読書感想文:ポップラッキーポトラッチ
読みやすかった。
出てくる人は大体いい人で、大きな事件も起こらないし、シビアな現実の描写はオブラートに包んでくれている。作者の奥田さんはきっと優しい人なんだろうなと思った。
ちなみに陽気な掛け声みたいなタイトルの謎の言葉ポトラッチ、中盤に説明があるのだが意外に深い意味を持っているのです。
主人公の愛奈はひっそりとした億万長者だ。超倹約家で清く正しく慎ましく見た目もとても地味だから、まさか彼女がお金持ちだなんて誰も疑うことすらしない。彼女の密かな楽しみは慈善団体への寄付や見ず知らずの他人のウィッシュリストを叶えること。自分にお金は使わない。他人の散財にはお金を出す。出しながらも内心、まったく違和感がないわけでもなくて、その辺をえぐり出して剥き出しにする存在として従姉妹のしーちゃんが登場する。
この従姉妹、やけにえらそうに乱入してくるのだが、今に始まった事ではないので愛奈は動じない。二人は元同級生でもあり、アイドルばりのルックスと高い女子力のしーちゃんは昔から愛奈を見下していた。突然勝手に転がり込んできた居候なのに毒舌全開で傍若無人。出て行け!!とか、私だったらつい言っちゃいそうだけど、愛奈は自分を頼ってきた従姉妹を心配こそすれ全く怒らず受け入れ、二人の生活がはじまる。暮らし方が正反対の二人は互いのスタイルや考え方に驚き、刺激し合うことになる。
でもこの二人、真逆に見えて実は根っこがかなり似ている。二人とも自分を大切にするのが致命的に苦手。でも自分以外の誰かのためならやたらと、時に痛々しいほどにがんばれるのである。
傍若無人なしーちゃんも命懸けの推し活中で身を挺して懸命に働くのは推しのため。愛奈に対しても実はけっこうわきまえていて、必要以上に寄りかかったりむしり取ったりすることはない。
日々じわじわと理解を深め、影響しあいながら過ごす二人は、お互い自分の一番大事なものを差し出し合って相手のピンチをさらりと救い合う。
なんて素敵なポトラッチ。
明るくて誠実な結末がとてもいいなと思った。洋書のペーパーバックみたいなちょっと珍しい装丁も、この物語に合っていたような気がする。