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世界観ファーストなビジネスづくりの舞台ウラ——「LOCAL START-UP GATE」4ヶ月の記録

秋田、鹿児島、石垣島の3地域で同時開催した、事業づくりのためのプログラム「LOCAL STARTUP-GATE」は、昨年末に最終回を迎えました。

初開催の同プログラムで大切にしていたのは「世界観ファースト」。

市場ニーズや社会課題ではなく、個人の感性から事業を立ち上げ、感性に基づいた世界観を事業に込めていく——という実験的な取り組みの手応えを、4ヶ月間のプログラムの流れに合わせて、振り返ってみます。


LOCAL STARTUP-GATEとは

全4回のプログラムの流れ。DAY1〜DAY3でインプットを行いつつ、プログラム間ではプロトタイピングでアイデアを具体化。DAY4に最終発表となる

改めて、2023年9月から12月まで開催した「LOCAL STARUP-GATE」には、2つの特徴があります。「異なる3地域での同時開催」と「世界観ファーストの事業立ち上げ」です。

4ヶ月間で全4回のプログラムを開催しましたが、参加者は3地域(今回は秋田、鹿児島、石垣島)それぞれの会場に集まり、会場同士をZoomでつなぐ形で開催しました。

各回でのレクチャーやワークをもとに、プログラムの合間はプロトタイピングを通じて事業アイデアや世界観を具体化。そして最後に最終プレゼンという流れです。

ちなみに、最終プレゼンの12月16日は、秋田会場の最低気温が4度でみんながコートに身を包む一方、石垣島の最低気温は22度。半袖の参加者も目立ちました。Zoom越しに地域性が垣間見えるのも、このプログラムのおもしろいところです。

秋田会場の様子。画面越しのプレゼンはおよそ2,300km離れた石垣島から

近年はローカルビジネスが盛り上がりを見せ、地方での起業を推進する動きも増えていますが、私たちが「LOCAL」を冠したプログラムを開催したるのは、地方にこそ「面白いビジネスを生み出す感性」がたくさん眠っていると考えているからです。

この「感性」こそが世界観を形作る起点になるものですが、その点については後ほど詳しく説明します。

そしてLOCAL STARTUP-GATEのもう1つの特徴が、「世界観ファースト」で事業をつくることです。

とはいえ、「世界観」と言われてもピンとこない人がほとんどでしょうし、そこから事業をつくるとなるとなおさら掴みにくいと思います。

ここからは、実際のプログラムの流れに沿って、私たちがこのプログラムで大切にしている考え方を紹介します。参加者になった気持ちで、プログラムの一端を体験してみていただけたらうれしいです。

改めて今回のプログラムでは、DAY1で世界観とは何かに触れつつ、それをどう磨いていくかを解説。DAY2でアイデアの価値や市場を定義し、DAY3ではマーケティングの視点から再度アイデアを見つめなおしました。

この記事では特にDAY1のプログラムの内容を中心に、紹介します。

市場ニーズからビジネスは生まれない

「世界観ファースト」の像をはっきりさせるために、まずは対極にあるアプローチと比較してみます。

新規事業の現場でよく耳にするのが「市場ニーズの分析から始めなさい」という声。

「〇〇 統計データ」「〇〇 調査レポート」などと検索すれば、行政や調査機関が実施したさまざまな調査結果を見ることができますし、確かにそのデータを見ていると、あたかもそこに強いニーズや事業のヒントがあるように見えます。

しかしこのような「市場ニーズの分析」からビジネスは生まれません。理由は次の3つです。

1:誰でも思いつくから
検索結果に出てくるデータは、すでに顕在化したニーズです。そこから着想を得たアイデアは、すでに万人が思いついていますし、競争環境も厳しくなります。

2:そもそも人は保守的だから
人には生存本能があるため、大半の人は保守的です。保守的な人の顕在ニーズからいまだ社会にない新しい価値は生まれません

3:便利さを求める欲求は飽和しているから
便利さを求めて発展してきた今の社会においては、便利さへの欲求は飽和していて、ソリューションを提供する余地がない

市場ニーズからビジネスが生まれないのだとすれば、ビジネスの源泉はどこにあるのか。LOCAL STARTUP-GATEではそれを「感性」だと定義しています。

「これをやってみたらおもしろそう」「すごく腹が立つ」「悲しい」など、感情の1つ1つに、ビジネスの源泉があります。これはけっして空想や理想論ではなく、多くのスタートアップの創業にも見て取れます。

例えば、民泊サービスの「Airbnb」は、創業者の感動から立ち上がりました。CEOのブライアン・チェスキー氏は2007年、国際会議でサンフランシスコ付近のホテルが満員になることを知り、自分の部屋を貸すというアイデアを思いつきます。インターネットで募集してゲストを宿めた結果、まったく交わることのなかったはずのゲストと仲良くなれたことに感動を覚え、それを広げようと考えました。

