リサイクル着物は呉服業界を救わない?
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本日のお題:リサイクル着物は呉服業界を救わない?
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/
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先週土曜日に仕入れに行ってきたんですが、近畿地方の中でもそこそこ雪が降るところでして、折からの寒波もあり雪がかなり残っておりました。念のためにチェーンは積んでおりましたが、雪のほとんど降らない大阪人にはところどころとはいえ雪の残っている道路を走るのは少し怖かったです。雪の深い地方に住む方から言わせると「なーにいってんだか笑」と笑われるんですけど。
そんなこと言いながら、またたくさんの商品を仕入れてきましたのでこれから少しずつ商品登録してまいりますので楽しみにしていてくださいね。
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■リサイクル着物は呉服業界を救わない?
今週のお題は「リサイクル着物は呉服業界を救わない?」です。ちょっと挑戦的なお題ですね(笑)。
リサイクル着物は、ほとんどの場合は一旦消費者の手に渡って、それが何らかの都合でまた手放されて市場に出回ったものと認識しております。一部はしつけ糸つきの全く手を通していない未着用品も多く「リサイクル」という名前から想像するよりもずっと状態の良いものが多いという印象です。
価格も新品で誂えるよりも1/10や1/20になっており、この電気代や諸物価が急騰して着物にお金をかけられない時代であっても、少しやりくりをすれば手に入れられるという手軽さも魅力ですし、またリサイクルならではの現代とは違う柄ゆきも人気の理由の一つです。ちなみに当店も十数年前までは新品専門の呉服店でしたが、リサイクル品を少し扱ってからはその面白さから新品の扱い数がどんどん減る一方、それに反比例するかのようにリサイクル品の扱いが増えて現在ではリサイクル品専門のようになっております。
当店はツイッターを始め、FacebookやInstagramなどSNSを色々と活用し、ユーザー様と交流させていただいておりまして正統派(?)の着付けから和洋折衷の着こなしまで様々に楽しんでおられる様子を拝見し、私も楽しませていただいております。
そんななか「リサイクルの着物は職人さんにお金が流れないからあまり良くない」という意見が定期的に流れてくるんですよね。確かにリサイクル着物は一旦ユーザーに渡ったものですから職人さんにはお金が流れないのはおっしゃる通りです。
着物は基本的に全て手作業なので、作られるときには白生地メーカーさんや、染めや織りの職人さん、和裁士さんまで様々な職人さんの手を経て一枚の着物が出来上がります。新品の着物を購入すると、それが回り回って様々な職人さんにお金が落ちていくのは間違いありません。そして一方リサイクル着物はもうすでに一旦ユーザーの手に渡るときに職人さんたちにお金は落ちているわけですから(正確に言えば作られるときに職人さんにお金が渡るわけなんですが)、もう一度市場に出たときに職人さんたちの手にお金が渡ることはありません。
まあ、そう考えると確かにいくらリサイクル着物を買っていただいたところで、職人さんたちの生活の足しにはなりませんし、購入されたリサイクル店以外にはお金は落ちていきませんよね。ですのでおっしゃる意味はよくわかります。でも元新品着物店を経てリサイクル店をやっている私としては、できましたらもう少し大きな目で見ていただければ、と思うんです。
先ほど書いたようにリサイクル着物はほぼ汚れていない未着用品が新品の1/10や1/20の価格で販売されていることも珍しくありません。一方、何も持っていない状態から新品の着物や帯、長襦袢に至るまですべて揃えようとすると10万や20万は当たり前、下手すれば数十万円の費用がかかってしまう場合もあります。SNSで「着物っていいな、ちょっと興味があるな」とおぼろげながら思っても10万や20万の金額は何もわからない初心者の方がおいそれと出せる金額ではありません。そればかりか変な店に行ってしまうと安い小紋が欲しかったのになぜか作家ものの訪問着と帯を買うことになってしまったり…。
