MetaMask:クリプト・ヒーローの偉業とその未来
今回もテックメディア「The Generalist」からクリプトウォレットの最大手Metamaskについての記事をお届けします。
今回取り上げるのはMetamaskです。おそらくクリプトに関心がある方はほとんどの人が知っていると思います。
しかしその一方でその歴史や、彼らが現在どのような状況にあり、今後どのようになっていくか、ということについて詳しく知っている方はあまりいないと思います。
今回の記事はそんなMetamaskのこれまであまり触れてこられなかった側面を著者本人の取材による情報も併せて語られています。
3万字近い記事ですが、クリプト業界で非常に重要な位置を占めるウォレットの中で約2,000万人に使われているメガプロダクトを知っておくことは非常に価値があることだと思いますので、是非最後までご覧ください。
著者であるMario GabrieleさんのTwitter ↓
それでは本編です。
インサイト
投資家、トレーダー、起業家がMetaMaskについて学べることは以下の通りです。
クリプトウォレットはもはやニッチビジネスではない
3年前、クリプトウォレットのユーザーは3,100万人でしたが、現在では8,000万人近くになっています。Web3がその可能性を最大限に発揮するまでにはまだ長い道のりがありますが、MetaMaskのようなサービスは決して難解なものではありません。なんと単独で2100万人のユーザーを抱えています。MetaMaskはビッグビジネスである
2021年、Metamaskの収益は2億ドルを突破しました。それはユーザーがサービスから離れることなく自分の暗号通貨を交換できるスワップ機能のおかげです。消費者と開発者が求めるものは違う
MetaMaskは開発者を念頭に置いて作られました。しかし、リテラシーの低い消費者がWeb3に手を出すようになるとデザインに高い価値が置かれるようになります。防御性を高めるのは難しいことである
クリプトウォレットはブロックチェーンからデータを取得しているためユーザーのロックインはありません。ユーザーは数分で、データを失うことなくウォレットのプロバイダーを変更することができます。
そのため、プロバイダーは顧客を維持するための別の方法を見つけなければなりません。開発者を味方につけることもその一つです。競争は激化している
現在MetaMaskは王者です。しかし王座を狙っているライバルはたくさんいます。Coinbaseはウォレットを提供していますし、Block(ex-Square)も追随する可能性があります。Rainbow, Phantom, Argentなどの反乱軍も侮れません。
ブルース・ウェインはゴッサムの地方検事ハービー・デントと食卓を共にした。ウェインはデントの演説に耳を傾けていた。ウェインはバットマンの自警主義を擁護しているが、マスクの男が目の前に座っているとは知らずに彼はこう語る。
"古代ローマでは民主主義よりも1人の男に国を託した。英雄ではなく、公僕としてね。”
彼の恋人であるドーズは、"ハーヴェイ、最後にその座に着いたのはシーザーよ。独裁者としてね。”と反論する。
ハーヴェイはこれに対し、"だから何だ。ヒーローとして死ぬか、生き延びて悪に染まるかだ。"と言うのだったーーー
このシーンは、2008年に公開されたクリストファー・ノーランの映画『ダークナイト』からのものです。憧れと敵意、ヒーローと悪役の間の距離は髪の毛一本分であり、その差は単に時間の問題であることが示唆されています。
これはMetaMaskにぴったりの言葉でもあります。MetaMaskは最も広く使用されているウォレットであり、何千万人ものユーザーをWeb3の世界に導いてきました。しかし、不便なプロダクトのためにこの分野の熱烈な支持者の多くが憤慨しています。
その結果MetaMaskは逆説的な企業となり、全く異なる見解を引き起こすこともしばしばになりました。彼らを支持する者は、MetaMaskがまだ始まったばかりであることを示すためにMetaMaskのユビキタスさと2021年に挙げた2億ドル以上の驚異的な収益を指摘するでしょう。一方で懐疑的な人たちは、MetaMaskをWeb3のYahooのようなもので、Googleに食われるのを待っていると見て、競合への賛辞を準備しています。
ノーランの映画のようにこれらの立場の違いはあなたが考えるほど不可解でも難解でもありません。
今回の記事ではクリプトの世界におけるMetaMaskの位置を分析し、その出自、機能性、重要性について説明します。また、その明らかな欠陥を解明し、次の動きの可能性を考え、王座に挑戦し始めている企業を列挙します。具体的には以下のような内容になります。
オリジン
MetaMaskの歴史は、初のEthereum Devconにまで遡ることができます。それはまた、競争の物語でもあります。ConsenSys
MetaMaskの親会社であるConsenSysは複数の進化を遂げてきました。プロダクト
MetaMaskはアーキテクチャ的には堅牢ですが、フロントエンドは新規参入者にとっては戸惑うことがあります。トラクション
今年はMetaMaskにとって爆発的な年となりました。100%に近いマージンで数億ドルの収益を上げています。将来性
私たちは革命の初期の段階にいます。MetaMaskのようなウォレットは、技術的および社会的変化に適応しなければなりません。
1. プリヒストリー:蒸気
1.1 マイアミ
フロリダ州のマイアミは後に重要な会議が開かれる場所としては思いもよらない場所でした。春を告げる人や銀髪の雪国の人々で知られるフロリダは必ずしも技術革新で知られているわけではありません。しかし、イーサリアムの歴史を振り返るとサンシャインステートはもっと評価されるべきでしょう。
2014年1月、マイアミのビーチハウスに集まったのは、無謀な挑戦を画策するグループでした。彼らがマイアミを選んだのはサウスビーチのクリーブランドホテルで開催された北米ビットコイン会議に出席するためでしたが、本当の目的は別のプロジェクトについて話し合うことでした。それがイーサリアムです。
その数カ月前、当時まだ19歳だった生意気なヴィタリック・ブテリンは、「空に浮かぶコンピュータ」の可能性を示すホワイトペーパーを執筆していました。彼の研究はマイアミで彼と一緒に過ごした人々も含めて、大きな支持と注目を集めていました。彼の他にも、無骨で強烈なギャビン・ウッド、眼鏡をかけたチャールズ・ホスキンソンという2人の悪魔的な才能を持った開発者がビーチハウスにいました。また、ビジネスマンのアンソニー・ディ・アイオリオとジョセフ・ルービンも議論に加わりました。
ブテリンが会議に参加した人たちを無理なく引きつける力を持っていたとすれば、ルービンは門外漢に見えたに違いありません。
このトロント出身の男はブテリンと長い付き合いがあり、アイオリオに誘われて参加しました。エンジニアとしての経歴を持つルービンは議論されていることの結果をすぐに理解しましたが、その年齢と背丈から、イノベーターというよりはウォール街のスーツを着ているような風貌でした。
実はルービンはウォール街で働いていたことがあります。プリンストン大学で電気工学とコンピュータサイエンスの学位を取得し、後にクリプト投資家となるマイケル・ノボグラッツと同室だった彼は、ゴールドマン・サックスに副社長として入社するまでの7年間をリサーチャーとして働いていたのです。
