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麻雀プロの死にかけた話

新輝戦、あの巡目ならば手替わり待つもあったかなー、いやぁでも通過者どうしでタッグ組まれちゃうからリーチ宣言するしかなかったかなー、と前日の振り返りをしていると、両国に着いた。
 

これからは赤ナシが打てる。
 
ただただそれが嬉しかった。
 

11時。とりあえずラーメン屋に入っておくか。


味噌ラーメン専門店。
 

いらっしゃいませー。
 
昼間の開店直後のお店、そこまで混んでいるわけでもなく、カウンターに通された。
 

・・・ん?

 
どうしました?
 

・・・座れないっすw
 
何かがおかしい。そう感じたが照れ隠しのように店員に伝えた。
 

あれ?そうですか。テーブル席空いているので、テーブル席でも良いですよ。
 

あ、はい。
 

・・・あれ?


・・・あれあれ?
 

どうしました?
 

・・・す、座れないっす。

 
座れないのだ。目的の場所に座ることができない。

お店の方が冷たい水と常温の水を出してくれたが、これも掴めない。
 
 
救急車呼びましょうか?寝てても良いですよ?
 
 
 
こんなことは初めてだ。下から上にグアングアンとなる天井を見ながら、寝転がった。
 

きゅ、救急車を呼ぼう・・・。
 
お店の人が「救急車」という単語を言ってくれたからこそ、その思考回路に至ることができた。
 
もし家で寝ていたり、リーグ戦のために外出していたりしたら、自分で救急車を呼ぶということができたか分からない。
 
最も、駅のホームで電車は来るタイミングでフラついていた可能性を思うとゾッとする。
 
住所を伝え、こと細かに現状を伝える。

元気なうちに伝えるべきことは全て伝えておかなければならない。
 
 
 
数分後、救急隊が来る。
 
ストレッチャーまで歩けますか?
 

答えようとすると、ものすごい吐き気を催す。
 
吐くと、天井がよりグアングアンと動く。
 

・・・すいません、すいません。
 
待つ救急隊をよそに、謝り通した。


まぶしい日差しを浴びながら目をつむって救急車にのり、病院に向かった。
 
病院は奇跡的にすぐに見つかりすぐに向かったらしい。
 
 
 
病院では、吐き気と戦っていた。
 
何度も何度も血圧を測り、吐いたら片付けてくれる。
 

どれだけ計測をするんだよ・・・。
 
正直なところそう思った。

 
今の点滴が終わったら帰りましょうか。

 
・・・え?
 
起き上がると吐き気を催してしまう。帰れないと思った。
 

CT測りますか?
 

遅いだろ・・・。
 
救急車にのってから5時間だった。


CTを取り終わった後、ストレッチャーの近くに兄と母が来ていた。
 
後から聞いた話だと、呼んですぐきていたらしい。
 
救急車を呼んだ後に母にLINEしたのが次の様子だ。

テンパっていて何を言っているか分からない。


兄と母の姿を見て、安心して吐き気がこみ上げた。
 
心配する母と兄を背に、無自覚に体が揺れる。
 
普通の症状だとは言えないだろう。



CTを見た担当医が、ようやく一言述べてくれた。
 

「 残 念 な が ら 」
 
 
終わったと思った。
 

だいたい人が死ぬときに使う言葉である。
 
これが、自分に使われたということはそういうことなのだろう。


麻雀プロ。

A1リーガーとは元々戦えるとは思っていなく、A2リーガーとは半分くらいB2リーグで戦った。
 
竹内元太カップというものも今年タイトルを取り、講師業や監督業というやりたいこともできた。本も出すことができた。
 
麻雀プロとして、やりたいことはできたと思う。
 
 
仕事。

んー、引き継ぎが完全には終わっていない。
 
画像処理PRGとかエクセルマクロをいじる部分は自分しかやっていなかったので、これはやっておかないとまずかった。
 
突如死ぬこともあるんだよなぁ。これは参った。
 
 
プライベート。

結婚はほとんど考えていないが、甥っ子・姪っ子をもう1回抱っこしておきたかった。
 
それだけが悔いだと思った。
 
 
 
「残念ながら」
 

「小脳が脳梗塞となっております」


母は泣いていた。
 
そりゃあそうだ。齢36才の息子が突然亡くなるとなったら、それはいたたまれないだろう。
 
悲しみを抱えながら残りの人生を生きなければいけないこととなってしまう。
 
 


ここから先はあまり覚えていない。
 
初動が遅かったので、手術も遅いだろうと思っていた。
 
その間に、どんどん状況が悪くなったらどうしよう。
 
まぁそれも仕方ないか。。。


2日目の朝、看護師に聞いた。
 
あの・・・手術はいつになりますでしょうか?
 

