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映画「アナザーラウンド」感想

お酒が好きです。


このご時世、酒の席を設けることは出来ませんが、気心知れた人たち酒を酌み交わすのは非常に楽しい時間だと思っていますし、もちろん一人でじっくり飲むのも酒と一対一で向き合っている感覚がして良いものです。
つまり私は酒というものに対して比較的ポジティブな気持ちを抱いているのです。が、みなさんご存じのとおり酒には失敗がつきものというのもまた事実です。
少量の飲酒であれば少し饒舌になったりリラックスするくらいのものですが、量が増えていくほど判断力を鈍らせ足り感情のコントロールに支障をきたします。
ところがこの少量の飲酒のメリットに着目し、「人間の血中アルコール濃度を一定に保てばよいのでは?」とひらめいた男がいました。ノルウェー人哲学者のスコルドゥールです。
結果が見え透いた、馬鹿げた仮説だと思われるかもしれません。しかしこの仮説が本当かもしれないと自ら被験者となった4人の男たちがいました。

というわけで哲学者の仮説を実証する4人の教師の奮闘を描いた映画「アナザーラウンド」、感想記事です。

※このnoteはネタバレを含みます。

ざっくりあらすじ


マッツ演じる冴えない高校教師とその同僚3人は、ノルウェー人哲学者の理論を証明するため、仕事中にある一定量の酒を飲み、常に酔った状態を保つというとんでもない実験に取り組む。すると、これまで惰性でやり過ごしていた授業も活気に満ち、生徒たちとの関係性も良好になっていく。同僚たちもゆっくりと確実に人生が良い方向に向かっていくのだが、実験が進むにつれだんだんと制御不能になり…。
(公式サイトより引用)


個人的見どころシーン(ネタバレ)


学生たちの国歌練習
デンマーク国歌を初めて聴きました。美しいので是非堪能してほしい。
・背景がめちゃくちゃ綺麗
撮影はデンマークなんですかね?空のコントラストが綺麗なのでそっちも見てほしいです。
ラスト、マッツ・ミケルセンが踊るぞ!!!
そこそこ長い尺です。ありがとう世界。

色々(ネタバレ)

継続してアルコールを摂取していたらだんだん量が増えていくし、コンスタントな過剰摂取の行きつく先は依存症だろ、というのはいい年した大人なら実験するまでもなく分かりそうなものですが、飲み慣れているからこその「自分たちは飲酒をコントロール出来る」という慢心につながるのかな…と思いました。
現実でもそうですが「自分は大丈夫」という根拠のない自信が一番怖くて、失敗した時の惨状は他とは比べ物にならないんですよね。(あくまで個人の見解)

マーティンたちの失敗の原因は慢心だけでなく、「友人たちと集団で行った」という点も大きいです。
中盤、実験が順調に結果を出していることを踏まえて「血中アルコール濃度0.05%」という縛りを撤廃して飲酒量の上限解放を行うのですが、家族との時間を大事にしたいと思うようになったマーティンは実験から一度降りようとします。ただ友人たちが飲む姿と飲んだことのない酒への好奇心という二つの誘惑でやはりまた飲んでしまいます。そして泥酔しまくって4人とも醜態を晒すことに。(詳しくは映画見てください)
マーティンは序盤の誕生日会のシーンでも場に流されて飲酒しているので、誘惑に負けるのはこれが初めてではないのですが、そもそも彼一人ならどちらの場面でも飲んではないと思います。
自分だけではない、仲間といる安心感というのは酒と同じくらい判断力を鈍らせますね。

物語終盤、泥酔して帰宅したマーティンと妻アニカが喧嘩をして別居してしまうんですが、友人たちと食事をするマーティンのもとに「寂しい(ヨリを戻したいという趣旨かな)」というメッセージがアニカから送られてきます。
最初は肯定的な返事をするマーティン、やり取りの最中に卒業生たちがパレードをしているのを見かけ合流し、酒盛りに参加して踊りだしてしまいます。
「いやお前早く妻のところ行けよ!???」と思わずにいられなかった。
マーティンにはキルケゴールが必要だったと思うな…。

「酒は飲んでも飲まれるな」、この映画以上の使いどころあります?私は知りません。


ここまで酒飲みサイドでありつつ飲酒に少し否定的なことも書いてきましたが、飲まれるのもまたその人の自由ですので!!!
作中で描かれているように飲酒で得るものもあれば失うものもあります。その収支がプラスに転ぶかマイナスに転じるかは未知数です。酩酊して海に転落したトミーはおそらくサッカーチームの少年の心には「志半ばで死んでしまった、厳しくも懸命なコーチ」として傷跡にも似た残り方をするでしょうし、妻と和解したニコライだって「乳幼児の子供を抱えた時期に酩酊して失敗をした男」という事実は消えないのでおそらく将来夫婦喧嘩をしたとき間違いなく蒸し返されるだろうし。

自由に自分なりの酒との付き合い方をすればいいんじゃないかな。その時家族を、友人を、その場の空気を、いったい何を優先して何を蔑ろにするのか、これはまあべろべろに酔ってたら考えられないでしょうね……

長々書きましたが、一番言いたいのは「めちゃくちゃ面白かったので是非観てください。」

「酒の失敗」という誰にでも起こりうるものだからこそ、怖くてそれでいて楽しそうで、なんとも言えない気持ちになる作品でした。

本日は以上です。二回目見たら新たに思う事もあるかもしれないので何かあったら追記します。
2021.09.04 まど

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