この時点で、今のように民泊が普及するという見立てがあったわけでも、ましてや合理的に収益性を考えたわけでもないはずです。多くのスタートアップが、感性を起点に世界観を描き、事業を通じて新しい未来を作っているのです。

実際、秋田会場の参加者の1人である古関芳朗(こせき・よしろう)さんに話を聞くと「これまで参加した他のプログラムでは客観的な目線でアイデアを考えがちだが、『感性』というキーワードを大切にしたことで、自分の主観を起点に取り組めた」と振り返ります。

秋田の参加者である古関芳朗さん

参加者たちが感性を発揮しようと模索する様子を間近で見ていた、秋田会場のチームマネージャーであるGOBの鍵谷美波(かぎや・みなみ)は、次のように振り返っていました。

「感性を爆発させ破壊的なアイデアを生み出していくためのワークに、最初は皆さん難しさや戸惑いを感じているようでした。それでも、毎回自分のアイデアについて熱量をもって生き生きと話している姿は印象的でした」

世界観とは何か?

そしてこの「感性」を起点に、「社会がどうなっていくか」を見通したものが、LOCAL STARTUP-GATEでいう「世界観」になります。

改めて定義すると、世界観とは「何をするとどんな世界になるのかという見方」のことです。自分の事業を通じて、あなたは社会がどうなっていくと考えているのか。ここを徹底的に磨いていきます。

このプログラムを運営する私たちGOB Incubation Partnersの「GOB」とは、「Get Out of the Box(=枠・常識から飛び出す)」を意味しています。

LOCAL STARTUP-GATEのゴールは、自分の感性を爆発させて、常識から飛び出す(=Get Out of the Box)破壊的なアイデアを生み出すことです。

自分ひとりで考えていても、世界観は磨かれない

ここで1つだけ誤解しないでもらいたいことが、「世界観ファースト」とは決して、“想い先行”で抽象的な事業立ち上げのプロセスを踏むわけではないということです。

むしろ、世界観ファーストだからこそ、具体的に顧客の声を拾って行かなければいけません。

「自分だけにとって」おもしろいものであった感性は、実際にアイデアという形にして、いろいろな人に試してもらい、リアクションをもらうことで初めて、他者にとっての「おもしろさ」がどこにあるのか気づくことができます。

だからこそLOCAL STARTUP-GATEでは、全4回のプログラムの合間にある、プロトタイピングを重視しています。もらったリアクションの数だけ、おもしろい世界観へと磨かれていくのです。

また後述しますが、世界観ファーストの事業は、個人の感性を起点に、顧客に共感してもらい、さまざまな関係者(ステークホルダー)を巻き込み、そして社会へと広がっていきます。その過程では、顧客、関係者、社会それぞれとの対話が欠かせません。

そこでLOCAL STARTUP-GATEでは、全4回のプログラムとは別に、地域別にフィールドワークを開催。実際に、その地域で事業を立ち上げている“先輩”の現場を見学させてもらいました。顔の見える顧客や地域社会との対話を重ねて、その事業がどのように立ち上がっていったのか、肌で感じることができます。

各地のフィールドワークの様子

世界観を大事にビジネスを組み立てようとすると、どうしても「いいのはわかるけど、ふわっとしているね」「抽象的だね」というリアクションをもらいがちです。

こう言われてしまう原因を、GOB社長の高岡泰仁は次のように話します。

「事業はどこまでいっても『どんなお客さんに何を提供するか』というシンプルなことが大事。特に顧客像が鮮明に描けていないことが、ふわっとしてしまう原因だと思います。特に世界観ファーストのビジネスにおける『顧客』は単なる売り先ではなく、皆さんと一緒に世界観を実現する『パートナー』ですから、このパートナーが誰なのか、そして共通言語としてのプロダクトを兼ね備えることが重要です」

破壊的アイデア ≠ 売れる商品

先ほど、LOCAL STARTUP-GATEのゴールは、自分の感性を爆発させて、常識から飛び出す(=Get Out of the Box)破壊的なアイデアを生み出すことだと言いました。

しかし、破壊的アイデアを突き詰めていけばそれだけでビジネスになるかというと、そうではありません。

かつて話題を集めたセグウェイは、その革新的なアイデアで世界中から注目を集めましたが、結果的に生産終了に。製品として社会に浸透することはありませんでした。

つまり、破壊的なアイデアは、売れる商品へと仕立て上げなければいけないのです。

LOCAL STARTUP-GATEでも、DAY1〜2で「破壊的なアイデアを考え」、DAY2〜3を通じてそれを「ビジネスへと落とし込み」ました。大切なのは、この2つを分けて考えることです。

破壊的なアイデアを考える段階でビジネスモデルや収益性を気にしては、枠にはまったつまらないアイデアになってしまいます。破壊的アイデアを考える段階では、徹底的で非合理であることが重要で、売れるかどうか(合理性)を考えてはいけません。この点は、プログラム中でも繰り返し強調してきました。

