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ハノーファ大国へ 九月十八日

天気も悪くなさそうなので、今日はハノーファに行くことに。急行で三十分くらいかな。うちの実家から考えると品川に行くようなもの。ハノーファからブレーメンまで近いので帰りによってこようかな。
 最近妙な夢を見る。高校一年生のときの授業参観(高校で授業参観はありえないが)の場面や、関甲信大会前日の夢などである。
 ハノーファにはICEという急行で行くことに。受付で切符を買う。バーンカードがあるのですべて半額。一三,一〇ユーロであったので、本来ならば、片道三千円。ずいぶんする。これはまずい。うちから名古屋までいけてしまう。ドイツの急行は速い。四〇分くらいでハノーファに到着。

 ハノーファに着いて地図を買い、街に出る。人が多い。距離もさることながら、雰囲気も品川だな。ドイツに来ている気がしない。フランクフルトの町に近い。面白くない。ハノーファのオペラ場を見たり、博物館を見たり、人並みの観光をしてみた。市役所は結構すごいが、目がドイツの遺跡に慣れているのか、驚かない。ハノーファは観光用の街より、商業、機能的な面を重視した街なのであろう。観光には向かないかな。Moevenpickというコーヒーをドイツで愛用しているので、ここメーベンピックカフェで休憩。メニューを見ずに適当に
「カフェラテとサクランボのケーキをください」
 というと、
「わかりました」
 という。
さすがメーベンピック。やるぅ。注文どおり暖かいカフェラテとサクランボを焼いたケーキを持ってきてくれた。ありがとう。
 ハノーファ最後の望み、大庭園に向かうことに。地下鉄で散々迷い着く。フランス庭園なのだろう。すべての木が規則正しく植えられており、木が四角く切られている。仕切り木も規則的に並ぶ。自然を支配するという西洋的な思想丸出しである。木がかわいそう、直感的にそう思う。カッセルの宮殿の庭は木を生かしている。自然をそこに再現している自然な形だった。しかし、この庭は人工の自然である。これは日本人には理解しがたいなぁ。噴水も豪華に高いところまで上げているが、結局水という自然を支配している気分がしてならない。日本だと滝を見たいりして自然を大切にする。水は上から下に行くものだ。噴水はその逆を人工的に作り出す。下から上へ。これは共感できない。そう思ったそのとき、
「日本人ですか?」
という声が後ろから。
「はい」
という会話。日本人と話すのは久々。限りなく自由に言いたい事を表現でき、相手の言っている細かい表現を的確に理解できる相手とのコミュニケーションはとても楽で楽しい。思わず話が弾む。
彼は岐阜大学の院生で、精密機械工を専攻している。今回は学会のためにドイツに来たという。ドイツ語はダンケしか知らないとのこと。英語ですべてこなしている。ドイツの主要なところはほとんど回ったらしい。二人でハノーファの文句を言いながら、熱帯植物園へ。蛇や毒蛙、毒のある一万匹くらいいる蟻を見る。そこそこ面白い。熱帯展示とあって湿気がすごい。日本の夏を思い出す。
 結局ハノーファは大して驚きや発見は無かった。おそらく日本に若干似ている町並みと、自然を支配するような庭園作りがあまり私の心に響かなかったからであろう。期待していた分、残念。

 帰って空手に行く。道を大幅に間違えて、三十分の遅刻。日本では考えられない。主将としての空手部と仮入部の空手クラブでは少し認識が違うのかな。
 着く。今日は組み手ができると思って楽しみにしていたのに、今日も型。「平安弐段」である。聞いたことがあるがやったことが無い。見よう見真似でやってみることに。基本技はほとんど同じ。すぐにできるようになる。

◎ 平安弐段
 左に内範置の構え、抱えて鉄槌、右に構える、抱えて鉄槌、引き込んで後ろに横蹴りと裏拳、正面に後屈手刀構え、進んで手刀構え、進んで手刀構え、右手で抜き手(気合)、二七〇度回転手刀構え、四五度に構える、右一三五度回転手刀構え、右四五度手刀構え、後ろ逆内受け、前蹴り逆突き、逆内受け、前蹴り逆突き、追い諸手打ち受け、二七〇度回転下段払い、左四五度上段上げ受け、一三五度下段構え、四五度上げ受け(気合)。

 以上である。基本技の連続だけど、解釈が多くあり、角度も正確でない。おそらく実践を意識し、その場に応じて柔軟に型を対応しようとしているのであろう。大学の流派ではあまりありえない。約束組み手をやる。面白い。号令をつけてやるのと、手本を見せる、約束組み手を行う、無号令をやる、この基本はここでも変わらない。
ただ、ここの空手は武道としての空手を修める場でもなければ、参段の空手のプロを育てる場でもなさそうだ。女子もいるし、おじさんもいる。空手を通じて護身術を学び、健康でありたいと望んでいるのであろう。そんな感じが伝わってきた。
 空手が終わり、話しかけられる。耳に全神経を集中させる。聞き取れる。聞き取れないところは聞き返す。何とか会話になっている。しかし、しゃべる量はかなわない。八:一くらいであろう。情報を発信しないと会話はうまくならない。二人に話しかけられた。最悪なことに名前を忘れてしまった。もう一度後で聞かなくっちゃ。
 今日は十八時から始まったので、その後みんなで飲みに行くかと期待したけれど、ドイツ人にこの期待はしてはならない。仕事の後に同僚と飲みに行くことはない民族らしいので、残念ながら、解散に。外が暗くなっているので、どこへ行けばいいのか分からない。迷ってうろうろしていたら、
「どこがあなたの家?」
「Rosenbachwegだよ」と答える。
「どっちの道で帰るの?」
「わからない。大学の北校舎の近くに住んでいるのだけど」というと
「私のうちも近くだからついてきて」
 と案内される。彼女の名前はディアーナ。ダイアナのドイツ語読みかな。専攻は英語とスポーツ学。将来は高校の先生になりたいという。うちの近くの所に住んでいるらしい。私が農業を勉強しているというと、日本なんて人が多くて農業なんてやってないじゃない、とあまりに的確なことをいわれる。そのとおり、と答えておく。いまだに会話といえばドイツ人が私に質問し、私がそれに答える形式。会話というより、質問タイムである。質問から会話を広げようとしているのだが、私の会話力がついていかない。すぐに話題を変えなくてはならなくなる。これではだめだ。できるだけどうでもいいので、会話をつなげないと。
 久々に長くドイツ語をしゃべり、ようやくドイツ語の会話になれてきた今日この頃である。
 ちなみに明日は空手は休みである。金曜日に行くことにしよう。胴衣が早くドイツに届いてほしいのだが。

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