さようなら げんきで
くまちゃん率いるヤギたちは、70頭くらいいる。
あるときくまちゃんが、半分くらい減らす予定ですと言った。
ヤギの家系図を作りたい
ここのヤギ牧場は、約2年前に廃業寸前の牧場を現社長が引き継いだ。
社長は元々牛の人で、ヤギは初めて。
なので、ヤギを飼育できる人材を募集し、現在くまちゃんがドンとしてヤギ達を仕切っている。
ヤギを飼育している人は、その規模も飼い方も様々だそう。牛のように識別表をつけて、しっかり個体管理をしているところは少ないそうで、前の牧場主もヤギ同士の血縁関係は把握していなかったそうだ。
でも、人間と同じで通年子作りができるヤギは(発情度合いの強弱はあって、その時期はヤギの種類によって少しずつ違うらしい)、オスもメスも一緒にしていると、親兄弟でも子作りできてしまう。
そうなると血が濃くなりすぎて、奇形や未熟児が生まれてくる危険性が高まるそうだ。それは避けたい。
くまちゃんがヤギの頭数を減らす理由は、頭数を少なくして、そこからヤギの家系図を作り、しっかり個体管理をしていきいたい。というのがひとつ。
もうひとつは「やはりくまひとりで70頭のお世話は大変です」とのこと。
うむ。そんな感じすごくします。
個体管理がしっかりできると、子ヤギの販売などもできるようになり、ヤギ業の幅が広がるそうだ。
そして、ヤギの引き取り先が決まった。
さらば34頭のヤギ
その日は朝から雨が降っていた。
秋に入って一番の冷え込みになった。
ヤギの引き取りをしている業者は、くまちゃんがネット上で探して連絡したそうだ。
ヤギだけでなく、うさぎやヒツジなど様々な動物を販売仕入れしているところだそうだ。
私が飼育場へ到着したときには、すでに県外ナンバーの業者さんのトラックが停まっていた。
業者の人は、くまちゃんと社長と何やら話しながら、小屋を回ってヤギを見ていく。
こちらの希望引き取り数を提示して、
相手は実際の引き取り数と値段を決める。
ほどなくして34頭のヤギが選ばれた。
軽トラの荷台に檻を乗せて、小屋に横付けする。
小屋から選ばれたヤギたちを出していく。
最初の一頭がなかなか檻に入らない。やはりいつもと違う雰囲気を感じるのか、ざわざわ オロオロ。
ヤギの力はなかなか強い。ど突かれたことがあるので分かる……。
くまちゃんがヤギと力くらべをしたりするのか分からないが、やはりここは男性陣が動く。
最初のヤギをなんとか入れ込んで繋いだら、後は数頭ずつまとめて追い込んでいく。
板で檻の入り口を塞ぎつつ次のヤギを待つが、隙をついて脱走するヤギも。
「一頭そちら行きました!」
あまり聞かないくまちゃんの大きな声。
山の中にある飼育所はたいてい静かで、いつもくまちゃんとまばらなヤギの声、ときどき鳥と猫の声。
今日はザーザーと降り続く雨音の中に、ヤギ達の右往左往する足音が大きく響いている。
公道からヤギ牧場へ入る道は、舗装されていない細い道で、軽トラがギリギリ通れるくらいだ。
業者の大きなトラックは入れないため、公道まで軽トラでヤギをピストン輸送する。
檻がいっぱいになったら、第一陣出発。
お引越し。さようなら。新しい場所へ。新しい生き方を。
どうか美味しいご飯が待っていますように。どうか良い眠りが訪れますように。
いつもより、無口なくまちゃん。
いつもより、小さなにっこりでさよならしていた。