Stripeという文明 : Thinking Like a Civilization.
今回は海外でもかなり拡散されたThe GeneralistというWebメディアのStripe分析記事を和訳していきます。
この記事が凄かった点は、Stripeについて、インタビューなどを駆使しながら、ものすごく深く分析している点です。これまで数多のStripe分析記事はありましたが、ここまで深く分析している記事はなかなか無いです。
特に、コリソン兄弟のパーソナリティやStripeの文化、M&A戦略やベンチャー投資戦略などはこれまであまり語られていませんでした。この記事はそういった部分まで深く切り込んでいます。
そのため、Stripeは表面的には知っているけど、詳しくは知らない!という方や、FinTech好きだけど、Stripeの凄さあんまり知らない…という方に刺さる記事になっていると思います。もちろんStripeをあまり知らない方でも楽しめます!
見て損はない記事だと思いますので、かなり長いですがぜひ最後までご覧ください。
ちなみに本記事の著者は著者はThe Generalistのライター、マリオ・ガブリエレさんです。
マリオ・ガブリエレさんのTwitterは ↓
Stripeの記事以外にも素晴らしい記事ばかりを書いているので、ぜひご覧ください!もちろん今回の和訳も本人に許可を得ています。
また、僕自身も「The Generalist」の他の記事の邦訳含め、有益な情報を発信していきますので、ぜひフォローしてやってください。
また、この記事はStripeをとても深くまで分析していますので、もしStripe自体をあまり知らない、という方はぜひこちらのStripeの基本的な部分を解説した記事も併せてご覧ください。
それでは、以下本編です!
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もしもロムルスとレムスが仲良くしていたら?
物語によると、ローマの建国者たちは、最初の集落を作った後、都市を建設するのに適した丘をめぐって対立したという。レムスはアヴェンティヌス山が好きで、ロムルスはパランティーノ山が好きだった。
ロムルスは議論に勝つための最終手段として、レムスを殺害した。その結果、生き残った兄弟は、何百年にもわたって世界を変えるほどの帝国を築いたのです。
建国の物語としては、ロムルスの物語はどちらかというと結果論的な倫理観に基づいています。ローマがもたらした偉大な技術的・文化的な贈り物と比べて、ほんのわずかな殺人にそれほど腹を立てる必要があるのでしょうか?
しかし、この伝説には魅力的な反事実があります。もしローマが残忍な仲間割れから生まれなかったら、ローマはどのようになっていたでしょうか?
もし、ロムルスとレムスがもっと平和な道を歩んでいたとしたら…もしかしたら、彼らには創業者のコーチが必要だったのかもしれません。
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Stripeには、パトリックとジョン・コリソンという文明レベルの思考を持つ人物が2人います。これは、テック業界で最も偉大な経営者たちの中でも稀なことです。イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ヴィタリック・ブテリンを除いて、コリソン兄弟のように千年の時を経た視線や緻密で建築的な愛をもって帝国を建設している創業者はいません。
(マーク・ザッカーバーグでさえ、個人的な権力の蓄積に夢中になっていて、その資格はないかもしれません。)
何よりも、この水平的な視点がStripeを象徴しており、優れた人材採用、有名な文化、洗練された製品戦略を導いています。ただ、だからといって、この会社が永続的な成功を収めているとは言えません。
Stripeは長年活躍している企業のように感じられますが、事業はまだ10年目の始まりです。コリソン兄弟が考える文脈では誤差でしかありません。
「インターネットのGDPを増やす」というStripeのミッションは、世界的に強力な追い風を受けていますが、一方で、同社は過大評価されているとも言え、実際の競争にさらされ、中小企業と企業の間で微妙なバランスを取ろうとしています。
今回の記事では、特に以下の点を中心に、同社のあらゆる側面を掘り下げていきます。
1. 原点:無断での起業
1.1 コリソン兄弟の幼少期〜Autmatic売却まで
私たちは、自分が育った環境を客観的に見ることはありません。故郷の独特の風景、風変わりなもの、ランドマークは、盲目のような親しみやすさの中でぼやけていきます。
ドロミニアは、リムリックから車で40分ほどのところにある、ティペラリー州の静かな町です。美しい湖と、短命だった中世の王朝が建てた13世紀の塔屋の生い茂った遺跡があることで知られています。
実は最近、コリソン兄弟の運命を暗示するある事実が判明しました。今年の4月、パトリックは『Electronic Payments Systems for E-Commerce』というコンピュータサイエンスの本の著者の一人が、兄の幼少期の家に住んでいたことを発見し、ツイートしました。
つまり、運命はユーモラスで、神話は事後的に明らかになります。
予想通り、パトリックもジョンも類稀なる才能を持っていました。電気技師と微生物学者の息子であるコリソン兄弟は、科学的、技術的な探求に溢れた子供でした。コリソン家では、パトリックとジョンが10代になるまでに、高速な衛星インターネットに接続された9台のコンピュータが使用され、彼らの知的探求に大きな役割を果たしました。
16歳のとき、パトリックはLispプログラミング言語の方言である "Croma "の研究でアイルランドの科学コンテストで優勝し、その技術力を認められました。世界で2番目に古いプログラミング言語であるFORTRANに興味を持ったパトリックは、大学の選択や強力な指導者との関係を築き、多くの影響をうけました。
2006年、パトリックは13歳のときに受けたSATのスコアを使って、Lispの生まれ故郷であるマサチューセッツ工科大学に入学しました。信じられないことに彼は、高校の最後の2年間のカリキュラムをわずか20日間で修了したのです。
パトリックより2歳弱年下の彼もまた、学校では優秀な成績を収めており、A1を連続して取得して卒業した、国内でも11人しかいない学生の一人でした。
ジョンは学校を卒業する前に、アイルランドの学校制度で認められている「トランジション・イヤー」を利用して、16歳でアメリカに渡り、パトリックと一緒にボストンに滞在していました。
2007年、兄弟はアイルランド語でお店を意味する「Siopa」をもじって「Shuppa」を設立しました。「eBayに直接対抗する企業を作る」というコリソン兄弟の計画は、アイルランドの起業家育成機関からはあまり関心を持たれませんでしたが、Y Combinatorからは支援を受けました。Y Combinatorは、ポール・グレアムが設立したことで有名なインキュベータープログラムです。
このインキュベーターで、コリソン兄弟は、家族の絆で結ばれたもう一組の天才デュオと手を組むことを勧められました。オックスフォード大学を卒業したばかりのクルヴェールとハリエット・タガーは、"Buy online, Sell online "を意味する "boso "という最初の事業でそれなりの成功を収めていました。
そして、彼らの次の行動は、eBayのパワーセラーのためのプラットフォームであるAuctomacticを設立することでした。当初のアイデアとは異なりますが、コリソン兄弟は参加しました。