先日、着物のレンタルをやっているかと店に電話がかかってきました。どんな着物が着たいのか、今の時期なら袴?それとも訪問着?留袖?と聞いてもよくわからないという答えだったので詳しく聞くと、どうやらネットで生配信をしておられる方のようで、着物を着て配信したいとのことでした。「そういうことならレンタルだと高いのでリサイクル品を買ったほうがいいんじゃないですか?配信なら上半身が綺麗だったらいいだろうし、多少シミがあってもカメラ越しにはほぼ映りませんし」とアドバイスさせていただきました。
また、1週間ぐらい前かな、若い女性の二人連れにご来店いただきまして、和洋折衷で着物を着てみたい、ということでしたので当店の目玉商品の2000円ほどの小紋を提案したところ、とても喜んでいただけました。
新品だけの着物を扱っていた頃にはこういったお客様とは全く接点がなかったのでなんだか新鮮な驚きがあるのと同時に着物需要の裾野が広がっているというのを感じることができます。先ほど出した二つの例はおそらく新品の反物を出して「えーっと、反物代と着物の仕立て代、胴裏、八掛、名古屋帯に帯の仕立て代、ガード加工もしましょうか。あ、長襦袢も要りますよね。(電卓パチパチ…)本当は30万のところ、半額の15万にします!(注)」なんていったところでまず買わないですよ。それどころか「あー、やっぱり着物の世界はめちゃくちゃお金がかかって無理だわ」と、二度と着物の世界に足を踏み入れてくださらないのでは、と思います。
注:小紋を買いに行ったのに作家ものの訪問着を勧めてくるトンチンカンな店にありがちな大幅値引き。このあと、横についている担当者と店長の「えー!店長こんなに値引きしていいんですか!」という小芝居もセットなんですが、全ての店がこんなのじゃないですよ(笑)。
サッカーのJリーグが1993年に発足してからもう30年になります。私はサッカーには全く興味はないのですが(しかもたまたま私が見た試合に限って日本が負ける)、Jリーグが発足して子供たちがサッカーを目にすることが多くなり、実際に小中学校のクラブでサッカーをする子供たちが大幅に増えました。そして、それに伴って次第に日本のサッカーのレベルも上がっていき、近年はワールドカップに出場できるまでになりました。これはサッカー人口が増え、裾野が広がった分頂上も高くなっていった結果だと思っています。
着物も同じように、リーズナブルなリサイクル着物に始まって、まずは少しシミがついていてもうまくアレンジしてシミを隠してまずは着物を楽しんでいただき、その中の一定数の割合がまた正統派(正統派ってなんだ?というのはとりあえず置いといて)の着付けも楽しみ、そのうちまた一定数が「いつかちゃんと仕立ててもらって自分のサイズの着物を着てみたい」と思うようになって、そのうちまた一定数が気に入った作家さんなど高級呉服と言われるようなものも購入するようになるのでは、と思っております。それもこれもすべて裾野が広がることによって頂上も高くなり、いいものを求める方も増えていくのではないでしょうか。
リサイクル着物、新品着物にかかわらず、着物を愛する方の絶対数が多くなれば多くなるほど、市場が少しずつ広がっていくことによって職人さんたちにも還元されるのではと思います。一見、リサイクル品は職人さんたちには還元されないように見えますが、いや、実際にそのリサイクル品を購入しても職人さんには何にも還元されないのですが、できましたら少し長い目で見ていただき、まずは1000円、2000円の安価なリサイクル品を購入していただけるような、着物の世界の入り口に立ったユーザーを温かく見守っていただければ、リサイクル品を扱う店としてはとても嬉しいな、と思います。
現在の呉服業界の市場はだいたい2500億で、私が調べましたところリサイクル市場はそのうちの300億円程度とのことでした。新品着物と比べるとまだまだ小さい数字ではありますが、その中の一人一人のユーザーは自分で呉服店に足を運び、普段から着物を着たいと思っているヘビーユーザーの率は非常に高いと思います。そんなユーザーは呉服業界を挙げて大切にしていただきたいな、と思います。
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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
電話:06-6551-8022
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