Official髭男dism「HELLO」 窓のアートワーク秘話(その1)
今年はあっという間に夏が終わり、すでに肌寒くなってきました。
goen°にとって今年の春から夏には、Official髭男dism「パラボラ」「Laughter」「HELLO」EPと連続で3つのアートワークを響かせる時間でした。
はじめてのプレゼン
メンバー4人との「パラボラ」「Laughter」のジャケの打ち合わせの際は、はじめてご一緒させていただくので出来る限りすべての可能性は用意していこうと思いました。
ミュージシャンの方とお仕事させていただく際は、つねに決め打ちではなく広く多く企画を持参し、話し合いながら決めていただくようにしています。
大好きなOfficial髭男dism(以下.ヒゲダン)も同様にデモの音源を幾度も繰り返し心身に響かせたり、ライブに行かせていただいたりして企画致しました。その時間は頭も心もグルグルうねるので楽しくて仕方ありません。聴きこみすぎて、聴こえなくなるくらいです。聴こえなくなる頃には、脳と身体が音と合致して、何を食べても、どこへ行っても音が流れています。そこまで来たらあとはどんどん思いつきはじめ、溢れかえってサムネイル(企画スケッチ)を描く手が追いつかなくなります。まさにプランニングハイです。(笑)
その後、言葉では説明しきれない光景、皮膚感覚、心の揺れ…沢山浮かび上がってくるその全てを素直に形にしていきます。
今回は、goen°は早くも2月26日から在宅勤務にしていたので、企画を可視化するためにデザイナーと感覚のやりとりすることが慣れず、スマホでPhotoshopを触り作ったりコラージュしたりと数多く試作しました。(日頃、同じアトリエ空間でガヤガヤみんなで試作を共有できるということは改めて感謝すべき大切な時間ですね。)
さて、なんとか「パラボラ」(22ページ)「Laughter」企画ブック(52ページ)の作成を終え、ご提案は都内某スタジオで行われました。案数の多さが不親切ではないかと懸念はしたものの、皆さんとても優しくひとつひとつ丁寧にご覧になってくださり盛り上がる時間となりました。
(✳︎企画ブックとは、撮影チームには教科書と呼ばれておりますが、goen°では毎回、企画書を製本し一冊にまとめるものです。以前、松任谷由実さんのツアーチームへのプレゼンで最多50冊手作りもありました。)
メンバーそれぞれが好みや意見をはっきりと出し合い、ある程度絞り込み、悩んだすえにスタッフの方々含め全員で「せーの」で指を差し「パラボラ」「Laughter」は決まりました。まさにヒゲダンチームの団結力の凄みを打ち合わせでも垣間見た瞬間でした。
そしてLaughter の企画で没案となった窓の案をみて藤原聡さんがまさに今レコーディングしている「HELLO」のイメージに近いと説明してくださり、楽曲が仕上がる前にジャケの方向性が決まったのです。
レコーディング中にビジュアルの方向性が決まることは、音の一部になれたようで嬉しかったです。
(パラボラ)
(Laughter/撮影秘話はまた別途書きます)
リモートで完成?!
その後、世の中は大きく変化しました。ライブはすべて中止となり、緊急事態宣言により「HELLO」の配信、発売日が見えなくなり、予定していた窓の撮影も出来る見込みがなくなりました。
発売日が見えないまま、それでも前に進みたいと思い自主的に、自宅で作れることを始めておこうと思い準備を開始しました。これまで旅して出会った窓をとにかく集め、スタッフがそれぞれの家でカットし、回収しアクリル板にコラージュしていきました。ひたすら「HELLO」を聴きながら元気をいただき、いつの日か窓を開けてまたみんなと会える日が来ることを願ってコツコツ扉を開いていきました。
そして家の窓に立てかけてスマホでテスト撮影しました。外には出れないけれど、悔しいくらいに晴れた日々でした。
「パラボラ」「Laughter」で撮影してくださった写真家 高柳悟さんに、そのオブジェを自宅まで取りに来ていただき(まさにドライブスルー)、おうちの窓で撮影していただきました。
そして写真を遠隔で確認いただき、フォントもいろいろ検証しました。ヒゲダンの皆さんはフォントのこだわりがあり、とても楽しく作業させていただきました。ちょうどその頃、発売日も決定し一気に前進することになったのです。
こうして、力を合わせつつもお互い会わずに完成しました!
そして、ありがたいことにMVも撮影することとなりました。(MVの企画秘話、撮影秘話はまた後日書きます)
https://www.youtube.com/watch?v=p1qM75a9FeE
(MVセット模型)
その後、このジャケがきっかけで本当に大きな窓を沢山作ることになったり、窓が空を飛ぶことになるとは?!
