振袖販売裏事情その1
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本日のお題:振袖販売裏事情その1
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■振袖販売裏事情その1
今日のタイトルとは全く関係ないんですけれど、ちょっと面白い話を聞いたので冒頭で紹介させていただきます。本来なら1週かけてお話ししたいんですが、着物の話ではなく言語学の話で奥深く話せるほどまだ研究できていないので…。
地方によって様々な方言があるとは思いますが、驚くような遠く離れた場所で同じ言葉が使われていることがあります。例えば広島県である方言が使われていたと思ったら、遠く離れた福井県でも同じような方言が使われていたり。これは京都を中心に同心円状に言葉が広がっていったという仮説があるようなんです。
古来、文化の中心は京都だったのですが、インターネットはもちろんテレビやラジオもない時代ですので、新しい文化や風習が生まれると京都を中心としてゆっくりゆっくり、日本全国に同心円状に広がっていきました。そしてその「新しいもの」が何十年もかかって日本全国にいきわたる頃には、さらに新しいものが生まれて同心円状に広がっていったため、結果として遠く離れた地域に飛び飛びで同じような文化や風習が残っている、という状態になったようです。
言語学だけではなく着物やそれにまつわる風習においても同じように、遠く離れた地方で珍しい風習が残っている、といったことがあるのではと思ったんですがどうなんでしょうね。ちょっと調べてみたくなりました。
さて今日の本題です。今週のお題は「振袖についてあれこれ」です。
昨年の成人式はコロナのために無くなってしまった自治体もあるかと思います。当店のある大阪市でも去年は行われず、去年の成人式は1年遅れで今年1月8日と15日の2回に分けてユニバーサルスタジオジャパンで行われることになっております。当店も実店舗では振袖のレンタルもしているのですが、USJでの成人式だから気兼ねなく乗り物に乗りたい、ということで振袖はキャンセルされた方も多くいらっしゃいました。しかし中には「USJでも振袖を着たい」という方もおられて「ジュラシックパークだけは乗っちゃダメ!(注)」といって送り出しました。
注・ジュラシックパークは最後に急流すべりがあり、びしょ濡れになってしまいます。
先ほど書いたように当店もほんの少しだけ振袖を扱っているのですが、最近はあまり力を入れておりません。しかし十数年ほど前まではほとんどの呉服店が「まずは振袖」とばかりに振袖販売に力を入れておりました。なぜかと申しますと、
1・何年後かに振袖が必要になるお嬢様の名簿を簡単に手に入れることができたので営業しやすかった。
平成15年に「個人情報の保護に関する法律」が制定されて以来日本全体に個人情報というものに対する意識が高まりましたが、それまでは名簿屋さんで簡単に「○年に成人式を迎える女性のリスト」を手に入れることができました。
まだインターネットもそれほど普及していなかったため、情報発信はチラシや新聞広告などが主体でした。しかし名簿があればターゲットを絞って営業活動ができますから、闇雲にチラシを撒くよりも効率が良かったのです。。
2・初めての着物として振袖を購入していただくのをとっかかりに、お嫁入りのために揃える着物を提案することができた
男女雇用機会均等法が施行される以前のことです。当時でもまだ女性は二十代半ばに結婚し仕事を辞めて家庭に入り専業主婦になることが多かったので成人式が終わると次は少しずつお嫁入りの準備をしていました。ですので振袖を購入していただいた次は黒紋付(喪服)のセットを提案し、お母様の留袖を提案し、結婚後の挨拶回りの色無地、子供ができたらお宮参りに着る訪問着などを提案し、その家庭の冠婚葬祭の着物全てを一手に引き受けることができたのです。
振袖はいわばその店にとっての入り口の商品で、そこから様々な商品の販売につなげていく突破口に位置付けられていたのです。
しかしながら時代は流れました。
個人情報保護法の施行によって国民の個人情報に対する意識が高まり、名簿の入手が非常に難しくなりました。誤解のないように書いておきますが、今でも法律を守った上で名簿屋さんは営業が可能ですし、現に営業しておられる名簿屋さんは今でもたくさん存在します。しかしながら名簿屋さんは主に学校のクラス名簿を手に入れデータベース化していたのですが、個人情報保護の意識が高まったためクラス名簿自体が作られなくなり、商圏に1000人以上のお嬢さんがいるはずなのに100人分程度しか名簿が手に入らない、という事態になりました。
また、男女雇用機会均等法が施行された以降、初婚年齢は高齢化していき、結婚しないで働く女性も増えていった結果、振袖を購入して頂いたあとすぐにまた別の商品を提案しても「結婚なんてまだまだ先」と言われるようになりましたし、お嫁入り道具に着物を持って行くなんてこともなくなりました。ちなみに何度か書いておりますが、昔は結婚するときには「荷出し」といいまして、お嫁さんの荷物は紅白の布で飾られたトラックで大安吉日に新居に運び込まれ、その際に近所の方々が「あそこの息子はどんなお嫁さんをもらったんだろ」と集まってきて、お嫁さんが持ってきたお嫁入り道具をすべて並べてお披露目するという、今から考えればほぼ罰ゲームのような風習があったんですよ。
ですので、送り出すお嫁さん側は「娘に恥はかかせられない」と少し無理してでもいい着物をタンスにいっぱい入れて持って行かせましたし、経済的にそれは難しいという場合でも「とにかくタンスに入れなければ」とお母様の着物を娘さん用に仕立て直して持っていったものです。
しかしお嫁さんの持ち物をお披露目するような風習はほぼなくなったように思います。もしかすると特定の地域や集落などでは今も行われているのかもしれませんが、少なくとも現代では一般的ではなくなりました。
呉服業界は昭和60年代ごろから一気に縮小したと言われております。しかしそれ以前から日常的に着物を着る方はいなくなりつつあり、上記のような「着そうにないけどとりあえず購入した」といった中身のない需要にかろうじて支えられていたと言えるかもしれません。
こういう背景から各呉服店は振袖販売に力を入れていたのですが、近年には、嫁入り道具として着物を一通り買い揃えるような風習はなくなり、振袖からお嫁入り道具の販売につなげるといった「呉服屋の定石パターン」が崩れ始めました。そして振袖独特とも言える理由で振袖販売から撤退する店が出始め、呉服店は振袖販売に特化する店と振袖を扱わない店に二極化されていくのですが、その理由はまた次週に。
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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
電話:06-6551-8022
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