あー、手術なしでいけると思いますよ。
 
・・・マジ???
 
 
これはあとから聞いた話なのだが、1日目の夜中が天王山だったらしい。
 
小脳につながる血管が一つやられたらしいのだが、
 
外側ではなく内側にやられたとのこと。したがって、脳出血ではなかったというのだ。
 
そして、それに伴い、かさぶたのようなものができるらしいのだが、
 
それが大きく広がると即死だったらしい。
 
これが広がらなかったため、即死には至らなかったようだ。


手足のしびれはありますか?
 
ありません。
 
言語障害などありますか?
 
ありません。
 
 
そう、障害が全くないのだ。不幸中の幸いである。
 

 
脳梗塞の原因ですが・・・
 
はい。
 

分かりません。
 
・・・え?
 

生活習慣病による肥満とか運動不足が祟ったわけではなく、交通事故のように今回の脳梗塞になったらしい。
 
したがって、再発の危険性はないらしい。
 

じゃあなんでなってん。。。


配牌が良ければツモが悪く、しかし局参加率が上がって放銃する。
 
配牌が悪ければツモが良く、とはいえ局参加率は上がらず放銃しない。
 
 
何がツイていて何がツイていないのかよく分からないが、死ななかったということを見ればツイていたと言えるだろうか。


では、何もないのか。
 
残念ながら、いいえだ。
 

ここからが厄介なのだが、まず小脳というのは三半規管のようなもので、それに不備が生まれたのである。
 
そのため、簡単に言うと、椅子をグルグルグルグルと何回もまわされた挙句、はい!歩け!と言われているような感覚である。
 
簡単には歩けないのである。
 
もう少し細かいことを言うと、仕事をすると凄く疲れてしまう。

これは参った。


麻雀放送を見て、見せ牌を見ると、
 
手牌触りすぎなんだよ、見せ牌するに決まっているじゃん・・・とか、
 
椅子が低すぎなんだよ、モーション下がって見せ牌するに決まっているじゃん・・・とか、散々イラついていたわけだが、
 
今度は自分が見せ牌をする人間になってしまった。
 
いや、もしかすると、座れば大丈夫かもしれないが、座らないと分からない。
 
疲れもどんなもんか分からない。
 
いよいよ立会人を呼ばれる側の人間になったら嫌だな・・・。
 
まだ死ななかっただけよかったのか。リハビリを何とか頑張りたいと思う。


今後は、まずは疲れとの戦い。これがどんなものか。
 
幸い、仕事はほとんどデスクワークなので、指先さえ使えれば大体大丈夫。
 
趣味もお笑いと麻雀くらいだが、指先が使えれば大丈夫だろう。
 
 
そしてこれは一番に伝えておきたいが、
 
もっと麻雀を打っておけばよかったと1ミリも思わなかった。
  
これが本当に良かった。
 
 
麻雀の理不尽さと面白いところ、自分の強みと弱い部分、麻雀プロとしてやりたかったこと、
 
これらをおおよそ知って、大体やり切っていたからよかった。
 

もし今日麻雀を打ちたい、ネット麻雀をやりたい、リーグ戦・勉強会で学びたいと思う人は、目いっぱいやった方が良いだろう。
 
もしかすると明日突然死ぬかもしれない。
 
その時に悔いが残らぬように目いっぱい麻雀を楽しんでもらいたい。


最後に、いろいろ動いてくれた兄、長男に心から感謝の意を述べたい。
 
学生時代の同級生に連絡をとってセカンドオピニオンをしてもらったり、
 
仕事の調整や病院からの連絡をこと細かに動いてもらったりした。
 
奥さんも初日はイライラするほど私の状態を気にしてくれていたらしい。


母にももちろん感謝である。
 
これからも迷惑はかけ続けるが、何とか回復したいと思う。
 
 36の息子がこれですいませんねぇ。。。



また麻雀を打てるようになったら、お手合わせお願いしたい。
 
とりあえず死ななくて良かった。

ツイた。。。


竹書房さん漫画化しても良いですよー、なんちゃって。
(このあと有料にしようかと思ったけどいいや。神尾の存在を広めてください)

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