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パソコン通信時代に知り合った業界の大先輩の話

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本日のお題:パソコン通信時代に知り合った業界の大先輩の話
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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■パソコン通信時代に知り合った業界の大先輩の話

今日のお題は「パソコン通信時代に知り合った業界の大先輩の話」です。私のパソコン歴は結構長く、もう30年ほどになります。大学4年になる頃、就職活動をするためにワープロを購入したのがそういった電子機器との初めての出会いでした。ワープロをご存じない方のために説明しますと、当時はまだ今ほどパソコンが普及しておらず、文字を打つ機能だけを備えたワードプロセッサなるものが一般的だったのです。

インターネットが一般に普及する前はパソコン通信が使われており、2大パソコン通信としてPC-VANとNifty-serveが挙げられます。若い方はパソコン通信って聞いたこともないかもしれませんね。簡単にいうと、各ジャンルそれぞれの話題を話し合う巨大掲示板のようなものです。今でいう2ちゃんねるとか5ちゃんねるみたいなものですが、各掲示板に掲示板内を健全に保つ役割をボランティアでしてくれる人がいて、IDは固定でなりすまし等ができないことなどから、荒れることはあまりありませんでした。もちろん、議論が活発化して喧嘩になることはありましたけどね。

Nifty-serveというパソコン通信に着物フォーラムという掲示板がありまして、着物のことを話題にしていました。当時、着物愛好家がパソコンを通じて交流する掲示板なんて他にはなく、おそらく日本で最初にできた、離れた場所にいる着物好きが集える場所だったのではないでしょうか。ちなみに当時仲良くお話しさせていただいた方の中には、ツイッターやFacebookで今も親しくさせていただいている方も多くいらっしゃいます。

当時まだ二十代前半で着物のことを勉強中だった私は、その着物フォーラムでいろんなことを教えていただいたのを覚えています。業界の先輩もおられましたし、直接ユーザーの生の声を聞ける場というのも希少で「ユーザーはこういうものを望んでいるのか」と驚くことも多く、それは現在の呉服屋としてのスタンスに大きく影響しています。

あの頃は呉服屋の営業マンとして働いておりましたが、正直いうと着物のことなんてほとんど分かってなかったんですよ。展示会主体の店の営業マンの主な仕事といえば、ただただ集客のために走り回るばかり。毎月のように展示会が行われ、今回のが終わったらまた次、またその次というように、何か月も先まで予定が決まっています。いつものお客様のところに訪問して「展示会に来てください!」とご来場予約を取るのが仕事で、実際に着物を触る機会は少ないのです。

接客係、お客様の注文通り和裁士さんに外注する係、経理係、そして営業係…。ある程度企業化され、それぞれの役割を分担している店ほど、営業マンは着物を触ることが少なくなってしまうのは仕方がないことかもしれません。

このメルマガを読んで下さる方には想像がつかないかもしれませんが、購入してくださるお客様の方も、呉服店とのお付き合いでなんとなく着物を購入してくださったり、自分では着られなくても綺麗な着物が好きでなんとなく購入してくださる方が非常に多く、お客様とマニアックな着物の話をするようなこともあまりありませんでした。あくまでも肌感覚ですがお客様の中の95%はご自身で着物を着ることができない方だったように思います。

そういう毎日を過ごしていたので、掲示板の着物フォーラムの話題はとても新鮮でした。着物を購入し、実際に着てお出かけしている方がいらっしゃる。しかも普段着として。そのことに驚き、喜びを感じました。今、ツイッターなどでお話ししているような話題が、30年前にはすでにパソコン通信という場で盛り上がっていたのです。

着物が好きな一般の方以外に、私と同じように呉服店に勤務している方、経営している方、職人として働いている方なども多くいらっしゃいました。職人さんの生の声を聴くことができたのは当時若かった私には非常に勉強になりましたが、そのなかでひときわ着物のことをよく知っておられる生き字引のような方がおられました。あの当時でかなり年配の方でお名前は…仮にマサカリ金太郎さんとでもしておきましょうか。

金太郎さんは呉服店経営でこの道一筋といった感じの大先輩でした。当時私はまだ着物業界に入って2-3年目だったのでなんとなく着物のことがわかってきたと思ってる頃(でも実は全くわかってない笑)でしたが、その金太郎さんはおそらくこの道数十年の大ベテランだったと思います。ユーザーからいろんな質問をされてもしっかりと答えていろんな技法の解説などもしてくださったのを覚えています。

