無人島に1種類だけ日本酒を持っていけるとしたら
ようやく東京でも梅雨明けの兆しが見えました。
雨は上がって8月に入り、去年よりは気温も低く比較的過ごしやすい夏だと感じています。
気兼ねなく遊びに行けるような空気とは程遠いし、マスクも手放せない毎日ですが、その中でも楽しみを見つけて思い出作りがしたいと感じます。
お酒のご紹介です。
剣菱(けんびし)
兵庫県神戸市東灘区にあります剣菱酒造株式会社。
創業は室町時代後期の1505年、全国の日本酒蔵でトップ3に入る長寿蔵です。それゆえ蔵の歴史や理念、他蔵に与えた影響などテーマ性・ドラマ性ともに屈指の蔵です。
私自身は蔵への見学体験はありませんが、蔵へお邪魔してレポートされた、とても剣菱への愛を感じられる記事がありますので、いくつか紹介させていただきます。
ではさっそく飲んでみます。
上立ち香は熟成香とみりんのような香り、奥にナッツ。
口に含むとまず舌先には出汁を感じさせる酸、ピリッとした辛みが舌の中心を抜けていきます。
滑らかに甘みの広がる中間。熟れた果実感のある含み香と少しのアルコール感。濃厚なとろみを感じさせつつも、舌で触ると非常に軽い感覚。
後口は酸を置いて。ただし口内に残るのは辛みで、ドライに締まります。余韻は比較的長め。
ラベル情報を記載しておきます。
黒松剣菱
酒質:濃醇旨口
アルコール分:17度
原材料名:米(国産)・米麹(国産米)・醸造アルコール
内容量:900ml
製造年月:R2.3.18
購入元は……どこだったか記憶にありません(笑)
おそらくどこかのスーパーかコンビニだと思います。
価格は900mlで1,100円前後。
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私たちの生活圏内には普段利用しているスーパーや夜中まで開いているコンビニがあって、そこに行けばいろいろな種類のお酒を手軽に購入することができます。
ビール、缶チューハイ、サワーを筆頭に、焼酎やウィスキーといった蒸留酒、ワイン、そして日本酒も、銘柄数はそこまで多くないかもしれませんが棚に並んでいることと思います。
このスーパー・コンビニで買えるお酒は、特別な日に飲まれることをターゲットとして選ばれていません。これは売る側も買う側も同じだろうと思います。
いや、私は普段飲まないのだけど、久しぶりに友人が泊まりに来るというから、その夜、楽しく飲むためにコンビニでお酒を買ったんです。そういう特別な日にお酒を買うのにコンビニは便利です
こんな方もいらっしゃるでしょうけど、あくまで一般論として、スーパー・コンビニのお酒たちは、ソフトドリンクと同じレベルで購入してもらうことを期待されていると思います。
いわゆる定番酒として全国どこでも同じものが買えることが、普段使いのお酒の必要条件だろうと思います。
日本酒も、スーパー・コンビニで売られるものは、やはり普段使いとして飲んでもらうことが目的。特定の酒屋に行かないと買えない地方蔵のお酒は、普段使いという観点から見れば、条件から外れるのです。
そしてスーパー・コンビニに並ぶ日本酒銘柄はいくつかは入れ替わったりするものの、ベースにある固定銘柄(菊正宗、大関、月桂冠など)は変わりません。
これは定期的に購入する一定のファンがいる証拠。
しかもその銘柄に安住している人が非常に多い。
他の酒は要らん、これだけで十分と思っているファンがかなりの数いるということです。
もし無人島に1種類だけ日本酒を持っていけるとしたら(そしてその1種類は底を尽きないとしたら)何を選びますか?
この質問に迷いなく答えるファンたちでしょう。
もちろん、出荷量・流通量が潤沢だからこそスーパー・コンビニで並ぶという側面もあると思いますが、でも買う人がいなければ棚は縮小されるのがお決まり。
日本酒の現在を支えているのは、スーパー・コンビニで買えるお酒たちなのです。
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上述した質問。繰り返すと、
もし無人島に1種類だけ日本酒を持っていけるとしたら(そしてその1種類は底を尽きないとしたら)何を選びますか?
私なら、きっと迷いながら今回ご紹介のお酒剣菱を選ぶことと思います。
ポイントは、合わせられる料理の幅の広さ。
私は日本酒を飲むとき、ほぼ必ず食事と合わせますが、何を飲むのかによって食べるものを変えますし、逆に食べるものが決まっていればそれに合う日本酒を探します。
ですが剣菱の場合その必要がありません。
和洋中なんでも問題なく合います。
揚げ物でも炒め物でも酢の物でも問題なし。
塩辛をなめながら飲めて、チキン南蛮とも合わせられて、青椒肉絲でも美味しく飲める。
私の出した結論は、剣菱はごはんである、というもの。
日本人は世界中の料理をご飯のおかずにして食べてしまいますが、それが可能な(私の知る限り)唯一の日本酒が剣菱。
だから無人島と言わず今後1種類の日本酒しか飲めなくなるのなら、(十〇代とか九〇次とか飲めなくなるのか……ああ~、と)後ろ髪惹かれつつも剣菱と答えるでしょう。
日本最古蔵トップ3に入る歴史を持ち、「止まった時計でいろ」という蔵是のもと500年もの間変わらぬ味を造り続けている剣菱。
それでいてスーパー・コンビニで手軽に買える、場を選ばず活躍できる日本酒、剣菱。
ぜひ剣菱の魅力、味わってみてください。