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FOMC解説:実質金利は上昇し、米10年債利回りは今後も4%越えで推移する

9月のFOMC会合は事前予想通り政策金利を据え置いたものの、6月以来に公表されたドットプロットに示された来年以降の利下げ幅の小ささがサプライズとなった。

この結果を受けて、短期的な株安とドル高は勿論のこと、私としては今後1~3年程度の米国株に対する懸念が強まった形となった。

理由としては、米短期金利は今後2,3年の利下げによって下がるだろうが、長期金利は下がる要素がリセッション以外に見当たらないからだ。

リセッションに陥らなければ長期金利は4%を越えた水準で推移し、リセッションに陥れば長期金利は低下するだろうが株式には打撃となる。

つまり、米国株、特にグロース株にとってはどちらに転んでも今後数年は難しい局面となる可能性が高いと思われる。

以下、FOMC会合を振り返りながら10年債利回りが4%を越え続けると思う点についても述べていく。

6月会合と9月会合のドットプロット


まずはサプライズとなった最新のドットプロット(金利予測分布図)を見ておこう。

上の画像の上欄が今会合発表分(Federal funds rate)で下欄が6月発表分(Jun projection)となっている。文字でもまとめておくと、

ドットプロット(内は6月会合)
2023年末:5.6%(5.6%)
2024年末:5.1%(4.6%)
2025年末:3.9%(3.4%)
2026年末:2.9%(-)
Longer-Run:2.5%(2.5%)

サプライズとなったのは来年以降の利下げ幅が従来の1.0ポイントから0.5ポイントと半分になったことだ。

利下げペースを落とし、高金利をより長く維持されることが示唆されている。

毎日のように高金利長期化というワードが飛び交っていた中ではあるが、このドットプロットは市場の予想よりもさらにタカ派に見受けられる。

ドットプロットに示された通りの動きをするならば、年内にもう1回の利上げをした後、来年に0.25ポイント×2回で合計0.5ポイント分の利下げのみ行う。そして、再来年の2025年に合計1.2ポイントの利下げを見込んでいる。

6月の会合から3ヶ月足らずで米経済の底堅さと想定以上の強さを見せる労働市場に関連する指標を受けて、利下げペースの見通しが半分になったわけだ。

高水準の政策金利が長く続けばそれだけ企業の借り入れコストや消費者のローン負担は重くのしかかる。今はまだ低金利下で借り入れしたお金が残っていても、お金が底を付く前に借換をしなければならないからだ。

あと1,2年は高金利が続くから、借換をせずに耐えようと思っていても高金利が3,4年も続けばそれだけ借換をせざるを得ない企業や人は増えてくる。昔ほど金融引締が実体経済へ効きにくくなっているとは言え、長く続けば続くほど影響が大きくなることに変わりはない。

PCEインフレ率の予測

FRBの想定利下げペースは鈍化したが、彼らがどのようなインフレ率の推移を想定して利下げペースを予測しているのかを把握しておく必要もあるだろう。

PCE(内は6月会合発表分)
2023年末:3.3%(3.2%)
2024年末:2.5%(2.5%)
2025年末:2.2%(2.1%)
2026年末:2.0%(ー)
Longer-Run:2.0%(2.0%)

コアPCE
2023年末:3.7%(3.9%)
2024年末:2.6%(2.6%)
2025年末:2.3%(2.2%)
2026年末:2.0%(ー)

インフレ率の予想は来年以降ほとんど変わっていない。総合PCE、コアPCEともに2025年を0.1ポイント上方修正したのみだ。

最近の経済指標を受けて、6月のドットプロットの政策金利推移ではこの数値に達しないので利下げペースを落とすことでこのインフレ率に収束させようということだ。

毎度ながらこのインフレ見通しに対して、毎月の経済指標がどれだけ沿って推移するか乖離するかは政策金利動向を見極める上で重要となってくるだろう。

実質金利は高くなった

ドットプロットに示されている政策金利予測はもちろんだが、経済への影響を見極めるためには実質金利を見ておく必要がある。

名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利は下記の通りだ。
※実質金利:政策金利 ー 総合PCE

実質金利(内は6月発表分)
2023年末:2.3%(2.4%)
2024年末:2.6%(2.1%)
2025年末:1.7%(1.3%)
2026年末:0.9%(-)
Longer-Run:0.5%(0.5%)

来年以降の実質金利は0.5ポイント、0.4ポイントの上昇となっている。来年以降利下げをするとは言え、6月会合からこれだけ実質金利の見通しが引き上げられていることになる。

これは8月頃から言及が増えてきた、景気を刺激も抑制もしない中立金利(自然利子率)が従来より高いのではないかという懸念を再熱させそうだ。

パウエル議長は会見で「自然利子率が高くなった可能性があるが、まだわからない」と名言は避けたものの、今回のドットプロットとインフレ率の見通しから算出した実質金利を見る限り、当局も中立金利は高くなっていると見ている可能性が高そうだ。

米10債利回りは4%を越え続ける可能性が高い

さて、こうした数字を把握したところで冒頭で述べた10年債利回りが4%を越えて推移し続ける点について話を戻す。

ドットプロットで見た通り、3年後の2026年末の政策金利予測は2.9%となっている。

政策金利動向に敏感な2年債であれば、今後数年の利下げと並行して当然ながら利回りも低下(価格は上昇)していくだろう。だから、今年後半に短期債を購入するのはリスクが低く、リターンも期待できる投資先と言える。

しかし10年債といった長期債はどうだろうか。

10年債は政策金利動向を反映する2年債の影響も受けるが、長期的な経済情勢や物価成長などを織り込んで価格が決まってくる。

PCEは2026年末に目標の2.0%に達し、その時の政策金利は2.9%、そして実質GDPは1.8%の成長を見込んでいる。

また、過去の10年債利回りは平均して米政策金利を1.35ポイント前後上回る水準で推移してきた。

さらに米政府の増発による受給悪化や10月に再度政府閉鎖が懸念されいてること、今後フィッチ以外の格付会社による格下げリスクなど、米長期金利は上昇する要因を数多く残している。

反対に長期金利が低下する要因は景気が後退するかデフレ間際まで物価が下落するか、株式が下落して債券投資の妙味が増すかだ。

今会合のデータを見た通りFRBの予想ではこうした景気後退やデフレは予測されていないのだから、こうなると長期債利回りが低下する要因は少ない。

2026年末に政策金利が2.9%まで引き下げられたとしても過去平均の2年債に対するプレミアム1.35ポイントを上乗せすると、10年債利回りは4.25%となる。

昨晩FOMC会合後に付けた4.41%という水準は16年ぶりだったが、3年後の2026年末で4.25%の利回りが妥当だとすれば短期的には10年債利回りはもっと高くてもおかしくない。

そして、長期金利がそれだけ高水準でキープされるのであれば、高PERのグロース株や不動産といった先行投資が必要な業種はダメージを被る確率が高くなる。

最近くどい程書いているが、やはり直近で米国グロース株に投資をするリスクはあまりにも高く、メリットがあまりない。

今後数年の為替リスクも考えると日本のバリュー株にしばらくは投資するのが賢明だろう。


サポートを頂くことがありましたら、主に投資資金としてありがたく頂戴しますm(_ _)m