生地を余らせたい時には前もって伝える
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本日のお題:生地を余らせたい時には前もって伝える
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/
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■生地を余らせたい時には前もって伝える
今週のお題は「生地を余らせたい時には前もって伝える」です。現在当店はリサイクル着物を中心に販売しておりますが、10年ほど前までは新品着物を多く扱っておりました。新品ですから丸巻きの反物を販売してお仕立てを請け負うことが多かったのですが、その際に「私は身長が低いので生地が余っているはずなのにもらえなかった」というクレームをいただくことがありました。今回はその解説をさせていただきたいと思います。
まず、結論から言いますと、身長が高い方でも低い方であっても着物を仕立てる場合に生地はほとんど余りません。いや、余らせないと言った方が正確ですね。お客様から特に要望がなければ生地を余らせることはなく、お返しすることもありません。もちろん染め出し部分の切れっ端のような生地やラベルがついた使えない部分は使用せずに残しますが、それ以外の表に出てきても違和感のない正常な部分(?)は余らせないのです。
丸巻きの反物…小紋を例にとりましょうか。小紋の反物は長さ約13m、幅約38cm程度の細長い生地を丸巻きにして販売されており、この生地から袖や身頃などに裁断してから縫製し、一枚の着物に仕立て上げるのです。生地を裁断する時にはあらかじめ、将来的に寸法直しすることを考慮してあちこちにある程度の縫込みを入れておくのが常道なのです。
ご自宅に着物がありましたらご覧になっていただきたいのですが、腰の上あたりに縫込みがあるのを確認できますでしょうか。また、袖の振りの部分にも数cm程度の縫込みがあるかもしれません。これらは将来的に娘さんに着物を譲るとなった時、ご自分より背の高い娘さんのために裄や袖丈を出す等の寸法直しの必要があっても対応できるように、縫込みが入れられているのです。
ですので、反物から着物の仕立てをフルオーダーする場合に「私は小柄で生地が余るだろうから、余った生地でショールやバッグを作ろう」と思われるのなら、必ずお仕立て前に(仕立てを依頼される前に)呉服店や和裁士に「余った生地で何かを作りたいので縫込みは多く取らずにできるだけ生地を余らせてください」と言っておいてください。そうでないと、和裁士さんは将来的な寸法直しに対応できるよう、セオリー通りに生地を余らせず縫込みを入れてお仕立てをしてしまいます。
余った生地で作りたいものが決まっているのなら、必要な生地の長さをあらかじめ見積もって伝えておくのも良いでしょう。その長さを余らせたうえで残った分を着物の縫込みに入れる、といったことにも対応してもらえるかもしれません。小柄な方で長めの反物なら目一杯余らせれば長着と共生地のショールを作ることなんてのもできそうですよね。
めちゃくちゃイレギュラーで、対応できるかどうかは和裁士さんによるかもしれませんが、作りたいものや必要な長さが決まっているのに着物を仕立てた後に余る生地がどうしても足りないと思われる場合、着物の仕立て方を工夫して(注)ご希望分の生地を余らせるということも可能かもしれません。
注:例えば背の高い方の着物を仕立てるときにどうしても生地が足りない場合、掛衿の下に見えないように継ぎを入れるなどで生地を節約する仕立て方があります。
ここまで丸巻きの反物からの仕立てについて説明してきましたが、生地を余らせないのは仮絵羽で販売されている着物でも同じです。訪問着や留袖など仮絵羽(あらかじめ裁断され仮に縫製されて着物の形になっているもの)で販売されているものは、そのままですと身丈が170cm程度もあろうかという状態です。これをお客様の寸法に合わせて仕立てるのですが、この時にも裁断するようなことはせず、腰のあたりに縫込みを作って寸法を調整してお仕立てをします。
縫込みを作ってはいるものの、仮絵羽の場合は絵柄に合わせてすでに裁断された状態で売られていますから、余らせようとしても柄に影響のない部分の小さな切れっ端がたくさん出てくるだけです。付下は丸巻きですが絵羽柄になっていますので、余らせようとするとやはり小さい切れっ端ばかりになってしまい、こちらもあまり意味がありません。ですから和裁士さんに「余らせてください」と伝えてまとまった布を余らせていただけるのは、あくまでも絵羽柄になっていない小紋や紬限定です。
洋服を仕立てる場合は曲線的な裁断が多く、余った生地も小さい切れっ端が多くなる印象です。しかし着物は長方形の生地を直線的に切って仕立てているうえ、将来的に寸法直しをしたり最後には布団にすると言ったことも考えて仕立てられています。日本は江戸時代にも様々な物をリサイクルして使っていたなんて話も聞きますし、着物の仕立ても今はやりのSDGsを数十年、いや数百年前から実行していたのかもしれませんね。物を、布を大切に扱う日本人の大切な心がここに見えてくるような気がします。
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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
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