新規事業立ち上げの落とし穴:顧客像の捉え方編
2022年も、1年間を通して数多くの新規事業に伴走しました。
社内から新規事業を生み出そうと、アクセラレーションプログラムや新規事業提案制度を運営する企業の事務局の皆さん、新規事業の起案者の皆さんと、多くの時間を過ごしました。
本記事では、現場でのメンタリングや事業プランの審査を通じて見えてきた、新規事業立ち上げにおける「陥りがちな落とし穴」を解説します。
顧客と課題の定義:ビジネスになり得る顧客像の捉え方
新規事業と社内審査:提案が通らない事業の特徴
新規事業と社内のアセット活用:事業シナジーを考えるべきは起案者? 審査側?
3つのポイントのうち、まず今回は1つ目の「顧客と課題の定義」について取り上げました。
*本記事は、2022年12月末に開催したイベント「経営陣がうなる事業をつくるには?新規事業界隈あるあるバナシ 総決算!」内でのトークセッションの内容をまとめたものです。スピーカーは、GOB Incubation Partnersの山口高弘(代表取締役社長)と、高岡泰仁(取締役副社長)の2人です。
「50代シニア女性向け」では共感は生めない——新規事業における顧客像の捉え方
新規事業の現場でよく目にするのが「想定顧客が大きすぎて、顧客像にメッセージが含まれてない」事業プランです。
例えば「50代から60代のシニア女性」。一見すると、どこにでもいて誰でもイメージしやすい顧客像ですが、裏を返せば、顧客像と課題が洗練されていないということでもあります。当然、そこからはユニークな事業も生まれません。
高岡:顧客像を考えるときには、まず起案者が「この人の願望をなんとかして叶えてあげたい」と思えていること、そして審査側にも強く共感してもらえるような人物像であることが必要です。
50代から60代のシニア女性に向けて事業を作りますと言われても、いまいち共感できませんし、だから何?という話ですよね。
例えば、
これくらい深く捉えられれば、「あ、そんな人もいるのかもしれない。もしいるのだとすれば、かなり苦労しているだろう」と共感を呼ぶはずです。
顧客像の中に「その顧客を救わねばならない」という強烈なメッセージが含まれているかどうかを考えてみてください。
その課題はお金を払うレベルか? 「愚痴」と「ボトルネック」の見分け方
顧客とその課題を具体的に捉えられたら、次に考えなければいけないのは、その課題や苦痛は「顧客がお金を払ってでも取り除きたい」と思うレベルなのか。
そうでなければ、事業として成立しませんが、意外にもこの点を見落としている事業プランはたくさんあります。
高岡:「お金を払ってでも取り除きたい課題かどうか」を見極めるポイントは、対処行動の有無です。
例えば、
これはよくある困りごとですね。これは愚痴でしょうか? それともボトルネックでしょうか? 一見すると、「ランニングを始めている」ので対処行動をとっているように思うかもしれませんが、実はこのレベルでは対処行動とは言えません。
対処行動としては、次のような例をイメージしてみてください。
3日目までは続くけど、4日目には断念してしまうという課題を解消するために、ジムに行ったりトレーナーをつけたりといった対処行動をしていますね。これは、対処行動をとっていてもなお立ちはだかる「どうしても続けることができない」ボトルネックだと言えます。
*編集部注:上記はBtoCの事例ですが、BtoBの事業であっても同様です。以下に例をあげるので参考にしてみてください。
対処行動がない「愚痴」の例
対処行動がある「ボトルネック」の例
対処行動をとっている顧客を見つけるには?
では、対処行動をとっているかどうかを見分けるためのコツはあるのでしょうか。
山口:そもそも、対処行動をとった上で、なおかつ解けないボトルネックと奮闘している人は「エクストリームユーザー」であり、100人に1人もいないという前提を知っておく必要があります。
なかには自分や近親者がエクストリームユーザーで、事業を立ち上げ、うまくいくケースはあります。でも、それはごく稀です。「母親に聞いてみました」「友人に聞いてみました」で見つかるケースはほとんどありません。
対処行動を見つける際にインタビューしていても、身近な人は優しいので、何か答えないとと思って探すんですよ。そうすると、強いて言えばこれかな……とそこまで切実じゃない課題を答えてしまうことが多いです。
対処行動をとっている人は、誰かに助けてほしくて、SNSやブログなどで発信していることが多いので、BtoCの場合には、そういう人を見つけて、連絡を取ってみる、といったアプローチがよいと思います。
BtoBの場合であれば、社内の自分が向き合っているお客さんや同じ部署のメンバーではなく、隣の部署とか、同じ立場だけど会社や業界が違う人とかに話を聞いてみるのがよいと思います。少し回り道に思えるかもしれませんが、そもそも見つかる確率が低いので、探すところに労力をかけないといけません。
「ライトな商品」は、ヘビーな課題に提供するもの
高岡:事業プランでよく、「ライト層を対象にしたい」というものがあります。これまでハードルが高かったことを、手軽に提供するので、顧客の課題解決につながるはずだ、ということですね。
このように、ライトなサービスは、より要求(ニーズ)が弱い人に向けて提供するものだと考えている人が多いんですけど、実際は真逆です。
よくコンビニコーヒーの例を出して説明していますが、コンビニコーヒーってライトな商品ですよね。でも、あれはすごくコーヒーが好きな人を対象にしているわけです。ものすごいコーヒー好きがより手軽にコーヒーを飲めるという商品であって、そんなにコーヒー好きじゃない人は飲みません。
山口:「ライト」「手軽」という表現が誤解を生むのかもしれませんが、その意味するところは、「課題はヘビーだけど、ソリューションはライト」ということなんです。そもそも課題がライトな人たちは、コストをかけて対処行動をとるはずもないので、仮にソリューションを作っても、お金を払ってまで買ってはもらえません。
コンビニコーヒーの例もまさにそうです。
こういう「大好きなコーヒーを今すぐ飲みたい」というヘビーな顧客に対して、自分で挽いたり専門店ほどのクオリティではないけど、ライトなソリューションとしてコンビニコーヒーを提供しているんです。
高岡:今となっては、そこまでコーヒー好きではない人でもコンビニコーヒーを飲んでいるので、勘違いしがちですが、それはイノベーター理論でいう結果の話であって、そもそも事業を生み出す際の起点は、ヘビーな顧客であることは意識しなければいけません。
顧客ではない人に共感してもらうには? 新規事業の審査を通過するポイント
ここまで、エクストリームユーザーのボトルネックを見つけることが重要だと指摘してきましたが、1つ問題があります。
100人に1人もいないエクストリームユーザーを顧客にすると、新規事業を審査する側の人たちは、自分のサービスの顧客ではないことがほとんどです。その結果、事業に共感してもらえず、審査を通過しにくいという壁にぶつかることもよくあります。
山口:新規事業を審査する経営層に、「僕はそんなにコーヒーを飲みません」という人が多い場合、コンビニコーヒーの事業を提案しても、「それって誰が買うの?」という指摘が来てしまいます。
対処行動を取ってない、顧客ではない人たちにどうソリューションを認めてもらうかは難しい課題です。特にライトなソリューションであれば、周りの人たちがヘビーな顧客でない限り、共感しにくいですからね。
高岡:ですから、審査する側にはまず、そこで語られているエクストリームユーザーは、自分ではないという前提になってもらいたいですね。
山口:この辺りのジレンマを回収するヒントが次のトークテーマにもつながってきそうです。
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次回の記事(近日公開)では、「新規事業と社内審査」をテーマに、審査を通らない新規事業の特徴、審査で共感を生むためのポイントなどを紹介します。
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