「テニスを職業にするのはキツいなぁ…」全日本選手権準優勝・今村昌倫選手がプロの道を選ぶまで
GODAI note編集部です。
2021年8月2日。この日、「スポル品川大井町」で、プロテニスプレーヤーの今村昌倫選手によるナイターイベントが開催されました。
大学時代は全日本学生テニス選手権大会(インカレ)優勝をはじめ、学生トッププレーヤーとして数々のタイトルを獲得。さらに、大学4年時には全日本テニス選手権大会でノーシードからの快進撃をみせ、見事に準優勝を果たしました。
数々のタイトルを手中に収め、満を持してプロに転向、と思いきや、「3年生の秋まではプロになろうと思っていなくて……」「リクルートスーツ買って、OB訪問もしていました」と笑いながら話す今村選手。プロの道を選ぶまでにどんな心境の変化があったのでしょうか?
今村 昌倫(いまむら・まさみち)
所属:JCRファーマ
生年月日:1998年11月23日
出身:大阪府
経歴:清風高等学校(2014~2017)、慶應義塾大学(2017~2021)
主な戦績:
・全日本学生テニス選手権大会・単優勝(2019)
・全日本学生室内テニス選手権大会・単複優勝(2019)
・全日本テニス選手権大会・単準優勝(2020)
ファンと同じ目線で楽しめたイベント
――先日のレッスンイベント、リリースしたら即完売だったと聞きました。やっぱり全日本選手権準優勝、インカレチャンピオンの肩書は伊達じゃないね。
いやぁ、ありがとうございます(笑)。
――実際にやってみてどうでしたか?
レッスンイベントを主催するのは20年近いテニス人生でも初めての経験だったので……最初は段取りもわからず、どう進めていけばいいのかイメージがわかなくて。
でも、(企画協力をしていただいた)テニスベアの方とも「堅苦しくなく、一緒にテニスを楽しむ感覚でやれたらいいよね」と話していて。レッスンというよりは、ラリーやマッチを楽しみながらプロの打つボールを体感してもらう形のほうがいいかなと。
――あえてレッスンぽくしなかったのは正解だったね。「突き球が速くて重い。ボレーが返せない!」とか「ポーチが決まってガッツポーズしようと思ったら返ってきた!」とか、参加した人も喜んでいて。
「僕がポーチに出るから、リターンをセンター寄りに返してくれませんか」というリクエストもありました(笑)。
――それ、おもしろいね。今村君もしっかりリクエストに応えて「うわっ、エグいリターン返ってきた!」みたいな(笑)。プレー一つひとつで「さすが今村プロ!」と思わせる。それが参加者にとって大きな価値だったんでしょうね。
それと、何より今村君自身がすごく楽しそうにやっていたのが印象的でした。
そうですね。結果として僕自身ものびのび、楽しくできましたね。
――いい意味で溶け込んでいたというか、プロらしくなかったというか(笑)。サークルのノリで、同じ目線で楽しんでいたのが良かったんじゃないかな。
そう言っていただけると嬉しいですね(笑)。
プロの自分は、ファンからどう思われているんだろう?
――そもそも、ツアーで忙しい中、なぜこのイベントをやろうと思ったんですか?
プロになってから、コロナの影響もあって、一般のテニスファンと触れ合う機会がほとんどありませんでした。プロとしての自分が、テニスファンからどう思われているのか?プロとしてどのくらい認知されているのか?……それを知りたくて、テニスファンと交流する機会をつくろうと思ったのがきっかけです。
――実際に、ファンの方と交流してみてどうでした?自分が思っていたとおり……いや、思っていた以上に人気者だな、とか(笑)。
ハハハ!そこまで自意識過剰ではありませんよ(笑)。でも、来てくださった方の中にも僕のファンだという方がいて、「今日もどのタイミングで声をかけようか迷っていたんです……」と話してくださって。
――このイベントをきっかけに今村君のことを知った人もいると思うけど、あれだけ一緒に楽しくテニスしたら応援せざるをえないよね。今日一日でめちゃめちゃファンになったと思うよ。
それは嬉しいです!そのぶん、日頃からの言動や振る舞いにもっと気をつけないといけませんね(笑)。
「就職してもプロになっても、キツいのは変わらんやろな」
――話は変わるんだけど、今村君がプロになろうと思った動機。そこをあらためて聞かせてもらえますか?