しかしルービンは創造性のない金融マンタイプではありません。それどころか逆にイノベーターの傾向があります。
大学卒業後、プロのスカッシュ選手として成功しようとしていたルービンは、2008年の危機の後、カーツ大佐になることを考え、ポストアポカリプスの砦となるペルーの無名の土地の購入を検討していました。最終的にはジャマイカのシンガーに魅せられてダンスホールのレコード会社を立ち上げました。
このように、ルービンは「部屋の中の大人」ではなく、誰もが驚くような冒険心と開放感を持っています。
マイアミでの滞在中、ルービンはイーサリアム革命の先頭に立って存在感を示しただけでなく、ブテリンの頭脳的・感情的な核心部分に対抗する商業的志向の持ち主としての地位を確立しました。これはルービンのキャリアとイーサリアムの歴史を決定づける瞬間となりました。
1.2 Devcon0
その11ヵ月後、大西洋を挟んだ別のカンファレンスで、同じ登場人物たちが出会うことになります。イーサリアムの最初の公式フォーラムであるDevcon 0はベルリンで開催され、ブテリン、ウッド、その他の初期の信奉者たちが講演を行いました。
その時点でイーサリアムのチームは非営利目的で活動するという重要な決断をしていました。ブテリンを中心としたこの選択はリーダーシップチームを分裂させ、初期メンバーの一部は新たな場所を求めて旅立ちました。一方、ブテリンの近くにいたルービンは、プロジェクトの先にある、より商業的な道に目を向け始めたメンバーの一人でした。
Devcon 0が開催された頃、彼は新しいベンチャー企業を立ち上げていました。これがのちのConsenSysです。
ConsenSysはイーサリアム上で構築されたビジネスに資金を提供してネットワークの普及を助け、その恩恵を多くの未経験の消費者や企業にもたらすことを目的としていました。
ベルリンのある会議室でConsenSysのスター企業の前身が誕生しました。
ジョエル・ディーツは熱心な信者の一人でした。ヒュー・グラントを90年代のスターにしたようなフサフサの髪と少年のような顔立ちを持つディーツは、すでにエコシステムの中で一定の存在感を示していました。
彼はBitcoin Magazineで暗号通貨の未来について語っていただけでなく、シリコンバレーでイーサリアム愛好家のためのミートアップを立ち上げていました。
またこうした活動に加え、ディーツは自身のプロジェクトにも取り組んでいました。それも一つではありません。彼とのやり取りの中で、自分のことを、"私はいつも複数のプロジェクトを抱えている忙しい男だ "と表現しているほどです。
ディーツが取り組んでいる数多のプロジェクトのひとつがビットコインを使ったクラウドファンディングのプラットフォーム「Swarm」です。また、一連のウォレットのブラウザ拡張機能にも取り組んでいたようです。結果的に、ディーツはカンファレンス中に出回ったアイデアの1つを実行に移すことができました。そのときの様子をディーツはこう語っています。
カンファレンスのサイドルームのひとつでディーツはブテリンとウッドの前に座り、最近発表されたEthereum Developer Grantsのひとつを受け取って、JavaScriptベースのクリプトブラウザを作るべきだというシンプルな提案をしました。
ブテリンはあまり説得に応じなかったようです。ディーツが語るように、彼はこのアイデアに好意的でVaporという名前まで提案しました。資金提供はなかったものの、ディーツは新たなプロジェクトを抱えてベルリンを後にしました。
カリフォルニアに戻ったディーツは自分が構築したネットワークを活用しようと考えます。彼はカリフォルニア州内のイーサリアムのクライアントに関する何らかのプレゼンテーションを行ったことのあるすべてのJavaScript開発者と話をしたいと考えていました。ディーツの記憶ではそのようなプレゼンテーションが行われたのは4回までだったといいます。その中には、「JavaScriptハッカー」のアーロン・デイビスを中心としたアップルの社員たちのグループもいました。
後にドレッドヘアになるオレンジブロンドの髪を束ねたデイビスは、クリプトの世界では「クマビス」というペンネームで知られていました。
ディーツと同様に彼も早くからブロックチェーンの可能性に着目し実験的に構築を始めていました。クマビスはクラウドファンディングのキャンペーンを企画した際に、そのキャンペーンへの「リンクを広める」方法が必要だと考え、イーサリアムのウォレットを思いつきました。
ディーツとクマビスは、最初は非公式にチームを組んでVaporを作ることにしました。ディーツが運営するコワーキングハウスに住み、イーサリアム財団に協力していた3人目のメンバーのマーティン・ベッツも参加しました。
資金調達のため、3人は多くのユニコーンを生み出してきたY Combinatorへの参加を試みました。
YouTubeで公開されている申し込み用ビデオでは、ベッツ、ディーツ、クマビスの3人が、自分たちが何を作ろうとしているのかを説明しています。
熱意にあふれているとはいえ、これは歯切れのよいピッチではありません。しかし、今のように言葉が確立されていない中で彼らが作っているものをどのように表現するのか。この1分間の映像の中で「ウォレット」という言葉は一度も出てきません。その代わりに、チームは自分たちが作っているものを「ブラウザとブロックチェーンの融合」と表現しています。
Y Combinatorの功績は、このピッチが興味を持ち面談を申し込んだことでしたが、これは拒否されてしまいました。
ディーツはYCのパートナーであるトレバー・ブラックウェルからチームに送られてきたメールを提供してくれました。このメールはWeb3.0の黎明期を象徴する素晴らしいものです。
後から考えると、「我々のスマートコントラクトを採用してみないか?」と言いながらYCに平手打ちしたくなるでしょう。 しかし、ブラックウェルの疑念は、未来予測を仕事にしたキャピタリストであったとしても、そして大多数の技術者も持ってしまうものでした。
YCの助けがなくてもVaporの創業者たちはプロジェクトを続けていました。しかし、そこには亀裂が入っていきます。
1.3 ポストYC:やっかいな領域
ここまでは、Vaporのストーリーはそれなりに明確になっていました。しかし、これからはラビットホールに落ち、暗闇のようになっていくのです。いずれにせよ私たちは向こう側にたどり着きますが、まず、より濁った物語をかき分けていかなければなりません。
この記事を書くにあたり、私はVaporの3人の創業者、MetaMaskの成功に貢献した人たち、そしてウォレット業界の人たちに話を聞こうとしました。多くの人から話を聞くことができましたが、足りない部分もあります。特にルービンやベッツには話を聞くことができませんでした。しかし、ConsenSysの開発者であり、MetaMaskの創設者の一人であるダニエル・フィンレイが、この記事の初出後に回答してくれました。この記事は彼のコメントを含めて更新されました。
つまり、次のページでは、Vaporの創業者であるジョエル・ディーツとクマビスの2人の証言を中心に紹介します。しかし両者の証言は食い違っています。
