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「九份の夜に消えたギタリスト」~音楽家としての覚醒と救出作戦


第1話

第2話


第3話

第4話 音楽家としての覚醒と救出作戦


暗闇の中での悲しげな旋律と再会


サオリは緊張感漂う中で、富裕なアートディーラーとして影の組織「紅龍」に接触する計画を実行した。彼女の音楽的才能が企業の目に留まり、プロモーション契約でスポーツカーを手に入れた。

さらに、アートディーラーとして「紅龍」のロンと接触し、取引を試みる。ロンは彼女の裏の目的を疑いつつも、試す価値があると判断し、交渉が進んでいた。

サオリは冷静を保ちながら、彼に従い怪しげな道を車で通過しながら、今後の計画のあらゆるリスク対策を、頭の中でシュミレーションしていた。

「絶対に失敗は許されない。」
その決意には、これまでの音楽人生全てを賭けた秘策がよぎっていた。

しばらくすると、彼女は台北郊外の人里離れた山荘に連れて行かれた。山荘は豪華でありながら、不気味な雰囲気が漂っていた。高い壁が周囲を囲み、いたるところに監視カメラが設置されている。


「ここが、アーティストを囲っている場所だ。」ロンは冷たく言い放ち、サオリを案内した。

山荘の中に入ると、サオリの目の前に広がったのは、無表情で演奏するアーティストたちの光景だった。彼らの顔には疲れがにじみ、自由を奪われた者たちの無力感が漂っていた。だが、その中に、サオリが探し求めていたウェイの姿があった。

ウェイのギターからは、かつての情熱的な演奏とは違い、どこか哀しげで冷たい音色が響いていた。サオリは心を締めつけられる思いだったが、顔には一切それを表さず、毅然とした態度で彼に近づいた。

「こいつが、一番の稼ぎ頭のアーティストだ。」ロンが紹介する。


サオリは、慎重に言葉を選びながらウェイに話しかけた。
「ウェイさん、久しぶりですね。あなたの音楽をずっと聴きたかったの。」

ウェイは一瞬だけサオリを見つめたが、その目には驚きが浮かんでいた。しかし、すぐに彼は演奏を続けたまま、低い声で答えた。

「こんなところで何をしているんだ?」

「あなたを助けに来たの。ここを脱出するための計画がある。」サオリは小声で続けた。「でも、今は演奏に集中して。皆の注意を引かないように。」

ウェイは一瞬ためらったが、サオリの真剣な表情を見て決意したように頷いた。

音楽と数式を融合した脱出計画


その夜、サオリとウェイは大胆な計画を立てた。彼女の音楽的才能とウェイの音響技術の知識を組み合わせ、演奏にフーリエ変換技術を応用した音波でセキュリティシステムを無効化する作戦だった。

フーリエ変換は、音楽に含まれる複雑な音を個々の周波数成分に分解する技術だ。これにより、楽曲の特定の音の高さや強さを分析でき、音の可視化やエフェクト処理、デジタル音楽の加工などに活用されている。

ウェイはセキュリティシステムの音波パターンを解析し、サオリがその周波数に干渉する音を演奏できるよう、特定の周波数を導き出した。

翌日の演奏会は、静かな緊張感に包まれていた。サオリとウェイは計画通りに曲を演奏し始めた。

彼女の指がギターの弦を弾くたび、ホールに音が響き、その音波が微妙にセキュリティシステムに干渉を起こしていた。ウェイの計算した通り、音楽の周波数がセキュリティパルスを覆い隠し、モニターには不規則なノイズが走った。

警備員たちは不自然さに気づき始めたが、すでにシステムは混乱し、状況を把握できない状態だった。

「この野郎、ハメやがったな!」

ロンの目は憎悪に燃え、冷酷さをむき出しにして、サオリの背後に襲いかかった。サオリを捕らえ、ウェイもろとも屈服させるつもりで全力で体当たりをした。

だが、サオリが一瞬ふらついた隙に、ウェイが素早く動き、華奢な体からは想像できない速度で、ロンに向かって拳を繰り出す。その一撃は正確で、ロンは思わず体を捻って受け流したが、動揺は隠せない。顔には焦りが浮かんだが、その内に燃える残虐さはさらに強まった。


「お前ごときが俺に勝てると思ってるのか?」

ロンは嘲笑しながら、ウェイに向かって再び襲いかかる。だがウェイは冷静だった。ロンの攻撃をかわし、逆に彼の力を利用して床に叩きつけた。その瞬間、ロンの目は怒りと屈辱で歪むが、見事に急所を突かれ、意識が朦朧としていた。

「今よ!」

サオリは小さな合図を送り、二人は演奏の余韻がホールに残る中、静かにステージを離れた。セキュリティが完全に無効化され、混乱の中で他のアーティストたちと共に自由への扉が開かれた。

「急いで!」サオリは叫んだ。ウェイは彼女の手を取り、全力で走った。




彼らは高い壁を乗り越え、自由を取り戻すことができた。脱出の成功を確信した瞬間、ウェイはサオリに感謝の眼差しを向けた。


「君がいなかったら、今もあの場所に囚われたままだった。ありがとう、サオリ。」ウェイは息を切らしながら言った。

サオリは笑顔を浮かべ、そっと彼の手を握り返した。「これで終わりじゃないわ。まだ、この『紅龍』を暴くためにやるべきことがある。でも、まずは安全な場所に行きましょう。」

二人は夜明け前の静かな街へと足を向けた。

そこには、まだウェイに対する謎めいた能力に疑心暗鬼になりながらも、サオリは、今はただ無事に脱出できたことに安堵していた。


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