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【追悼 渡辺雅弘】Girasoul ~聴く者の魂を揺さぶるヴォーカリストMamiと、パーカッシブなカッティングを得意とするギタリスト渡辺雅弘によるアコースティックデュオ 《第7話》

cover photo by Keiji Koizumi

第6話 ↓


2023年1月5日(木)

 前年12月5日から20日まで入院していた雅弘が、年明け早々(1月4日)からまた入院していることをSNSで知る。1月18日に予定されていたライブには出演できないとのこと。
 LINEを送ってみたものの、返信なし。体調が思わしくないのかもしれない。数時間後に既読になったので、少し安心したが・・・。


2023年1月29日(月)

 雅弘が、新しい動画をYouTubeに投稿したこと、そして2月4日のライブに出演できそうなことをツイート。

 LINEで「2月4日のライブを取材させてほしい」と伝えると、快諾してくれた。


2023年2月4日(土)

『新しい酒は新しい革袋に盛れ』
@下北沢 BAR? CCO(渡辺雅弘 - 12回目)

 リハーサル前に、2023年初ライブを行う雅弘に意気込みを聞きたいと思い、CCOの前で待ち合わせ。しかし、体調が思わしくなく、30分ほど遅れて到着。それでも雅弘は「身体の調子が良くなくても、来てくれるお客さんに恥じない演奏をする、というのが最低限のライン。そこだけはクリアしたい」と語った。

 会場入りする雅弘とわかれて、ディスクユニオンでレコードをチェック。初めてGirasoulのふたりと会ったときも下北沢のディスクユニオンに向かう途中だったとことを、ふと思い出し「あれから10年半も経ったのか・・・」と感慨にふける。

 Mamiから連絡があったので、合流して一緒に入場。少し遅れて幼なじみの木下敦也が、元envyの飛田雅弘とびたまさひろと共に現れた。mouse on the keysのサポートなどで活躍するギタリストの飛田雅弘は、これまでGirasoulの渡辺雅弘とまったく面識がない。SNSを通じて同じ名前のギタリストが闘病しながら音楽を続けていることを知った飛田を、木下が誘ってくれた。

 トップに登場した雅弘は、まだタイトルが決まっていない新曲からスタート。曲に合わせて雅弘の息子が声を上げているのが微笑ましい。
 前年8月にレコーディングした「パーティは終わらない」「いびつ」「太陽」、そしてサビ以外はすべて作り直したという「イロウタ」の全5曲を演奏した。

photo by 秋池祐也

 体調がすぐれず、途中で帰った雅弘が心配だったが、他の出演者も素晴らしく、最後まで楽しませていただいた。

 終演後にスマホの画面を確認すると、雅弘からLINEが届いていた。こちらの体調を気遣う内容で恐縮する。雅弘のほうがずっと大変なのに。


2023年2月5日(日)

 雅弘から前日もらったLINEに対して「久々のライブを終えた感想は?」と書いて返信したところ「入院が多すぎて練習時間が少ないのが厳しいですね・・・。もっともっと、観にきてくれた人が一生忘れられないようなステージをやりたいです。次回、また頑張ります」というコメントが届いた。納得のいく演奏ができず、歯がゆい思いをしているのだろう。

 その後も、記事を作成するために、1週間ほど毎日のようにLINEでやり取りした。当日中に返信が届くので、比較的体調が良いのかと思っていたが、ライブ後から入院しているとのこと。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


2023年3月4日(土)

 自宅で作業をしていると、雅弘から「電話で相談したいことがある」というLINEが届いた。5分後に電話をかけると、7月に青森で開催予定のフェスについての相談だった。雅弘が出身地の青森でフェスをやりたがっていることは知っていたが、もっと先のことだと思っていた。地元の商工会とリモート会議を重ね、数日間開催される大型イベントの枠を1日確保したという。

 雅弘が「僕には時間がないので(笑)」と明るい口調で、出演交渉できそうなアーティスト名を挙げる。その中には、若者から絶大な人気を誇る有名バンドも含まれていて驚いた。がん宣告を受けてからの雅弘は、以前にも増して驚くべき行動力を駆使し、全力で生きている。

 1時間ほど電話で話したあとも、30分近くLINEでやり取り。フェスに呼びたいバンドや関連アーティストのYouTube動画を送りあう。
 音楽を愛する友人と楽しい時間を過ごしながら「これほど魅力的な男が、なぜ余命宣告を受けなければならないのか」と悔しくなる。


2023年3月14日(火)

『ヂラフマガジン』の記事が公開されたことを、雅弘とMamiに連絡。記事を作成するにあたり、Mamiにもたくさん協力してもらった。


2023年3月19日(日)

 雅弘が抗がん剤を休薬したことを、インスタグラムの投稿で知る。副作用に苦しんでいることは聞いていたが、休薬するほど酷いとは・・・。

https://www.instagram.com/p/Cp8nJDsBcqa/?utm_source=ig_web_copy_link&igshid=MzRlODBiNWFlZA==

 この選択が、雅弘にとって最良のものであることを祈るしかなかった。


2023年3月26日(日)

『ゆらぎ』
@渋谷 The Room(Girasoul - 59回目)

