きの豪邸などに住んでる」とか、期待してなかったし。。。(もちろん、そうだったら、その方がよかったですけど。苦笑)
そして、さらに、次の日にですね、今度は、水道管が破裂して、キッチンが水浸しになったんです。。。。
ぷっしゅ〜〜〜〜!!
あわてて、プラマーを呼んで、緊急修理してもらえたからよかったですが、トッシュは
「これは、なにか幸運が起こってる証拠だよ!」
って、言うんです。
は?イメージは噴水?
もしくは、花火みたいな???
祝ってもらってる?って?
まあ、気持ちはわからんでもないけども。。。
取り急ぎ、キッチンは水浸しなんですがぁーーーー
いや〜〜〜この人、な〜んか、変わってる。。。。。
でも、面白くて、クスクスと笑える。。。バスター・キートンみたいな、ドタバタ喜劇のような、真面目なんだけど、可笑しい!
しかし、この後日に、笑ってもいられない、水漏れどころではない、こんな大惨事もあったんです。これは、今でもトラウマになってます。
トッシュのアパートの近く、あとワン・ブロックで、アパートに着くという住宅地の通りを、暗くなってすぐの時間に、ひとりで、歩いていました。
私は、前にも申しましたが、その頃は日常からちょっと目立つ格好をしていました。
ビクトリアンの時代衣装みたいなトップに、下はブルマ。そして、バッグは中に入ってるものが全部、スケスケで見える透明ビニールのバッグ。。。。。
なんて、おめでたい女、だったのでしょうか。そんな格好で、得意げに、おそらく、ニコニコしながら、ストリートを闊歩していたに違いなかったです。
狙われました。
いきなり、後ろから来た男性に自分が持ってたその透明カバンを、ひっつかまれたんです。
そして、そのバッグは引っ張り合いになって、もちろん私は負けて、通りにほおりだされて、その男は走って逃げました。
その時、大声を出したのか、出さなかったのか覚えてないですが、近所の若いにいちゃんが、家からバッと飛び出てきて、その男を走って追いかけてくれました。ストリートに放り出された私は、通りにしゃがんで、どうしたらいいのか、わからずにオロオロしてました。
近所の人が、何があったのか?とぞろぞろ、出てきてました。そして、そのにいちゃんが、はぁ〜はぁ〜息をつきながら、でも、追いつかなかったみたいで、もどってきました。だれかが警察に電話してくれたのでしょう、当時、まだ、携帯はないですから。そうこうしてると、おまわりさんがパトカーで来ました。
「大丈夫?」とか、いろいろ声をかけてくれてたと思いますが、私は興奮状態で、頭がさら地のようになってしまい、ただ、涙が出てきて、何も言葉が出てこない状態でした。あたりは、人だかりになっていました。
と、そこに、ついに、トッシュが来ました。近所の騒ぎで、変だと思ったら、私がその真ん中にいたという事でありましょう。詳しくは覚えてないですけど。
で、事件現場に現れたトッシュは
「どうした?どうした?」と、「この場は俺に任せろ!」というようなシャーロック・ホームズのような自信たっぷりな登場感でした。
そこに来てた女性警官がトッシュに「あなたはだれ?」と尋ねました。
「僕のこの人のフィアンセの、トッシュ・バーマンでありまぁす!」と、まるで選挙演説のような態度で言った。
「僕たちは、クリスマス・イブに結婚する事になっているんです。」と。
そしたら、その警官は、「あら〜〜〜!!!それは、おめでとう!!」と言いました。周りの人も、こわばった顔が、このひと事で、ゆるみました。
そして、警官はトッシュの方に向かって質問をはじめました。
「じゃあ、あなたに伺うとしましょう。この人の名前は?」と。
そしたら、「ルンナ・メノー」と警察に言ったのです。
それが、聞こえた私は、それまで無言で下を向いてメソメソしてたのですが、
はっと急に顔をあげて、「私の名前はルンナ・メノーじゃな〜〜い!!」と叫びました。
「マイ・ネーム イズ ノット、ルンナ メノ〜!!!!」って、大きい声で、泣きながら、でも、はっきりと!何回も。
そしたら、警察はびっくりして、トッシュの方を見ました。
どういう事?
あんた、フィアンセで、もうすぐ結婚するのに、この人の名前も知らないの???
そして、
我々ね、忙しんだから、あんたらに関わってる時間はないわ〜。とでも思ったのでしょう。その後は、簡単なレポートを書いて、最低限の作業をして、そそくさと去った。。。。
まだ、知り合って間もなかったので、私の本名をトッシュが覚えてなかったのは、無理もなかったのかもしれませんし、警官のあきれた態度も理解できます。。。。。
私はこれで、パスポートや財布、持ち歩いてたすべてが、あっという間になくなり、本当にショックでした。物質的損害もありますが、それよりも肉体的に、それまで生きてきて、体験した事がなかった「ものを誰かと取り合うという行為」が、あまりにも衝撃で、しばらくは、かなり沈んでおりました。
数日後、この話を聞いたトッシュのハンサムなおじさんという人が、そこに現れました。
その私の沈んだ精神状態とは、真逆の。。。。真っ赤なスポーツ・カーで!
キキ〜〜ィ。
そして、私はそのオープン・カーに乗って、ロサンゼルスの風を切って、ダウンタウンまでドライブ。日本の大使館に行き、パスポートの再発行の手続きをしてもらった。。。。。
今から考えると、こういう悲劇的な事も、なんかキートンのドタバタ喜劇の一部のように思い出されるから不思議です。
考えたら、ハリウッドのその辺は、まさにキートンのスタジオがあったあたりで、今でも彼の映画で、その当時のストリートを見る事ができます。私は、そんなキートンの魔法にかかって、その世界にはいりこんでしまったのか? 次から次に降りかかってくる出来事、それが惨事であろうが、なんであろうが、起こる事にもう、ただただ、懸命に対処して、先に進むしかありません。
そして、私は、なぜか、この時、確信があった。。。に違いないです。
このトッシュ・バーマンて人といると、たぶん、キートンの映画のように、
すべては、喜劇になるんじゃないかって。。。
さて、次回はいよいよ結婚式であります。。。。
次回へ続く。