これは賢明な判断でした。設立から1年も経たないうちに、Auctomacticは3社による入札合戦の対象となり、最終的には、Communicate.comやBrazil.comなどのプレミアムドメイン名を所有するLive Current Mediaが500万ドルで買収に成功しました。パトリックとジョンは若きミリオネアとなり、特に日本でも大きな話題となりました。
10代で自力で億万長者になったという結果は(ハイテク業界の若者志向のパラダイムの中でも)異例のことですが、その努力やプロセスはもっと素晴らしいものです。
たとえ偉大な創業者であっても、起業は許可不要であり、どんなに若くても誰でも通れる開かれた扉であり、冒険して失敗しても恥じることはない(あるいはそうすべきである)という事実を体得するには何年もかかります。コリソン兄弟がこのことを簡単に理解したのは、その天才的な知性以上に価値のあることです。
結果的に、この異常なまでの大胆さは彼らの次の行動に不可欠なものとなりました。
1.2 /dev/payments
10代でミリオネアになり、大学を卒業するまで酒浸りの生活を送る人もいるかもしれませんが、コリソン兄弟はほとんど息をつく暇もなく次に向けて動き出しました。
Auctomacticを売却した後、ジョンはハーバード大学に入学しましたが、彼らはモバイルアプリを作ることで学費を賄っていました。この比較的シームレスな方法でお金を稼いでいたとき、兄弟はインターネット上の他の場所での決済処理がいかに厄介であるかに気付いたのです。
1998年にPayPalがこの分野に参入し、表向きにはこの問題を「解決」してから約10年が経過しましたが、実際には、膨大な管理作業を必要としたり、何週間も資金が滞留したりと、複雑で厳しい状況が続いていました。
コリソン兄弟は、その綻びに気づくことで、かつてポール・グレアムが「Schlep Blindness」と表現したものを克服したのです。
このモデルを念頭に、パトリックとジョンは2009年からビジネスに着手しました。彼らはそのために、「超最高にクールな」名前をつけました。「/dev/payments」です。
紆余曲折があったとはいえ、Stripeの最初の呼称はエレガントで啓発的なものでした。Stripeは、ビジネスマンではなく開発者が未来の決済スタックを選ぶだろうという、コリソン兄弟の鋭い洞察の1つを強調しただけでなく、そのアーキテクチャは無限の可能性を示唆していました。結局、/dev/は、多くのインフラ問題を先取りすることはできなかったのです。
事業をスタートさせるために、パトリックとジョンは、前回の投資家であるY Combinatorから2万ドル以上の資金を調達しました。
YCのネットワークは、最初の顧客を見つけるのに特に有効でした。コリソン兄弟がMPVをリリースした2週間後、/dev/paymentsが最初のトランザクションを処理し、280 NorthのRoss Boucherがシステムを最初に使用しました。
間もなく、インキュベーターからの顧客が約30人になり、口コミでさらに増えていきました。後にパトリックが語っているように、/dev/paymentの最初の製品は、製品と市場の適合性がほぼ "瞬時 "に証明されました。
幸いなことに、/dev/paymentは名実ともに存続しませんでした。コリソン兄弟は、企業の名前にスラッシュを使うことが許されるかどうかを調べていましたが、細かい点を見逃していたのです。つまり、/dev/paymentsが使っているような先頭のスラッシュは禁止されており、正式な会社名は「SLASHDEVSLASHFINANCE」という意味不明なものになってしまったのです。
このような言葉を組み合わせたメールが送られてくるだけでも名前を変える理由になりますが、実際に困ったのは口頭でのコミュニケーションです。どうすれば、この言葉の意味を正確に伝えることができるでしょうか、
この名前はパトリックとジョンが口説こうとしていたウェルス・ファーゴの堅物の銀行員には特に不評でした。
パトリックと初期の社員で後に CTO となったグレッグ・ブロックマンが語るように、スリムな /dev/payments チームは、名前の問題を解決するため、様々な選択肢を検討しました。選択肢の中には、
しかし最終的に、チームはデフォルトで決定しました。ブロックマンは、もし1週間以内にもっと良い代替案が合意されなければ、/dev/paymentsはStripeになると宣言しました。そのシンプルさ、クレジットカードの磁気ストライプへの暗示、コードの行数への言及、摩擦のないスピードへの暗示はこれからの会社にとって完璧な名称でした。
1.3 Stripe
スケールアップの前にStripeはまず銀行業務の問題を解決する必要がありました。ここでもまたY Combinatorとのつながりがカギとなりました。
当時、ジェフ・ラルストン(現Y Combinator社長)は、Lala MediaをAppleに売却したばかりでした。Lala Mediaは、わずか10セントで「ウェブソング」にアクセスできる、いわばウル・スポティファイのような存在でした。
このモデルを実現するために、同社はレコード会社との契約を結んでいましたが、レコード会社は協力者としては消極的でした。コリソン兄弟は、もし大銀行を動かす方法を知っている人が見つからなければ、同じような猛者を手なずけたことのある人に聞いてみれば役に立つかもしれないと考えました。
結局、ラルストンはLalaのBDの仕事をほとんどせず、実際はスタンフォード大学の元MBAであるウィリアム・アルバラードに頼っていました。ラルストンは銀行業務の問題を解決してくれるのはアルバラードだと断言しました。しかし、それだけではパトリックを説得することはできませんでした。
Stripeでは開発者中心の文化が根付いており、技術者ではない人を雇うのは難しいと考えていました。パトリックは「彼はコードを書かないからナシ」とまで言ったようです。
しかし、「技術者ではない」アルバラードは、Stripeに入社する前、SEVEN Networksでエンジニアリング担当の副社長を務め、経営工学の学士号を取得していました。
ラルストンが、もしアルバラードが適さないと判断した場合には給与を返済すると約束した後にStripeは正式にオファーを出しました。2ヵ月後、アルバラードはウェルズ・ファーゴ(アメリカの金融機関)との契約を成立させます。
その後の展開は一言では言い表せないほど波乱に富んでいます。2009年に設立されたStripeはハイテク業界の歴史の中で最も目覚ましい成長を遂げた企業の1つでした。しかしその言葉でさえ、Stripeの成功がいかに多面的であるかを弱くまとめた、少し空虚なもののように感じられるほどです。
確かにコリソン兄弟は、世界で最も成功し、影響力のある投資家から20億ドル以上を調達し、会社を評価額950億ドルにまで導きました。
しかしこれらの数字よりも印象的なのは同社が構築した目まぐるしいほどの優れた製品の数々であり、エンジニア界隈でStripeの名前がとてつもなく尊敬されていることです。
もしこれが帝国の初期の治世であるとすれば、Stripeは広大な領域を確保することに成功しており、その一方で、技術系の経営者が慈悲深い、包み込むような愛を生み出しています。
ここからはその理由を理解するためにStripeのプロダクトを見てみましょう。
2. Product: Type 0 to 1
ヤクの毛を剃ってくれませんか?