 The Roomのレギュラーパーティ『ゆらぎ』に、Girasoulが9年ぶり2度目の出演(前回は2014年3月23日)。

 雅弘のカッティングが力強く鳴り響く。2月4日のソロライブのときよりも圧倒的に強さを感じる。Mamiの歌も好調で、観客の反応も良い。この日は多くのファンや友人たちが、会場につめかけていた。

 アンコールが始まる前にサプライズで、翌日に39歳の誕生日を迎える雅弘にケーキが贈られた。Mamiが知り合いのシェフに頼み、雅弘が食べられる材料で作ってもらったもの。

 アンコールは「群青」。最後に一番好きな曲を聴くことができた。

𝑀𝒶𝓂𝒾 / sing on ukulele / ウクレレ on Instagram: "2023.3.26(日)@渋谷TheRoom〜ゆらぎ〜 正直、直前まで、ライブできるかな、できなかったらできなかったでしょうがないな、と思ってました。 ご存知の方も多いですが、ギターの雅弘は癌です。リハも中々難しく、無理しなくていいんだよと何度も言ってしまい、その接し方が良いのか悪いのか、また、「やる」と言ってくれてるけど、本音の見えない人なので、こんな大変な中Girasoulに費やすことが、雅弘にとって良いか悪いか判断できなくて、自分にへこんでしまったりしました。雅弘はギターが上手いし歌も歌えるしかっこよくて素敵な曲も作れるし、大変な思いしてまでGirasoulに費やすより、ソロ活動に専念した方が良いんじゃないかとも。私の中で明確な答えがわからないまま、この日になりました。 今、終えてみて、ほんとにやれて良かったと思います。ライブ中の雅弘は、バッキバキのかっこよくて冴えたギターを披露してくれたし、ふたりで演奏しながら、楽しくて楽しくてしょうがなかった。そんな中、MCで「真実さんじゃなきゃ、ひとりでやってたと思う。」そう言ってくれて、それが答えだなと思いました。心配し過ぎなくたって、ちゃんと雅弘は自分の意志でここにいたんだなと。 そして、今回来てくれた、たくさんの昔からの音楽仲間たち。まさか来てくれるなんて思いもしてなかったので、こんなにも優しくて素敵でかっこいい人たちがいてくれる、奇跡みたいに美しい世界に包まれて演奏できて、Girasoulはなんて幸せなんだろうと思いました。 そして、雅弘の誕生日の話も。 ライブ前日、というかもはや当日の深夜、突然、雅弘3/27(ライブ翌日)誕生日じゃん!!!と思い出しました。 近所で高いお金を出せば買える高級ケーキより、雅弘が一口でも食べられるケーキがいい。 そう思い早朝、とんでもなく忙しい人に、乳製品不使用&グルテンフリー&白砂糖不使用のケーキを、しかも今日のライブまでに間に合わせて作って欲しいと連絡。「マミちゃん!わかった!今日は催事で出てしまっているので、ジラソウルの演奏中に着くと思う。最後の曲が終わった瞬間にマミちゃんがハッピーバースデー、アカペラで歌ってくれたらロウソク灯してステージに持って行くよ!いい?」と、私の気持ちまで察してくれる、あったかくて大きい返信。アンコール、来てるかなとどきどきしながらきょろきょろしてたら、蝋燭に火を付けたケーキとともに、満面の笑みの清水さん。ベストなタイミングで現れてくれた。 ほんといつもにこにこ笑顔で優しいんだなー。 アンパンマンみたい。パン作ってるしジャムおじさんかなとも思うけど、やっぱアンパンマンだな。貴重な時間と材料と労力を使って、パワーを届けに来てくれました。Girasoulのケーキはやっぱり、@shimizuchef じゃなきゃ! 長文ですが、最後に @garamaki ちゃん、めげずに何度も誘ってくれてありがとう。雅弘とふたりで演奏できて、奇跡みたいに大好きな人たちが集まってくれて、おかげさまで幸せでした。一生忘れられない日になりました。 そんなガラちゃんのインスタ見てたら、次の日もイベント。ほんと、エネルギーすごすぎるよガラちゃん。ちなみに普段は看護師さんで、表彰までされてるパワフルな人。まだまだなんでもできるなーと思わされます。尊敬。 ありがとう。" 182 likes, 11 comments - mami_ukulele_girasoul on March 28, 2 www.instagram.com

[Setlist]
1. 海の獣
2. Sunset
3. イロウタ
4. Moon River
5. 太陽の花
6. Estrella

[encore]
7. 群青

 Girasoulの演奏が終わった直後に、背後から声をかけられたのでふり向くと飛田雅弘がいた。2月のソロに続いて、また観に来てくれるなんて。

同じ名前のギタリスト

 タクシーを呼んで妻と息子を先に帰した雅弘は、久々に会う友人たちと談笑していたが、30分程度で会場を後にした。「家族と一緒に帰れば良かったのに・・・」と思ったが、ほんのわずかな時間でも、仲間と過ごしたかったのであろう。

 雅弘とMamiが帰ったあとも、DJの選曲による極上のサウンドに身をゆだねながら痛飲。ライブの余韻に浸っていたかった。

 2月のソロライブを終えたあと、雅弘は「もっともっと、観にきてくれた人が一生忘れられないようなステージをやりたい」と語っていたが、この日のライブは、彼らのファンや仲間たちの記憶に残るものになった気がする。


(つづく)

第8話 ↓

#創作大賞2023 #Girasoul #ジラソウル #Mami #渡辺雅弘

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