動機ですか……。
――面接みたいだね、ゴメンね(笑)。
大学3年生のときに、インカレ、インカレ室内と優勝することができました。ずっと目標だった学生タイトルがようやく獲れたんです。
でも、その年の全日本選手権では結果が出なくて(※3回戦敗退)。試合続きでめちゃめちゃ疲れていたこともあって、そのときは「テニスを職業にするのはキツいなぁ……」と思っていました。
――念願の学生タイトルを獲ったのに、プロには後ろ向きだった。
テニス部の監督にも「プロは考えていません」と言って。周りの友達と同じように大学3年の秋にリクルートスーツを買って、OBの話を聞いて回りました。ひととおりの業界の先輩に会って話を聞きましたね。
一方で、プロにはネガティブな気持ちがありつつも、大学の先輩で先にプロに転向した上杉海斗さんや、プロから会社員に転身した志賀正人さんの話も聞いていました。
――並行して“プロテニス界のOB訪問”もしていたんだね。両方比べてみてどうでしたか?
両方聞いてみた結論としては「会社に就職してもプロになっても、キツいのは変わらんやろな」と。そこで、「どっちなら、自分が一番のびのびできて輝けるか」ということを選択の軸に、両方の進路をもう一度テーブルに並べて考え直しました。
その結果、テニスという競技はかれこれ20年近くやってきたし、ようやく結果も出てきて、自分にも自信がついてきたので……。
――後ろ向きだった「プロ」が再び浮上した。
そうですね。自分のなかでは7、8割はプロのほうに気持ちが傾いて。決め手は、年末に実家に帰って家族と話したことですね。
――ご両親は具体的に何ておっしゃってたんですか?
「昌倫が小さいときから、そう(プロに)なってほしいと思ってたよ」「せっかくこれだけ結果が出てきていて、チャレンジできる環境もあるんだから……」と背中を押してくれて。家族がすごく応援してくれるので、そこでようやく自分の気持ちが固まりました。
コロナで練習もできず、気づいたら全日本に……
――家族の声が「プロになる」決め手になったんですね。その翌年には全日本選手権で準優勝しました。この結果は、プロになるという覚悟や心境の変化が表れたということかな?
いや、それが正直、この時点では覚悟とか心境の変化というのはあまりなくて……。
――あれ?そうなんだ。
周りにも「プロになる」と宣言していたとはいえ、あまり実感がわかず、フワフワしてました(笑)。でも全日本選手権が終わってから、「おめでとう!」「プロになるんだってね。頑張ってね!」、といろいろ声をかけてもらって。やっとそこで「そうか。オレ、プロになるんやなぁ」と実感しましたね。
――フワフワしていた(笑)。そこも今村君らしいね。
それより、コロナの影響で、部活のことがとにかく大変で……。いちおう主将をしていたので。
――そうか、昨年(2020年)は、満足に練習ができない時期が続いたよね。
最終学年となった年の3月末にテニス部が活動停止になって、その後2か月くらいずっと練習ができませんでした。主要な大会も軒並み中止になってしまい、部をどう運営していこうか、連日のようにチームでミーティングしていました。ずっとバタバタしていて、自分のことは何も考えられなくて、気づいたら全日本選手権が始まった、みたいな感じで。
――だから、こちらが美しい物語として求めがちな「プロとしての覚悟を持って挑んだ全日本選手権」というよりは、コロナでずっとバタバタしていて、気持ちの準備もできないまま全日本に臨んだという。
でも、逆にそっちの方がよかったのかな、と思います。何も考えずに、背負うものもなく、一戦一戦戦っていたら、決勝に行けたという感じですね。
グランドスラムを見据えて、一戦一戦
――今村君はプロの世界に、テニス部の仲間は就職と、進路が分かれました。
今になってそのことを実感しますね。テニス部で苦楽を共にしたみんながネクタイ絞めていたり、「初任給が出た」みたいな話を聞いたり……。
――焦りみたいなものはある?
正直、焦ることはありますね。遠征先でもしばらく隔離生活を送るのですが、そのときに「何か勉強しておいたほうがいいのかなぁ」とか考えちゃいます。
――でも大学の仲間たちは、みんな今村君のことを応援してくれているんじゃないかな。
そうですね。応援してくれてはいると思います。
――今村君以外の人たちは、職業としてのテニスはあきらめたわけだからね。フィールドは違うけど、今村君が頑張っていることが刺激になっていると思うよ。
ありがとうございます。
――最後に、月並みな質問だけど、プロとしての第一歩を踏み出して、今後の目標は?どういうプレーヤーになっていきたいですか?
目標かぁ……(笑)。
やっぱり最終的にはグランドスラムに出場することが目標です。でも今は目標までの距離があるので、この1年から1年半くらいでATPランキングの500位を切って、300位くらいまでいけるように。一戦一戦、コツコツ積み上げていければと思います。
コロナの影響で、海外に出るにもいろいろ制約があったり、大会自体が少なかったり、選手にとっては厳しい環境が続いています。でも、頑張るしかないですね。
コロナ禍という特殊な状況のなか、ファンとの交流イベントにもチャレンジしながら、プロテニスの世界に挑んでいる今村選手。これからの活躍に期待しています!
今村選手Twitter
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