地域に根差した地酒屋の魅力について
気温が急に下がって、どんよりした天気の日が続いています。
過ごしやすい気候ではありますが、そのぶん風邪もひきやすいと思っています。
体調管理には気をつけたいところですね。
お酒のご紹介です。
屋守(おくのかみ)
東京都東村山市にあります豊島屋酒造株式会社。
初代豊島屋十右衛門が神田鎌倉河岸で醸造業を始めたのは1596年とのことですから、酒造としては非常に長い歴史を誇ります。
豊島屋酒造では積極的なイベント活動、酒蔵見学などを行っていて、非常に開かれた蔵という印象を持っています。
代表銘柄は「金婚(きんこん)」、「屋守」。
飲んでみましょう。
上立ち香は甘いリンゴのような香りがうっすらと。
口に含むと舌先に軽く炭酸ガス、喉奥手前から苦み。
甘みと少しの苦みが起伏を作る中間、幾分とろみのある舌触りで濃厚さを感じます。
後口は甘渋で締め、ちょこんと辛みを置いて立ち去ります。余韻は短めです。
ラベル情報を記載しておきます。
仕込十三号
純米吟醸 無調整生酒
原材料名:米(国産)、米麹(国産米)
原料米:広島県産八反錦100%
精米歩合:麹米50%掛米50%
アルコール分:16度
内容量:1800ml
日本酒度:+2.5
酸度:1.3
製造年月:2020.07
購入は東京都狛江市の籠屋 秋元商店。
価格は1.8Lで3,200円(税抜)でした。
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話は変わりますが、私は宮城県のお酒がとても好きで、一時期、宮城のお酒しか飲まないほど傾倒している時期がありました。
当時、仙台市のとある酒屋さんと懇意にしていました。
仙台市青葉区にある、いづみやという酒屋さんです。
ホームページはありません。
手書きの便せんをスキャンして貼り付ける形でブログを更新されています。
いづみやさんは宮城県のお酒しか扱わない、他県のお酒は売らない酒屋さんです。
私はいま東京在住ですが、宮城県のお酒を買うときは、東京の酒屋さんで扱いのあるお酒でも、いづみやさんから購入する、というのを徹底していました。
地酒というものを、どうとらえているのか?
その答えのひとつが、前述の行動に結びついていると考えています。
宮城県のお酒は、当たり前ですが宮城県の文化に根付いて造られています。
もし、地元で売れなくなってしまったら。
飲まれなくなってしまったら。
宮城県らしさを持つお酒は減少してしまうでしょう。
全国で名をはせる、他のお酒の味に靡いてしまうかもしれません。
私は宮城県のお酒とそれを生む文化がこれからも続いていくことを願い、蔵だけではなく地元の酒屋さんにもお金を落としているわけです。
全国には、他県の蔵のお酒を多数扱う地酒専門店が数多くあります。
そういう地酒専門店に行くと、圧倒的な商品数に驚かされます。
また、購入して飲めば、圧倒的な品質の高さにまた目を瞠ることでしょう。
数多くの綺羅星のような銘柄を扱い、消費者の信頼も篤いそのようなお店と比べ、同じ都道府県内のお酒のみを扱う文字通りの地酒屋さんは、一見すると地味にも感じます。
しかし、そういった「他県の酒を扱わない」酒屋さんは、反面、自分の地の酒(地酒)についてより深く知っているということに他なりません。
いづみやさんは、注文するたびに便せん数枚に渡って(手書きで!)お酒の紹介文を同封してくれていました。
蔵との密接な距離と造り手の人柄の紹介、販売に至った経緯、そしてその味についての忌憚のない感想。
自店の扱っているお酒に対する愛が溢れていました。
こういった便せんを毎回注文のたびにいただくことは、全国の地酒を扱う専門店ではほぼ無いのです(※)。
※もちろん皆無ではありません。
たとえば新潟市の酒屋さんからは一度いただきましたね。
りょーさけさんからのラブレター。
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なぜ、宮城のお酒の話をしたのかというと、今回ご紹介のお酒が、私の住む東京の地酒だからです。
東京には前述のような、全国の地酒を扱う大型地酒専門店が多数あります。
都内を回れば、美味しいと評判のお酒はほぼ手に入るでしょう。
いっぽうで東京では、同じ都内で造られている酒を扱う酒屋さんが相対的に少ない。
東京ではどのようなお酒が造られているのか?
どんな味わいなのか?
それらの情報は相対的にかき消され、ほとんど耳に入ってこないのが現実なのではないでしょうか。
私は東京に住んでいるからこそ東京のお酒を知って飲みたいし、同じように東京に住んでいる人にこそ、東京のお酒を飲んでもらいたい。
東京にもこんなに美味しいお酒があるんだということを、もっと知ってもらいたい。
これは、地元に根差した酒販店を目指してほしい、というだけの意味ではありません。
ただ美味しいからというだけで、仕入れて売る。
そうではなく、売り文句としてではないかたちでそのお酒を扱う理由やバックボーンを用意しておいてほしい、という意味もあります。
そしてできれば、お酒を飲みながらそのエピソードや背景に触れられる、そんな機会を用意してほしいなと思います。
屋守。
東京にもこんなに美味しいお酒を造っている蔵がある。
飲むたびに、口福とちょっとした感動を覚えることができる、そして昔語りしたくなる。
そんなお酒でした。