2023年のご挨拶
以前にも申しましたが私奴、日がな一日、朝から晩まで仏頂面してゴロゴロしながら本や漫画を読んでいたい。そんな感謝知らずの人間ですが、今年もどうぞよろしくお願いいたします。
つらつら椿/石川早苗
巨勢山の つらつら椿
つらつらに
見つつ偲はな 巨勢の春野を*
春に逢ったあなたと
柔らかい陽の降る野辺の径
椿の下を歩いた
ほのかに光る銀の蕾
紅く零れてひらいていく
冬はいろいろ厳しくて
昨日は昨日で後悔することばかり
でも
春が来れば私は咲く
誰がいても一人でも
勝手に咲くから見ていて
そう言ったのは
椿か あなたか
やりかけていること
夢中になっていることを
つらつら 互いに話して
風が冷たくなってきたので
じゃあまたね
と手を振って別れて もう
何度目かの春
眼下に春の野
どこまでも 椿
*万葉集一ノ五四、坂門人足(さかとのひとたり)作。大宝元年(701)九月、太上天皇(持統)の紀伊行幸に従駕し、大和国巨勢で歌を詠んでいる。つまり、椿の時期からは外れている。春を思い浮かべる歌であり、また土地の精霊の加護を受けて旅の無事を祈る「土地誉め」の歌でもあるらしい。
*つらつら…列列。並んで連なって。じっくり。言葉を繰り返すことで椿の神聖な力を高めたり、いただいたりしたらしい。