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“非合理”な地方だからこそ埋もれた感性を事業で届ける——LOCAL START-UP・GATE初開催に寄せて

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秋田、鹿児島、石垣島の3地域で開催する「LOCAL START-UP・GATE」は、各地の起業家を対象に、世界観ファーストで事業を立ち上げていく4ヶ月間のプログラムです。

LOCAL START-UP・GATE募集要項・お申し込みはこちら>
https://gob-ip.net/contact-lsg

9月23日の開催に先立って、LOCAL START-UP・GATEを運営するGOB Incubation Partnersの高岡泰仁(代表取締役社長CEO)に話を聞きました。

4ヶ月間のプログラム。全4回のワークショップと、現地でのフィールドワークを通じて、世界観ファーストでビジネスアイデアを磨き上げていく

課題解決ではなく、世界観を大切にした事業づくり

LOCAL START-UP・GATE(以下、LSG)は、「世界観ファーストでビジネスをつくっていく」と銘打っています。

起業家向けのアクセラレーションプログラムでは、課題解決を目指した、いわば「イシュードリブン」なプログラムが一般的です。それに対して、「世界観ファースト」であることに込めた意味を聞きました。

高岡:私たちがいう世界観は「何をするとどんな社会になるのかという見方」のことです。簡単に言えば、「顧客の〇〇という困りごとを解消したい」「社会課題の〇〇を解決したい」ではなく、「〇〇な社会になったら良くないですか?」を大切に事業をつくっていきたいということです。

GOBの高岡泰仁、右の写真は、秋田の田沢湖を訪れた際の様子

高岡泰仁(たかおか・やすひと)
GOB Incubation Partners株式会社 代表取締役社長CEO

奈良生まれ、広島育ち。大手印刷会社にて、自社の新規事業の創出や企業の新規事業開発支援、事業戦略、組織開発等に取り組み、その経験を活かしGOBに入社。起業家や企業の新規事業開発にメンターとして伴走。現在は特に地域の事業創造に探求し、社会がまだ発見していない世界観を描く起業家・企業の挑戦に寄り添い活動し、複数企業で取締役として経営にも伴走している。

高岡が、世界観を重視して事業を作っていく際に大切にしているのが「感性」だと言います。

高岡:私たちGOBでは、世界観の源泉を「感性」だと言っています。世の中の常識から外れた価値は、感性でしか捉えられません。感性によって常識の外側にある新しいアイデアが生まれ、そこから生まれた世界観がイノベーションへつながっていきます。これは過去のさまざまな起業家の例を見ても明らかです。

経済的な合理性を重視するのではなく、たとえ経済的に非合理だとしても、「この事業があったらこんな世界になる」という世界観を大切にしてもらいたいですね。

GOBでは普段、起業家に対して投資していますが、そこでも投資の基準はビジネスモデルや収益性ではなく世界観です。その意味で、「起業家へ投資」ではなく「世界観に投資」する会社だといえます。経済的に非合理な世界観に投資をして、それを事業を通じて合理に転換させることで、「社会に新しい選択肢を作っていきたい」と高岡は話します。

高岡:今回のLSGでも、起業家の世界観を共有してもらえるのを楽しみにしていますし、その世界観に対して一緒に夢を見たいですね。

世界観ファースト(=感性ドリブン)な事業の組み立て方のイメージ

世界観ファーストの事業のつくり方

イシューではなく、世界観ファーストで事業をつくろうと思うと、その開発プロセスも変わってきます。これまで会社として、世界観をもったたくさんの起業家と出会い、投資をしてきた高岡によると「とにかくいち早く実験を繰り返すこと」こそがカギだと話します。

高岡:世界観を込めて事業をつくっていくわけですが、そもそも自分が面白いと思ってることが、他の人にとっても面白いものかどうかはわからないんですよね。ですから、いち早くリアクションをもらうことで、自分のユニークさや価値を見つけられます。

通常、顧客の課題をヒアリングして、そこから論理的に事業を組み立てていくのがセオリーですが、今回はいち早くプロトタイプを作って、周りの人たちからリアクションをもらうことを大切にしています。