DAY2のワークシートより引用。アイデアの価値を3層で整理
DAY3のワークシートより引用。価格設定を検討

世界観ファーストなビジネスは、どう広がっていくのか

さて、ここまでいろいろな角度から、「世界観ファースト」な事業づくりについて紹介してきましたが、ここで改めて整理してみます。

下図は、感性を起点に、世界観ファーストな事業がどのように形作られていくかを示しています。

図の下半分は、感性を起点に破壊的でアイデアを考えるという点を除けば、一般的な事業立ち上げのセオリーと変わりません。

アイデアを、売れる商品に仕立て、ビジネスモデルを組み立て、事業として実行していきます。この下半分だけでは、合理的で当たり前な事業になってしまいます。

だからこそ大切なのは図の上半分のプロセスです。これは、感性が世界観へと磨かれていく過程を示しています。個人の感性が顧客や関係者、社会との対話を通じて、社会へと広がっていきます。

自分だけではなく、関係者や社会にとってどんな事業が良いのだろうか、という点にまで想像力を及ばせながら事業を組み立てていくことこそ、世界観ファーストの事業に欠かせない要素です。

そしてこのプロセスを進めていくにあたっては、複数の思考を使い分けていきます。

アート思考を通じて感性を爆発させ、常識の枠を超えたコンセプトを磨き上げたら、デザイン思考やロジカル思考でビジネスを組み立て、そして最後に、マーケティングの視点を取り入れて社会へと広げていきます。

しかし重要なのは、常に原点に立ち返ることです。私たちは誰しも、無意識のうちに常識に収まろうとします。ついつい、合理的な方向へと引っ張られてしまうのです。

だからこそ、LOCAL STARTUP-GATEでは、常にその人の感性へと立ち戻れるような環境を整えました。会場ごとに、その地域で同じく事業立ち上げに向けた準備や新規事業作りに取り組むGOBメンバーがチームマネージャーとして伴走。壁打ちの機会を作るともに、他の参加者や地域の起業家、経営者らとの対話の機会をできる限り設けました。

石垣島会場で参加した宮良賢哉(みやら・けんや)さんも、最終プレゼンの1週間前に自分の原点に立ち返るきっかけがあったそうです。

「最終プレゼンの直前に、(石垣島会場のチームマネージャーだった)松本亮さんとの対話の中で『自分が本当にやりたいことは?』『これを通して何を目指しているのか?』といった問いをもらい、改めて事業を捉え直しました」(宮良さん)

石垣島会場の参加者、宮良賢哉さん

また鹿児島で参加した江野いずみさんも、顧客へのインタビューなどを通じて、事業アイデアの幅を広げたタイミングがあったそうですが、「果たしてこのアイデアに自分の世界観が生きているのか、と立ち止まって考えたときに、やっぱり違う」と見つめ直した時間があったと話してくれました。

鹿児島会場でのワークの様子。画面左奥が江野いずみさん

“地域性”が垣間見えた最終プレゼン

最終プレゼンを終えて。秋田会場にて

4ヶ月間のプログラムの集大成である最終プレゼンでは、大きく「世界観」「その世界観を体現するためのエクストリームコンセプト」「プロダクトアイデア」の3点を盛り込みつつ、参加者それぞれのスタイルでの発表が行われました。

プレゼンを聞いていると、地域ごとの色も見えてきました。

自然環境への視座が高く、地域ならではの感性を事業やプレゼンにも盛り込んだ鹿児島会場開放的な雰囲気の中でおおらかなアイデアが遊び心を刺激する石垣島会場など。

鹿児島会場について江野さんに聞くと「参加者がとても仲が良かった。他の参加者のアイデアも、自分のアイデアかのように捉えてお互いフィードバックをしていたので、いい雰囲気だった」とのこと。こうした参加者一体となった空気感が、その地域のプレゼンや事業アイデアにも反映されていたのかもしれません。

秋田会場でチームマネージャーを務めたGOBの鍵谷も「それぞれの地域で一体感や地域性がよく見えたのは、うれしい発見。プログラム内外でたくさんの対話が重ねられており、どんな場面で心が揺さぶられるのかなど、その人の感性に深く触れる時間を過ごせたことが、こうした一体感につながったのかもしれない」と振り返っていました。

さて、今回のプログラムは、主催した私たちGOBにとっても1つの大きな挑戦でした。

3地域での同時開催というこれまでにない試みでした。離れた地域に住んでいるからこその違いや共通点に触れることで、新たな角度から感性が刺激されたり、アイデアの輪郭やその価値がよりはっきり表れるような仕掛けが作れたら、さらに面白いプログラムになるのでは、と考えています。

地域間でのさらなる交流の機会も含め、次回の開催に向けた検討を進めているところです。近日中に詳細を発表できると思いますので、また皆さんと共に事業づくりできることを楽しみにしています。