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note感想🌟 【フォト小説】たどりついたら猫の島


私が三十八歳のときに、夫は三十九歳で他界した。

早すぎる死と残された時間。

佐柳島。

瀬戸内海に浮かぶ小さな島。

島民の数は70人ばかり。

島民より数が多いと言われる猫。

観光客は、猫を見るために、その島を訪れるという。


「本当に何も無い島だよ。でも景色はすごく綺麗でね」と語る夫の目には、幼き日の憧憬の色が滲んでいた…と思う。

今は亡きあの人のルーツ。

幼い日の宝物のような記憶。

家族と過ごした、かけがえのない時間。

何もないけれど、少年だったあの人の胸にいつまでも残っていた。


平日なので乗客は少ない。一時間ほどのクルーズだったが、瀬戸内海は美しかった。まるで置物のように島が海に点在し、それが近づくにつれて陰影を強めていく。人も島も何もかも、近づかなければ本質は見えないのかもしれないな、と思った。でも近づくタイミングを、人はあまり選べない。

通り過ぎるだけの人や島なら、何がわかるだろうか。

表面をなぞるだけ。

わかった気になるだけ。

人も島も、近づいてこそ、本質がわかる。

良さも悪さも。

一期一会のわずかな時で。

時間が止まったような島で、風化した風景。

忙しさを忘れるようなのどかさ。

少しずつ、忘れ去られていく。



生前、日に日に痩せていく夫は、「僕たちには子供がいないから、僕が死んだら、君は自由に生きてくれたらいい」と言っていた。いや、私は今でも十分に、自由なんですが、と思った。むしろあなたに早く死なれたら、私の自由がどこかに消えてしまうような気すらするんですが、と言いたくなったが、病気治したらいいじゃん治そうよ、としかその時は言えなかったのだ。それからあっという間に、夫は亡くなってしまった。

決して縛りつけたりしなかったあの人。

2人でいたら、自由だった。

あなたが自由をくれた幸せ。

病気が治ってくれたら、よかったのに。

あの人のルーツを探す旅に出た。

少しでもわかりたくて。


防波堤を飛ぶ猫。

飛ばない猫も、飛んで欲しいと願えば、飛んでくれる?

願いよ、叶え。

叶わないことが、この世には多すぎるから。


防波堤の切れ端に置いた煮干し。

向こう側から、猫が飛んだ。

美しくアーチを描いて。

飛んでくれた。

想いが伝わった。

やるじゃん

やっぱり、飛べるんだ。

すべてを見透かすように。

風化していく景色の中で、猫たちの美しいアーチは訪れる人の心にいつまでも残るだろう。


また、頑張ろうと思った。

これから生きていく日常で。

猫のように飛び越えて。

新しい何かを見つけるために。




青乃家さん、素敵な記事をありがとうございました😽



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