『ランドリー巡礼 〜 部屋とランドリーとわたし 〜』(拙著、多摩川ガス橋書房) 2020.1.22
「帰り道にできたコインランドリー。いつも夜道で煌々と光っている。店内に並んだ大きな洗濯機や乾燥機がくるくる回転している様を見るたび、わけもわからずドキドキする。現代社会の秩序を保つ機械仕掛けの謎の歯車を垣間見てしまったかのような、働き方改革を真っ向から否定する真夜中残業でボロボロになった羽を必死に動かすことをやめられない、「恩返し」という名の呪縛に搾取される鶴のはた織りを覗き見してしまったかのような、或いは不信感にまみれた自己責任社会において唯一心許していた家族が悪事にずっぷり手を染める現場を目撃してしまったかのような。はたまた釣ってはいけない淵の主、水神さまを誤って釣針に掛けてしまったかのような、そんな類のざらりと後味の悪いドキドキに襲われるのだ。ところが不思議なもので、光を放って回転する空間に目が慣れてくると、今度は逆にランドリーが神社だかお寺だかに見えてくる。清らかな光に満たされた清潔で静謐な聖域が立ち現れる。わたしは呆然と立ち尽くし、無意識のうちにギュッと目を瞑って手を合わせて祈ってしまう。そんな具合に結局毎晩、灯りが消えていたらどうしよう…と不安になりながら通りかかって、鮮やかな光が見えてくると安心して、光の中を覗くたびに不穏な気持ちになって、最後は訳もわからず祈っている。これがわたしとランドリーとの運命的な出逢いだった」
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ご存知だろうか。各地に新設されているランドリーは昨今、新しい「パワースポット」としても人気を博しているという。上記はそんなニッチブームの火付け役であり、彷徨える「ランドリー巡礼者」たちのバイブルとなっている奇書『ランドリー巡礼 〜 部屋とランドリーとわたし 〜』(拙著、多摩川ガス橋書房)冒頭の一節だ。まるで“意味がない”。その上まぁなんとも“よくわからない”。そんなレビューだらけの糞書の著者であり、自称回転魂、「ランドリー教」教祖などともてはやされ若い世代を中心に絶大な人気を誇ると疑わない妄想にまみれる一方で、まじめでまともな働き世代からは煙たがられてばかりだ…と憤慨する被害妄想気味の「平凡中年ぼっち」のわたくしは、新年早々、心が弱っているのかもしれませんね。けれどほら、こうしてダラダラダラダラと書い流しているうちに気がつけば心の洗濯物も終わってスッキリ!しみったれた悩みや憂いも綺麗に洗い流されたみたいだし。帰りましょうか。ご笑読、ありがとうございました。
ちなみに実際、ランドリー巡りを「ランドリー巡礼」と名付けて、密かな個人的愉しみにしています最近。小洒落たとこから味わい深い飯場タイプまで。生活の匂いがして好き。今年はこっそりたくさんのランドリーを巡りたい。別に洗濯はしないけど。日常を大切にしたい。YouTubeとかでただおじさんがランドリー巡礼する様を垂れ流してみたい。そんなことを夢見ています。現代の祈りのかたち。おやすみなさい水曜日。
今夜の脳内BGM
・サーカスナイト
https://youtu.be/U8kr_ws3bGY
・to the moon
https://youtu.be/UPs6EjmDE38
・black star
https://youtu.be/U2RhYy1va1M
・眠りのうた
https://youtu.be/Y6nqIy2V4Zg
・まともがわからない
https://youtu.be/YYOW1J_An4M