同じくMIT出身のカーリン・ヴィエリは、問題を解決しようとする過程で発生する問題を「Yak Shaving」という言葉で表現しました。(Yakはウシ科の動物)研究者仲間のジェレミー・ブラウンが説明してくれました。
技術関連の悪口の王様であるウェブコミックXKCDは、パトリックが参照したこの作品で、エンジニアにとっての「Yak Shaving」がどのようなものかを説明しています。
パトリックによると、同社のエンジニアであるアヴィ・ブライアントはStripeを「史上最大のYak Shaving」と呼んでいるそうです。シームレスなオンライン決済を実現するために、Stripeは不正検知、カード発行、資金調達など膨大な問題を解決しようとしたのです。
先週発表された「Tax」に続きStripeは現在14の製品を提供しており、近々開催されるセッションズサミットではさらに多くの製品が発表される予定です。
これらのプロジェクトを時間軸に沿って見てみると。。。
前述のジョン・リリーとの議論の中でパトリックは、企業は従業員の規模が大きくなると、しばしばスピードが落ちるといういささか直感に反する事実を指摘しています。既存の製品をスケールアップして維持する一方で、新しいメンバーを迎え入れ、文化的に浸透させ、トレーニングを行うにはかなりの労力を必要とするため、新規の立ち上げが難しくなります。
しかしこのインタビューからまだ6年も経っていませんが、Stripeが製品の継続的な拡大のための基盤を築いたことは明らかです。最初の5年間で2つの製品を発売した同社はこの5年間で9つの製品を発売しており、まだまだ発売されるでしょう。
2.1 GPTN
Stripeが加速を続けている要因の一部はStripeの一貫したプロダクトコンセプトに起因するのは間違いありません。2018年から、Stripeは自社のスイートを「Global Payments Treasury Network(GPTN)」と表現するようになりました。
このフレーズは専門用語のように見えますが、今になってみればこの言葉は明らかにStripeの製品の方向性を示すコンセプトです。「インターネットのGDPを増加させる」というStripeのミッションに比べると記憶に残りにくいですが、GPTNは多様な取引のための普遍的なインフラを提供するという点では同じです。
現在の製品群は、完全ではないにせよ、このフレームワークにうまく適合しています。
その点では、Stripeはカルダシェフ・スケールの分岐点に近いものを感じます。ソ連の宇宙物理学者ニコライ・カルダシェフは、エネルギーの使用量に関連して文明の階層モデルを提案しました。
タイプ1の文明は、自分の惑星で利用可能なすべてのエネルギーを使用して蓄えることができ、タイプ2の文明は、太陽系全体で同じことができ、タイプ3の文明は、銀河系全体で管理することができます。カルダシェフによれば、地球はタイプ0の文明であり、本来の力を発揮するには至っていないといいます。
カルダシェフのフレームワークを変えた思想家もいます。ロバート・ズブリンはこのスケールを惑星やそれ以上の場所の「支配」に適用できると提案し、カール・セーガンは情報の文脈でこのフレームワークを考えました。
スタートアップ企業は自分たちの仕事を「0から1へ」と表現しますが、この言葉をStripeとGPTNに当てはめるとより大きな意味を持つことになります。GPTNは、世界中の経済活動をシンプルにすることで、文明を0型から1型へと進化させることを目指しています。これはまさに「惑星金融」なのです。
もちろん、すべての製品がGPTNに当てはまるわけではありません。Atlas, Capital, Issuingなどのプロダクトは、このコンセプトの外に位置していますが、会社の拡大において重要な役割を果たしています。
2.2 オフェンスとディフェンス
パトリックはGPTNをStripeが構築しているものの「心臓部」と表現しましたが、すべてがその枠組みに収まるわけではありません。同社のプロダクトの他の側面は、新しい領域を開拓したり、敵を寄せ付けないための努力と考えることもできます。
その興味深い例が2016年に発表されたStripe Atlasです。このプラットフォームでは世界中の起業家が自分のビジネスを法人化し、Stripeのインフラを使って簡単に立ち上げることができます。
AtlasはインターネットのGDPを成長させるというミッションをサポートし、同社がサービスを提供する創業者やエンジニアと立派な信頼関係を築く一方で、地域拡大のための斥候としても活躍してきました。
現在Stripe paymentsは44カ国で利用できます。これは素晴らしいことですが、全世界で利用できるわけではありません。一方、Atlasは140カ国で利用可能です。インドネシアの起業家にStripeが決済を提供できなくても、Atlasを介して関係を築くことができるため、インドネシアでのサービス開始時にはある程度の需要が見込めることになります。
より直接的ではありますが、同社のイシュイングカードやコーポレートカードの製品も同様に見ることができます。Stripeの競合企業の一つであるMarqetaはその優れたカード発行事業を利用して、BrexやRampなどの企業がコーポレートカードを介して参入している決済事業を強化しています。代替ソリューションを提供することでStripeは中核となる決済ビジネスを保護しつつ、新たな収益源を追加し、さらにマージンを拡大しています。
2.3 ミルフィーユ
最初のセレブリティ・シェフは、マリー・アントワーヌ・カレームという人物だったと言えるでしょう。貧しい家庭に生まれ、フランス革命の混乱の中で両親に捨てられたカレームは、パティスリーを大胆にアレンジしたり、料理を芸術として扱ったりすることで、ハイソサエティの寵児となりました。
カレームは数ある功績の中でも、不朽のデザートである「ミルフィーユ」の改良に貢献しました。ミルフィーユとは「千の層」という意味で、パイ生地、クリーム、ジャムなどを何層にも重ねたものです。このミルフィーユはその層状の構造から、Stripeの製品群の利益率への影響という、それほど甘くない構造を思い起こさせます。
決済は利益率の低いビジネスです。Stripeは他の製品群を追加することで、同じ顧客からより多くのベーシスポイント(BPS)を引き出すことができます。ある元社員の説明によると、
Stripeの製品の多くは、ペイメント・ペストリーの上に乗っているクリームの層のようなものだと言えます。以下は異なるビジネスラインが課す料金です。
どの製品が確実に利益率を向上させるかについては分かりませんが、全体的に見れば、Stripeは時間をかけて利益率を拡大する立場にあるようです。あるコメンテーターが指摘したように、「それはビジネスの中でかなりユニークなことだ」と言えます。
これらの異なるビジネスラインはStripeに非常に大きな柔軟性を与えています。
例えばRadar(不正取引を検知するプロダクト)の商品ページを見ると、こんな感じになっています。
小規模な顧客がすぐにRadarを導入できるよう、Stripeはカスタムプランを利用していない企業の料金を無料にしています。これが他の分野での顧客獲得につながることは想像に難くありません。
2.4 ディティールと喜び
上記のStripeの分析で欠けているものがあるとすれば、それはオペレーション全体の楽さです。Stripeはエンドユーザーの複雑さを排除することに重点を置いたビジネスを展開しています。「7行のコード」で企業の決済を支援することから始まったStripeは精神的には非常に素晴らしいものです。
もちろん、技術的な優美さを実現するには並外れた努力が必要です。バーン・ホバートが同社の素晴らしい分析の中で述べているように、「Stripeは、あるプロセスを実際に自分でやってみたことがない場合に想像するような方法で機能させることを提供する、価値創造企業の興味深いカテゴリーのひとつである」と言えます。
Stripeは機能する、それだけでなく、執拗なまでのこだわりと厳格な基準からしか生まれないエレガンスさを備えています。デザインから機能性に至るまで、Stripeのスイートのあらゆる側面は、磨き上げられ、洗練されているかのようです。実際、Stripeの価値観の1つは「気にかけて、気にかけて、気にかける」ことです。
Stripe.comにアクセスして、昔の「コナミコード」(↑ ↑ ↓ ↓ ← → ← → B A)を入力すると、こんな感じになります。
Stripe Terminalにアクセスし、コード「4242」を入力すると、以下のようになります。
ユーザーにプロダクトを愛させる工夫が至るところに散りばめられています。
3. リーダーシップ 変わったモラル
Exitus acta probat.