YCに却下された後、クマビスはVaporの開発を続けました。彼はすぐに3人の中で貢献できるのは自分だけだと気づきました。ベッツはイーサリアム関連の他の仕事に集中しており、ディーツは表向きは他のプロジェクトに従事していました。「私は100%の仕事をしました」とクマビスは言います。
ディーツ自身も、クマビスが主要な貢献者であることを認めているようで、「コーディングに関する作業の約90%を彼が行った」と述べています。一方、ディーツは当初「初期の開発に資金を提供した」と述べ、オフィスのスペースやチームの食事代を負担したことに言及していました。クマビスは、「ディーツが何かにお金を払ったことはない」と明言し、領収書の提出を求めました。
ディーツが資金を提供した内容を詳しく聞いてみると、寿司屋のランチやディナーの代金を支払ったと答えました。オフィススペースについては、ディーツがTechCrunchのビデオを紹介してくれました。そこには、パロアルトにあるハッカーハウスLove Nestの"父親"としての役割が紹介されています。
ディーツはベッツがLove Nestに住んでいて、その家賃はイーサリアム財団から支払われていると述べています。ディーツはVaporに関連する作業がLove Nestで行われていたため、間接的にその開発を補助していたのではないかと推測しているようでした。ディーツはLove Nestで働いたことによる利益はクマビスが受け取っていないことに同意し、「彼はまだ本業を辞めていなかったので、実際には私たちのオフィスの外で働いたことはありませんでした」と語っています。
そして、イーサリアム財団の助成金の問題です。Devcon 0で、ディーツはブテリンとウッドにVaporへの資金提供について話をしていました。ディーツはカリフォルニアに戻ると、3万ドルの助成金の申請書を書く作業に取りかかりました。彼の記憶では、助成金の6〜7割をディーツが提供し、残りをベッツが出したといいます。この書類はディーツが運営していると思われるサイトでダウンロードすることができます。ただ、この文書がイーサリアム財団が受け取った最終版なのか、それとも初期の草稿なのかを確認できませんでした。
助成金の文書には記載されていませんが、ディーツとクマビスの両者は、ディーツに支払いを認める条項について言及しています。ディーツは、Vaporプロジェクトへの貢献に対して、助成金3万ドルの10%を受け取ることになっていたようです。
ディーツはこれを、自分が支払った夕食代や助成金の申請に費やした時間に対して正当な報酬だと考えていました。ディーツはメッセージの中で、3,000ドルは「私がプロジェクトのために負担した費用の額だ」と述べています。この金額にはVaporが設立される前にDevcon 0に参加した際の飛行機代も含まれていることを明らかにしています。彼の試算によると、寿司ディナーにかかった費用は700ドルほどだったそうです。
これはクマビスの心配の種となりました。なぜ助成金の一部が出資者の支払いに使われるのか理解できなかったのです。ディーツは「彼は給料ではなく、自分のために一部を使うつもりでした。これでは意味がありません。」と言っています。またクマビスは、私が確認していないディーツからのメッセージにも言及しており、そこには助成金の10%ではなく15%を期待していると書かれていました。
この助成金は実際に支払われたのでしょうか?
繰り返しになりますがこの問題は議論の余地があり、イーサリアム財団だけが公式に解明できることかもしれません。ディーツは「はい」と言っています。この主張の根拠は、クマビスが後にイーサリアムのウォレットの開発のために財団から助成金を受け取ったことにあるようです。彼は、クマビスが、彼とベッツが助成金を書くために行った作業の報酬を受け取ったということを暗に示しています。
ディーツが裏工作を疑っている理由のひとつは、クマビスがプロジェクトから離脱したことに驚いたからだといいます。彼の話によると、VaporのGithubとSlackチャンネル(前者は "Metamask "と改称)から自分が外されたのだそうです。「追い出されたと言ってもいいかもしれません」と、まるで不当に追い出されたかのような印象を受けたといいます。
フィンレイはクマビスの話に同意しています。続いてメールで、次のような声明を発表しました。
(ディーツはイーサリアムの創始者であるとは主張していませんでした。)
私たちは今、向こう側に出て、議論の余地のない真実の穏やかな日差しの中に戻ることができます。Vaporは死にました。そしてMetaMaskはConsenSysの旗の下に現れ、クマビス、ダン・フィンレイ、ジョセフ・ルービンによってその未来が定義されました。
2. 歴史:ConsenSysの様々な顔
MetaMaskを理解するためには、その母体となった会社の姿を明確にする必要があります。しかし、ConsenSysは確固とした姿を簡単には明らかにしません。ConsenSysはその7年の間、市場の変化やオペレーションの混乱に合わせて何度もアプローチを変えてきました。
ConsenSysのヘッドエコノミストであるレックス・ソコリンは同社のさまざまなフェーズについて3つの異なる変化を挙げて説明してくれました。ここからはこれらの変化がMetaMaskの開発にどのような影響を与えたのかを検証していきます。
2.1 フェーズ1:クリプト・バーニングマン
クマビスが参加したConsenSysは、スタートアップの研究所のようなものを目指していました。優秀な技術者を集め、彼らに資金援助と自由裁量を与えて、クリプトエコシステムが必要とするものを作り上げることを目指していたのです。
その精神は崇高なものですが、それが逆にしがらみの少なすぎる環境を生み出していました。ソコリンが指摘するように、ルービンはこの時期、100社の企業に何百もの異なる方法で資金を提供しており、「中にはかなり緩い方法もあった」といいます。
同じくクリプトウォレットを提供するRainbowの共同創業者であるマイク・デマレはConsenSysのこの側面を「給料をもらっているバーニングマンのようなものです」と強く表現しています。彼はこの会社をよく観察し、この会社の下で過ごした多くの人を採用しました。
このことはMetaMaskにとって良いことでもあり、悪いことでもあります。
一方では、クマビスとフィンレイがプロジェクトを推し進めていました。当初チームはMetaMaskはもっとシンプルなプロジェクトですぐに作れると考えていました。しかしソコリンは「いい意味で終わりのないプロジェクトになりました」と言及しています。 もし、より厳しい納期や最終目的があったならば、MetaMaskはここまで強固なものにならなかったかもしれません。
逆に、ConsenSysの緩さはプロジェクトのビジョンのなさを意味します。クマビスとフィンレイは非常に優秀でしたが、彼らはMetaMaskを消費者向けのプロジェクトではなく、開発者向けのツールと考えていたのです。ファントムのCEOであるブランドン・ミルマンはAPIプロバイダーである0xで働いていた時にMetaMaskチームと提携していました。彼はこの明確な傾向とその背景にある論理を強調します。
開発者に焦点を当てることは2014年当時は理にかなっていたかもしれませんし、永続的なメリットもありましたが、消費者の利用に関する長期的な計画がなかったことがMetaMaskの妨げになっていました。現在の不満の多くはサービスの直感性の欠如に起因しています。これらの決定の多くは最初から焼き付けられていたようです。
