『珈琲カナダ』-緑区太子-
中京競馬場からほど近い緑区の住宅街の中に佇む『珈琲カナダ』は、一見シンプルな外観でありながら人情溢れる温かな空間だった。
まず、店先に並ぶ苔玉&陶器コーナーから気になる。
しばらく器や苔玉を眺めてから入店。
平日9時過ぎにはカウンター席に常連さんらしき方がお二人いて、初めて入る私が横を通るとニコニコと会釈をしてくれ、カウンターの中で調理するマダムは元気よく「いらっしゃいませ!」と声をかけてくれた。
なんて感じの良いお店なんだ…
喫茶店巡りをしていると、一人で常連さんばかりのいるモーニングに行くことに勇気がいる時もあるのだが、こうしてすんなりと受け入れていただけると一気にこちらも安心する。
席に着き入口の方を見ると、扉が半開きになっているのが気になったので閉めに行くと、
「やっぱり気になるよねえ」
「冬になるとなんかゆっくり閉まっちゃうの。いやぁね。そのうち閉まるから大丈夫よ」
とマダムと常連さんたちの優しい声。
「器、見てくれててありがとうね。ゆっくりして行ってね」
と言いながら再びニコニコとした奥さんがお水を運んできてくれた。
『カナダ』の店内中がコーヒーの香りと居心地が良い雰囲気に包まれているように感じる。
モーニングが選べるとのことだったので、通常のモーニングよりもサラダが多いカナダセット(ドリンク付きで700円)を注文してみた。
到着したカナダセットはパン・玉子に彩り豊かなサラダ、ケチャップスパゲッティ、ウインナーもついた想像以上にボリューム満点の内容!
パンもしっかり一枚分あり、付属の容器にはマーガリンとイチゴジャムが好みの量を付けられるようになっているのも嬉しい。
ケチャップスパゲッティは注文が入ってから炒めているので熱々で香ばしく懐かしい味で、紫大根やマダムの自宅庭で穫れたという八朔の苦みがアクセントになったサラダも美味。
コーヒーはしっかりと濃い目で酸味もあり、カナダセットと一緒にいただくとちょうどよいバランスだ。
耳には常連さんとマダムのおしゃべりが自然と聞こえてくる。
ちょっと失礼して耳を傾ける。
「あ、珍しくセキレイが来たね」
「この前の子とは違うみたいだわ。この子は足が悪くない。」
「ごはんあげよかね、ちょっと待っとってね」
「じきに食べに来るわ」
「スズメは最近来ないねえ」
「セキレイは何を食べるか調べてみようか」
「いかん、パンは食べないらしい。ミミズが好きだってよ」
「何も食べるものがなけりゃパンでも食べに来るよ。ほら、来た来た」
「あ、もうすぐ散髪の時間だ」
「そうかね、かっこよくしてもらっておいでねえ」
「いってきます。今日はご一緒できてよかったわ」
「いってらっしゃい。気ぃつけてねえ」
こんな何気なくも愛おしい会話がこの場所ではいつも行き交い、マダムがその中でニコニコと切り盛りしているのだろう、と初めて居合わせただけなのに感じた。
束の間だけれど新参者の私をその仲間に入れてもらえて光栄だ。
お会計の時にマダムがまた話しかけてくれた。
「陶器はね、半分は私が作ったもので半分は瀬戸から仕入れたものなの」
お話を伺うと、1年間瀬戸で陶芸を学んでいたこともあったのだそう。
しかも素敵だなと思った苔玉もマダムの手作りで、それも見事な出来栄えだった。
かわいいお花型の小皿と迷ったが、私は苔玉を一つ購入することにした。
マダムは「まあ嬉しい!」とお茶目に言い、その場で丁寧に苔玉から伸びた苔をハサミでチョキチョキと切ってキレイな真ん丸型にして袋に入れてくれた。
マダムの愛情を至る所に感じた『珈琲カナダ』では、今日も明日もきっと優しい時間が流れているのだろう。
その空間の一部になりに、また伺いたいと思う。
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