「世界観ファースト」という言葉だけ聞くと、ふわっとしたアイデアが生まれてくるようにも思えます。しかしLSGの思想はむしろ逆。リアクションをもらい、事実をつかみ取りながら、その事実をもとにアイデアを改良していくため、「抽象的なアイデアでは押し切れない」と高岡は言います。

都市部は合理性の塊、ローカルだからこそ常識の外の価値が埋もれている

さて、LSGはその名にもある通り、「Local」に軸足を置いているのが大きな特徴です。東京に本社を構えるGOBが、なぜ都市圏ではなく地方に重点を置いてプログラムを設計しているのでしょうか。

そこには「世界観に投資する」GOBならではの考え方がありました。

高岡:スタートアップにとって、都市部は合理性のかたまりです。都市部に拠点を置いて、都市部で資金調達をして、大きな市場の中で成長していくのが定石でしょう。

一方で私たちが目指しているのは、まだ見ぬ世界観が持つ価値を発見することです。都市部と反対に、地方という環境で埋もれてしまっている、社会に対する問いがあると思うんです。私たちはそんな起業家の世界観に投資をしたいですし、その世界観を事業を通じて共に広げていきたいと考えています。

なお、今回は秋田、鹿児島、石垣島(沖縄)という3地域での開催です。この3地域には、それぞれGOBが「客員起業家制度(Entrepreneur in Residence)*」を通じて投資をしている起業家たちが点在しており、彼らが今回のプログラムを現地で運営していきます。

*客員起業家制度について
 「安全にスタートアップを準備出来る環境」として、起業家が企業に属し、支給されるベーシックインカム等により生活基盤を安定させながら、その企業の中で事業の立ち上げや起業準備を行うことが出来る仕組み。

現地の起業家が運営するプログラムである点も、今回のLSGの特徴の1つです。

GOBの客員起業家で、今回LSGの石垣島でのプログラムを運営する松本亮さん。電気自動車のトゥクトゥク(三輪車両)を活用したサービスを準備中

高岡:客員起業家たちは、その土地でビジネスを行うための必要な勘所(かんどころ)を肌で感じ取っています。

たとえば客員起業家の1人である松本亮さんは、石垣島で事業を本格化させる前のおよそ半年間、あえて何もしない時間を作ったそうです。島に移り、事業自体はすぐにでも始められる状態でしたが、あえてそうしたんです。その理由の1つが、石垣島をビジネスの市場としてだけ考えている人という見られ方を避け、(それまで松本さんが住んでいた大阪のような)都市部とは異なる常識など、松本さん自身が気付いていない価値について理解する時間をつくるためでした。

都市部の論理でいけば、1秒でも早く事業を進めるべきかもしれませんが、あえて立ち止まり、図書館に行って島の歴史を調べたり、島民とコミュニケーションをとったりする中で、徐々に自分が立ち上げる事業のスタイルを確立していきました。これは現地での肌感覚がないと、わからない部分ですよね。

また、その土地での事業立ち上げの勘所をつかむために、今回プログラム中ではフィールドワークを組み込んでいます。

その地域で世界観をもって活動している起業家やアーティストとの対話を通じて、アイデアを昇華させたり、その後のロールモデルとしてもイメージを持ってもらいたいということです。

インタビューの最後に、LSG参加者に向けてメッセージをもらいました

高岡:毎日のように、たくさんの起業家と話をしますが、世界観を大切にし続けることはビジネスを組み立てていくこととは別の次元の話です。

自分のやりたいことは一人称の話。それをプロダクトに落とし込む過程で、顧客などの他者が登場し、二人称の世界に入ります。さらにビジネスモデルを組み立てて、人々を巻き込むためには、ロジックが不可欠な三人称の世界です。誰しも、それぞれの世界を行ったり来たりしながら、試行錯誤を続けています。

一人称に偏ったら二人称、三人称へ、逆にロジカルに考えすぎていたら原点の一人称の世界へと引き戻す役割です。今回のプログラムでも、そのバランスを取りながら、必要なサポートを提供していけたらと思います。

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