国内縫製と海外縫製について色々その2
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本日のお題:国内縫製と海外縫製について色々その2
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■国内縫製と海外縫製について色々その2
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海外縫製では一般的な、パーツごとに縫う分業制は非常に合理的ではあるのですが、縫製会社によってはそのパーツによって出来の良し悪しが変わる場合があると聞いています。例えば身頃はすごく上手いけれど袖部分はイマイチ、というようなことが発生する恐れがあるとか。とはいうものの、最近の海外縫製は非常に良くできていて、今のところ私の見てきた海外縫製では私程度の縫製素人の目でも部位によって明らかに出来が違うという縫製は見たことはありません。もっとも当店はリサイクル着物の販売が主で海外縫製で発注することはほとんどないのでそもそも分母が少なく、あまり参考にならないのですが…。
また、ちょっとイレギュラーな仕立ても対応しにくいと聞いています。例えば被布衿やヘチマ衿などちょっと変わった衿のコート、リバーシブルのコートや紗袷など比較的珍しいタイプの仕立てになると海外縫製では対応できないと断られます。おそらくパーツごとに縫っているため、ある程度標準化されたものでないと縫えないんでしょうね。
あと、一番気になるのが裁ちの部分。細かい柄の小紋でしたらあまり意識しなくてもいいのですが、大きめの柄や飛び柄になるとどこにどのような柄がくるのかで印象が全く違ってくる場合もあります。訪問着など絵羽ものはどこにどのように柄が配置されるのか、染められる段階で決まっておりますが小紋や紬は全くの自由ですのでお客様から細かい注文がない限り和裁士さんのセンスが問われます。訪問着や留袖は合口の柄を繋げるのは和裁士さんの技術が要求されますが、小紋のように和裁士さんのセンスがダイレクトに問われるものは海外縫製はやや心配になりますね。
このあたり、もしかすると和裁を熟知した日本人が裁っているのかもしれませんが現地の方がやっていてもかなり上手く裁っているということも聞いています。海外縫製の現場で働いていた方の話では「よくここまで指導したな」と思うぐらいセンス良く裁っていたということです。もちろんこの辺りはその縫製会社にもよると思いますが、安かろう、悪かろうでは通用しない時代ですのでかなり努力しておられるのは間違い無いでしょう。
ただ、お客様が和裁をよく知っている方で細かく指定しようとすると、間に呉服店や縫製会社が入り、それを海外の現地の工場に伝えて…となるのであまり細かい指定になると伝わりにくいということもあるかもしれません。
納期の点では国内仕立てに絶対的なアドバンテージがありますね。昔は当店も振袖販売を頑張っていたのですが、元々は着ないつもりだったけど年末になって気が変わって振袖が欲しいという方が必ず来られたものです。そういう時には海外縫製では絶対間に合いません。その当時はまだ成人式は1月15日だったので和裁士さんに土下座の勢いで頼み込んで何とか間にあわせることができました。年末ですのでお正月を挟みますので実質1週間程度で長襦袢と振袖の2枚を仕立てて頂くんですから海外では絶対間に合わないですね。
これが海外仕立てになると週1回○曜日に一斉に船便で海外に発送し、また仕立て上がったら週1回現地から送られてきますのでどうしても日数のロスがありますし、そもそも分業制でスケジュールも決まっているのでこういうイレギュラーな超特急仕立てには対応しにくいようです。
着物のフルオーダー仕立てを依頼するお客様は高いレベルのものを要求されますので、先ほど書いたように着物の仕立ては安かろう悪かろうでは通用しません。呉服店に納品したらまずは呉服店の検品も入ります。大切なお客様の着物ですし、下手な仕立てですと店の看板に傷がつくので厳しく検品しますので、縫製会社側もそれを強く認識しており呉服店に納品する前に厳しく検品するようです。もちろんたまには裁断の間違いなど、大きなミスも発生します。寸法間違い等があれば現地でお直しをしますが、そういう時に活躍するのが現地に住んでいる日本人。やはり日本の感覚を持っている日本人は欠かせないようですね。
今回のメルマガを書くにあたってそういった仕事をしておられた方に間接的にお話を伺う機会があったのですが、海外仕立てはとにかく量をこなさないとならないため、無難に仕立てているという印象で、綺麗に仕立てているというイメージではなかったというお話も聞くことができました。日本に送ってからの検品で「これはあかんやろ」というような仕立ては現地のスタッフに知らされますが、そういうひどいもの以外はあまり現地の方には知らされず、日本で日本の職人さんがお直ししているとのことでした。もちろんこの辺りは会社によってやり方はいろいろだと思いますのでこういったやり方の会社もある、と聞いていただければ幸いです。
そこそこ及第点の従業員も在籍している海外縫製の会社ではありますが、そういった従業員は単価のいい仕事があればすぐにそちらの方に転職してしまいますので、腕があってもそのまま続けてくれるかどいうかは給料にかかってきます。円安の影響もあり、また先ほど書いたように国の方針で給与を強制的に上げなければならないということもあり、近い将来日本の職人と大差ない仕立て代になってくる可能性も高いです。
一番初めに和裁士さんの組合が「袷の小紋の仕立て代50000円(税別)」に高めていきたいという提言を紹介いたしました。その和裁士さんの腕やお住いの地方にもよるとは思いますが現実は半分といったところでしょうか。1日8時間として3日かかって24時間。ほぼ時給1000円程度ですね。せっかく高い技術を身につけたのに、学生のアルバイト並みの給与ではこれから先、和裁士のなり手はなくなり、技術も途絶えてしまいます。
国内の和裁士さんの技術やその技術を取得するための苦労を理解すると、1枚50000円でも決して高くはない、むしろ安いぐらいと思えるのですが、海外縫製の値段の安さは魅力的です。袷の小紋の仕立て代だけで1枚50000円だとすると、そこに胴裏の生地、八掛の生地を加えると税込で80000円程度の金額になってしまいますのでちょっとした金額ですよね…。この価格差を埋めるためには、お仕立てを受ける側(当店のように海外も国内も受けられる店)が海外縫製と国内縫製の違いをしっかりと認識して、お客様にお伝えできるようにならなければ、と思います。
しっかりと説明した上で、お客様が海外を選ぶならそれはそれで仕方がないことですが、どちらを選ぶにしても「こんなはずじゃなかった」というようなことのないように、私たち呉服店は情報をお客様に伝えていくのが責務だと思っております。腕のいい和裁士さんには頑張っていただきたいし、これからも和裁という優れた技術を残していくためにも。
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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
電話:06-6551-8022
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