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脳MCA領域の広範梗塞患者様の急性期PTリハビリ
はじめまして。
私は都内某回復期リハビリテーション病院に勤務して13年になる理学療法士です。
その前に、元々は整形外科クリニックのリハ室で5年経験をしてきました。
クリニックとは街のお医者さん的な役割もあるため、整形外科医院でも脳血管障害(以下CVA)の患者も多くご来院されます。
そこで、日々の業務の中でCVA患者へ自分が提供できるリハビリに限界を感じ、リハビリ専門病院への転職を考えていました。
また、日々の業務内で学ぶ事の他、その頃のモチベーションは非常に高く、修行できる環境に身を置く事を強く切望していました。
当時から、CVAのリハビリテーション治療で有名なボバースアプローチという概念があんですが、ちょっとしたご縁で、ある病院でボバースの研修を受けられる事になります。
いや、実はかなり強引にお引き受け頂だいたのです(^◇^;)が、その節は本当にお世話になりました。
そこは中枢神経リハの研究、勉強会が頻繁に行われるコアな土地柄で、かなりストイックに研修制度などを取り入れています。
10年前に私はでの研修で、沢山の奇跡的な治療を目の当たりにしていつも興奮しながら学ばせて頂きました。
このボバースアプローチとは、治療の方法や、手技を覚えるものではなく、ボバース概念と呼ばれ、CVA患者の脳内から身体に起こっている現象やシステムについて理解する事を前提に、いかに効率的な改善を促して、最適な治療メソッドを構築していく事を思考する、その姿勢なのだと私は解釈している。
よって、同じような評価と目標を持って患者に介入しようとするセラピスト達も、彼ら彼女ら独自のボバーステクニックを持っている。研修などから得たものも然りであるが、自らの臨床経験から引き出しを増やし、自分なりに体系付けたアプローチになっていくのだと思われる。
そこで、今回
私が担当する急性期CVA患者への介入を通して、私なりのアプローチのご紹介と、回復過程を追ってそのマインド、概念をお伝えしていこうと思います。
リハビリ治療には正解がいくつも存在する、いや正解なんかないのかもしれません。ただ、我々の経験が患者の利益となるよう精一杯の惜しみない努力とそれに伴う技術の提供が出来ている事を切に願います。
以上、自己紹介を終わります。
この度、中大脳動脈(MCA)領域に広範な心源性梗塞を発症し、覚醒不良(JCSII-30)、嘔吐、失語、右上下肢弛緩性麻痺、感覚脱失を呈した急性期80代女性を担当することになった為、理学療法による回復変化とそれに伴う考察を記してみる。
まず意識は朦朧状態であり、覚醒度はJCS II-20(大声でかろうじて開眼)、
酸素マスク装着、バルーンカテーテル挿入、もちろん食事は摂れず点滴中の、ガッツリ医療的処置真っ最中の状況。
私の職場は回復期といって、本来ならば医療処置を終えて在宅復帰目的にリハビリを行う病院である。
しかし、たまにこのようなバリバリ急性期の患者様もご入院されるのだ。
さて、担当になったからには精一杯の介入をしたい。何からははじめようか…
まずはDr.に指示をもらうのだが、現状では医師による制限が、我々のセラピー限界を決定する。
◯ベッドアップ30°まで
◯関節拘縮の防止
◯覚醒向上
これが現時点での我々へのオーダーである。この制限内であれば我々理学療法士(以下PT)に治療方法は完全に委託されるのだ。
まず急性期脳梗塞では血圧がかなり高値となり、安静臥床時でもBP200台/100台、心拍数150といった感じはザラである。
これは、脳内障害に対する回復を促す目的に血流を上げる為の大切な反応である。
障害者に対し重力に抗した身体活動能力の再獲得と、在宅生活への復帰を期待し、それを援助するのが我々PTの役割だ。
一刻も早く抗重力姿位への対応を促すtherapyを施行したい。
なぜなら、脳血管疾患の回復が最も進むのは発症直後から5ヶ月間。
それも日を追う毎にその勢いが低下していく為、リスクが高いからといって患者に何の刺激も入れず寝かしたままでいる安静時間が、その予後に大きな影響を残す事になる。
しかし、まず第一に必要なのは、
以下に示すリスク管理だ。
急性期脳梗塞は上記で示したように脳内血流、圧の上昇している時期である為、医師は30°まではPTの行うギャッジアップ(頭部挙上ex.)に対し責任を負って治療を任せてくれていると言える。
麻痺に対する治療においても、抗重力の刺激が必要となるが、現状ではベッドサイド、いやベッド上での再梗塞リスクに配慮した介入が必須である。
右の上下肢は完全なるFlaccid(弛緩)状態。DTR(深部腱反射)消失、疼痛刺激への(逃避)反応なし。
全く動かず、全くの無感覚という状態が疑われた。
急性期における重度片麻痺には頻繁に診られる症状である。
麻痺の回復過程にはマイルストーンがあるが、その予後予測には年齢、初期評価時の随意性、また分離運動の程度の影響を含めた指標から、多くの研究、エビデンスが存在する。
80代、現状で完全弛緩性麻痺、感覚脱失、意識レベルも低く、バイタルも不安定…
教科書的な予後予測として、歩行能力の再獲得は難しい。
しかし、関わるなら最善を尽くしたいし、少しでも可能性がある以上、歩行可能なレベルを目指して介入していきたいと考える。
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まずはplacing(滞空)にて筋緊張の評価と同時進行で治療も進めていく。
モールディングにより深部感覚から求心性に大脳の感覚領域へアクセスする。
母指球や腕橈骨筋をモールドし上肢をリフトする事で、皮膚や筋、関節の受容器からの変動情報は必ず脳に届く。
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肩甲骨のプロトラクト(前方突出)姿位をセラピストの膝で固定し、菱形筋にはある程度のテンションを保ち、肩甲帯のstabirityの担保がなされている事も、脳に情報として伝えていく。