先ほど書いたように、当時私は展示会へお客様を呼ぶための営業をしていました。着物のことを勉強することなんてぜーんぜんありません。展示会に出品する商品は、前日に取引問屋から送られてくるから、問屋の値段に決まった掛け率をかけて値札をつけるだけ。商品は問屋から借りるだけなので実際に吟味してその着物の良さを見つけるなんてことはありません。送られてきた商品に値段をつけて並べて、事前にお願いしていたお客様が来場したら着物を勧める、そんな仕事でした。これじゃ着物のことを勉強することなんて無理ですよね。

でも私はその金太郎さんの姿勢にとても感銘を受けていたんですよ。着物と真摯に向き合い、技法を勉強し、ユーザーに適切なアドバイスをする、そんな呉服店になりたいと思いました。残念ながらその当時私のいた店はそういう姿勢ではなかったです。

そこから私にとって展示会は完全に勉強の場になりました。普段の仕事はお客様の家に訪問して展示会のご来場の約束を取り付けなければならないのであまり着物を触る機会はないのですが、月一回の展示会では嫌になるほどの着物に囲まれ、作家さんやメーカーの方々がゲストで来られた時には、どんなふうに染めているのか、どんなふうに織っているのか、どうすればこんな柄が作れるのかなど、疑問に感じたことを教えていただきました。

しつこくしつこく聞きましたが、作家さんやメーカーさんは決して嫌な顔はしませんでした。忙しくない時ならたぶんユーザーが聞いてもきっと嫌な顔をせずに、むしろ喜んで技法をいろいろ教えてくれると思います。作家さんたちはご自身の技術を自慢したくてウズウズしてますからね笑。しっかり勉強したいという姿勢を見せればこれでもかというほど教えてくれます。

いま、ツイッター(@gofukunokikuya)で着物の豆知識を毎日配信しておりますが、これはその当時に業界の大先輩から教えてもらったことがほとんどです。この姿勢でありたいと思ったのはパソコン通信の着物フォーラムにいた金太郎さんの姿勢に感銘を受けたからで、あの出会いがなかったら今の自分はなかったのではないか、と思っています。

その後、とてもショックなことがありました。金太郎さんが「もうそろそろ店を閉めようかと思ってる」という書き込みをしたのです。最近は1日店にいても全く売れない日が増えてきた。自分ももう年だしそろそろ潮時かと思ってる」とのことでした。当時、すでに着物需要は年々減っておりましたが堅実にやっていればちゃんとお客様はわかってくれると思っていたので、金太郎さんの店がそんな風だなんて、意外に感じました。

当時私のいた店はどちらかというと売らんかなの店で展示会を開催すると数千万の売り上げがありました。もちろん時代の流れか売り上げは右肩下がりにはなっていましたがそれでもまだ売れてはいました。しかし金太郎さんの店は展示会での売り上げではなくあくまでも店舗での売り上げにこだわり、いいものを安く販売しようとしていました。そんな真面目な、豊富な知識に支えられた店でも「1日待ってもお客さんが来ない日が多くなってきた」というのがとてもショックだったのです。

当時はまだツイッターもなく、楽天などネット通販もありません。情報の発信がしにくい時代ではありましたがそれでも真面目にやっていればちゃんとやっていけると思ってたのに呉服店の現実を見せつけられたような思いでした。結局閉店セールをして何か月の間に手持ちの商品をすべて販売し、長い呉服屋人生に終止符を打ったと風の噂に聞きました。

結局最後まで実際にお会いすることはありませんでしたが、今の私の呉服屋としての考えの根底にあるのはこの金太郎さんの姿勢だなぁ、と思うのです。小さい店だったようですが(失礼)お客様のためにいいものを安く販売して、展示会などの経費はかけず、豊富な知識と鑑定眼で勝負する店。そんなふうな店でありたいと今でも思っています。

当時着物フォーラムにおられた方がこのメルマガをお読みになれば「あー!きっとあの人のことだ!」とわかると思います。店を辞めてからもう20年か25年ぐらい経っているのでもしご存命でももうかなりのお年だと思いますが、もしその後の消息をご存知でしたら教えていただきたいな、と思っております。

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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
電話:06-6551-8022
https://www.kikuya.shop/

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