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起業したら必要な社会保険の手続き~算定基礎(定時決定)編~

起業して社会保険を適用し、社長自身や社員が会社の社会保険へ加入したら、資格取得時に決定した標準報酬月額に基づいた社会保険料を毎月の給与から徴収しているかと思います。
この標準報酬月額は年に一回、算定基礎(定時決定)という手続きで見直しを行います。今回はこの算定基礎についてわかりやすく解説します。


社会保険の算定基礎(定時決定)とは


算定基礎(定時決定)とは、実際の給与(報酬)と標準報酬月額に大きな差が生じないようにするために行います。4月・5月・6月に実際に支払った給与を届け出て、それに基づいて9月分(10月納付分)以降の社会保険料が決定します。


社会保険の算定基礎(定時決定)の提出先と提出時期


算定基礎届は、例年7月1日から7月10日(10日が休日の場合は翌開庁日)までに会社の管轄の年金事務所、もしくは事務センターに提出します。
算定基礎届の用紙は、毎年6月中旬頃に各会社に郵送で届きます。前年の提出を電子申請で行った場合には、算定基礎届の用紙が送られてきませんので、引き続き、電子申請で行うか、日本年金機構ホームページから用紙をダウンロードするなどして作成を行います。

健康保険が全国健康保険協会(協会けんぽ)ではなく、健康保険組合などの場合には、提出先や受付期間が異なる場合があるので注意してください。また、健康保険組合などは算定基礎届の用紙も独自の物を使用しているケースもあり、電子申請に対応していないこともあります。


社会保険の算定基礎(定時決定)の対象者


算定基礎は7月1日時点で社会保険に加入している全員が対象です。育児休業や介護休業中で給与の支払いがない人も届け出ます。

ただし、次に当てはまる人は対象外です。

  1. 6月1日以降に資格取得した人

  2. 6月30日以前に退職した人

  3. 7月改定の月額変更届を提出する人

  4. 8月または9月に随時改定が予定されている人(申し出が必要)

3.および4.に該当する人については、算定基礎届の備考欄「月額変更予定」に○をします。


社会保険の算定基礎(定時決定)のやり方

報酬月額の記入

算定基礎の提出対象者を選定したら、その人達に対して算定基礎対象月(4月から6月)に実際に支払った金額を確認し、報酬月額を届出書に記入します。
4月の欄には4月支給分の報酬、5月には5月支給分、というように支給した月の報酬を記入します。


社会保険の報酬月額に含むもの

標準報酬月額の対象となる報酬とは、社員が労働の対償として受け取る全てのものです。また、金銭(通貨)に限らず、通勤定期券、食事、住宅など現物で支給されるもの(現物給与)も報酬に含まれます。現物給与が食事や住宅(社宅の貸与など)の場合には、一定の算出方法に基づいて現物給与の額を計算します。


*参考記事
・【社会保険の現物給与とは】社宅を貸与するときの社会保険料の計算方法

*日本年金機構
・全国現物給与価額一覧表(厚生労働大臣が定める現物給与の価額)


社会保険の報酬月額に含まれないもの

大入袋や慶弔見舞金、退職金、出張旅費などの臨時に受け取るものは、報酬月額の算定対象には含まれません。賞与も報酬月額には含みません。なお、ここで言う報酬月額に含まれないものは、名称に関わらず実態で判断します。


賞与に関する注意点

賞与とは、「名称に関わらず、労働の対価として支払われるもののうち、年3回以下の支給のものを言う」とされています。支給するものが賞与やボーナスという名目ではなく「○○手当」だったとしても、それが労働の対価なのであれば賞与として取り扱われ、社会保険料を徴収し、納付しなければなりません。賞与を支給した際は別途、賞与支払届を年金事務所に提出します。

ただし、賃金規程などにおいて年に4回以上(例えば四半期に一度)、賞与が支払われるようなルールになっているのであれば、それは賞与ではなく報酬として取り扱うことになり、算定基礎届を提出する際に前1年間(前年7月から当年6月)に支払われた賞与の合計額を12等分して、4月支給分から6月支給分までの各月に上乗せすることになります。


支払基礎日数の記入

支払基礎日数とは、報酬の支払い対象になった日数のことを言います。例えば、「月末締め/翌月25日支払い」の会社の場合、4月25日に支払われる給与は3月に働いた分の給与ということになりますから、正社員で1日の欠勤も無い場合には、4月の欄に記入する支払基礎日数は31日ということになります。

*出典:日本年金機構「算定基礎届の記入・提出ガイドブック(令和4年度)」


正社員の支払基礎日数

正社員などのいわゆる正規雇用労働者は、支払い基礎日数が17日以上ある月だけが算定基礎の対象になります。
途中入社や欠勤などで17日未満の場合もその通り記入はしますが、報酬の平均額には含めません。

例えば「月末締め/翌月25日支払い」の会社で3月30日に入社し、4月支給分の給与は日割りされた2日分のみ支払われたような場合には、4月支給分に対する支払基礎日数は2日となり、4月は算定基礎の対象月からは除かれます。


パートタイマー、アルバイトの支払基礎日数

パートタイマーやアルバイトで日給制、時給制の人は、出勤した日数を支払基礎日数として記入します。報酬が支払われた日数なので、年次有給休暇も含めます。
パートタイマーやアルバイトの人は支払基礎日数が17日未満であっても算定基礎の対象月に含まれます。