2.2 フェーズ2:切り捨てと生き残り
高揚した2017年の後、クリプトは2年ぶりの冬に低迷しました。19,000ドルという高騰した価格で取引されていたビットコインは3,000ドル近くまで急落し、イーサリアムは1,400ドル近くから84ドルまで下落しました。
必然的にConsenSysも大きな打撃を受けました。保有資産の価値が暴落しただけでなく、クリプトへの試み全体への信頼が失われたのです。これまで以上に、表向きは学識のある人が「ブロックチェーンには大きな可能性があるが、クリプトにはない」と宣言することが流行しました。
ConsenSysはまさにこの種の疑似懐疑主義者に奉仕するためにピボットしました。ConsenSysは無心になって花を咲かそうともがく何十ものスタートアップに水を与えるのではなく、ブロックチェーン革命を探求するための知識とサービスを大規模な機関に提供することに注力しました。銀行、メディア企業、政府などがConsenSysのコンサルティングサービスを利用するようになりました。ソコリンは同社は10の中央銀行にデジタル通貨プロジェクトへの助言をしたと述べています。
しかし、ConsenSysは財務的に健全な状態ではありませんでした。2018年末、同社はより良い財務基盤を整えるために、スタッフの13%を解雇しました。MetaMaskがこの時期を乗り切ったのはすでにインフラの中核としての地位を確立していたことを示しています。またそれらの削減が行われた同じ年にMetaMaskは100万ダウンロードを突破しました。これはわずか数年前にY Combinatorから見送られたプロジェクトとしては悪くありません。
2.3 フェーズ3:分割・合理化
2020年からはConsenSys組織の再編に着手しました。資金調達に苦戦した同社は2つの事業体に分割します。それがConsenSys MeshとConsenSys Softwareで、それぞれに特徴があります。
ConsenSys Meshは事業ポートフォリオを俯瞰し、新たな企業に資金を提供する投資家としての役割を果たします。
一方でConsenSys Softwareは、同社の優れた技術資産を束ねてより分かりやすい形で提供するものです。この新しいバナーの下には、Infura, Truffle, Codefi, Diligence, そしてもちろんMetaMaskがありました。2020年8月、ConsenSysがJPモルガンからビジネス・ブロックチェーン・プラットフォームを買収したことで、この5つのグループにQuorumが加わることになります。
この分割に際して再び人員削減を行い、14%の人員を削減しました。少なくとも、戦略的な作戦としてはそれは報われたようです。ConsenSys Softwareは2021年4月に6,500万ドルの資金調達を発表し、続いて11月に2億ドルの上乗せを行いました。
暗号通貨市場の高騰もさることながら、Third PointやMarshall Waceといった優良金融機関からの支援は、ConsenSysの新体制への信頼の証でもあります。
MetaMaskにとってこの再編はある種の論理的帰結だったのでしょう。
ConsenSysは6つの異なるサービスの間で真の意味でのシナジー効果を促進したいと考えているようです。これは、ConsenSysがソフトウェアのサラマガンディを管理していた間は、うっすらと理論的に残っていた利益です。プロダクト数が減れば、本当の意味での橋渡しができるはずです。
それと同じくらい重要なことは最終的に資金を得ることができるということです。ConsenSysは資金調達がうまくいっているだけでなく、入ってきた資金をいくつかのプロダクトに分ける必要もなくなっています。開発プラットフォームであるInfuraと並んで、ポートフォリオの明確なスターであるMetaMaskは真の優先事項となるでしょう。
このような明確な結論が出るのはそれほど早くはありません。MetaMaskの人気は2021年に急上昇し、世界で最も人気のあるブロックチェーンアプリケーションの1つとなりました。ConsenSysは自分がそれに見合うスチュワードであることを証明する必要があります。
3. 定義:クリプトウォレットとは何か?
MetaMaskの将来性をさらに検討する前に、クリプトウォレットが何をするもので、ユーザーが何を期待できるのかをより具体的に定義する必要があります。
Web3のプリミティブを解析することはしばしば困難であり、単一のアナロジーが全体像を捉えることはほとんどありません。そこで今回は、5つの例え話を使ってクリプトウォレットを紐解いてみましょう。最後には、ウォレットの機能性、エコシステムにおける位置、重要性を把握することができるでしょう。
ウォレットは財布のようなものである
ウォレットは銀行口座のようなものである
ウォレットはパスポートのようなものである
ウォレットはブラウザのようなものである
ウォレットは魔法の目録のようなものである
3.1 ウォレットは財布のようなものである
これは簡単なことです。クリプトウォレットの名前の由来は通常の財布のような機能を持っているからです。お金を保護し、使用できるように設計されています。地元のコーヒーショップで信頼のおける札入れを取り出すようにOpenSeaでNFTを購入する際にはMetaMaskにログインします。
3.2 ウォレットは銀行口座のようなものである
これはある点では真実である一方で、2つの大きな理由により、全体像ではありません。
クリプトウォレットは実際には資産を保管しない
クリプトウォレットは実際の銀行口座よりも多くのことができる
これらについて説明しましょう。
まず、伝統的な銀行口座が文字通りお金を保持しているのに対し、クリプトウォレットはそうではありません。あなたのビットコインやイーサリアムはMetaMaskに保存されているわけではありません。その代わり、それらの資産はブロックチェーン上に存在します。クリプトウォレットが管理しているのは「秘密鍵」と呼ばれるもので、これは誰でも資金を管理できるようにするための秘密のパスコードのようなものです。
その点では銀行口座とあまり変わりません。JPモルガン・チェースのアプリを起動し、パスワードを入力して残高を見るとき、あなたは文字通りお金そのものを見ているのではなく、デジタルで表現されたお金を見ているのです。
この例えは、資産全体を表示するもののその保管については責任を負わない家計簿アプリのようなものを想像するとわかりやすいでしょう。クリプトウォレットと暗号資産の関係も同じようなものです。
第二に、クリプトウォレットは銀行口座よりも多様な活動を行うことができます。銀行口座では、ユーザーは足し算と引き算という2つのコマンドを効果的に操作することができます。お金を入れたり、お金を出したりすることができます。
クリプトウォレットは、この点で銀行口座とは異なり、より似ています。資金の加減だけでなく、クリプトウォレットを使ってstakingによる利息の獲得、ローンの発行、友人への支払いなど、さまざまな操作が可能です。これらはウォレットの中で実行されるわけではありませんが、ウォレットはこのような関係の形成を促進する媒介者です。
