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一度失った技術は戻らない
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本日のお題:一度失った技術は戻らない
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/
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いつも呉服のきくや各サイトをご利用いただきましてありがとうございます。この1週間、本当に寒かったですよね。各地で雪の被害が出ておりますがお住いの地域は大丈夫でしたでしょうか。雪がほとんど降らない大阪人としては少しの雪は喜ぶんですが、災害級の大雪となるとさすがに心配です。
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本日10時より在庫処分まとめ買いセールが始まりました。下記URLの在庫処分コーナーの商品が超お買い得になります。6枚お買い上げで10%OFF、そしてなんと10枚お買い上げいただければ50%OFFになります!え?たったの50%OFFかって?
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在庫処分コーナー
【2月のプレゼント企画が始まりました】
2月のプレゼントは先月に引き続き大島紬の糸を使用したショール、無月ショールです。これから春に向かいますのでちょうどいい、春向けのショールです。現在会員ではない方も応募時に会員になっていただければ権利がありますのでぜひご応募くださいませ。
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■一度失った技術は戻らない
今週のお題は「一度失った技術は戻らない」です。着物や帯は職人さんの技術の集合体といっても過言ではないぐらい様々な技術が使われております。昔、某SNSで「着物は分業制で作られているから流通が複雑になって高くなるんだ、ユニクロみたいに安く作れないのは業界の努力不足」なんて言われたことがありますが、それぞれの仕事が職人さんの超高度な技術によって支えられておりますのでユニクロみたいに大量生産はそもそも難しいのです。まあそれ以前にユニクロはほぼ無地ばかりですけどね。
着物は何百年も前からたゆまぬ努力によって確立された技術によって支えられていると言っても過言ではないと思います。ただ、月どころか火星にまでロケットが行こうかというこの時代ではありますが、市場が小さすぎて新しい機械技術の開発などもできず、そのため手作業に頼らざるを得ない部分もありますし、機械にはできない、人の手でしかできない表現もあります。
ところが和装市場は昭和後期から急速に縮小しておりますため、これらの技術が危機に瀕しています。ただでさえごく小規模な職人さんの世界ですが、その技術を活かすことのできる市場が時代の流れとともに急速に縮小しており、その技術が忘れ去られようとしています。
もし今、そういった技術が一旦途絶えてしまっても手順などをしっかりと書物や文章で残しておけば復活させられるんじゃないか、と思いますよね。いまNHKでやっている「チ。-地球の運動について」でもヨレンタさんが「「文字は まるで奇蹟ですよ。あれが使えると時間と場所を超越できる。200年前の情報に涙が流れることも、1000年前の噂話で笑うこともある」なんていってます。え?ヨレンタさんを知らないって?いまNHKで放映されてるしNetflixでもやってるのでみてください笑。
日本でも1000年前に書かれた源氏物語が今も読み続けられてますよね。文字で記録として残しておくといくら技術が途絶えてもまた復活させられる…って言いたいところなんですが、こういった職人さんの技術はそんな簡単な話じゃないんですよ。職人さんが血と汗を流しながら培ってきた技術は文字だけで簡単に表せるものではなく、一度途絶えてしまうと復活させるのは非常に難しいものなのです。もちろんゼロから始めるよりはずっと楽にはなるとは思いますが…。
大昔の話ですが私の新品屋時代に藍染展をやったことがあるんですよ。藍染ってご存知ですよね。ジャパンブルー。その時にお客様にハンカチを染めてもらうために藍の染料を作ったことがあります。みなさん意外とご存知ないんですが、藍染の染料って藍瓶の中にあるときには黒に近いグリーンのような色合いでお世辞にも綺麗な色とは言えません。表面に出ている部分は藍色なんですが、かき混ぜるとやっぱり黒のようなグリーンのような色合いなんですよ。なぜ表面に出ている部分は藍色なのかと申しますと、藍染めは空気媒染でして染料に浸けて空気に触れて酸化することではじめてあの鮮やかなジャパンブルーになるのです。
藍の染料は空気に触れると一瞬で発色してそれ以降は染まらなくなってしまうため、藍染は友禅のように生地に糊を置いて筆で色を挿すということができません。全て藍瓶の中にどぼんと生地を入れて染めるしか方法がありません。ぼかしの表現を使うには、何度も染めながら少しずつ防染している蝋や糊を剥がしてはまたどぼんという気の遠くなる作業をしています。