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※肩甲骨のプロトラクションをセラピストの足背で保持している。
次にテンションをかけた菱形筋からの筋連結を利用し、上腕三頭筋にquick stretchをかけ皮質下の反応を引き出していきます。
これは、いわゆる伸張反射を誘発していき、神経ー筋の繋がり、交互の反応を再構築していく手技とも言えます。
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少し深部反応が出てきたら、次に表在の感覚も付加していく。
手指と顔面の感覚神経は脳内でかなり広くマッピングされている事は良く知られる事実です。
これを活用して手掌を額に当てて髪を梳かすような動作をセラピストが誘導し、触れた感覚が上肢の各関節の(他動)運動と脳内で統合されていくのを促していきます。
もちろん、弛緩している肩は脱臼するリスクが高い為、充分な配慮を怠らず反応をモニターする事に集中しなくてはなりません。
冒頭に記したように手掌の感覚は現状脱失されていると推測されますが、顔面〜側頭部の感覚は活きているので、患者としては何かが顔に触ってる、擦れてると思っているだけかもしれません。
しかしそこで、上肢各関節の姿勢、関節角度、筋、皮膚の伸縮など、移りゆく各受容器のセンサーがその動作と、顔面を擦る(られる)感覚とを、脳内の膨大な感覚受容システムに刺激を送り続ける事となり、CVAの一番の回復時期に、それらが織り成す適切な情報の提供、反応を引き出す手掛かりや材料を与える治療行為となり得る。
血圧、SAT(血中酸素濃度)が30°頭部挙上でも大きく変動なく、またはすぐに回復するのを確認できたら、Dr.に進言して端坐位から離床環境への治療を許可してもらう。
起き上がり動作練習より先に、端坐位まで全介助でセッティング。
起き上がり動作はレベルの高い項目なのでまだその時期ではない。
まずは重力への適応が先である。
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麻痺側への崩れが著明に認められる。
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当然ながら、まだ自力では坐位を保持する事は出来ません。ここで脊柱には鉛直な重力負荷を与えると共に、内耳(前庭)神経にも重力に抗した空間定位の感覚が入ります。
分かりやすく言うと、臥位から坐位への姿勢移行は、2次元から3次元への大きな感覚的な変化を脳は受容する事になる。
抗重力刺激を積み上げ、反応を引き出すと共にセラピストは自身の身体を通してそれをモニターしていく。
体幹はゆるく、また麻痺側上肢の重みで容易に右方向へ崩れていく。
この重力に従った状態を利用して、
右手掌を座面に適切に設定し、手、肘、肩の関節に連動した関節圧迫を加えるようにすると、姿勢を保つためのコアマッスルにも刺激が入り、反応を誘発する事に繋がる。
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この時、肩関節のルーズニングには充分な配慮、注意が必須。
覚醒が少し上がってきたタイミングで下肢へのアプローチも同時進行で施行していく。
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麻痺側下肢の膝を立てて
※裾から出ているのはバルーンカテーテル。
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非麻痺則下肢の挙上運動を指示する。
狙いは
mobirity(非麻痺側) on stabirity(麻痺側)の反応関係を活用する事。
要するに麻痺側下肢の内側皮質脊髄路系の活動を賦活すべく、非麻痺側下肢の抗重力随意運動の反復、積み上げを行なっていく。
麻痺側下肢の膝立て位が崩れないようセラピストがサポート。臀部を触診し収縮の有無をモニターする。
バイタルは安定し、ベッドサイドにて麻痺側への感覚入力と、体幹の坐位保持反応が見られてきたタイミングで、離床を促す。
そう車椅子への移乗、座位保持練習を兼ねた離床です。また、ずっと自室ベッド上の天井とカーテンのみの静的な風景から、他者との触れ合いや周囲の動きある環境へ移行し、身体的、精神的な日常刺激を受け入れていく事で脳内活動を更に賦活していく。
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ベッドサイドでの端坐位練習により、座位姿勢の崩れもなくしっかり保持可能となっている。
更に高いレベルへ、間髪入れず進んでいきます。
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さあ、起立、立位保持練習を指示してみると自ら準備する態度が現れました。
立ち上がり動作も高度な活動であり、現時点では立位保持練習が精一杯なレベル。全介助で起立を促し、麻痺側の膝、股関節の伸展はセラピストがサポートし、まずは重力に抗した立位姿勢を保持して足底から頭までの多くある関節受容器への負荷を与えていく。
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※治療と並行して撮影している為、非常に見にくいアングルで申し訳ないのですが、セラピストの膝で、麻痺側の膝折れを防いで、ロッキングしております。
座位では常時うなだれておられるこちらの患者様も、立位を設定したら前方を注視できている。
環境設定も含めて、視線を前方に向けるように配慮する事で自然に体幹の伸展反応が現れ、介助量が軽減する。
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さて、最終的にこの患者様はどこまで回復したのでしょうか?
それでは👇の動画で一連の回復過程をご閲覧下さい😌
撮影、投稿にご同意頂いた患者様に感謝致します!
そして皆様、
最後までご視聴頂きありがとうございました。
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