チェイスの口座で住宅ローンを組むように、MetaMaskの口座で暗号資産ローンを組むことができるのです。
3.3 ウォレットはパスポートである
Web3はオンラインのパラレルワールドのようなものです。異なる専門用語、異なる文化的規範、異なるお金を理解する必要があります。MetaMaskのようなウォレットがなくても暗号経済の一部に参加することはできますが、この領域の魅力の多くに関わるにはウォレットが必要です。
例えば、Sushiのような分散型の取引所を利用するには対話するためのウォレットが必要になります。Olympusが提供している、不条理でおそらく持続不可能な利子を利用したい場合も同様です。OpenSeaでNFTを購入するには確かにウォレットが必要ですし、世界で最も人気のあるブロックチェーンゲームであるAxie Infinityをプレイするにもウォレットが必要です。
MetaMaskのような企業がこのアクセスを提供し、あなたのアイデンティティを一緒に提供しています。非中央集権的なウェブを匿名(または偽名)で閲覧することができる一方で、NFTやENSなど、自分が何者であるかを示す情報を添付することもできます。
ウォレットはパスポートであり、自分のアイデンティティを表し、新しい世界を開くものです。
3.4 ウォレットはブラウザである
ウォレットは資産を操作するのに便利なので、クリプトを始める場所になることが多いです。例えば、イーサリアムをLunaと交換したい場合、MetaMaskを使って交換できます。同様に、友人にお金を送ろうと思ったら、Coinbaseではなくウォレットから始めるでしょう。
それがウォレットに力を与えているのです。ウェブブラウザのように、クリプトウォレットは私たちの経験やブロックチェーンとのやりとりを仲介し、私たちと私たちがやりたいことの間に位置します。
3.5 ウォレットは魔法の在庫である
私が好きな抽象的な表現のひとつに、ソコリンの言葉があります。彼はウォレットを "魔法の在庫 "と表現しました。というのも、財布には通貨だけではなく、経済的、社会的、芸術的な資産や関係性など、さまざまなものが入っているからです。
例えば私の財布の中には...
いくつかの暗号通貨
主にイーサリアムと呼ばれる不換紙幣に最も近い通貨が入っています。他の通貨やNFTを購入したり、Ethereumネットワークを使用する際に発生するガス料金の支払いに使用します。イーサリアムドメイン
私はクリプトドメイン名を提供するEthereum Name Servicesを通じてmariog.ethを購入しました。これはチェーン上のアイデンティティとして機能します。視覚的なNFTの数々
もちろんPhilosophical Foxも所有していますし、他にもいくつかのNFTを所有しています。The Generalistが作成したトークン
今年の初めに、クラウドファンディング、マルチプレイヤーメディア、NFTの実験の一環としてGENERALISTトークンをミントしました。DAOのトークン
DAOの研究の一環として、いくつかのDAOに参加しました。その際に得たメンバーシップと統治権を意味するトークンを所有しています。
これはクリプトウォレットが現実の世界の同等品よりもどれほど強力であるかを示すかなり目まぐるしい組み合わせでしょう。
この組み合わせを理解するために、MetaMask社の製品を見てみましょう。
4. プロダクト:機能的だが欠点もある
消費者向けのサービスで有名なMetaMaskですが、他にも開発者と教育機関という2つのステークホルダーがいます。
4.1 コンシューマー向け
2,100万人以上がMetaMaskを利用しており、そのほとんどがコンシューマーです。これらのユーザーのためにMetaMaskは4つのコア機能を果たしています。
管理
ユーザーは自分が保有しているトークンを確認し、秘密鍵を管理することができます。トランスファー
MetaMaskは、ユーザーがトークンを他の人に送ったり、自分のアカウント内で移動させるためのインターフェースを提供します。購入
ユーザーはMetaMaskウォレットを使ってトークンやNFTを購入することができます。スワップ
最近追加された機能で、MetaMaskは顧客が他の取引所経由でトークンをリモートで交換することを可能にします。これは巨大な収益源であることが証明されています。Signing
MetaMaskを通じて、DAOへの参加やNFTのミントなどのさまざまな取引を検証することができます。これは、verificationの略語である「Signing」によって行われます。
MetaMaskはこの機能をブラウザ拡張機能とモバイルアプリの2つの形で提供しています。後者は2020年の秋にリリースされた、より最近の追加機能です。どちらもユーザーに多くのことを求める、かなり素朴な体験です。
それではその体験をご紹介しましょう。
まず、MetaMaskをブラウザで見ると、このようになります。隅にキツネのアイコンがあり、ログインするとミニサイズのポータルにアクセスでき、残高が表示され、3つの重要な機能に素早くアクセスできます。
「Buy」「Send」「Swap」の3つです。
より詳細な情報を得るために、バランスの残りの部分を表示しています。
ユーザーが「Buy」を押すとモーダル画面が表示され、さまざまなクリプトオンランプへのリンクや直接入金が可能になります。
「Send」を押すとかなり分かりにくい画面になりますが、この画面では、自分のアカウント間でトークンを移動したり、別の相手に送ったりすることができます。
右上のプロフィールアバターをクリックすると、MetaMask内の異なるアカウントが表示されます。これにより、アカウントの追加やアカウントのインポート、ハードウェアウォレットの接続が可能になります。ハードウェアウォレットとは、USBサイズの小さなデバイスで、MetaMaskのようなものと同じ役割を果たしますが、オフラインで動作するため、侵入される可能性が低くなります。(もちろん紛失する可能性はありますが。)
「Swap」をクリックするとMetaMaskの準取引所機能が表示されます。このウォレットは手数料と引き換えに、ある通貨と別の通貨をできるだけ安く交換できる場所を探してくれます。例えばETHをSUSHIと交換する場合、「slippage tolerance」を設定することで、価格の変動にどれだけ耐えられるかを判断することができます。前述のように、この小さな機能は驚異的な金儲けにつながります。
最後に、ある種の取引をオンチェーンで検証する時、MetaMaskは行動を開始します。例えば、OpenSeaにアクセスしてNFTを購入しようとすると、MetaMaskがポップアップして「署名」と「確認」を求めてきます。
機能的には素晴らしく抑制されていますが、MetaMaskは簡単な製品でもなければ、十分な機能を備えたプロダクトでもないように感じます。アカウント間の移動は何となく危険な感じがしますし、MetaMaskは取引を簡素化しようとしていますが、専門用語、最大値、タイミング推定値、ガス情報などが散乱しているため、中級者でも困惑してしまいます。MetaMaskは関連データにアクセスできますが、ユーザーが購入したNFTを見ることはできません。
7年の歳月をかけて開発されたMetaMaskはAmazonのようなシームレスな1クリックチェックアウトにはまだまだ遠い存在だと感じています。
