『輪光』　50句

『輪光』

2021年（令和3年）6月

黒百合の怒涛を連弾するピアノ

きっかけはもう要らないよ沙羅の花

入道雲のあきらめ混ぜたソフトクリーム

傷心にアマリリスの点滴を

ネムの花　重力に抗い此処に居る

朽ちたアルバムから滴り落ちる春の水

アンビバレントな恣意の実拾う秋の朝

葉末　大海原のヒカリ摘む

太陽と月見つめ合う秋暁

黄昏の秋桜に溺れ生死論

解釈はネアンデルタール人の石の中

掌のダリアの如くカオス咲く

ケセラセラ風が嗤った去年今年

裂け目から１が産まれる大旦

イヌフグリ世界が目醒め闇の涯

霜の夜は新たな輪光生み継いで

朝摘みの心にかけるサルサソース

終末の変幻自在な天気図

新次元へつながる電話ＢＯＸ

クロッカス２２世紀も恋するの

夜な夜な摘み取っている胸の熾火

影を解錠してゆく花の雨

暁の有情を揺らす花ミモザ

胸の中の蛍起こして闇に向かう

天使達の声を集める母の苺

海溝がいま呑んだのは狂気です

花桐の光（かげ）から聞こえる “ええじゃないか  ”

熟柿にナイフを入れる鬼女の朔

潔く今日を葬り石楠花散る

超自我の涯から羽ばたく帝揚羽

肉桂に雫落とした銀の月

鬼遊び。綺麗な言の葉並べるだけの

ピンクムーン闇を見つめる真珠貝

繊月から思念の花びら舞い落ちた

花鋏　暗闇のなか開花する

新月に書き換えられたオレンジ

ニルヴァナへそろそろ消えます月の虹

春の雷もがき続ける蛹の中

ラブソングを塗り替えている花曇

ラピスラズリ孵化せよ百年前の恋

鬼神のオセロを返す若葉風

鉄砲百合　春のたまごを隠し持つ

追憶の言葉が光るリラの雨

類似品の私が弾いたシャボン玉

暗澹のツバナ草原に風の貌

道草の白骨と卵　風光る

水無月の絶対的な水溜り

暗黒星雲の睡蓮ひらく６月６日

ガイアの細胞として再生する立夏

白蓮よ生まれ変わるの生きてるうちに