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思春期のメンタルヘルス

毎年、夏休みなどの長期の休みが明ける前後の時期に、子どもたちの自殺件数が増える傾向にあり、その予防のための対策などが子ども家庭庁、厚生労働省などの関係省庁で進められています。

今回は、思春期のメンタルヘルスについて取り上げていきたいと思います。


1.思春期とは

(1)思春期の年齢の目安

思春期は国連の定義では、10歳から19歳とされていますが、英医学誌で取り上げられた、豪メルボルンの王立小児病院の研究によれば、最近は10歳から24歳まで続くと報告されています。若者が教育を受ける期間が長くなり、結婚や出産・子育ての開始が以前より遅くなっていることが影響しているためと言います。

(2)思春期の変化 

思春期は身体の成長とともに、精神的な変化も生じる時期です。ここでは精神的な変化について見ていきたいと思います。

この時期の特徴の一つとして、自立への衝動が高まると言われています。しかし、自立には不安と孤独、さらに無力感が伴います。これらを克服するために親ではない外の世界のだれかとの間に親密な絆を求めるようになり、それが多くの場合、友達になっていきます。

また、自分の内面に目が向かうようになり、自己意識が芽生えます。これに伴い、他者のことが気になり、比較するようになります。さらに、人からどう見られるかを気にして、対人不安が強まっていくのです。

2.思春期の思考の特徴

ここで、不安の強い時期にある彼らの心の理解が少しでも進むよう、思春期の考え方、感じ方の特徴について取り上げていきたいと思います。

「思春期の心理を知ろう!心の不調の原因と自分でできる対処法」で松丸未来さんは、思春期の考え方の特徴を以下のように記しています。

①自分の長所や物事の良い点に注目ができない
②自分にとってうれしいこと、楽しいことなどを無視する、マイナス化思考
③失敗を拡大解釈し、成功を過小評価する
④満点か満点でないかなど、判断が両極端で間がない、白黒思考
⑤マイナスの出来事を意識しすぎる、極端に悲観的な未来を予測する
⑥破局的思考、絶対にうまくいくはずがない、もうだめだ、と破局的な結末を頭に描く
⓻結論の飛躍、自分は陰で批判されているいじわるされていると決めつける、また失敗する未来や結末を予測する
⑧自分にダメ人間のレッテル貼りをする
⑨失敗の原因を自分、または他人の責任にする
⑩~すべきという基準を決め、守れないと自分を嫌いになったり、他人が守れないと怒りを感じたりする
⑪完璧思考、完璧を求めて努力するが、達成できないと自分を否定するか、相手を責める

不安を体験する機会が不足しているとストレスは高まります。不安を乗り越える体験を重ねていくことで、「不安を抱えても大丈夫」と思えるようになるのです。

3.ストレスの深刻な影響

しかし、ストレスをうまく受け止められず、心身の不調や行動に深刻な影響がでる場合もあります。心身症やうつ病、ゲームやSNSへの依存、自傷行為などがその一例です。

悲しい現実ですが、自殺に至るケースも増えています。警察庁による「令和5年中における自殺の状況」によれば、年間の自殺者数は、10~19歳は810人、20~29歳は2021人と前年に比べ増加しています。小中高生だけで見ると、前年度に比べ、男子は小学、高校生は減少、中学生は横ばいとなっているのに対し、女子については小中高生とも増加しています。

※警察庁 令和5年中における自殺の状況
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R06/R5jisatsunojoukyou.pdf

4.不安や落ち込みを感じた時の対処

不安や落ち込みを感じた時は、気分を変えることが助けになります。

①好きなこと、楽しいことに打ち込み、不安に向き合うことを避ける
②十分な睡眠をとる
③誰かに話す
 味方になってくれる人がいることが感じられ、また自分の考え方の偏りを 客観的に見ることができます。話すことで、つらい気持ちを外に出すことが大切です。できれば、信頼できる大人か相談窓口がよいです。

5.予防への取り組み

(1)政府の取り組み

政府は今年4月、子ども家庭庁、厚生労働省、文部科学省など関係省庁で「こどもの自殺対策緊急強化プラン」を発表し、以下のような取り組みがなされる予定です。

①要因分析
②児童生徒への「SOSの出し方に関する教育」と教員、保護者がどう受け取るかを学ぶ機会を作る
③リスクの早期発見のため、端末で自殺リスクを把握する「心の健康観察」を全国の学校で実施する。
④電話・SNSでの相談体制の整備
⑤子どもの居場所づくりの推進

(2)メンタルヘルスリテラシー

子どもたちが、精神疾患について早期発見、治療、予防に備えができるよう、メンタルヘルスリテラシーも注目されています。その具体的な内容としては。

①心の健康を維持するために何をすべきか理解していること
②精神疾患と対処法を理解していること
③精神疾患について偏見を持たないこと
④精神的な問題で困ったときに、いつどこで助けを求めるか、そこで何を得られるか理解していること

2022年から全国的に施行された学習指導要領でも「心の健康と精神疾患」に関する内容が充実されました。学校等でのメンタルヘルス教育が進んでいくことが望まれます。

※参考文献:学校地域におけるメンタルヘルス教育のあり方
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jseip/4/1/4_75/_pdf/-char/ja

6.周囲の人々がどのように受けとめるか

(1)バリデーション~相手の感情を理解し、受け入れる~

カリフォルニア州公認結婚・家族心理セラピストの吉川史絵さんは、著書「日本の虐待・自殺対策はなぜ時代遅れなのかーこどもや若者の悲劇を減らすための米国式処方箋」で、バリデーションについて、これは相手の意見に同意することでも正当化することでもなく、相手が「こんな感情を持ってもいいのだ」と思えることで、自分の気持ちに正直になる機会を与えることだと説明しています。

相手が話しにくいことを話してくれたら、偏見を持ったり、反論したりすることなくそれを受け入れることで、「自分にとってあなたは大切な、価値ある人だ」と示すことができ、話した後で本人も、否定的かつ苦痛の感情が和らぐのだと言います。

(2)「自殺はいけない」と言うことのリスク

精神科医の松本俊彦さんは、著書『「死にたい」に現場で向き合う』の中で、自殺を打ちあけられた時、「遺された人はどうするのだ」「死んではいけない」という叱責や批判、あるいは強引な説得は好ましくない。「自殺はいけない」と決めつけられた時点で、もはや正直に自殺念慮(自殺願望)を語ることができなくなる、と語っています。このことは相手が固く心を閉ざしてしまうことにもつながってしまうのです。

そして、相談を受けたり、「死にたい」と打ちあけられた時には、受けとめ、見守りながら、ぜひ相談窓口や専門家につなげましょう。

※参考文献




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