しかしこれはMetaMaskのプロダクトの一面に過ぎないことに注意する必要があります。フロントエンドには欠陥があるかもしれませんが、MetaMaskのバックエンドは非常に優れています。同社はそのアーキテクチャに真剣に取り組み、可能な限り最も安全なプロダクトを作るために多大な努力をしています。その技術がMetaMaskを開発者のお気に入りにしています。
4.2 開発者向け
あなたが開発者であればMetaMaskの紛らわしい消費者体験は問題ではないかもしれません。私たちが思っている以上にMetaMaskは開発者ファーストのプロダクトなのです。
レックス・ソコリンはこの焦点を強調しました。彼はチームの最優先事項はコア機能の改善とセキュリティの強化であるとしながらも、"チームが2番目に優先しているのは開発者である "と述べています。
同氏の説明によると、MetaMaskが存在する理由の大部分は、クリプト開発者が消費者にアクセスするためのインターフェースを提供するためです。より多くの開発者がMetaMaskを使用することで、プロダクトの価値が高まり、より多くの消費者を惹きつけ、次の開発者の波を呼び込むという、好循環のフライホイールが形成されると考えています。
今のところこの計画は非常にうまくいっています。MetaMaskはクリプト領域全体で17,000以上のサービスとの統合を誇っています。
開発者にとって魅力的な製品にするために、MetaMaskは製品の活用を容易にするためのアクセス可能なドキュメントを作成しました。これは同業他社との差別化ポイントであり、Coinbaseでさえも同等の分かりやすさを提供していません。PhantomのCTOであるフランチェスコ・アゴスティは、ここでMetaMaskがいかに効果的であるかを述べています。
これから紹介するInsurgentsはよりスムーズなユーザー体験を提供することには成功しているかもしれませんが、開発者に対してはこれほどまでに磨きをかけていないようです。
4.3 機関投資家
今年の初めにMetaMaskは次の大きな動きを発表しました。それは、ファンド、マーケットメーカー、トレーダーなどの機関投資家の顧客への対応です。コアインターフェイスはマーケティング資料に似ていますが、舞台裏ではMetaMaskはセキュリティ、カストディ、トランザクション機能を追加しています。
セキュリティ面では、MetaMaskはConsenSysの兄弟会社の1つであるCodefiを活用しているようです。ConsenSysは過去に、あまりにも多くのサイロ化されたプロダクトを作り、互いに連携したことがないと批判されてきましたが、今回のケースでは、Codefiの「Trusted and Automated Compliance」がMetaMask Institutional(MMI)」を強化することで、両者が連携しているように見えます。
カストディ面ではMetaMaskはBitGo、Cactus、Qredoの各プロバイダーと提携しています。しかし提供するサービスを強化するためには、他の大手プレーヤーを追加する必要があるでしょう。
最後に、MetaMaskのインスティテューショナル・マーケティング・サイトでは、合理化された取引プロセスによりオペレーションが簡素化され、ガス料金が節約できると述べています。
これらを総合すると、MetaMaskの強みを活かした大企業向けサービスへの最初の挑戦と言えます。ConsenSysはこれまでに大企業との間で高い評価とネットワークを築いてきましたが、これらの関係をMMIの利益につなげることができるはずです。
5. トラクション:MetaMaskの超音速化
MetaMaskのプロダクトの弱点は、適切な背景を伴っていなければなりません。MetaMaskのチームには時間的な余裕がありましたが、その下にある職場の構造は決して快適なものではありませんでした。さらに、この1年でMetaMaskは、他のサービスでは壊れてしまうようなスケールの大きな成長を遂げました。
MetaMaskの月間アクティブユーザー数は100万人から2,100%増加し、1年余りで2,100万人を超えました。嬉しいニュースであることは間違いありませんが、MetaMaskのシステムとそれを維持する人々にどれほどのプレッシャーを与えたかは想像に難くありません。
ソコリンはMetaMaskの欠陥について、疲れ切ったような、憤慨したような笑顔で次のように述べている。「チームのストレスが尋常じゃないんだよ。」
MetaMaskの急成長は単に使用率だけではなく、収益も急速に拡大させています。2020年10月には、先に紹介した「Swap」機能を発表しました。Swapとは、前述のように、ユーザーが自分の通貨を交換すると、MetaMaskが別の取引所で取引を実行し、その対価としてMetaMaskは0.875%の手数料を得ることができるというものです。
これは非常に鋭い動きであることがわかります。巷には法外な手数料を取るサービスが多いにもかかわらず、MetaMaskは極めて効果的にスワップを収益化することに成功しました。調査会社のDelphi Digitalは、MetaMaskのこの機能による収益は2021年に2億ドルに達すると報告しています。それに比べて、SushiのようなDeFiの人気商品は、同じ期間に7000万ドルしか稼げませんでした。
DelphiはMetaMaskの収益に関する分析を挑発的に終わらせています。
このような提案は、突拍子もないものではありません。MetaMaskはこれまでに何度かトークンの発行を検討してきました。最近では、ジョセフ・ルービンが$MASKの提案をツイートしました。
トークン化はMetaMaskに意味があるのでしょうか?
一概にそうとは言えません。ひとつには、MetaMaskはトークンがどのような機能を提供するのか、明確なアイデアを公に表明していません。過去の議論では、そのようなトークンは顧客が潜在的な新機能に投票できるようにするもので、"token-weighted backlog "と呼ばれていたようです。デマレによると、これはこのようなプロジェクトが行使するには「最も弱い価値の主張」だそうです。
さらに、トークンはプロジェクトに短期的な熱を加えるだけというリスクもあります。OpenSeaについての考察では、RaribleのRARIトークンがNFT市場で一時的に支配的な地位を得たことを紹介しましたが、それは長続きしませんでした。トークンを持たないOpenSeaは消費者の需要に適した堅牢で集中的な製品を提供し、彼らを追い越しました。デマレは「トークンを持っているからといって勝てるわけではありません。しかし、それはあなたを後押しするものです。」と語ります。
18ヶ月間ジェット燃料で前進してきたMetaMaskは、衝撃を必要としている会社というよりも、リセットを必要としている会社のように見えます。PhantomのミルマンCEOは、$MASKトークンの可能性について次のように述べています。
全体的に見て、MetaMaskが2021年のハイパードライブを生き抜き効果的に収益化したことは大いに評価するに値します。しかし、トップのポジションを維持するためには新たな課題に対応していく必要があります。
6. 未来:ウォレットはどこへ行くのか?
