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エッセイ「加減のこと」/詩と朗読 poetry night 第92夜

 最近とみにいい加減だ。優しい人が「良い加減で良い塩梅だよね」と言ってくださるのだが、言われた私は少しもぞもぞする。その人の思っているよりずっとぐうたらな日々を送っているからだ。10年前には予想もつかなかったことだ。
 生まれたからには何かを成さねばならぬ。夢を実現させねばならぬ。妻として嫁として務めを果たさねばならぬ。仕事をして税金を納めなければならぬ。規則正しく生活し、毎日を丁寧に有意義に過ごさねばならぬ。
 あるとき、私はバーン・アウトした。いろいろな人に迷惑をかけた挙げ句、目に見えない刷り込みが私の力を奪っていたことを知った。またそれを強要しているのが、他ならぬ自分であることも。 
 しかし、それらを外すのは簡単ではなかった。頑張る自分が好きだったからだ。
 そんなとき、私の身体が私を救ってくれた。あちこちイカれて手術を繰り返したのである。その度にいったんゼロになり、一から始める日々。出来なくなった「~ねばならぬ」をどんどん手放していった。筋力も体力も財力もなくなった私には、好きなことをする微力と端金しか残らなかったのだ。
 良い塩梅かどうかわからない。出来なくなったことを想って悔しがることもままあるが、いつか、最期には「ああ楽しかった」と言って逝けるのではないかと思っている。


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