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ビル・ミッチェル「国債発行は"企業への福祉事業"」
投機筋にリスクのないベンチマーク(標準価格)を提供することで、彼らは一層ハイリスクな他の金融資産の価格を決めることができる。国債はベンチマークとして機能するということだ。
昨2024年12月21日、ビル・ミッチェル(ニューカッスル大学経済学教授)がMMTのポッドキャスト番組『Macro N Cheese』の第308回 「ビル・ミッチェルと考える労働者階級のMMT」に出演したところ、国債に関する発言のうち興味深かった部分の概要を以下のとおり紹介する。
<概要>
・通貨を発行する政府には資金制約がなく、債務証券である国債を売ることによって政府以外のセクターから自国の通貨を調達しなければならないという概念は馬鹿げている。
・国債発行とは政府以外のセクターにノーリスクの資産を提供すること。投機筋にリスクのないベンチマーク(標準価格)を提供することで、彼らは一層ハイリスクな他の金融資産の価格を決めることができ、また投機環境が不確実性を増したときに、安全な避難場所を提供する。また、利払いによって政府は金融資産の保有者へ収入源を提供している。
・つまり、これは単なる企業のための福祉であり、まったく不必要なものなのだ。 世界中の政府は国債の発行をやめるべきだ。
ポッドキャストのオーディオとスクリプトの全文(いずれも英語)はこちらのポストのリンク先を参照。
🎙️Why aren't working-class issues prioritized? @sdgrumbine and Bill Mitchell have answers. Listen to the latest episode! #ClassWar #NoWarButClassWarhttps://t.co/R1YCvS0nah
— Macro n Cheese Podcast #MMT (@CheeseMacro) December 21, 2024
ーー国債について、「ドル(通貨)の信認を失ったらどうするんだ?」「国債を買ってもらえなくなったら?」といった話をしょっちゅう聞く。確かに日本は自国の国債を買うのが好きだ。アメリカも米国債を買うのが好きだ。内債が他の誰かに買われないときは、世界中のほとんどすべての政府が自分たちで国債を買い上げている。ビル、MMTのレンズから見た国債の役割について教えてくれないか。
最初に理解しておくべき点は、アメリカ政府のように通貨を発行する政府には資金制約がないという考え方をいったん受け入れてしまえば、債務証券である国債を売ることによって政府以外のセクターから自国の通貨を調達しなければならないという概念は、まさしく馬鹿げているということだ。主流派の理論では、政府には資金制約があるのだから、税金で資金を調達するしかない。
本質的なポイントは、政府が支出するのに政府以外のセクターから通貨を得る必要はないということだ。これはすべてウォーレン・モズラーと私(ミッチェル)が始めたことだ。私たちは、政府が国債を発行するのを完全にやめるべきだと提唱してきた。
国債発行とは政府以外のセクターにノーリスクの資産を提供することだ。そうすることで貯蓄の一部やこれまで築いた富の一部をノーリスクの資産に留めおくことができる。
銀行や企業など、政府以外の主体が発行する金融資産にはすべてリスクがあるが、アメリカ政府を始め通貨を発行する政府が発行する債券には金融リスクや信用リスク等のリスクがない。通貨を発行する政府は常に債務の償還を賄うことができるため、債務不履行に陥るなどという合理的な見通しは立ちようがない。
そこで問題になるのは、政府が国債を発行した結果どうなるかということだ。 また価値の領域に戻ることになる。政府が国債を発行することは誰のためになるのか?答えははっきりしている。企業の利益だ。私はこれを企業への福祉事業(corporate welfare)と呼んでいる。
(訳註:corporate welfareは政府による大企業への優遇措置を指し、大衆への福祉と対置して主として批判的な意味合いで使用される。企業が従業員の福利厚生のために取り組む事業である「企業福祉」とは異なる点に注意。)
なぜそう言うかというと、金融市場の投機筋は、地域社会のための福祉にとってはなんら実質的な価値を増やさないからだ。彼らは経済界で最も非生産的なセクターである。
投機筋にリスクのないベンチマーク(標準価格)を提供することで、彼らは一層ハイリスクな他の金融資産の価格を決めることができる。国債はベンチマークとして機能するということだ。
(注:ベンチマークとは、「投資信託(ファンド)が、運用のターゲットにしている指標あるいは運用成果を検証する際に利用する指標のこと。国内株式では、日経平均株価、TOPIXが代表的なベンチマーク」(大和証券用語解説)。)
国債はまた、投機環境が不確実性を増したときに、(リターンが低かったとしても)リスクのない資産に資金を移転させることができるため、企業の投機筋にとって安全な避難場所を提供する。
つまり、これは単なる企業のための福祉であり、まったく不必要なものなのだ。 世界中の政府は国債の発行をやめるべきだ。
また、利払いによって政府は金融資産の保有者へ収入源を提供している。政府がその給付に必要とする資金が尽きることはなく、そこに疑いの余地はない。問われるべき問題はそのシステム全体から恩恵を受けるのは誰かということだ。国債発行による恩恵を受けているのは労働者クラスではない。労働者クラスはその種の資産を保有しない傾向があるからだ。
ウィリアム・ミッチェル(通称ビル・ミッチェル)は、ニューカッスル大学(オーストラリア)経済学教授で現代貨幣理論(MMT)の提唱者の一人。ニューカッスル大学研究機関「完全雇用・公正センター」(CofFEE)主任、ヘルシンキ大学(フィンランド)グローバル政治経済学客員教授、京都大学国際フェロー。 Eメール Bill.Mitchell@newcastle.edu.au