暗号通貨ほど急速に動いている分野はありません。新しい企業、技術、金融機関が絶えず登場し、日々意味のある変化を遂げています。私たちは今、初回の最初の1分間にいますが、この先には、私たちの背後にあるよりも多くの野生の日々があります。
つまり、クリプトウォレットは定義上、初期段階にあると言えます。半分もできていないものであり、変化するであろうユースケースに対応するために作られ、利用される可能性のあるテクノロジーを搭載しています。このような変動性は、リスクと同時にチャンスでもあります。
Web3分野では、ウォレットに直接影響を与える4つの進化が予想されます。
競争の激化
幅広い普及
ネットワーク全体での需要急増
より多くのユースケースが出現
それぞれがMetaMaskの将来に影響を与えるでしょう。ここでは、これらを解き明かし、現在の市場のリーダーがどのような位置にいるのかを考えてみたいと思います。
6.1 競争の激化
2016年にMetaMaskが正式に発売されたときは競合他社が極めて少ない分野であるという利点がありました。その後の数年間、他の企業も参入してきましたが、この空間で最も利用されているサービスとしてMetaMaskを倒すことに成功した企業はありませんでした。
しかしこれからもそうとは限りません。既存のプレイヤーがウォレットサービスを追加したり、MetaMaskの脆弱性を利用しようとする反乱分子が現れたりと、様々な角度から競争相手が現れています。
最初のカテゴリーではCoinbaseが最もわかりやすいプレイヤーです。この暗号通貨取引所は、コアプロダクトと同様のデザインを誇るウォレットも提供しています。Coinbase WalletはNFTのサポートを提供し、メインの取引所に接続して取引のプロセスを簡素化します。
親しみやすいサービスではありますが、少なくともカジュアルなユーザー以外にとってはCoinbaseがこの分野での勝者となる可能性は低いと思われます。MetaMaskはさまざまな取引所を集約し、スワップを介して最適な価格を見つけてくれますが、Coinbaseにはそこで検索を行う動機がほとんどありません。これは同社の主力製品がいかにウォレットの実用性を微妙に制限するかを示す一例に過ぎません。
Squareとして知られていたジャック・ドーシーのBlockも同様の問題に直面する可能性があります。Blockはまだウォレットを提供していませんが、サブブランドであるSpiralの支援のもと、ビットコインの分野でウォレットを開発していると噂されています。Spiralは他のすべての挑戦者よりもビットコインに執着しているように見えますが、MetaMaskが支配しているイーサリアムに特化した世界に、Spiralまたは同様の事業体が進出する可能性があります。繰り返しになりますが、有用なオンランプになる可能性はあるものの真のユーザーはBlockがSwapサービスに与えたデフォルトの力にいずれ不満を抱くかもしれません。
分散型取引所やその他のプロジェクトもこの分野で活躍しています。Rainbowのデマレによると、今後UniswapとAaveの両方がモバイルウォレットを発表するようです。少なくとも彼の視点ではこれらの組織は同じ問題に屈することになるでしょう。つまり、ウォレットを真に独立した存在としてではなく、別のビジネスユニットを強化するための手段として使用するのです。
そうなると、Rainbowをはじめとする多くの新興企業が残っています。デマレと彼のチームにとってプレイブックはシンプルなものです。普通の消費者が使えるウォレットを作り、新しい体験にふさわしい教育とサポートを提供することです。
Phantomも同様のアプローチをとっていますが、その際には異なる方法を採用しています。ミルマンとアゴスティは、Ethereumのエコシステムをサポートすることから始めるのではなく、Solanaの盛り上がりを利用することにしました。
現在、PhantomはSolanaのユーザーに支持されており、このアプローチは明らかに成果を上げています。チームの最近の発表によると、Phantomの月間アクティブユーザー数は150万人で、週に10万人が新たにインストールしているといいます。Phantomは、ギャリー・タンとa16zからの出資により900万ドルを調達しています。
Argentは、aradigm、Hummingbird、Indexなどの大手企業から1620万ドルを預かっている、もう一つの著名なプレーヤーです。イーサリアムのエコシステムに焦点を当てたArgentは、AaaveやCompoundなどのDeFiプロトコルを通じて20%のAPYに簡単にアクセスできます。ある情報筋によると、Argentは技術的な観点から強力な安全機能と堅牢なアーキテクチャで輝いているといいます
他のプレーヤーについては別の記事で詳しく紹介したいと思います。Trust、Pillar、Dharma、Frame、Balance、Torus、WalletConnect(SDK)など、多くの企業がエコシステムにおいて重要な役割を果たしています。そのほかにも、未発表のプロジェクトがいくつかあり、すでに話題になっています。
複数の勝者を受け入れることができるほど急速に成長している空間があるとすれば、それはクリプトです。そのためMetaMaskは競合についてあまり心配していませんが、ブロックチェーンの一般的な性質により、新しいプロバイダーへの切り替えは他の業界よりもはるかに簡単です。すべてのデータがチェーン上に保存されているため、ユーザーはコンテキストを失うことなく、かなり楽にウォレットを別のウォレットに交換することができます。デマレが言うところの「ホールセール・エジェクション」は消費者にとってはメリットがありますが、この分野のプレーヤーにとっては防御力が低下します。さらに多くのプロジェクトがオープンソースであるため、フォークや再利用が可能であるという事実もこの状況を悪化させています。
以上のことから、クリプト領域のダイナミックさにより、MetaMaskは多くの競合他社と乱用されやすい消費者層に直面する可能性が高まっています。
6.2 より多くの採用
MetaMaskが多くのライバルに直面する理由の大部分は、クリプトが主流になりつつあり、消費者、機関投資家、開発者などの新しいユーザーの波をもたらしているからです。
まず、消費者について見てみましょう。3年前、クリプトウォレットのユーザーは推定3,100万人でしたが、現在では8,000万人近くになっています。
このような数字は、他のテクノロジーの導入に比べるとまだ見劣りします。2018年、世界銀行は従来の銀行にアクセスできるのは38億人と推定していますが、現在のアクティブなインターネットユーザーは46億人です。いずれクリプトウォレットが同様の普及率を達成することになるのでしょうか?