ローマの詩人Ovidが作ったこの言葉は、大まかに訳すと「目的は手段を正当化する」となります。オヴィッドは結果論と呼ばれる道徳哲学を巧みにまとめ上げました。
シリコンバレーの倫理観に適用すると「世界を変えるために必要なことを、足の指が踏みつけられようが、プライバシーが侵害されようが、人間の規範が狂おうが、やる」ということになります。手段は問題ではなく、結果が重要なのだと結果論は説きます。
これは、カラニックやザッカーバーグ、そして多くの賛辞に満ちた行為の倫理観です。一方でコリソン兄弟の倫理観とはかけ離れています。
パトリックとジョンは自然主義的な倫理観を持っているようです。これはイマニュエル・カントが提唱したもので、ある行為の道徳性はその結果とは無関係に決定されるとするものです。あまりにも単純ですが、自然主義者は意図が重要だと主張します。
つまり、コリソン兄弟は結果に免じて騒々しく汚れたプロセスを正当化するのではなく、エリートのリーダーシップに代わるものを構築したように見えます。
パトリックが企業が優秀なバカを雇わないようにするために適用する「嫌な奴を雇わないポリシー」は「ハードルが低すぎる」と指摘しているように、Stripeのリーダーシップは成功だけでは十分ではないことを理解しているようです。優雅に勝つ必要があるのです。
もちろんこのことが何よりもStripeのリーダーシップを他の多くのスタートアップ企業から引き離していると考えるのはひねくれすぎているかもしれませんが。
COOのクレア・ヒューズ・ジョンソンは、ジャック・アルトマン(プロダクトハント創業者)とのインタビューの中で、「すべての会社を一人の人間のように考える 」と述べ、Stripeについては、「私がStripeを想像するとき、理不尽なほど賢く、とんでもなく謙虚で、驚くほど面白く、たゆまぬ努力を続ける人を思い浮かべます。」と語っています
このピグマリオンを最もよく表している3人の人物に注目してみましょう。
3.1 パトリック・コリソン | 共同創業者兼CEO
パトリックを 「兄弟の頭脳派」と呼ぶのは、タイラーを「背の高い方のウィンクルヴォス」と呼ぶのと同じくらい当たり前です。もちろんジョンも異常なほどの読書家であり、多趣味です。しかし、パトリックはこれらの特徴を別の次元で捉えています。
彼は歴史の熱心な研究者であり、歴史を「カンニングの手段」と呼んでいます。自分でアイデアを練るよりも先人の知恵を借りればいいと考えています。それはもちろんビジネスマンの歴史も含みます。ある元GMの話によると、パトリックは世代交代した企業を生み出す要因を執拗に研究していたそうです。
例えば、1999年にアマゾンは何をしていたのか、当時はどんなことをしていたのか、今はとても大きな存在になっているが、そこに至るまでに何年かかったのか、そして、その過程で「これは何かを掴んだ、これは意味がある、あるいは実際に殺すべきだ」と感じたのはいつなのか、と言ったことです
これはパトリックの旺盛な読書量が持つ実用性を示唆していますが、彼の知性を驚くべきものにしているのは、その幅広さかもしれません。
同じGMによると、パトリックがイーロン・マスクとのミーティングの際に、ロケットについて意見が合わなかったという噂が流れていました。真偽は分かりませんが、パトリックはロケットエンジンについて知っているだけでなく、イーロン・マスクと議論できるだけの知識を持っていたのです。
パトリックが特に興味を持っている学問のひとつが「進歩研究」で、ジョージ・メイソン大学のタイラー・コーウェンと協力してこの分野を発展させていきたいと考えています。アトランティック誌の記事によると、「進歩学とは、どうすれば良くなるかを知ることでより良くなる」ことを目指す学問です。パトリックの個人サイトを見てみると、「Fast」と題されたページには短期間で達成された重要な成果が掲載されており、「Growth」では経済や制度がどのように成長するか、あるいは失敗するかを論じ、「Progress」では指摘された分野をより直接的に掘り下げています。
このことはパトリックのミッションに明確に当てはまるため言及する価値があります。Stripeは単なる資本主義的企業ではなく、人類を前進させるための努力をしているのです。
また、パトリックはエリート起業家にはめったに見られない謙虚さを兼ね備えています。彼はインタビューの機会があるたびに自分から注目をそらし、Stripeは兄弟のようなトップではなく、多くの従業員によって成り立っているという考えを強調します。他のCEOもこのような考えを持っているかもしれませんが、パトリックは考えを行動でも示しています。
パトリックは、ソーシャルメディアでユーザーと交流したり、サポートの問題が発生した際には直接メールで問い合わせるなど、「小さい仕事などない」という考え方を常に示しているのです。
ある元社員によると、パトリックは現場の仕事をよりよく理解するために、異なるチームにローテーションで参加しているそうです。
パトリックについての最後のポイントはおそらく目立たない点でしょう。もしあなたがStripeの創業者に彼の業績を知らない別の状況で会ったとしたら彼の聡明さと謙虚さはすぐにわかると思いますが、何か巨大なものを作りたいという願望はあまり感じられないと思います。
それは彼がお金や権力に振り回されているようには見えないからかもしれません。従業員によると、彼は派手な車や船を持っている人ではなく、単にチャレンジ精神に溢れているとのことです。同じ元社員は、パトリックがStripeと比較した企業を聞いたときにこのことを実感したといいます。
ユニコーン企業のCEOの中でもパトリック・コリソンは稀有な存在であることがわかります。天体物理学者のような精神力、ルネッサンス期の男性のような幅広さ、純情な女性のような謙虚さ、そしてシーザーのような食欲を備えた人物です。
ある元上級社員は彼をより簡潔に表現しました「パトリックは間違いなく特別な存在です。彼のような人には会ったことがありません」と。
3.2 ジョン・コリソン | 共同創業者
パトリックが頭脳明晰な兄であるならば、ジョンは実利主義者です。従業員によると弟のコリソンはより気さくで口上手だといいます。
