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日本酒の未来にオフフレーバーは不要だという話

もうすぐゴールデンウィーク!
みなさん、お出かけのご予定は立ちましたか?
週末少し天気が崩れる以外は、概ね晴れる見込みだそうですよ。
レジャーにバカンスに、たくさん羽目を外して楽しんでください!
……去年なら、ね。

ずっと家にこもりきりで気分が鬱屈するときは、少し外の空気を吸うだけでだいぶリフレッシュできます。
当たり前だと思っていたことがどれだけ自分に必要なことだったのか考えるようになりました。

お酒のご紹介です。

北安大國(ほくあんだいこく)

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長野県大町市にあります北安醸造。
創業は大正12年(1923年)。もともとは「大國正宗」という銘柄を造っていましたが、のちに「北安大國」に改銘されました。
現在では北安大國のほかに「居谷里(いやり)」も製造しています。

飲んでみましょう。

上立ち香は干しぶどうのような甘く熟した香り。
口に含むと舌の中心に沿って甘みが走ります。カラメルと巨峰を混ぜたような甘みです。
とろみと軽快さを併せ持つ中間。燻したナッツの香りが鼻に抜けていきます。ここへきて酸がうっすらと登場。
嚥下するとパッといなくなり、後を引きません。余韻は短め。

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裏ラベルを記載しておきます。

純米吟醸 無濾過生原酒
原材料:米(国産)、米麹(国産米)
精米歩合:55%
アルコール分:17度
製造年月:2016.01

購入は東京都豊島区にある地酒屋こだまです。

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日本酒にはさまざまな香りがありますが、すべての香りが飲み手にとって好意的なものとは限りません。

日本酒には「利き酒」といって、酒質・フレーバーを判定する検査があります。「利き酒」は基本的にあら探しのテイスティングであり、その判定基準には「好ましくない香り=減点対象となる香り」が含まれます。
いわゆるオフフレーバー(異臭)です。

私は、このオフフレーバーこそが日本酒を面白くないものにしている元凶の一つと考えています。

オフフレーバーとして評価される香りは、カテゴライズされたものです。
つまり、香りを同定し、その由来を特定してから、それがオフフレーバーであると認定される。
「嫌な香り=オフフレーバー」ではなく、日本酒としての品質を見たときに好ましくないだろうと製造側の人間が決定した香りにすぎません。

なぜそんなことが言えるのか?
私自身、オフフレーバーではない香りの一部に苦手意識を持ち、オフフレーバーの一部には好意的印象を持っているから。

何年造っても毎年同じようにオフフレーバーに悩まされる(正確には悩まされているかどうかは知りませんが)酒蔵を認識しています。
でも、オフフレーバーがあることでバランスが取れ、そこが特長になっている日本酒を知っています。

そういうお酒が持つ香りは、オフフレーバーであるという一点で切り捨てられるものではありません。
その蔵の酒においてはオフフレーバーこそが魅力であり味わいなのです。
生老ね香だろうが、袋香だろうが、木香だろうが、蔵が狙って付随したい香りならば、蔵の特性であり酒の個性なのです。

日本酒を面白くないものにしている元凶として、オフフレーバーを挙げました。
その心は、酒の均一化、表現の均一化です。

オフフレーバーを除く。
そこに酒蔵が注力することで、目指す味はどこかで飲んだことがあるものになりがち。
また表現も、米の旨味を引き出した酒か、甘みと酸味が特徴のジューシィな酒かの二択になりがち。

香りの要素そのものは数多あるのに、オフフレーバーを除く努力をしなければならない、そのことが魅力を失わせることにつながるのです。
そうなると酒は広がりを失うし、その酒を表現したくても没個性化してしまう。

日本酒の製造技術は、おそらくオフフレーバーが設置されたころとは比べ物にならないほど向上しました。
もはや品質の管理という側面から見たオフフレーバーは不要です。
むしろオフフレーバーに囚われ新たな境地を開拓しないことのほうが損失だと思います。

オフフレーバーという垣根を取っ払って、造り手も飲み手も、自分の味覚で選び取る未来を切に願います。

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今回ご紹介のお酒は2015酒造年度醸造。およそ4年ほど熟成しています。
たまに冷蔵庫から引っ張り出してはチビチビ楽しむお酒です。
当初からある干しぶどうのような甘い香りは、生熟の香りが混ざったもの。
生熟香には苦手なものも多いのですが、たまにそれを裏手に取ったようなドンピシャのバランスでまとまるお酒があるから面白いんです。

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