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女性はフォーマル用の着物に羽織は合わせ…なかったんだけど

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本日のお題:女性はフォーマル用の着物に羽織は合わせ…なかったんだけど
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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なんと、ぼーっとしている間に年末じゃないですか。11月初め頃まで暑い日も多かったのにあっという間に年末ですね。

年末年始といえば昔はテレビばかり見ていたものなんですけれど、最近はアマゾンプライムとかディズニープラスで映画とか、普通の地上波のテレビを見ることがほんとになくなってしまいました。あくまでも私の周りだけですが、テレビ地上波の業界も時代の流れで大変なんでしょうね。

【お知らせ】
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■女性はフォーマル用の着物に羽織は合わせ…なかったんだけど

今週のお題は「女性はフォーマル用の着物に羽織は合わせ…なかったんだけど」です。羽織って便利ですよね。特に着付けをしなくてもその名前の通り上からちょいと羽織るだけでいいので、着付けにまだ自信のない着物初心者の方でも一枚持っていれば強い味方になります。2週間前のメルマガで着物初心者の方が初めて着物でお出かけしてみた体験談を配信致しましたが(注)、着付けのほとんどを隠してくれるので便利なんですよね。

注:お読みいただいていない方は、noteにバックナンバーを保管しておりますので「note 呉服のきくやてんちょ」で検索してみてください。

で、その羽織なのですが、最近SNS等の着姿の写真で訪問着に羽織を合わせている方が散見されるようになってまいりました。しかしながら実は本来は訪問着に羽織は合わせない、というのはご存知でしょうか。いやいや、いつも書いているように服飾文化は時代とともに変化していくものですので「羽織は訪問着に合わせたらルール違反(きりっ)」とまでいうつもりはありません。この業界に入った時から「訪問着に羽織を合わせない」と教えられてきた私も最近は訪問着に羽織を合わせている着姿も見慣れてきたので、近い将来訪問着に羽織は合わせないと知っている人はいなくなり、定着していくのでしょう。

ここでなぜ羽織は訪問着などフォーマル用の着物に合わせるものではないのか解説いたします。元々、羽織は戦国時代に武将が好きな柄の羽織を防寒具として着用したところから始まります。そして江戸時代に入り武士の羽織袴が定着し、江戸時代末期には紋付羽織袴は男性の正装としても定着いたします。

ここでもうお気づきだと思いますが、この羽織の時代の流れに女性は全く登場しません。時代劇等を見ても、カジュアルフォーマル問わず羽織を着ている女性は全く登場しないと思います。つまり、元々は羽織は男性専用の衣類で女性向けのものではなかったのです。

ところが江戸時代末期ごろから芸者さんが着るようになってきました。当時の芸者さんは現代でいうタレントやファッションリーダーのような立場で、有名人気芸者の絵を描いたもの(現代でいうプロマイド的なもの?)が飛ぶように売れたという話も耳にしたことがあります。そんな彼女たちの着姿に憧れて次第に女性の羽織姿も定着するようになってきました。

とはいえ元々は男性用であった羽織を女性が着るという、あえて強い表現をするならば「イレギュラーなファッション」な訳ですからフォーマルにはなり得ないという解釈で、正式な装いである訪問着の上にイレギュラーなファッションである羽織を合わせることはしない、ということなんです。

まあここまで書いてこの令和の世の中でそんな昔のルーツをいつまで後生大事に守ってんねんな、と思いますね。江戸時代の終わり=大政奉還が行われたのは1867年。約150年ほど前に発生した「女性が羽織を着る」というファッションがイレギュラーだからこの令和の時代でも羽織を着るとフォーマルにはならないというのもどないやねん、と思います。昭和から平成のあたりはSNS等はなく、着物ユーザー同士の交流や着姿を見てもらうといったことがなかったので時代(=服飾文化)が進化しにくかったのですが(注)、SNSの普及によってそれぞれが自由な装いをすることによって「こういうのでもいいんだ!」と気づいて次第に定着しつつあるように思います。

注:私がこの業界に入った頃は、着物雑誌というと「美しいキモノ」「きものサロン」ぐらいしかなく、超正統派のコーデ&シワひとつない着付けの写真しかありませんでした。情報がそれしかなかったんだからそこから情報を得ていくと正統派に固定されてしまいますよね。