社内でよく言われるジョークとして、パトリックに質問をする、長い沈黙があって、その前に曖昧な参考文献の間で本を読んでいるような身振りをして、ごまかしの言葉が飛び交うというものがあります。
対照的に、ジョンに質問をするともう少し素直なものが返ってきて、それに軽口が添えられることが多いようです。
ポッドキャストに出演したり、インタビューに応じたりと、ジョンが二人の中で目立ちたがり屋なのには理由があります。元GMの話では、
パトリックが何事にもガリ勉であるのに対し、ジョンのオタクぶりはもっと極端です。
彼は特に企業の世界に魅了されているようで、The Generalistのお気に入りであるLVMHやコンステレーション・ソフトウェアなどのコングロマリットと、その買収による成長力に興味があるようです。これは、Stripeの投資活動(後述)を考えると、興味深いものです。
要するに2人は良いバランスを保っているということです。
そしてもちろん良いチームになっています。パトリックがインタビューで強調していたように、兄弟が共同創業者である良い点は対立を解決するための長年の経験を持っているということです。
3.3 クレア・ヒューズ・ジョンソン | COO
クレア・ヒューズ・ジョンソンはStripeにイエスと言う前に彼らに会うことを拒否していたといいます。信頼できる友人に頼まれて初めて彼女はコリソン兄弟に会う時間を作ったのです。
それが功を奏して、クレアは2014年にStripeに入社し、COOに就任しました。コリソン兄弟は技術的なビジョンを推進することには優れていましたが、Stripeが成長した規模の会社を経営した経験はありませんでした。しかし、幸いなことにクレアにはその経験がありました。
クレアはマサチューセッツ州知事候補スコット・ハーシュバーガーの副キャンペーンマネージャーを務めるなど政治の世界でキャリアをスタートさせた後、ビジネスの世界に軸足を移しました。2004年にGoogleに入社し、グローバル・オンライン・セールス担当副社長、グーグル・オファーズ担当副社長、そしてGoogle Xと自動運転車部門担当副社長にまで昇進しました。
クレアはあまり表立った行動をとらないため、ロファイリングはやや難しいのですが、コリソン兄弟の持つエキュメニカルな知性(ブラウン大学で英語を専攻した後、ハイテク業界に転身)、高いEQ、そしてイデオロギー的に意味のある仕事を追求する姿勢をよく表しているように見えます。
パトリックが進歩の研究に没頭しているのに対し、クレアは偉大なチームの分析を楽しんでいます。
クレアはアメリカンフットボールのコーチ、ビル・パーセルのプロフィールを紹介しています。
このコーチが探しているのは中心がいつ保たれるかということです。偉大な企業を考えてみると、自分が予測していなかったことが次々と起こるものだと思います。ゲームをしている間にルールが変わることもあるでしょう。しかしほとんどの場合、相手側、つまり外部のチームに何が起こるかはわからないのです。しかし、本当に素晴らしい会社では、中心が保たれています。
クレアの役割の多くはチームStripeがさまざまな課題に適応できるようにすること、そして会社の中心が保たれるようにすることのようです。彼女は、リーダーシップチームに深く投資し、関係者間で強い関係を築き、期待を調整し、協力的な雰囲気を奨励することでそれを実現しています。
最後にクレアはパトリックの良き理解者であり反面教師でもあります。彼女は、自分がパトリックとは異なる状況を見ていることが多く、パトリックのよき相棒となっています。
4. カルチャー:長期視点で考える
この記事は、何よりもStripeの文化を特別なものにしているものは何か、ということを考えたいと思ったことがきっかけでした。
Twitterの世界にいる人ならばStripeの内部についての良い評判を何らかの形で耳にしたことがあるでしょう。
そのため私はこの会社の文化に感銘を受けることを期待して記事を書き始めたのですが、元社員や現役社員との会話では私はこの会社の特別な部分を課題評価していたようです。これでは、働きやすい会社とは言えません。
Stripeの文化的特徴を確認してみましょう。
4.1 数十年に渡るビジョン
何よりも、Stripeは数十年単位のタイムラインへのコミットメントによって定義されています。リーダーからは、Stripeが初期段階にあり最も決定的な製品はまだ来ていないというメッセージを常に強く打ち出しています。
これはほぼすべての企業にとっても有益なメッセージですが、パトリックの知的影響力や課外活動、特にThe Long Now Foundation(1996年に設立されたこの団体は、今後1万年の人類について考えることを目的としている)の役員としての活動を考えるとこのメッセージは特別な重みを持っています。
Stripeでは数千年先までの明確な計画はありませんが、従業員の意識をさらに先を見据えたものに変えることに成功しています。ケン・ノートンとのインタビューの中で、ビジネスリーダーのマイケル・シリスキーはこの特徴を明確に述べています。
他の人も同じことを言っています。
先見の明のあるテクノロジーの世界でもこのような極端な先見性を持つことは珍しく、それが組織内に効果的に行き渡っていることはさらに珍しいことです。
これは会社の採用活動にも現れています。パトリックは、「私たちがこれまでと違ってやった最大のことは、人を雇うのに本当に長い時間をかけてもいいと思ったことです」と語ります。
最初の2人の社員を採用するのに6カ月かかりました。パトリックは、リリーとの会話の中で、自分たちの採用活動を「痛みを伴うほどの粘り強さ」で説明し、Stripeが3年以上かけて採用した社員は5人はいると述べています。
このアプローチは数十年という枠組みで考えると理にかなっているでしょう。その議論の中で彼が指摘しているように、社員、特にマネージャーは、何年もかけて連れてきます。本当に優れた人材を見つけるために時間をかけることは、短期的には苦痛であっても、年々効果を発揮していきます。
4.2 ユーザー・ドリブン
私が話を聞いたある元社員はStripeで製品を作るのは簡単だと言っていました。なぜか?
