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呉服屋の掛売り問題その2

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本日のお題:呉服屋の掛売り問題その2
呉服のきくや本店:https://www.kikuya.shop/

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■呉服屋の掛売り問題その2

先週に引き続き「呉服屋の掛売り問題その2」です。先週の文をお読みではない方はnoteにバックナンバーを予感しておりますので「呉服のきくやてんちょ note」で検索してご覧ください。

と言うわけで先週の続きです。

そんな取引をしていた時代であり、お互いの信用に基づいた取引をしていたのをまたその娘さんは横で見ています。時代は流れて娘さんの代になってもそういう取引をしていたというのを知っている娘さんにローンをお願いすることができない店は多かったでしょう。「なんだ、親の代から付き合いしてるのに私が買うようになったらこういうやり方か」と言われるのは想像にかたくありません。娘さんはショッピングローンの存在はもちろん知っていますが、今までの取引があるからその店は「堅苦しいローンの書類を書かなくても、信用して商品を売ってくれる店」と認識していますし、ローンを組むとその回数にも寄りますが10-20%程度の金利がかかってきます。「せっかくの長い付き合いなのに便宜を図ってもらえないならここで買う必要もないわね」とばかりに顧客が離れてしまうのが怖くて、小さな店なのに何千万、何億という売掛金を抱えて「どうやって回収しよう」と頭を抱えている店は意外と多いんですよ。

ちょっとややこしいことを言いますが、税法上売掛金も現金も会社の資産として計上されますので、商品を販売して契約書を交わして商品はお客様に納品し、お客様からはお金をもらえず「売掛金」という形で帳簿上に残りますとそれは利益として課税対象になります。具体的に書きますと、手持ち1000円の店が1000円で商品を仕入れて(手持ち現金0円になった)、2000円で販売すると帳簿上は1000円の利益。でも売掛金になってしまったので現金は入って来ず手持ち現金は0円のまま。展示会は問屋やメーカーから商品を借りて開催することが多いので、会期が終わると売れた商品の代金を支払わなければなりませんが掛売りではお客様からお金の回収ができません。

もう一つ言うと決算を迎えたら帳簿上では利益は1000円あって課税されるけれど手持ちの現金は0円。税金払われへんやん、従業員の給料も払われへんやん、という黒字倒産なんてことも起こりうるわけです。

呉服店もホストも構造は同じではありますが、ホストの場合は主な商品は接客サービスであり、酒屋に支払う金額はそれほど多くはないと聞きます(違ったらすいません。なにせホストなんてやったことないので汗)。対して呉服店は商品代金を問屋やメーカーに支払わなければならないので掛売りをやるとダメージが非常に大きいのです。

以前勤務していた店は展示会主体の店だったのですが、お客様は買いたいけどもうローンの枠がいっぱい、展示会にお手伝いに来てくれている問屋は売りたい、店も売りたいけれど

「もうこの人ローン通らへんやん、でもこのメーカーの商品は今回の展示会で全然売れてないしなぁ、少しでも売ってあげないとあかんねんけど掛売りかー、掛売りなぁ、売れたらメーカーさんに払ってあげなあかんけどキッツいなー、どうしよう、うわー、掛売りでもいいから売れよ、という目でメーカーさんこっち見てるよ、そんな目で見やんといて」

ということは多々ありました。当時私は「こんなことしてたらいつか店が破綻する」と思ってたので掛売りを撲滅しようとしており、他の従業員にも「掛売りはしないように!」なんて言ってたのでほんとギリギリの葛藤がありました。メーカーさんは店側が掛売りにしようが現金一括にしようが関係ないですから(取引先への支払いはお客様の支払い方法なんて関係ない)「掛売りでもいいやん」的なことを暗にほのめかすのですが(さすがにはっきりとは言わない)、こっちも店の財務関係を任されているので簡単に掛売りにはできません。お客様はで掛売りをしなかったら他の店で掛け買うようになるだけやで?とも言われましたがそれでももうそれ以上掛売りをするわけには行かなかったのです。

ところでこういう催事型の店で着物をよく買う方ってどんな方かご存知でしょうか。お金持ちのマダム?医者や弁護士など高給取りの職業についている方?私のイメージでは全く違います。もちろんその店の客層にもよると思いますので、私の勤務していた下町の無名の小さな店と、銀座の一等地の高級店とは違うと思いますのであくまでも「そういう事例もある」と思っていただきたいのですが、私のお客様の多くは「家が汚くて物が多い方」でした。めちゃくちゃ意外でしょ?