いつもこのメルマガで書いているように、服飾文化は業界がコントロールする…いや、できるものではなく、世の中の情勢が勝手に右に振れたり左に振れたりしながら少しずつ進化していくもの。現代もその過渡期なんでしょう。江戸時代末期、芸者さんが羽織を着始めた頃に「それは男性が着るものですよ」なんていってる人を現代人が見たら「野暮な人だなぁ」と思うのと同じで、現代で訪問着に羽織を合わせている方を見ていちいち「それは間違ってますよ」というのも野暮ですよね。「このコーデいいやん!真似したい」と思う方が多ければ定着するし「変なコーデ、真似したくない」と思う方が多ければ勝手に消えていくし、それだけのことだと思っています。

おそらくはじめに芸者さんたちが男性ものの羽織を着始めたときにSNSがあったとしたら「あれは本来男性ものなので女性が着るのは間違い」なんていう原理主義的な方もおられたんじゃないでしょうか。女性が羽織を着始めた時に100人が100人とも「素敵なコーデ!」なんて言われたなんてことはあり得ないでしょう。そこから女性も羽織を着るのが当たり前になり、これから50年、100年と経った時に黒留袖や黒紋付にも羽織を合わせる時代が来ているかもしれないですよ。知らんけど笑。

今ちらっと書きましたが、訪問着に羽織がそろそろ解禁(?)になったのであれば黒留袖や黒紋付(喪服)に羽織はどうでしょうか。

これは正直なところ、まだ私も受け入れられないです。黒留袖や黒紋付は五つ紋付きの女性の最礼装ですが、そこに普通の羽織を合わせると若干のカジュアルダウンになってしまいます。一つ紋の羽織も絵羽模様の羽織でも同様で、この業界に入った頃に「中に着る着物を羽織でカジュアルダウンするのはご法度」と教えられてきた私としてはすごく違和感があります。といっても、もしSNS等で見かけたとしても野暮な指摘はしませんけどね。これも先ほど書いたように、業界団体がルールを作っている訳ではなく時代と社会が判断するものですから時代の流れに任せておけばいい、定着するならするでいいし、しないならしないでそれもまたいい、というのが私の見解です。

最後に今までの話と矛盾すると思うのですが、フォーマルな場に着る羽織のお話を。

女性は基本的に羽織はフォーマルな装いにならない、と書いてきましたが、その一方でフォーマルに着る場合もあります。それは一つ紋の黒の羽織です。昭和中期あたりにめちゃくちゃ流行ったらしいのですが(私は生まれてません笑)、まだ戦後復興途中で日本がそれほど裕福でなかった時代、当然着物もそれほどたくさん持っている訳ではありませんでした。そのためちょっとしたフォーマルな場に出席するときに重宝したのが一つ紋の羽織です。

当時も訪問着の上に一つ紋の羽織を着ることはないですよ。一つ紋の羽織を合わせるのはなどカジュアル用の着物です。下にカジュアル用の着物を着ていても上に一つ紋の羽織を着ていれば格が上がってフォーマルの装いになったのです。右へ倣えで同じ装いになりがちな日本人らしく、当時の入卒業式や授業参観はみなさん判で押したように黒の一つ紋の羽織を着ていて口の悪い人は「カラスの集団」なんて揶揄されたとか。

今ではこの黒の一つ紋の羽織はあまり人気がなくて、新品呉服店勤務時にはたぶん1回も注文をいただくことはなかったように思いますが、現在のリサイクル店では当時の一つ紋の羽織がよく入荷してきますし、羽織の便利さを知っているリサイクル愛好家のガチ着物勢に重宝されて入荷するたびに売れていくアイテムとなっております。

長々と書いてきましたが、あくまでも一般的な着物のルールであって、一部界隈ではあてはまらない部分もあるかもしれません。いつもメルマガで書いておりますように、着物の様々なルール(とされるもの)は情報伝達がほぼない時代に出来上がったもので全国統一されたものではありませんのでそのあたり、多少差し引いてお読みいただければ幸いです。

最後にちょっとした疑問なんですが、もともと紳士物であった羽織ですから身八つ口は開いていなかったはず。女性の着物の身八つ口が開いているのは、帯の幅が広くなってきたため紳士物と同じように袖付けが長いと帯と干渉してしまうためですが、羽織は帯に干渉するわけでもないので身八つ口を開ける必要はないはずです。身八つ口は意外と風が入ってきて寒いので、羽織を仕立てる時には男性ものと同じように塞いで欲しいという依頼をいただくことがあるんですが、羽織に身八つ口が開くようになったのはなんでなんですかね?

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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
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