それはユーザーが常に次に何を見たいのかを教えてくれるからです。
設立当初から、Stripeは顧客との密接なコミュニケーションの中で作られてきました。Stripeの顧客は、会社を設立したり、決済システムを管理したりする技術者であることが多いため特に鋭いフィードバックを提供するのに適しています。
このことはリーダーシップによって明示的にも暗黙的にも奨励されています。パトリックはTwitterで模範的な行動をしており、ユーザーの要望に一貫して応え、顧客に真摯な質問をしています。
また、プロダクトマネージャーのジェフ・ワインスタインは、ツイートでこう指摘しています。
ほぼすべての企業が「顧客第一主義」を提案していますが、Stripeほど徹底してそれを取り入れている企業は少ないようです。
4.3 ライティング・ファースト
ジェフ・ベゾスはAmazonの社員にパワーポイントによるプレゼンテーションを禁止したことで有名です。その理由は、文書によるメモはより明確で深い思考をもたらすというものでした。プレゼンテーションにはアニメーションやビジュアル、きらびやかな語り口などが必要ですが、書類のような厳格な単色性でそれを行うのははるかに困難です。
StripeもAmazonと同様のアプローチを採用しています。プロジェクトは短い文書で始まり、重要な決定事項は文書で明確にされます。
4.5 痛みを伴う透明性
Stripeの初期にはすべての従業員がすべてのメールにブラインドコピーされていました。つまり、カスタマーサービスの担当者がパトリックがジョンにメールした内容を読むことができたのです。もちろん、パトリックもあなたがお客様に送ったばかりのメールを見ることができました。
パトリックの説明によると、これによって組織全体の基準が高く保たれ、常に多方向からのフィードバックを行う文化が確立されました。従業員はお互いに送信内容、スペル、文法などを修正し合い、何でも議論の対象となりました。
同様にStripeではプロジェクトの詳細を組織全体で共有するために「HackPad」を運用していました。
これらの慣習は、少なくとも2017年まで続いていましたが、メールの慣習が今もあるかどうかについては確認できませんでした。
ドキュメントに関しては、社員のサム・マクアリスターが指摘しています。
これは大胆にも鈍感(残忍?)すべての行動が他のすべての人に批評される可能性があり、職場のプライバシーは蒸発し、社員は非常に多くの情報をトリアージする必要があります。あるインターンは最初の1週間で「約2,000通のメール」を受け取ったと述べています。
しかし、それでもうまくいっているように見えます(少なくとも一時的にはそうだった)。従業員の数は増えたかもしれませんが、情報が組織全体に行き渡り、サイロ化を防ぎ、ボトムアップでアイデアを開花させることができました。
他の多くの民間企業がそうであるように、Stripeの根本的な透明性は外の世界には及ばない。指標も曖昧で、「数百万」「数億」などの数字で表現されることが多い。
4.6 厳格な基準
社員に質問をしたところ、「私はこの2年間で何歳年をとったのだろうか😂」という答えが返ってきました。
私が話を聞いた元社員や現役社員のほぼ全員がStripeで働いていることを非常に純粋に喜んでいるように見えましたが、これは微妙なテーマでした。ここは働きにくい場所なのです。
夜間や週末に働くことはよくあることのようで、同社のGlassdoorページで最も頻繁に見られる不満はワークライフバランスの欠如だといいます。ある投稿者はこう述べています。
このことはプレッシャーの高い環境を作り出す可能性があるものの、企業文化の良い面を定着させる上で重要な役割を果たしていると考えられます。
実際にはこの厳しさにはもう一つの利点があります。それは困難な状況の中で成功するというチャレンジを楽しみ、同じような気質の人たちに囲まれることを好む、ある種のハイパフォーマーを惹きつけることです。これは、比較的過酷な労働環境を礼賛しているのではなく、目に見える成功者にはマゾヒストが多いということです。
4.7. アーティフェックス・レックス
少なくとも2015年までは、Stripeには独立したプロダクト部門はありませんでした。その代わりにエンジニアは会社の提供するサービスを推進する任務を担っていました。
Stripeが開発者向けの製品を作っていることを考えるとこれにはある種の論理性がありました。しかしそれは技術者以外の人々に対する漠然とした疑念の表れでもあり、私が「ほぼアルバラードの大失敗」と呼んでいるものと重なります。
ここ数年でStripeは落ち着いてきましたが、この組織はエンジニアやビルダーが支配する組織であるという感覚が残っています。
これは他の部門の士気を下げることにもなりかねませんが、ある程度はやむを得ないことだと思います。どんな会社にも重心があり、役職間のヒエラルキーがあります。LVMHのようなコングロマリットではクリエイターが主導権を握っていますが、セールスが主導権を握っているケースも少なくありません。
その点Stripeは比較的正しい場所に重心を置いていると言えます。
5. マネジメント:エッジ経営
エッジコンピューティングの基本的な考え方は処理とデータ保存の両方を必要な場所にできるだけ近いところで行うというものです。これによりスピードが向上し、複雑なタスクが "最前線 "で行われるようになります。
分散化、情報の広範な分散、戦略的思考の下への押し付けなど、Stripeは「エッジ経営」のような形で運営されています。
その最たる例が私の友人であるデヴィッド・フェルプスでした。彼はStripeについて語る中で、最近カスタマーサポートチームのメンバーと出会って得たものを紹介しました。
これは珍しいことですが、Stripeでは当たり前のことのようです。マカリスターは内側から見た似たような環境を説明しました。
これはStripe が従業員に使用している意図的に曖昧な肩書き付けににも表れています。LinkedInを見てもDirectorやHeadsといった肩書きはほとんど見当たりません。COOのクレアが言うように、肩書きは「スコアを記録するために使われる」ものです。ある程度の流動性と曖昧さを維持することは社内の帝国構築を阻止し、従業員が発言する勇気を与えるのに有効です。
6. ブランド:ソフトパワーの達人
Stripeはコモディティビジネスの仲介者です。なぜこれほどまでに愛されているのでしょうか。
パッキー・マコーミックが同社の美しい分析の中で指摘しているように、Stripeは開発者、デザイナー、その他の人々を惹きつける、ほぼユニバーサルな魅力を持つブランドです。この分野では、他の企業にはない魅力があります。(SquareのCash Appは例外かもしれません)
これには2つの理由があります。まず1つがStripeはテイストに自信があること、2つに同社はソフトパワーの達人であることです。
6.1 テイスト
Stripeには最初からセンスがありました。2011年に公開されたウェブサイトも、素晴らしくクリーンで魅力的なものでした。
それはコリソン兄弟の2人の「センス」によるものです。シリスキーはこの概念をさらに発展させます。
Stripeのセンスの良さは彼らのソフトパワーにも表れています。
6.2 ソフトパワー
ソフトパワーという言葉にはシニカルな色合いがあります。しかし、Stripeの場合そのようなマキャベリ的な要素はほとんどありません。パトリックとジョンの対外的な関心事がプロジェクトの多くに反映され誠実さを加えています。これは彼らは好意を引き出すのに非常に効果的であり、Stripeをテクノロジー業界の良い天使の一人として位置づけています。
Stripe Pressは間違いなく最も興味深いサービスです。これまでにソフトウェア企業が出版事業を始めたことがあったでしょうか?Stripeはそのような異例のステップを踏んだだけでなく、会社の中核事業と同じように献身的に、そして愛情を持ってそれを行っています。
同社の本は美しいです。ハードカバーで、布地で覆われていて、彫刻が施されています。圧倒的なイラストレーション。希少価値のある写真もあります。そしてもちろん、マーティン・グリ、タイラー・コーエン、ナディア・エグバルといった印象的な思想家や技術者によって書かれています。
Stripeの中核製品が会社と開発者を結びつけたように、Pressは会社と哲学者を結びつけます。良いアイデアを広めたいという純粋な気持ちから生まれたものですが、物語のあるクラスを集めることには明らかな便宜があります。
「Increment」も同様の試みです。Incrementは「チームが大規模なソフトウェアシステムを構築・運用する方法」をテーマにした紙とデジタルの雑誌で、Stripeが重要だと考えるアイデアを掲載し、会社のソートリーダーシップを強化しています。ほとんどの企業が何らかのブログを持っていますが、Incrementは品質の面でも、Stripeが真剣に取り組んでいるという点でも他とは異なるものといえます。
2017年春、Stripeはベンチャー企業以外の道を歩むビルダーのためのコミュニティ「Indie Hackers」を買収しました。この買収以来、Stripeはこのサイトを荒らさずに残し、Indie Hackersが繁栄し続けることを可能にしました。このサイトにはStripeに関する記述はほとんどありませんが、同社がサービスを提供している企業や同社が好んで採用する積極的な人材との関係を維持するためのとても良い方法となっています。
同社のソフトパワー活動の中でもStripe Climateは最も利他的な活動です。Climateを利用すると顧客は収益の一部をStripeが選んだ環境保護活動に簡単に振り向けることができます。この取り組みで印象的なのはそこに込められた思いです。他の多くの企業は環境保護活動の選定を他の組織に任せているかもしれませんが、Stripeは専門家や研究者を集めて、最大の効果が得られるように資金を配分しています。
このような取り組みは採用・定着の観点からも過小評価できません。他のインフラ企業でこのようなことをしてくれるところはあるでしょうか?平凡な言葉が飛び交う市場で、重大な問題を理解して行動するための仕事をする準備ができている人がどれだけいるでしょうか。
また、Stripeが組織のこの側面をどのように発展させていくかを考えるのも興味深いです。例えば同社が伝統的なコンテンツビジネスを買収することに意味があるでしょうか?Robinhoodが企業の世界を広げるためにMarket Snacksを買収したように、Stripeがソフトウェア開発、製品の職人技、またはフィンテックに焦点を当てたSubstackを買収することも考えられます。
要するに、Stripeのブランドは努力と知恵によって得られたテイストとソフトパワーの傑作なのです。