このような高みに到達するかどうかは別として、この分野のプレイヤーは幅広い層にアピールする必要があります。MetaMaskにはこの点で知名度という強みがあります。同社のプロダクトは完璧ではありませんが、デフォルトのプロバイダーです。デマレは、「Metamaskはブランドになり、そして同市にすらなりつつあります。それが私たちの課題です。」と語ります。
MetaMaskを失墜させるためにRainbowは積極的に対抗策を打ち出しました。MetaMaskには専門的で難解な印象がありますが、Rainbowにはソーシャルメディアへの挑戦者のような勢いと色気があります。それは消費者にとって親しみやすい声と包括的な倫理観と結びついています。消費者への普及について、Raimbowのコミュニティリーダーであるジャクソン・デイムは次のように述べています。
これからのWeb3では次の1億人のユーザーを獲得するために、よりユーザーフレンドリーで直感的な体験が求められます。エコシステムの中で、MetaMaskをこのような言葉で表現する人はあまりいないと思います。
MetaMaskが追いつくにはまだ遅くないかもしれません。MetaMaskには、才能あるデザイナーを雇うための資金がたくさんあるはずです。彼らを納得させることができれば最高の仕事をするための余裕が生まれるでしょう。MetaMaskは開発者向けの製品として確立されているため、真の意味での刷新ができないという課題もあるかもしれません。
デマレは「MetaMaskは、私の弟のホーム画面にあるアプリにはなりません」と語っています。クマビス、フィンレイ、ルービンは彼が間違っていることを願うでしょう。
前述のように、MetaMaskは機関投資家向けに関しては非常に有利な立場にあります。同社の長い歴史が功を奏しているのでしょう。機関投資家向けサービスへの移行についてデマレは次のように述べています。「非常に賢明なことだと思いま ... MetaMaskが5年間変化していないという事実は、ほとんど保守的で(機関投資家にとっては)良いことです。」
また、このプロダクトが歴史的に開発者に焦点を当てていることも重宝されるはずです。WalletConnectのような製品は、アプリ開発者が一度に多くの異なるウォレットとの統合を提供することを容易にしていますが、そのような機能を追加する際にはMetaMaskが最初の寄港地となることがよくあります。現在のチームは、消費者革命を起こすための準備が整っているようには見えませんが、クマビスとフィンレイは、開発者が次にどのようなツールを欲しがるかを知ることにかけては、世界で最も優れています。
デマレもMetaMaskの可能性には強気で、「私は開発者ツールとしてのMetaMaskを信じている」と述べています。
しかし、Phantomのアゴスティは単に1つの顧客層を獲得するだけでは十分ではないと考えています。この分野でのディフェンシビリティに関する議論の中で、彼は次のように述べています。
6.3 ネットワーク全体での需要急増
1年前、Solanaは1.8ドルで取引されていました。この記事を書いている時点では、200ドル弱で販売されています。このような上昇はこのプロジェクトが短期間で隆盛を極めたことを示しています。この先、Solanaのように、マルチチェーン、マルチネットワークの未来に向けて、多くのプロジェクトが繰り返されることになるかもしれません。例えばある種のインタラクションにはEthereumを、別のものにはBitcoinを、第3のものにはSolanaを、第4のものにはTerraを選択することになるかもしれません。
このような増殖は、MetaMaskや他のウォレットメーカーにも影響を与えます。正しい動きというものはありません。これらの企業はマルチネットワークの現実を受け入れ、サービスを拡大すべきなのでしょうか?それとも、1つのネットワークに特化して豊富な機能を構築する方が良いのでしょうか?
新しいチェーンを追加するのは大変な労力を必要とします。ソコリンは、「新しいチェーンを追加するのは非常に難しい」と言います。技術的な複雑さが増すだけでなく、ユーザーが混乱する可能性も高まります。取引の種類に応じて異なるネットワークを切り替えなければならないため、ある程度の知識が必要で、そのオンボーディングには時間がかかります。
しかし、ユーザーが常に異なるチェーンを行き来しているのであれば、このような機能がないと意味がありません。フランチェスコ・アゴスティは、この問題をうまくまとめています。
今のところ、MetaMaskはイーサリアムとそのエコシステムをサポートしています。今のところ、それ以外のことをする必要はありません。しかし、SolanaやTerraのようなプロジェクトが繁栄していけば、MetaMaskはその範囲を広げる必要があるかもしれません。
6.4 より多くの用途
汎用的なウォレットという概念は徐々に陳腐化していくかもしれません。オンチェーンでより多くのやり取りが行われるようになるとプロダクトはそれらに特化するようになる可能性があります。実はすでに特定のニッチを獲得しているウォレットがあります。
ジャクソン・デイムはGnosis Safeが「資産を自己管理しようとするほぼすべてのDAOにとって事実上の選択肢」となっていることを強調しています。このサービスのマルチシグネチャー機能はDAOの共同体的な財務構造に特に適しています。
同じような傾向がゲームにも見られます。すでにこの空間に明確に奉仕することを公言しているウォレットがあり、Wombatはその一例です。Wombatはその一例で、ブロックチェーンゲームをプレイする際のボーナスや豊富なNFTサポートにより、100万人近いユーザーを獲得しています。
いずれは、このようなサービスを提供するサブセクターがたくさん出てくるかもしれません。アゴスティは再びこの可能性をうまくまとめています。
MetaMaskがこれらのすべてをキャッチすることを期待するべきではありませんが、漂着してしまうような鈍足にならないようにしたいと考えています。これまでのところ同社は最も機敏で迅速な会社ではありませんでした。
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『ダークナイト』のラストでは、ゴッサムは荒廃していました。レイチェル・ドーズの死によって狂気に陥った地方検事ハービー・デントは殺人的な暴挙に出ましたが、マントをまとったブルース・ウェインによって止められました。ウェインは高潔なデントが殺人者であることを知られたことによる心理的ダメージから街を守るため、ゴードン警視総監とある計画を立てます。バットマンがデントの罪を被り、そしてゴッサムは道徳や善意というものがそれほど流動的ではないと信じて安心して眠るというものです。
映画は、ゴードン総監が息子に語りかける場面で終わります。何も悪いことをしていないのになぜバットマンが逃げているのかという息子の質問にゴードンは「彼はゴッサムにふさわしいヒーローだが、今必要としているヒーローではないからだ」と説明します。
MetaMaskはクリプト業界のヒーローです。6年以上もの間、美しくなくとも、機能するプロダクトを作るために努力してきました。信頼できる重要なプリミティブです。これにより、MetaMaskは何千万人ものユーザーと何千人もの開発者にWeb3を提供してきました。デマレは同社の貢献を端的に表現します。「MetaMaskなしでは、私たちの誰もここにいないでしょう。」と
このような極めて重要な貢献は尊敬と報奨に値します。しかしそれは、世論の渦がMetaMaskに優しくなることを意味するものではありません。より多くの消費者がMetaMaskを利用するようになると、フロントエンドにはない洗練されたデザインが求められるようになります。このギャップが本当に解決されるまでは何らかの苦情が続くでしょう。
MetaMaskは気にしないかもしれません。MetaMaskは親会社の構造の変化やクリプト市場の残酷な気まぐれにも耐え、すでに多くの過酷なテストに耐えてきました。ゴードン警視総監がバットマンの追放について言うように、「彼はそれに耐えられる」のです。人気がないことに耐えながらも有用な企業があるとすれば、それはMetaMaskでしょう。愛されてはいないかもしれませんが、耐え続けることができます。