音楽を支えるアートワークを目指して
このように本業の広告と違い、ミュージシャンのアートワークは常に緊張します。これまでにご縁をいただいたミュージシャンの方々皆さんにいつも沢山の刺激と學びをいただいています。
そこに込められてる歌、ことば、演奏がすべてであることを大前提とし、それを大切に包んでお届けするお手伝いです。包むものとして出過ぎず、弱すぎず、音楽がいちばんストレートに届き残っていくもの。見ている、飾っている、棚にあるだけで音を感じるもの。
松任谷由実さんは、私にアートワークとは音楽を支える「護符」のような存在だと常に言ってくださいます。
近年、配信が当たり前の世の中になりましたが、今回のHELLO EPは、スタッフの皆さんと手触りや細やかなフォントまで丁寧に紡ぎました。また「パラボラ」「Laughter」は、配信のみでのアートワークでしたがメンバーの計らいもあり、歌詞ページににしっかりと組み込まれています。
ぜひ手に取ってご覧いただけると嬉しいです。
私は紙の匂いからも音を感じます。愛おしい記憶が宿っています。そしていつまでも残ります。
ミュージシャンの方々にとってライブでみんなと繋がる喜びを感じるように、我々デザイナーにとってはジャケがそれぞれの家に届くことは、ささやかな喜びなのです。
今回は「HELLO」EPのアートワークが出来るまででしたが、MVの企画コンテや演出、撮影などまだまだお伝えしたいことがありますので、つづきを楽しみにしててください。(10月5日更新 制作秘話その2へ)
(goen° 森本千絵)
「HELLO EP」
CD Only 品番/価格:PCCA.04961/¥1500+税
CD+DVD 品番/価格:PCCA.04960/¥3000+税
両形態ともに豪華ブック仕様
<収録曲>
M1.HELLO ※フジテレビ系『めざましテレビ』テーマソング
M2.パラボラ ※2020年「カルピスウォーター」CMソング
M3.Laughter ※映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』主題歌
M4.夏模様の猫
<CD+DVD盤 収録内容>
Official髭男dism Tour 19/20 -Hall Travelers-@パシフィコ横浜2020.02.10
1.イエスタデイ
2.Amazing
3.Rowan
4.ビンテージ
5.最後の恋煩い
6.旅は道連れ
7.Pretender
8.ラストソング
9.I LOVE...
10.宿命
Behind The Scene from Official髭男dism Tour 19/20-Hall Travelers-
【森本千絵プロフィール】
1976年青森県三沢市で産まれ、東京で育つ。
武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科を経て博報堂入社。
2007年、もっとイノチに近いデザインもしていきたいと考え
「出会いを発見する。夢をカタチにし、人をつなげる」を
モットーに株式会社goen°を設立。
現在、一児の母としてますます勢力的に活動の幅を広げている。
niko and...の菅田将暉・小松菜奈のビジュアル、
演出、SONY「make.believe」、組曲のCM企画演出、
サントリー東日本大震災復興支援CM「歌のリレー」の活動、
Canon「ミラーレスEOS M2」、
KIRIN「一番搾り 若葉香るホップ」のパッケージデザイン、
NHK大河ドラマ「江」、
朝の連続TVドラマ小説「てっぱん」のタイトルワーク、
山田洋次監督『男はつらいよ50 お帰り寅さん』や
2021年公開予定「キネマの神様」のデザイン。
広告の企画、演出、商品開発、ミュージシャンのアートワーク、
本の装丁、映画・舞台の美術や、
動物園や保育園の空間ディレクションを手がけるなど
活動は多岐に渡る。
現在、本年の二子玉川駅ライズ空間のクリスマスツリーや、
青森新空港のステンドグラス壁画を制作中。
【受賞歴】
N.Y.ADC賞、ONE SHOW、朝日広告賞、アジア太平洋広告祭、
東京ADC賞、JAGDA新人賞、SPACE SHOWER MVA、
ADCグランプリ、日経ウーマンオブザイヤー2012、
50th ACC CM FESTIVALベストアートディレクション賞、
伊丹十三賞、日本建築学会賞、など。
【著書】
「GIONGO GITAIGO J゛ISHO」
(ピエ・ブックス/2004年)
作品集「MORIMOTO CHIE Works 1999-2010 うたう作品集」
(誠文堂新光社/2010年)
ビジネス本「アイデアが生まれる、一歩手前の大事な話」
(サンマーク出版/2015年)
絵本「おはなし の は」(講談社/2015年)
絵本「母と暮せば」(講談社/2015年)