いま注目の客員起業家制度(EIR)、2017年から採用してきたGOBが解説
いま「客員起業家制度(Entrepreneur in Residence:EIR)」が注目を集めています。
EIRは企業が新規事業を生み出す仕組みの1つです。「in Residence(居住して、住み込み)」とある通り、企業が、新しく事業立ち上げを志す人を社内に一定期間迎え入れ、社内で事業を立ち上げます。
起業家は企業から一定金額の支給を受けながら経済的なリスクを気にせずに事業作りに集中できます。企業にとっても、事業に対してコミットメントが高い人を社内に迎え入れることでより密度の高い事業創造プロセスを実行することできるのです。
最近では、経済産業省もEIRを活用した実証事業の募集を開始するなど、新規事業を生み出す取り組みとして注目を集めています。
私たちGOB Incubation Partnersは「ESG志向の事業創造に投資する会社」として、2017年からこのEIRを採用し、これまでに複数の起業家を社会に輩出してきました。
その経験をもとに、ここから数回に分けてEIRについて解説していきます。制度を運用する中で得られた知見や実際の制度設計のサンプルなども引用しながら紹介する予定です。初回となる今回は、GOBのEIR制度の概要をお見せします。
なぜEIRを採用したのか
EIRはもともと、シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)が投資先を開拓するために考えた仕組みだと言われています。投資先の開拓には多大なコストがかかり、そのうえ投資が成功する確率も未知数です。そこで、過去に事業の売却経験があるなど能力の高い起業家を雇用し、投資対象として成長するまで社内で育てることで、より成功確率の高い投資先を生み出そうとしたのです。
一方で、私たちGOBが採用するEIRは、仕組みとしてはシリコンバレーのエッセンスを取り入れつつ構築し、一方でEIRを導入する目的には異なる観点を加えています。
私たちは「ESG志向の事業創造に投資する会社」とうたっていますが、投資対象は、顕在的なニーズがない「未発見の課題」に対して取り組む起業家です。この場合、すでにニーズや市場が明確な事業と比べて、事業成立(事業として価値を届け、利益を生み出し続ける状態)までにピボットと一言では片付けられない大きな変化を伴い、労力と手間がかかり、非常に難しい挑戦だと言えます。そのため、何の支援もない状態では事業を立ち上げようとすると、途中で挫折したり、あるいは短期的な利益を求めて当初の起業家の価値観とは異なる収益化しやすい事業に転換したりするケースが増えてしまうのです。
そこで私たちが着目したのがEIRでした。特に難易度の高い事業初期に、一定額の生活資金と事業実証費用の二つの投資を行い、安定した生活基盤を提供することと、ライスワークと呼ばれる資金獲得に時間を取られることを回避し、安心して事業作りに集中できる環境を提供しています。
投資対象にも特徴、EIRの対象は「創業前」の起業家
通常ベンチャーキャピタルなどの投資対象になるのは法人格を持つシード期以降が一般的ですが、私たちの対象はその手前にあるいわば「プレシード期」の起業家であることが大きな特徴です。
前述の通り、ESG志向の事業創造にあたっては、通常では投資対象にはならない事業初期においてこそ、事業の形を形成する重要なタイミングであり、このタイミングにもより手厚い支援が求められるためです。
私たちは、プレシード期を次の4段階に分類しており、このうち特に「実証前期」「実証後期」の起業家がEIRの対象となります。
構想期:事業アイデアが構想段階。アイデアは具体化されているが、価値や顧客、課題が定義されていない段階
開発期:事実をもとに顧客と課題、提供する価値が具体的に定義されているが、参入市場が特定されておらず、参入市場についての理解が乏しい段階
実証前期:ビジネスプランは構築済みだが、プロダクト作りまでは着手していない状態。α版の制作から価値検証を行っていく段階
実証後期:α版レベルのプロトタイプがあり、一定の価値検証は完了しているが、ビジネスとしての仕組みが仮説に基づいているため、β版への取り組みとテストマーケティングを通じて実証が必要な段階。また創業準備として資金調達に向けた事業計画を具体化していく段階。
上図の通り、実証前期〜実証後期の起業家に対して、原則1年半の期間に最大1,000万円までを投資します。
それぞれの期間は、起業家がイチから事業を作る際にかけてよい時間として算定していました。金額は、その期間の起業家の生活費と、事業実証に必要な資金を計算して算出しました。
次回以降の記事では、EIR参画中の実際のプログラムや制度設計などを紹介します。
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