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Amazon Books に行ってきました

2018年秋のこと、米国西海岸 (San Jose) でAmazon Booksに立ち寄った。見た目は普通の本屋さんだが、Amazonが運営しているというだけで、なんだかワクワクした。さて、どんな仕掛けがあるのだろうか (^^)

お店の中に入ると、一見。普通の本屋さんと大差はないように感じる。たくさんの本が並び、手にとって見ることもできる。Amazonらしいことといえば、ネット上で星がいくつだったとか、コメントが数千件ついた本だとか書いてあるくらいか。

いや、ちょっと待て。気になるメッセージが目に入ってきた (笑)

WHAT'S YOUR PRICE ?

ふと見ると、“What’s your price?” (あなたの値段はいくら?) という表示が目をひく。そういえば、本にも、本棚にも値札は貼ってない。スマホにアプリ (Amazon App) を入れて、二次元バーコードをスキャンすることで、"あなたの値段 (your price)" が表示される仕組みらしい。

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”What’s your price?” というメッセージは分かりやすい。あなたが誰かによって取引の内容が違う、ということを端的に表現している。Amazon Prime に参加する人にはあらかじめ割引がきく、あるいは、特定のキャンペーンに参加していれば、該当商品に割引がきく、などは分かりやすいだろう。さらに、少し応用すれば、過去にあなたが Amazon からオススメされた書籍は◯%オフ、なんてことも技術的には可能である。

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匿名の時代を振り返る

考えてみると、身近にある取引は「匿名」を前提とすることが当たり前だった。例えば、コンビニエンスストアで500円のお弁当を買うことを考えてみると、そこでは、お弁当と500円玉を交換することで取引が成立する。お客様が誰かは関係ない。そのとき、店員さんが見ているのは私ではなく、500円玉である。

従来の経済学では取引を「財やサービスを貨幣と交換する」と考える。モノとカネを交換することで取引が成立するので、これを「交換の市場」と呼ぶ。取引の定義が物語っている通り、そこでは、お客様が誰かは関係ない。

匿名取引の背景には大量生産・大量消費の考え方がある。経済学は産業革命後の市場構造や企業活動を学術的に捉えてきた。膨大な数の事例研究や深い議論を重ねてきた経済学だが、デジタル時代よりずっと前に骨格ができあがったことは否めない。そこでは、たくさんのモノを作って、たくさんのヒトが買う。モノの値段と、それを買うヒトの数が重要であり、一人ひとりのお客様が誰か、ということは重視されなかった。

顕名の時代へ

一方、デジタルの時代、特にキャッシュレスが浸透してくると、個客、すなわち、お客様さまが誰かということは簡単に分かる。Amazon Book の事例が示す通り、個客一人ひとりを特定できるのであれば、そのお客様にあわせて商品やサービスを提供しようと考えるのは自然な発想である。

デジタルがもたらした「つながり」は取引の前提条件を変える。個客を特定し、個客に関わる情報が参照できるようになる。匿名取引ではモノが価値を持つと考えられたが、個客を特定する市場では、個客の価値を最大化することを目指す。つまり、顕名市場では「個客一人ひとりに特別な価値を提供する」ことが重視される。これが「つながりの市場」である。

今回の気付き

Amazon Booksが示した例は、とてもシンプルな実装である。だが、そこには大きな気付きがある。

デジタルによる「つながり」が、取引において「個客を特定する」ことを可能にした。匿名取引ではなく、顕名取引が行われ、「交換の市場」から「つながりの市場」へのシフトが進む。必然的に経済モデルの前提も大きく変わりつつある。

うーむ。なるほど。これは、もしかすると、ものすごく大きな変化の序章をなのかもしれない (^^)

このシリーズでは「匿名」から「顕名」へのシフトをテーマに、いろいろな事例分析を参照しながら、デジタルがもたらした市場構造の変革について考えてみたい。


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