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【MMT×中国】"中国経済崩壊論 "の誤りを暴く①(ヤン・リアン ウィラメット大学教授、 2023年11月21日)

梁燕(ヤン・リアン)教授

『中国社会科学報』に論考を寄稿した。本稿では、「中国の奇跡の終焉」論の誤りを論証し、MMTに基づいたJG(就業保証)プログラムを呼びかけている。投稿した内容が大きく編集され、トリミングされたとはいえ、中国で最も権威ある学術誌が、この内容を実際に掲載したことに非常に驚いている。

ヤン・リアンのXのポスト

 11月21日、梁燕(ヤン・リアン)ウィラメット大学(米国オレゴン州)経済学主任教授は、中国の学術誌『中国社会科学報』に、「"中国経済崩壊論 "の誤りを暴く」と題して寄稿しているところ、冒頭部分を下記のとおり紹介する。(続きは別途投稿する。全4回予定。原文リンク(中国語):揭穿“中国经济终结论”)

 リアン教授は、MMT学派の経済学者で、専門は国際貿易・金融、金融マクロ経済学、(中国を中心とした地域の)開発経済学に対するポスト・ケインジアン、制度主義的アプローチ。ミズーリ大学カンザスシティ校で経済学の修士号と博士号を取得。(出典:ウィラメット大学・リアン教授のプロフィール

 リアン教授はこの寄稿で、欧米で主張される「中国経済の奇跡の終わり」という崩壊論に対し、最新の経済統計や不動産市場の動向は、むしろ中国経済が着実に回復傾向にあることを示していると反論する。他方で、中国経済の本質的な課題は構造的問題ではなく、不動産部門に代わる成長エンジンを見つけ、生産性強化への投資を拡大し、国内消費を支えることにある。リアン教授は、中国政府には経済を前進させる十分な政策手段があり、雇用創出と賃上げのインセンティブの強化、包括的な就業保証(ジョブ・ギャランティー)の導入、地方政府への財政移転が必要であると提言する。

 ちなみに提言部分は明らかにMMT的知見に即したものではあるが、全文を通じて「現代貨幣理論」「MMT」の文言は見当たらない。先のXでリアン教授が述べているように、大幅に編集された過程で削除されたのか、教授が敢えて言及しなかった可能性はある。理由は定かではないが、異端派の経済学の扱いになるところ、中国の権威ある学術誌に特有の事情があるかもしれない。


「"中国経済崩壊論 "の誤りを暴く」(ヤン・リアン ウィラメット大学教授、2023年11月21日)

 中国経済に関する欧米のメディアやシンクタンクの判断は振り子のようなもので、しばしば一方の端からもう一方の端まで急速に揺れ動く。少し前までは、専門家たちは中国の台頭と「脅威」について議論していたが、最近では「中国の奇跡の終わり」という議論も出てきている。この見方によれば、中国経済には構造的な欠陥があり、この欠陥によって中国は長期的な経済停滞へと突き進んでいる。中国の長期成長率は「発展途上国の平均水準に逆戻り」しており、以前から予測されていたような2030年頃までにアメリカを追い越す事態にはならないだろう、といった具合だ。

 こうした見方は無批判に受け入れられているわけではない。例えば、中国経済の専門家で米シンクタンク・ピーターソン国際経済研究所の上級研究員であるニコラス・R・ラーディは、これらの主張の妥当性に疑問を呈している。ラーディによれば、現在の経済パフォーマンスを根拠に循環的な下降スパイラルを予測するのは時期尚早であるか、単に間違っているという。また、『フィナンシャル・タイムズ』紙のチーフ経済コメンテーターであるマーティン・ウルフは、課題はあるものの、中国経済には膨大な人的資本や高度な科学技術をはじめ、多くの強みがあり、経済のピークアウト(終わり)を宣言するには時期尚早であると述べている。

 実際、これらの専門家は、データをもっと注意深く調べ、政治的意図に導かれなければ、中国経済についてもっと楽観的な評価を下すだろう。中国経済は着実に回復しており、長期的な見通しは依然として明るい。課題はあるものの、中国経済には大きな強みと回復力があり、中国政府には経済を前進させる十分な政策手段がある。

(②に続く。)

【MMT×中国:関連リンク】
2023/04/20
中国の地方政府債務問題について。

2022/09/03
「MMTと中国のマクロ経済政策立案に対する重要な意義」(賈根良・中国人民大学教授、2022年6月17日)

(了)

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