パートタイマー、アルバイトは、会社が社会保険の適用拡大の対象事業所かどうかで支払基礎日数の要件が以下のように変わります。


短時間労働者
社会保険の適用拡大により対象となった会社(特定適用事業所)に雇用されているパートタイマー、アルバイトのことを短時間労働者と言います。
短時間労働者の定時決定は、4月、5月、6月のいずれも支払基礎日数が11日以上あれば算定基礎の対象になります。

短時間就労者
社会保険の適用拡大の対象外である、特定適用事業所以外の会社に雇用されているパートタイマー、アルバイトは短時間就労者と言います。
短時間就労者は17日以上働いている月が1箇月でもあれば、その月で算定を行います。
3箇月とも17日未満の場合は、15日以上働いている月が算定基礎の対象になります。
3箇月とも15日未満の場合は、算定の対象にならないので従前の標準報酬のままとなります。


報酬の平均額を算出する


算定基礎対象月(4月から6月)の報酬月額と支払基礎日数を確認したら、それらを元にして3箇月の報酬の平均額を算出します。ただし、その3箇月の間に支払基礎日数が17日未満の月がある場合はその月は除きます。3箇月とも17日未満だった場合には、算定基礎の対象外となり従前の標準報酬月額がそのまま使われます。
パートタイマー、アルバイトの場合は短時間労働者、短時間就労者それぞれの支払基礎日数の要件の通り、算定基礎の対象となる月で平均額を算出します。


標準報酬月額と社会保険料の決定
標準報酬月額と社会保険料の決定は、日本年金機構によって行われ、健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書によって確認ができますが、算定基礎届に記載した3箇月間の報酬の平均額を保険料額表に当てはめることでも算出は可能です。

*協会けんぽ
・令和5年度保険料額表 


社会保険の算定基礎(定時決定)の注意点


4月・5月・6月に賃金改定(固定的賃金の変動)があった場合

4月から6月の間に支給される給与で昇給や降給など、賃金改定(固定的賃金の変動)の変動があった場合には、月額変更(随時改定)の手続きを行います。
月額変更(随時改定)届を提出した人は算定基礎届の提出は不要です。


4月・5月・6月が繫忙期で残業代が増える場合

4月から6月の各月に支給される給与について、残業代が増えると算定基礎届に影響を及ぼす可能性があります。その年の9月分以降、1年間の社会保険料に関係しますので注意が必要です。

4月・5月・6月が毎年繫忙期に当たる場合には、3箇月の平均ではなく、前年7月から当年6月に支払われた給与の年間平均で算定基礎届を提出することもできます。


年間報酬の平均で算定する方法

「4月・5月・6月の給与の平均額から算出した標準報酬月額」と「前年の7月から当年の6月までの給与の平均額から算出した標準報酬月額」に2等級以上の差が生じ、その差が毎年発生することが見込まれる場合、前年の7月から当年の6月までの給与の平均額から算出した標準報酬月額で決定することができます。

年間報酬の平均で算定基礎届を提出する場合、「事業主の申立書」と「被保険者の同意」の提出が必要です。


*日本年金機構
・定時決定のため、4月~6月の報酬月額の届出を行う際、年間報酬の平均で算定するとき


休業手当が支払われた・休職があった場合

会社の休業があって休業手当の支払いがあった場合や、休職があった場合には、報酬額が本来受け取るはずだった金額と比較して低くなってしまうことが考えられます。

この低い報酬額のまま社会保険料が決定してしまうと、将来受け取るはずの年金額が低くなる、傷病手当金等の保険給付の金額が下がってしまうなど、社員に不都合が生じます。

このような場合の算定基礎届の取り扱いは、7月1日時点で休業等が継続しているかどうかがポイントです。


・7月1日時点で休業等が終了していない
例えば、6月支給分の報酬額が休業等により通常よりも低い場合、休業手当等を含めて「4月・5月・6月」の3箇月分の平均で算定基礎届を実施します。

・7月1日時点で休業等が終了している
7月1日時点で休業等が終了している場合は、休業手当等を除いて算定基礎届を実施します。

例えば、6月支給分の報酬額が休業等により通常より低い場合、「4月・5月」の2箇月分の平均で算定基礎届を実施します。

なお、「4月・5月・6月」の3箇月分すべてにおいて休業手当等を受けている場合は、算定基礎届は実施せずに従前の標準報酬月額をそのまま、9月以降も引き継ぎます。


社会保険の算定基礎(定時決定)の給与への反映


算定基礎届を提出し、受理されたら、発行された公文書の通りに標準報酬月額の改定を給与に反映させます。

算定基礎による標準報酬月額の改定は9月(10月納付分)なので、社会保険料が翌月徴収の会社の場合は10月支給分の給与から社会保険料が変わります。
算定基礎の対象外だった人は従前の標準報酬月額のままです。


まとめ

以上、社会保険の算定基礎(定時決定)届について解説しました。報酬月額に含む賃金の判断や支払基礎日数の割り出しなど少し難しい手続きですが、この手続きを間違ってしまうと1年間の社会保険料に影響を及ぼしてしまうので確実に行いましょう。給与への反映も忘れないよう、注意してください。



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