話が脱線してしまいましたが、この藍の染料を作ったことがあるんですよ。店の裏にゴミのポリバケツを置いて外側にはお湯を入れて熱帯魚を飼うためのヒーター、中に一回り小さいポリバケツを入れてその中で藍を作りました。毎日毎日、酒や砂糖や石灰などをいれてphの調整をしながら説明書の通りやってました。そして展示会直前に「そろそろ染まるようになったかな」と思って布を浸してみると…染まらない。まじかー。展示会目前やん。お客様への案内状で「藍の染料でハンカチを染めて遊びましょう」って書いてるやん、どうしよう、と思って藍染のメーカーさんにSOSをだしたら藍染職人さんがやってきて藍の染料をちょちょっと舐めて砂糖ドバドバ、石灰ドバドバ、酒ドバドバいれて「はい、明日までこのまま置いときや」といって颯爽と去って行きました。翌日になるとちゃんと染まるようになって私の大失態は回避できました。
あの時に本当に思ったんですよ。技術はしっかりと受け継いでいかないと、文献などに記録していてもなかなかうまく後世に伝えることができず、結局は復活させられずに途絶えてしまうってことに。
もう一つ例を挙げます。MT(匿名)というメーカーがありまして超一品の老舗メーカーなんですが、MTと言えば「ねん金綴れ(確か糸偏に念という字だったと思いますが、確認しようとしても当用漢字じゃないようでどのサイトもねん金と書いてます)」。このねん金綴れを復活させたメーカーとして有名です。
真綿の糸の一本一本に金を巻きつけたねん金綴れは、サイトによると1978年に名古屋の尾張徳川家に代々受け継がれていた宝物を所蔵している徳川美術館より、美しく輝く黄金の「ねん金袱紗」の再現依頼を受け、現代に復活させたと記載されております。もちろん文献等も多少はあったとは思いますが、非常に苦労されたと聞いています。ただし、これも私がメーカーさんから直接聞いた話によると再現はできたつもりではあるけれど、昔と全く同じ作り方かと言われると正確なところはまだわからない面もある、とのことでした。
卓越した技術は文章だけでは後世に伝えるのはなかなか難しく、人から人へ伝えていかないと途切れてしまう可能性が非常に高くなってしまいます。藍染なんて自分で作ってみて初めて分かりますが、天気や気温などによって酒や砂糖や石灰などの微妙な配合を変える必要があったらしく、それは文章化できないもので最初から直前になったら見に行こうと思ってたと聞きました(だったら最初からそう言っといてくれよ…-_-;)。
いま、様々な技術が消滅の危機に瀕しています。例えば先日X(旧ツイッター)の「着物豆知識」でも書きましたが今流通している袋帯のほとんどが表地と裏地を張り合わせたものですが、本当の袋帯…本袋(ほんぶくろ)といいます。本袋は耳の部分を縫い合わせるものではなく筒状に織っていくものなのですが、これはかなり高度な技術が必要なのでほぼ廃れてしまっています。
Xでこの話題を出したところ、帯の職人さんに聞きましたが(転載&引用許可済)、帯は裏面を見て織っていくので織機には表面が見えるように鏡がついており、この鏡で傷や織り間違いがないか見ながら織っていくのですが、本袋は全部織り上がるまで表面を確かめることができず、かなり高度な技術が必要とされ織り手さんは検品が通るまでドキドキだったそうです。見ながら織っていけるなら、織り間違ったらすぐに気づいて修正することができますが、途中で見られなかったらドキドキですし、間違っていた時の時間的な損失も計り知れませんし、間違うことのない熟練の職人さんしか作ることができないし、当然コストも高くついてしまいますよね。
現在「羅」とされている織り方は本当の羅ではない、と聞いたこともありますし、総絞りの裏打ち(生地が伸びないように絞りの生地の裏にもう一枚生地を貼り付ける)も本来の手間のかかった裏打ちではないとも聞きます。呉服屋生活30年の私が「聞いたことがある」というレベルでもうすでに取って代わった簡易的な技術が本流のようになってしまって元々の技術が忘れ去れてしまいつつあります。先ほどの袋帯の話も恐らくこのメルマガの読者のような熱量の高い着物ファンでもご存知ない方が多かったのではないでしょうか。
あの技術はもう職人さんがほとんどいない、という話をあちこちで聞きます。職人さんがどんどん高齢化して行きその技術が年ごとに失われていくのは非常に残念なんですが、こんな場末のリサイクル店のおやじには何もできないです…。と言いながら、いつも申し上げておりますように裾野が広くないと頂上も高くならないので、1000人のリサイクルファンがいて、その中から100人の新品着物を買う方がいて、その中から10人の超逸品を購入する方が現れるのではないか、と思いますので私もこういったメルマガで着物業界のことを発信したり、リサイクル着物の良さを語ったりなどで、ほんのほんのほんの少しぐらい、回り回って貢献しているような気もします笑。
というわけで、もしよろしければ、余裕がありましたら、いつかそういった「本物」を手にとって職人さんを応援するために購入…という言い方はあまり好きなないな。あくまでも手にとって心動かされてその対価を払っても惜しくない、と思ったら購入して職人さんたちを応援してあげてください。リサイクル品もいいんですけど、せっかく着物という深い世界に興味を持っていただいているんですから、工芸品的な視点からも見ていただければ、また新しい着物の良さに気づくかも…。
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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
電話:06-6551-8022
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