7. 投資とM&A:前哨基地と使者
1月、Stripeはチェックアウト製品を65%高速化したと発表しました。
これは特にオンライン取引の決済をスムーズにするという意味で重要な言葉となっています。
その理由は最速のチェックアウト体験を構築すると称するFastの存在にあります。この企業は、延々と続く電撃的な投稿、積極的なミームの作成、そして明確なグロースハックによって、ソーシャルメディアで多くの支持者(そして多くの批判者)を獲得しています。
彼らはStripeの投資先の一つでもあります。両社の利益相反の可能性について聞かれたパトリックはこう答えました。
表向きの違いはあっても、これらは非常によく似た製品であり、ほぼ間違いなく同じユースケースで競争することになるでしょう。
これこそがStripeのベンチャー投資の最も注目すべき点です。彼らはほぼ確実に競合する企業を透明性を持って支援しているのです。中にはStripeが投資を行い、数年後にその企業を完全に買収するケースもあります。
これは探索する価値のあるトピックです。
7.1 ベンチャー投資
ここではジョンのコングロマリットへの関心が前面に出ています。
ベン・トンプソンとのインタビューの中で、ジョンは中国のハイテクコングロマリットの活動をインスピレーションの源として取り上げています。
同じ議論の中でジョンはStripeの投資に関する2つのルールを概説しています。多くの点で他の投資家と変わりませんが、他の企業のVCに比べて、比較的象徴的に行っていることがあります。
フォーカス:Stripeが出資する企業は、Stripeのフォーカスと専門性に合致するものでなければなりません。それは、インターネットのGDPの増加、特に決済に関するものを意味します。
本物のリターン:多額のリターンはもちろん必要です。
(ルール1には例外があり、Stripeは元従業員が設立した企業にも投資を行います。)
Stripeは、地域を問わず合計21社への投資を発表しています。同社のベンチャー活動を調べているうちに社内のプロセスが少しわかってきました。
最近までCorp Devはジョーダン・アンへロスを経由していました。今年、アンへロスはRibbit CapitalのGPになるために退社しました。そこでStripeのHead of Peopleを務めていたマイア・ジョセバッチビルが暫定的にCorp Devを担当することになりました。彼女はクリス・スペランディオのサポートを受けます。また、かつてThrive CapitalのGPであったウィル・ゲイバックは、時折この部門で役割を果たしていると言われています。
Stripeは投資先となりうる企業に売り込みをかけます。Stripeの出資を受けることのメリットは以下の2つが挙げられます。
第1に、Stripeのブランドと結びつくことで新規事業にハロー効果をもたらし、注目すべき企業としての地位を確立します。
第2に、Stripeは戦術的な専門知識をより若い創業者と共有し、経営者を社内の専門家と結びつけることができます。
しかしいくつか問題もあります。出資先と対立する可能性があるにもかかわらず、資金を受け取るように説得しなければならないことです。
聞くところによると、Stripeはこのような話をする際に「自分たちの領域に進出してくる可能性はあるが、インターネットは通常、複数の勝者を許容するほど広い場所であり、Stripeがそのすべてを支配することはできない」と、まったくストレートなアプローチをとっているといいます。
ちなみにこれは、パトリックが繰り返し言っていることです。
Stripeのポートフォリオを見ると同社が最も有望だと考えている市場や地域について、興味深い洞察が得られます。ジョンはStripeが独立して成功できると考える企業のみを支援することを主張していますが、これには監視という利点があります。投資家としてのStripeは、自社のポートフォリオを前哨基地や使者のように使うことができるのです。
これらのスペースにある製品のStripe化がどのようなものになるかを想像するのは興味深いことです。StripeはPayment Linksをリリースしたことで、クリエイターの革命に追随していることがわかりました。Payment Linksは様々な顧客に適用できますが、特にソロプレナーに適しています。
ベン・トンプソンはStripeを「プラットフォームのプラットフォーム」と表現しています。これは、Stripeがプラットフォームに商品を提供し、プラットフォームが自分の顧客に商品を提供するという傾向があるからです。例えば、Shopifyが顧客に金融ツールを提供するために使用しているTreasuryがその例です。
Patio11はStripeでのこれまでの4年間を振り返って、このようなコメントをしています。
クリエイターは "ループ・オン・トップ "の一例かもしれません。StripeはPatreonのようなプラットフォームにツールを提供し、Patreonはそれをクリエイターに提供し、クリエイターはそれをファンに提供する、ということが考えられます。最終的な顧客は、Stripeが提供するPatreonが提供するChapo Trap Houseのクレジットを受け取る人になるかもしれません。
Stripeがこれらのスペースで活躍する方法は無限にあります。
7.2 M&A
Stripeはこれまでに11件の買収を行っています。これらの買収の多くは社内の製品開発に組み込まれているようです。
同社はまた地理的に拡大するためにM&Aを利用してきました。
2019年にはStripeが今後の地域規制に対応するための欧州事業であるTouchtechの買収を発表しました。同社の最近のメッセージの多くは、欧州が短期的な成長にとっていかに重要であるかを強調しています。
(それが功を奏したのか、2020年3月以降、20万の欧州企業が顧客になっています。)
PaystackはStripeにとって最大の買収となりそうです。同社は2020年10月にナイジェリアのプレーヤーを2億ドルで買収することを発表しました。これは重要な動きで、Stripeはアフリカの機会を獲得するために、ナイジェリア、ガーナ、南アフリカの顧客をサポートするPaystackを買収しました。
組織的にはStripeは今後24〜36ヶ月の間に買収を進めるための準備が整っていると感じています。同社の経営は順調で、外部の企業を統合する能力を備えた規模になっています。しかし、その能力は資金面で制約を受けるかもしれません。同社は2021年3月に6億ドルの資金調達を発表しており、ある程度の余裕があります。しかし、10億ドル規模の大きな動きは、公的資金を待つ必要があるかもしれません。
7.3 Next Moves
Stripeが近い将来に投資すると予想される製品分野と地域は直接的な投資であれ、ベンチャーマネーであれ、2つほどあります。
保険
これは金融界で最も収益性の高い分野のひとつで、Stripeはまだ手をつけていません。ある友人が提案したように、次のLemonadeはStripeのエンジンの上に、アンダーライティングやリスクマネジメントを含めて構築されるかもしれません。Stripeがこの市場に参入するためには、Boostのようなビジネスを参考にするといいでしょう。ブラジル
Stripeは現在ブラジルでは「Preview」、つまり試験的に運用しています。同社はラテンアメリカ、特にブラジルでのチャンスを逃さないようにしなければなりません。クエンカはメキシコ市場への参入を可能にしますが、メルカド・リブレとNubankの野心を知る者であれば、早急な対応を勧めるでしょう。Divibankはブラジル市場への資金提供を行っています。ブラジルでは利用できないが、Kushkiはその他のラテンアメリカ諸国への足がかりとなるでしょう。インドネシア
現在Stripeはインドネシアに進出していません。インドネシアは、世界第4位のインターネット接続人口を誇り、2025年には最大のインターネット経済大国になると言われていますが、これはすぐにでも是正されるべき問題です。BrickはインドネシアでStripeのようなプレイヤーとして、投資や追跡調査を行う意味があるかもしれません。
8. リスク:ベアケースはある
Stripeについて記事を書く予定だと伝えると、何人かの人は嬉しそうに、最悪のケースを教えて!と答えるでしょう。
もちろん、最悪のケースはあるかもしれません。この会社は比較的若い会社で、競争の激しい分野で事業を展開しており、評価額は1,000億ドル近くに達しています。Byrneが指摘するように、Stripeの評価額は "長年の完璧な実行を完全に織り込んでいる "のです。しかし、最も近いライバルであるAdyenと比較するとStripeは安く見えます。
もちろんStripeがどれほどの利益を上げているかはまだわかりませんが、Adyenの約2倍のスピードで収益を伸ばしており、低い倍率になっています。
ただ、Stripeが苦戦するとしたらそれは同社の野心からくるものかもしれません。同社は多くの製品を持ち、市場の上位と下位の両方を獲得しようとしています。これを実現するのは通常困難です。決済業界のマージンが縮小していることや、資本力と経営力のある競合他社の存在を考えると、Stripeの「まだ勝っていない」という言葉にも納得がいきます。
8.1 なんでもやる
Stripeの範囲は印象的です。製品群は広大で、The Generalistのような小さな会社からAmazonのような大企業までサービスを提供することができます。パッキーが指摘するように、これは会社が意識的に選択したことであり、パトリックがSessions 2019で強調したことでもあります。
また、これは珍しい選択でもあります。多くの企業はボトムアップで中小企業を取り込むか、営業に特化した組織を構築して大企業を取り込むか、どちらか一方に注力する傾向があります。Stripeは前者でスタートしましたが、製品をエンタープライズ対応にすることで、フォーチュン500社との競争にも成功しました。
この2重のアプローチは功を奏するでしょうか?
ある元GMが指摘したように、それができた企業はほとんどいません。
ボトムエンドの市場ではStripeが圧倒的な強さを誇っていますが、エンタープライズ分野ではまだまだ安心できません。この機会を逃さないためには、他の分野で競争しながらも、レーザーフォーカスを維持する必要があります。
同じGMは「チャンスはあると思う」と言って指摘を終えました。
8.2 決済マージン
決済処理は(ほとんど)コモディティなので、この分野の企業には大きな価格圧力がかかっています。Stripeが1%の処理手数料を提示し、Adyenが0.5%を提案した場合、2倍の手数料を支払うだけの製品差別化があるでしょうか?
