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カプロン酸エチルの功績

緊急事態宣言が発令されまして、東京を含む7都府県で自粛要請が行われました。この状況がいつまで続くのか、正直見通しは明るくありませんが、少なくとも家に居る間は普段通りの生活をしようと思い、今日も日本酒を飲みます。

お酒のご紹介です。

冩楽(しゃらく)

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福島県会津若松市にあります宮泉銘醸。
蔵としては非常に若い蔵で、昭和30年創業。「會津宮泉」と「冩楽」をメインに造られています。
有名な銘柄ですので、あまり語る必要はないと思います。

飲んでみましょう。

上立ち香はリンゴのような果実感のある香り。しっとりとみずみずしさを感じる香りです。
口に含むと、舌の中心線をほんのりとした甘さが通っていきます。次いでふわっとサイドに広がり、舌の外側から酸が出てきて合流する。
含み香は濃い甘みのリンゴ。熟したリンゴの酸と甘みを思わせる非常にジューシィな中間。
喉を通るときにちょこんと渋みを置いていきます。余韻は比較的長めで、ふんわりと果実香が漂います。

華やかな吟醸香を持つお酒です。
口当たりも優しく、甘みと酸味のバランスが良く果実味のあるお酒。
美味しいですね~。
全国でもレベルの高い酒蔵が多い福島県にあって、さすがの酒質と思います。

ラベル情報を記載しておきます。

純米酒
一回火入れ
平成30酒造年度

アルコール分:16度
原材料名:米(国産)、米麹(国産米)
精米歩合:60%
製造年月:令和2年2月

購入は大阪のかどや酒店。

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日本酒には、いろいろな香りがあります。

なかには、お米から作られるお酒という知識だけで飲むと「えっ!?ナニこれ!?!?」と驚いてしまう香りのあるお酒も少なくありません。

そんな日本酒の香りについて語るとき、必ずと言っていいほど登場するワードというか成分、それがカプロン酸エチルであります。

カプロン酸エチル。
ここ20年超の日本酒とりわけ吟醸酒の革新において、もっとも大きな変化をもたらしたと思われる成分。
今回はカプロン酸エチルの功績について語ってみたいと思います。

「ことはじめ」にも書きましたが、私が日本酒を飲むようになる最初のきっかけは十四代との出会いでした。

当時の十四代は非常に華やかな香りを持ち、その香りは瓶の蓋を取るだけでそこら中にふわわ~んと漂うほど強かったのです。以下、回想。

これは何だ!?
その香りの強さと果実感は、米からできている日本酒から発せられるとはおよそ思えない。
添加物……!?
いや、原材料には米・米麹しか書いていない。
正真正銘、米を原料として生み出された香りなのだ。(回想終わり)
そんなことを(飲みながら)思い非常に驚いたのを覚えています。

そしてその香りはカプロン酸エチルというエステルが由来であり、アルコール発酵過程で酵母が生産すると知ります。
これが大事なことなのです。このとき私は、香りに付いている名前を知るのです。
理科の実験で体験した、硫化硫黄はこんなにおいですよ、アンモニアはこんなにおい、エチレンってこんなにおいですよ、
そういった成分由来の、成分先行のにおいの体験
それとは逆の、においが先行した形で成分を同定するのは初めての経験。

いま嗅いでいるこの香りは、カプロン酸エチルという成分の香りなのか!
この体験に非常に感動し興奮したのです。
非常に華やかで甘い果実味のある、主張の強い香りだったからこそ、香りを同定するという体験に向いていたのですね。

日本酒に関連する用語で略語があるのは、「純吟(純米吟醸)」「カプ(カプロン酸エチル)」「酢イソ(酢酸イソアミル)」「むなげ(無濾過生原酒)」くらいのもの(もっとあるかも。はーい、考えない)。

本来であればただの成分名であったカプロン酸エチルが市民権を得たのは、アルコール発酵のみで生産されるナチュラルな成分であったからでしょう。
これが添加物だったら、ここまで飲んだ人の心を掴むことはなかった。
そしてそれが華々しい吟醸香の主成分として認知され、一定のファン層の構築に役立った。

要するに、カプロン酸エチルは日本酒に華やかな吟醸香をもたらしただけではなく、その単語が独り歩きすることによって日本酒への知的好奇心を呼び覚ます役割を担ったのです。

カプロン酸エチル高生産酵母の開発に成功したのは月桂冠です。そしてその技術を秘匿せず方法特許という形で提供し、全国の酒造メーカーに活用されました。さすがトップブランド。

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冩楽、温度が上がってくると香りも落ち着いてきますね。
カプロン酸エチルは揮発成分なので、お燗にしたり長時間ほっとくときれいに抜けてしまいます。
それはそれでまた違った側面を見せてくれる。
日本酒って楽しいですね。

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