お金持ちのマダムは無駄遣いしないんですよ。ちゃんと計画を持って必要なものを必要なだけ買うんです。必要以上にものを買わないし、家の中も整理整頓されていて綺麗です。なので必要ないときに展示会の来場の勧誘をしても着物が必要な予定が無ければ断られることが多いです。一方、家の中に物が多い方はあまりその辺を考えておられないというかなんというか(失礼)、展示会に勧誘すればお付き合いで来てくださいますし、展示会に来て反物巻き巻きして「欲しい」と思ったら購入します。そういうのをずっと繰り返すから収納しきれず、家の中も雑然として汚く見えてしまいます。でもそういうタイプの方が上得意なんですよ。だから購入する方はどんどん購入するし、売掛がどんどん溜まっていくという図式です。

企業化されたチェーン店はおそらく売掛による商売なんてやってないでしょう。そんなことやってたら多くの従業員の給与は払えません。しかし個人商店に毛の生えたような店ですと今でもかなり多くの売掛金を抱えてどうしようか悩んでおられると風の噂で聞こえてきます。かなり以前の話になりますので、今どうなっているかわかりませんが、呉服店出身のある政治家が呉服店が売掛で首が回らなくなっている状態を目の当たりにして呉服店自身が保証人になって金融機関と組んで救済するという案をだして説明会をやっていました。当時、政治的にもなんとかしなくちゃならないというぐらいの大きな問題になっていたのは確かです。

息子への事業承継の際に年間の売上以上の売掛金が発覚して「なんだこりゃー!!」というのはよく聞く話でして、儲かってると思っていた事業が実は帳簿上で黒字になっているだけで店に全くお金がなく銀行からの借金まみれになっていながら何億もの売掛金が帳簿に残っていたり。いわば銀行から利息を払って借金をしながら顧客に何億も貸しているという状態だったりします。

跡を継いだ息子さんが新しい感覚で「掛売りは絶対禁止」と言っても長年の顧客は掛売りでの購入を期待するし、販売してる従業員も自分の成績が下がるのを嫌って今までの習慣通り掛売りにしてなかなかショッピングローンへの転換が進まないと聞きます。ついには売掛の回収ができなくて銀行への返済や商品代金の支払いができず倒産した店もあるとか…。

昭和から平成にかけてのあたりは私の感覚では売掛が払えなくなったというお客様はほぼありませんでした(払えないと言われて毎月5万の約束だったものが3万になったり、ということは多々ありました)。もしお客様が亡くなっても息子や娘さんが「お世話になりました」と残りの売掛金を持ってくるということもあったようですが、時代は流れて消費者保護という観点が浸透してきた平成中期から後期にかけてはお客様が亡くなったらご遺族からは回収できず諦める、ということが多くなっていると聞きます。そういったリスクも加味した上での掛売りなんですから仕方ないことですが…。

今でも掛売りをやっている店はできるだけ早く脱却しなければ将来大変なことになってしまうのは十分予想できます。ただ、脱却しようにもお客様にローンのお願いをするとお叱りを受けることもあり、上に書いたようにローンへの転換は想像以上に茨の道です。ですので掛売りという「麻薬」のような販売方法から脱却するためには完全に新規のお客様で売上を作っていく必要がありますが、呉服市場が右肩下がりになっている現代ではなかなかハードルが高いですね…。

悪質ホストの売掛問題とは違うところは、呉服店は別に怖いお兄さんが経営しているわけではないので身を滅ぼすような仕事をしろなどと言われることもないのですが(お客様の年齢も60代から70代だったりしますし…)、現代の感覚ではお客様、呉服店、どちらにとってもあまり健全な販売方法と言えなくなっていると思いますので、店の規模を大幅に縮小しても、掛売りなんて方法でバブルのように膨らませた売上ではなく、お客様は身の丈にあった金額のものを購入し、呉服店はお客様が気に入って結果購入していただいた商品の代金を確実にいただけるように(強引な販売は論外!)、そういった健全な商取引にしたいものですね。

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発行:新品とリサイクル着物 呉服のきくや
住所:大阪市大正区泉尾3-15-4
電話:06-6551-8022

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