Stripeはそう期待しています。先に述べたように、製品戦略の多くは、ビジネスのこの部分を保護し、バンドル化によってマージンを増やし、追加機能によって差別化を図り、組織の財務の複数の要素に浸透させることで粘着性を高めることにあるようです。
とはいえ、Stripeには多くの追い風が吹いているものの、これは同市場では珍しいネガティブな要素です。
8.3 成熟
エンタープライズ企業にサービスを提供する際のデメリットは、自社で構築するというソリューションの選択肢が常にあることです。
Stripeは大企業を獲得できることを示してきましたが、その一方で、Stripeの手を離れてしまう企業もあります。例えば、Airbnbは自社のマーケットプレイスのために独自の決済システムを構築するという手段をとりました。理論的にはStripe Connectがホスピタリティ企業のニーズに適しているはずですが、Airbnbは別のアプローチを選びました。
プロジェクトを知るAirbnbの元社員によると、Stripeもプロバイダーとして検討されましたが、自社でプラットフォームを構築した方がコントロール性やカスタマイズ性に優れ、もちろん長期的には手数料も削減できると判断したそうです。
テクノロジーがビジネスの世界を支配するようになると、Stripeの大口顧客の中には、自社の能力を活用してスタックをコントロールすることを選択する企業が増えるかもしれません。
8.4 競争
Stripeに関して競合の話をするのは、いつも少し気が引けます。インターネットコマースはまだ始まったばかりなので、他のプレイヤーを打ち負かすことよりも、市場の成長に合わせてシェアを維持することが課題となります。20年後には以下に挙げたすべての企業が今とは桁違いの規模になっているかもしれません
しかし、Stripeは複数のベクトルで戦い大小さまざまなプレイヤーとぶつかっています。Stripeの元社員との会話からカウンターパーティを考える上で有効なフレームワークが見えてきました。
いくつかの会社については、より深く掘り下げて説明します。
8.5 主な競合プレイヤー
前述の通り、AdyenはStripeの最も直接的な競争相手です。Stripeが設立される数年前に設立されたオランダの企業で特に企業向けに強力なサービスを提供しています。3つの重要な側面において、AdyenはStripeよりも優位に立っているように見えます。
国のカバー率
Stripeは44カ国をカバーしています。報告されている数字を見つけるのは難しいですが、元GMはAdyenの方がはるかに広い範囲をカバーしていると指摘しています。その中には、アフリカでの大きな基盤も含まれています。支払い方法のカバー率
同氏によるとStripeは約40種類の支払い方法をサポートしていますが、過去3年間に利用されたのは約15種類です。一方、Adyenは約200種類をサポートしています。POS
StripeはTerminalを提供していますが、AdyenのPOSソリューションに比べて劣っていると言われています。
後者の点について、元GMはAdyenはStripeよりもずっと前からオムニチャネルのアプローチを考えていたと指摘します。
POSの分野ではStripeもSquareと競合しています。Stripeがオフラインでの商取引にどれだけ真剣に取り組んでいるかは未知数であり、オフライン取引は撤退し、他の企業に独占させることになるかもしれません。
また、PayPalは多面的な競争相手です。特に同社のBraintree部門はStripeと直接競合します。しかしPayPalは買収した企業の製品群を推進する能力をあまり示していません。Venmoは(Braintree経由で)買収されて以来事実上変わっておらず、絶望的な結果となっており、Braintree自体も、財務的には成功しているものの動きは静かです。Stripeは子会社をアウトオペレーションし続けることができると信じているでしょう。
カード発行の分野ではMarqetaが強力な敵となります。今週IPOした後、同社の時価総額は160億ドルにまで跳ね上がりました。Stripeの規模には及日ませんが、Marqetaの方が発行システムが優れていると言われています。
両方の製品を評価したある経営幹部の顧客は、次のように述べています。
その一方で同じ幹部はStripeが「急速に追いついてきている」ことも認めています。
Stripeが注目したい最後のプレーヤーはまるでオマージュのように名付けられたビジネスPlaidです。Plaidは銀行APIの利用を簡素化するサービスを運営する会社で、Stripe Treasuryと競合します。そのためコリソン兄弟は、Plaidの投資家たちと同じように、Visaとの買収の話を喜んでいたと思われます。
しかし、買収が失敗に終わったことで、彼らは再びゲームに参加し、成長資金を蓄えることになりました。私が「Plaid's Quiet End Run」で提案したように、Plaidには「Pay by Bank」サービスを提供することで、従来の決済プロセスを根本的に変えるチャンスがあります。この再構築は、Plaidに巨大なレバレッジを与え、Stripeの成長を阻害するかもしれません。
実現不可能であることは間違いないですが、StripeとPlaidの両社の合併がどのようなものになるかを想像するのは魅力的です。もし実現すれば、合併後の企業は、取引に関する比類のないデータと、金融取引に対するほとんど手に負えないほどの深い支配力を持つことになるでしょう。
要するにStripeにはまだ克服すべき真の課題があるということです。また、Stripeは人材採用に長けていますが、この分野に興味を持つ優秀な人材を独占しているわけではありません。決済業界は利益率が低下する傾向にあり、経営コストが高い業界です。Stripeの製品群は差別化を図ることができるかもしれませんが、逆に邪魔になる可能性もあります。
9. 成長:1兆ドルへの道
強気の気持ちに戻って質問してみましょう。StripeがAmazon、Apple、Microsoftのような企業に加わって、1兆ドル規模の企業になるためには何が必要でしょうか?Stripeが10倍になるにはどうすればいいんでしょうか?
ここでは、マクロとミクロの両方のケースを見る必要があります。
9.1 マクロのケース
上記のセクションとは異なり、これは非常に簡単な議論です。
インターネットはまだまだ成長の余地があります。
インターネットを利用していない人はまだたくさんいます。
オンラインの人は、ほとんどのものをオフラインで購入します。
人々がオンラインで物を買うとき、Stripeはその多くに力を発揮します。
より多くの人々がオンラインになれば、Stripeはより多くの取引をサポートします。
人々がオンラインで物を買う割合が増えれば、Stripeはさらに多くの取引に力を発揮します。
真面目な話、これだけで計算が成り立ちます。
Stripeのチームは、デジタル経済は現在経済全体の5〜6%であると指摘しています(米国はBureau of Economic Analysisで約7%とされています)もし、最終的に商取引の大半がオンラインで行われるようになれば、Stripeは10倍の取引数を実現できる可能性があります。
一方で世界の人口のうちインターネットにアクセスできるのは60%に過ぎません。金融サービスやオンライン決済にアクセスできる人はさらに少ないでしょう。何十億人もの人々がデジタルの世界に参加する中で、Stripeは彼らにサービスを提供し、彼らの金融生活を強化する機会を得ています。
インターネットにアクセスできる人でも、現在Stripeはすべての人にサービスを提供しているわけではありません。同社がまだ開拓していない主要な国内市場があります。
インド(プレビューのみ)
中国 (利用不可・政治的)
ブラジル (プレビューのみ)
ロシア (利用不可・政治的)
韓国(プレビューのみ)
インドネシア(利用不可)
トルコ (利用不可)
サウジアラビア (利用不可・政治的)
アルゼンチン (利用不可)
タイ (利用不可)
GDPの大きい世界25カ国のうち、10カ国でStripeは基本的にサービスを提供していません。特に複雑とされる国を除いても、同社がまだ獲得できていないGDPの合計は9.2兆ドルになります。
Stripeが各市場を獲得できるかどうかは様々な要因に左右されますが、それでも世界の広大な地域が未開拓であることは明らかです。
9.2 ミクロのケース
Stripeの現在の製品は均等に分布しているわけではなく、異なるビジネスラインの成熟度も同じではありません。
同社は44カ国で決済処理を提供していますが、それ以外の機能の多くは制限されています。
Connect :39カ国
Terminal:米国およびカナダ
Corporate Card:米国のみ
Capital:米国内のみ
Issuing:20カ国
Issuing:招待制
Tax:招待制
これらのラインが収益面でどの程度の重要性を持つかはわかりませんが、Stripeはこれらの情報を共有していませんし、多くのラインは比較的未成熟です。チャンスはまだあります。
この点でStripeの成長は波のように可視化することができます。ある市場で製品が軌道に乗れば、その後、残りの地域でも製品を展開することができます。それぞれの市場には固有の特徴がありますが、Stripeのインフラ(技術的にも組織的にも)が強固になればなるほど、これは容易になります。
新製品がひとつもなくても、Stripeは1兆円企業に加わる可能性が明らかにあると考えて良いでしょう。
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文明とはなんでしょうか?
物質的な世界に現れるのに十分な期間持続する野心、鼓動のあるアーティキュレーション、歩くことのできるアイデア。文学、建築、音楽、セゴビア水道橋、ルクソール神殿、アンコールワット。パランタインの丘。光、包み込むような闇。
そして、それらの偉大なモニュメントに込められた、時間と永遠性の感覚。コードや企業にそのような性質があるとすれば、また私はそのような企業もあると信じていますが、Stripeは数少ない企業のそのひとつです。
パトリック・コリソンとジョン・コリソンの2人は、知性の面でもエゴのないビジョンの面でも、非常に稀な創業者コンビです。この兄弟はそのインスピレーションから、長期的な思考、迅速な実行、そして意味のあるものを作りたいという願望を特徴とする文化全体を生み出しました。彼らはこのようにして、インターネットの金融インフラを支配し、他の何百万ものマーチャントに力を与えることができる優れたビジネスを構築しました。
つまり、Stripeは文明のように考えているということです。そして、そうなるための道を歩んでいるのです。
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それから、もうひとつイースターエッグをご紹介しましょう。Terminalに戻って1337を入力してください。
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