一週間 九月十六日
ドイツ生活も一週間が経つ。一週間もすれば、時差ぼけもだいぶ収まる。日が沈んで起きていられるのが嬉しい。さて、今日こそインターネット接続を家でやりたい。そのために、朝十時ちょうどの開始に間に合うように学生秘書課に行った。
先ず、受付のいかにも怖そうなおばさん。人相が悪いのか、あまり並んでいなかった。
「私は入学許可が欲しい。そのための試験免除申請と学生保険の秘書課の証明、それに振り込み超過分のお金を返して欲しいからここに来た」
というと、
おばさん「ここではない。ここでできるのはあなたが試験免除申請を終えてからだ。先ずは試験免除申請を受けて来い。この上の部屋だ」
「どうせ迷ってしまうので、部屋の名前を教えてください」
「分からないわ。とにかく上」
という感じ。これは要約。この会話の間には何回もの聞きなおしや、誤解があった。上に行く。難なく免除申請を受ける。そのおばさんにも同じ質問をしてみる。前の受付の行ったことと比較し、情報の正確性を確かめるためだ。
「学生保険はここではない。あと、超過分の返済担当者は二十三日まで来ない。それを待ってくれ。その人の名前はこれだ」
というのである。一週間後にここにくるのは大変である。免除申請を手に今度は元の受付へ。免除申請をもってきた。保険の証明をくれ。というと、
「上の留学生課に行ってくれ」
といわれる。ロールプレイングゲームをやっている気分である。
留学生課通称AAA。そこのエルオマーさんが実は私の担当者。毎年千葉大生の受け入れ窓口になっているから、非常に要領を得ている。例のごとく同じ質問をする。すると、
「超過分に関しては私がやってあなたの口座に振り込んでおくわ。保険も私が提出しておきます。インターネットは学生証ができてからしか取れないから気をつけてね」
「ありがとう!!」
「入学申請の資料はすべてそろったわ。後はあなたの家に学生証を郵送するから、そのときにね」すばらしい。こんなにいい人がドイツにいるなんて。渡る世間に鬼はいないねぇ。
インターネットが学生証発行後であるというショックを引きずりながら、駅に向かい電車切符の割引カードを発行してもらう。これは最初に七千円払えば、ドイツのすべての切符が一年間半額になるという謎のカード。これは手に入れるしかない。
● メンザの実力(ドイツで飢えないすべを知る)
メンザとは学生食堂のこと。ここでは学生は格安の値段で食事にありつける。学生以外ならば五百円以上する食事、学生であることを言えば、二百円で食べられる。今日はステーキとフライドポテト、りんご、マッシュルームスープを食べた。うまいし、安い。これを利用しない手は無い。
● 空手
ドイツ語の聞き取り能力は日に日に良くなってはいるが、喋るのは下手くそなままだ。というのも、喋る情報量より、聞く情報量の方が一〇倍以上あるからだ。聞き取り能力は日本でも十分に改善することができる。しかし、喋る能力を伸ばすのは現地に行く地の利を生かさねばうまくならない。そこで、大学のドイツ語コース担当者と話すことにする。
「ドイツ語コースありますか?」
というと、一覧表をくれる。しかし、どれも一〇月中旬から。なるほど。
そして、外の掲示板の私立の語学コースを見学することにする。参加したいコースはあるが、何しろ高い。四万とか五万とか。ゲッティンゲン大学の奨学金が一気に吹っ飛んでしまう。語学習得にお金を惜しんではいけないと私のドイツ語の先生である清野先生はおっしゃっていたが、もう少し考えてみよう。
ドイツ語語学コースには先生以外ドイツ人はいない。ドイツに来たからドイツ人との知り合いを作りたい。どこにいるのか。いっそ、英語コースでも受講しようか……、ありえない。
そこで私はすばらしい語学学校を思いついた。空手コースである。ここならばドイツ人とドイツ語を話せて、友人も作れる。一芸は身を救う!
早速ドイツの高校で行われているドイツの空手教室を見学する。今日は初心者コースである。見ていて面白い。数字は日本語で数える
「いち、にい、さん……」
など。「気合,正座、黙想」などなじみの深い言葉を使っていた。終わってから指導者に
「参加したいのですが」
というと
「ここは初心者コースだからあっちの中級者コースに行くといいよ。ちなみに君の帯の色は?」
ときかれ
「黒(シュバルツ)、弐段(ツバイテグラート)」
という。そういうと
「Wahnsinnig(直訳:狂った意識)意訳:すげえ!」
といわれる。ダンケといっておく。
その後中級者の指導者の連絡先、毎日の練習予定と練習場所などを教えてもらう。楽しみである。早速明日から参加しよう。胴衣はまだ日本から届いていないので、ジャージで参加しよう。明日はとりあえず型練習である。ドイツに来て体がなまっている。少しは動かさないと、体が動かなくなりそうだ。それと、ドイツ人の友達ができる環境でもありそう。面白そうな人たちがいた。近くにいるドイツ人の女の子に
「どれくらい空手やっているの?」
と聞くと
「三年くらいだよ、でも**だったわ」
*は聞き取れず。
「あ、そう」
といっておく。
その後もう一度安いメンザに行こうとしたが、すでに閉まっている。そのために、野外レストランでピザを食べて、ビールを飲む。五百円くらいかな。チップを五十円くらいしかあげなかった。
この町の人は発音がいい。そのまま教科書のCDに出てきそうだ。私が前にいたLEIPZIGは強いザクセン訛りがあった。それが、また面白かったりもしたが。
● 中国人君
ドイツには多くの中国人がいる。今日話した中国人は上海に住む学生。彼の専攻は化学。私とドイツ語を普通に話しているのだが、よく通じる。私の出身は横浜だ(実は違うが)というと、分からない。漢字で書くと分かるのだ。その彼、なんとドイツ語暦は一年。すごすぎる。その彼が今日DSH(外国人用大学入試ドイツ語試験)を受けたのだ。信じられない。ドイツ語を何年かやり、留学してやっとDSHを取れるものなのだ。しかも、彼にとってドイツ語は専攻外。これで受かったらすごい。必死に一年間ドイツ語をやれば、なんとかなるのだなぁ、と感じた。
● ヨーグルトを食べたい
ヨーグルトが急に食べたくなり、急いでコンビニへ。しかし、開けて食べてみたら、なんと牛乳、お米、ジャムの混ざったひたすら甘いもの。これは食べられない。米を愛する日本人にとってお米と牛乳の組み合わせはありえない。第一お米を甘くするのは“おはぎ”にのみ許された権利であろう。あー、ヨーグルトが食べたい。
● 疲れて寝込む。
学生課と交渉した後、非常に体がだるくなった。疲れが出てきた。頭は重いし、ふらふらする。頭をドイツ語にして、必死に相手の話を聞き取るのは非常に頭に負担がかかるらしい。そこで、帰って寝ることに。三時間寝る。すっきり。完璧に復活した。やはり疲れたら無理せず寝ることである。